2012年4月18日
#274 トッド クレバー 『日本のラグビーは大きくステップアップする』
2011-2012シーズンをもってサンゴリアスから離れることとなったトッド・クレバー選手(2010年度~2011年度在籍)。明るい性格でチームでも人気者だったトッド選手に、アメリカのラグビー事情や3度出場したワールドカップでの思い出、そして日本での生活について訊きました。
◆ラグビーに毎日感謝
—— 明るくて力も強くて、典型的なアメリカ人のように見えるのですが、ご自身ではどう思いますか?
アメリカは大きな国で、さまざまな文化が存在しているので、典型的なアメリカ人とは言えないかもしれませんが、アメリカ人として誇りを持っていることは確かです。旅行が好きでいろいろな所へ行きますが、旅行に行く場合でも、アメリカを代表して、そして家族を代表していることを常に考えて、みんなの見本になれるように行動しています。
—— ラグビーをやり始める前にアメリカのメジャースポーツである、野球やアメリカンフットボール、バスケットボールなど、他のスポーツも経験しましたか?
12歳までは野球をやっていましたが、アメリカンフットボールは1度もやったことがありません。いちばん上の兄はアメリカンフットボールをやっていて、凄く良い選手でした。野球の後はサッカーをやり、15歳の時にラグビーを始めました。
—— ラグビーを始めたきっかけは何ですか?
世界のいろいろな所へ旅行に行きたかったので、ラグビーを始めました(笑)。17歳まではラグビーとサッカーの両方をやっていて、両立することが難しいと感じていました。ラグビーの方が将来的に通用すると感じて、サッカーを辞め、ラグビーだけに専念しました。
—— ラグビーでアメリカ代表となりワールドカップにも出場しましたが、ラグビーを選んだことはご自身で良い選択をしたと感じていますか?
ラグビーをして生活していることに、毎日感謝しています。
—— ワールドカップで印象に残っていることは何ですか?
ワールドカップには3回出場し、それぞれの大会で良い経験をすることができました。2011年のワールドカップではアメリカ代表のキャプテンとして出場したので、特別な思いがありました。また2年間くらいニュージーランドに住んだこともあり、ニュージーランドには多くの友人もいました。キャプテンとして出場したこと、そしてニュージーランドでのワールドカップに出場したことをとても誇りに思っています。
◆海外プロ選手は12~14人
—— アメリカではどれくらいの人がラグビーをやっているんですか?
人数だけを見ると、多くのアメリカ人がラグビーをやっていますが、プロ化されていないスポーツですし、選手のスキルやグラウンドコンディション、審判、コーチの質を考えると、そこまでレベルの高いものではありません。
—— どういう道筋でラグビーを続けてきたんですか?
高校と大学でラグビーを続け、大学卒業後はニュージーランドでプレーしました。ほとんどのアメリカ代表選手は、大学卒業後に仕事をしながらクラブチームでラグビーを続けています。しかもほとんどのクラブチームでは、週に2回くらいしか練習をしていない状況です。
—— ニュージーランドとその後はどこのチームでプレーしましたか?
ニュージーランドではノースハーバーというチームに所属していていましたが、2007年のワールドカップの前にノースハーバーを離れ、アメリカに戻りワールドカップに備えました。そしてワールドカップの後は南アフリカのライオンズと契約をして、スーパーラグビーでプレーしました。その後に日本に来ました。
—— アメリカにいた時は、代表チームはいつも一緒に練習をしていたんですか?
普段はそれぞれのクラブチームでプレーしていましたが、2007年のワールドカップ前には、それぞれの選手は仕事を辞めたり、学校を休んだりして、出来る限り同じ地域で練習が出来るようにしました。ほとんどコーチなどもいない時がありましたが、フィットネスを高めるトレーニングなどをしていました。
2011年のワールドカップでも同じようなことを試みようとしましたが、アメリカのラグビー協会から費用を出してもらえず、私自身にも余裕がなかったので諦めました。
—— アメリカではクラブチームのリーグ戦などは活発に行われているんですか?
たくさんのリーグはあるんですが、お金も掛けられていませんし、しっかりと組織化もされていない状況です。多くのチームがグラウンドを持っておらず、施設面においても不十分な環境です。感覚としては庭でラグビーをするような感じだと思います。
それにアメリカ国内にはプロのラグビー選手はいません。今年に関してはセブンズの選手とプロ契約をしているみたいですが、15人制の選手でプロ契約をしている人はいません。
—— トッド選手と同じ様なプロ選手はどのくらいいるんですか?
私と同じ海外でプロ契約をしている選手は12人~14人くらいです。主にフランスやイギリス、イタリアでプレーしています。
◆日本と恋に落ちた
—— 南アフリカでのプレー後に、他の国でもプレーする可能性があったかと思いますが、なぜ日本を選んだのですか?
2005年に初めて日本に来た時は、日本でラグビーをするとは思いませんでした。その後、ヨーロッパなどでもプレーする選択肢もありましたが、2008年にアメリカ代表として日本代表と試合をするために再度日本に来たんですが、その時に日本と恋に落ちました(笑)。全ての食べ物が美味しくて、その時にまた日本に来るチャンスがあれば、ぜひ日本でプレーしたいと思うようになりました。
—— 最も印象に残った日本の文化などはありましたか?
軍隊に入っていた祖父がいたんですが、祖父は日本が大好きでした。祖父は日本の飾り物や文化なども好きで、私が若い時に祖父の家に泊まりに行って日本の文化に触れ、そこから私の日本好きが始まったんだと思います。祖父はロサンゼルスとハワイに家を持っており、よく日本には旅行に行っていたみたいです。
2005年に日本に来た時は、コーチが凄く厳しい人で、観光もできなければ日本食も食べられず、ホテルでずっとアメリカンフードを食べていました。それに軍隊のような指導を受けていて、なかなか日本を経験することができませんでした。
2008年では違うコーチになったので、観光をすることができましたし、日本食も食べることができて、とても良い経験をすることができました。そして今は日本の文化をとても楽しんでいます。
—— 2008年の時と比べて、日本のイメージはより良くなりましたか?
東京は素晴らしい街だと思いますし、日本も素晴らしい国だと思います。本当に良い経験をさせていただき、楽しませてもらっています。東京には何でもあり、休みの日には高尾山にも行きましたし、何か欲しい物があれば時間通りに電車も来るので、すぐに買い物にも行くことができますよね。最初は迷ったりもしていましたが、日本にも慣れてとても楽しんでいます。
◆かなりのスピードで進化
—— 日本のラグビーの印象はどう感じますか?
私だけではなく、他の外国人選手も日本のラグビーに感銘を受けています。日本人選手はスキルもありますし、スピードも速くて、そしてフィジカル面でもどんどん良くなっていると感じています。これから2~3年後には大きくステップアップすると思います。特にエディー(ジョーンズ)が日本代表の監督になることで、世界の中で日本のランキングも上がってくると思います。
—— 対戦相手として見た日本のラグビーと、実際に一緒にプレーした日本のラグビーとでは違いはありましたか?
日本のラグビーはかなりのスピードで進化していると思います。日本代表といちばん最後に対戦したのが2008年ですが、その時からもかなりレベルアップしていると思います。その前は2003年で、日本代表と2回くらい対戦しましたが、どちらも簡単に勝利することができました。ただ今の日本代表はアメリカ代表よりも強くなっていると思います。
—— これからのアメリカのラグビーはどうなっていくと思いますか?
ラグビー人口は増えていますが、適したコーチングが受けられていないことやリーグもプロ化していない状況で、テレビでラグビーの試合を見ることも難しくなっているので、アメリカ市民のサポートを受けることが更に難しい状況になっています。その影響で、アメリカのラグビーは他の国よりも遅れているんだと思います。
私はその状況を変えるためにもラグビーを続けていきたいと思っていますし、アメリカでラグビーが発展していくためにも貢献していきたいと思います。
—— 今後の目標は何ですか?
私自身もまだ成長途中だと思っていますので、フィットネスやスキルを改善していき、チームとしてしっかりと機能していけるようになり、最低でもあと4年はアメリカ代表としてプレーしたいと思っています。そして代表と一緒に一歩ずつ成長していきたいと思います。
—— 多くのコーチを見てきていると思いますが、自身がコーチになるという考えはありますか?
ニュージーランドや南アフリカ、日本でプレーをした経験がありますし、世界中のいろいろなコーチの指導も受けてきたので、コーチやマネージャーなどで、ずっとラグビーに携わっていきたいと考えています。あとはスポーツを活性化させるために貢献していきたいとも考えています。大学でビジネスの勉強もしていたので、スポーツをビジネスにできればとも思っています。
—— これからのサンゴリアスについてはどんなイメージを持っていますか?
これからクラブハウスも大きくなりますし、新しい選手も入ってきます。いちばん大きく変わることは監督が変わることだと思います。サンゴリアスにはスピリットがあって、本当に良いメンバーが集まっているので、修正しなければいけない場面でも修正することができると思います。ただ予め変化があることを理解しておかなければいけません。居心地が悪くなる場面もあるかもしれませんが、選手たちにはステップアップしていこうとする気持ちが見られますので、問題はないと思います。
—— ラグビーの魅力は何だと思いますか?
ラグビーを通しての友情があり、フィットネスやフィジカル面が鍛えられるところも好きです。それといろいろな国へ行って、その国の文化に触れることができることも楽しいと思います。長くラグビーをやっていますが、まだ学ぶ立場であり、これから更にいろいろなことを学んで、若い世代に伝えていきたいと思います。
—— プレーをしていて、いちばん面白いところはどこですか?
勝つことです。プレシーズンでハードワークをしてしっかりと準備し、試合ではチームメイトを信頼して、ノーサイドの笛が鳴って勝った瞬間は、リーグ戦でも準決勝や決勝でも、同じジャージを着ているみんなのために全力を尽くしたという瞬間ですので、とても気持ちが良いことです。
(通訳:松平貴子/インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]