SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2012年4月12日

#273 "エディケーション Eddiecation エディー監督が語る世界と未来のラグビー" 『80分間完璧なラグビーをしたい』

【柔軟性】

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前回のインタビューの最後に、「ラグビーはオーケストラのようなものである」と言いましたが、良いオーケストラを作るには良い選手が必要です。今のサントリーには良い選手が多くいるので、オーケストラを作りやすいと思います。サントリーの31年の歴史を見ても、今のチームがいちばん強いのではないかと思います。選手が自主的に動いてくれているので、私の仕事としてもやりやすいです。

これまで良いラグビーをしていても勝てない時はありました。私がブランビーズの監督をしていた時の話ですが、ブランビーズは凄く良いチームで、美しいラグビーをしていましたが、決勝戦で負けてしまったことがありました。そこで何をしたかというと、今サントリーでやっているように、もっと柔軟性を持ったチームに育てたんです。いろいろなスタイルのラグビーが出来て、なおかつ見ていて面白いラグビーをすることが大事です。ブランビーズはチームカラーが強いチームで、そこに柔軟性を持たせたことで、修正する能力が発揮出来るようになりました。

ですから、まずは1つの明確なラグビースタイルを定着させてから、そのチームカラーを尊重しつつ柔軟性のあるプレーが出来るように育てるようにしています。

【完璧なラグビー】

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トップリーグ決勝戦後の記者会見で、「日本代表にサントリーの何を引き継ぐか?」という質問に対して、「勝つこと」と言いましたが、"勝つ"という意味には、一般的には"相手に勝つ"ということと、"今までの自分に勝つ"ということがあると思いますが、私にはもう1つ意味があり、"チームでの取り組み全てを勝つためにやる"ということです。例えば、ミーティングでは、"目標は勝つこと"であり、そのためにどうすればいいのか?を話し合います。チーム全員でお酒を飲んでリラックスしたり、家族と一緒にバーベキューをしたりする機会を時々作りますが、それも全て勝つためにやっていることで、良い組織とは常に勝つことを考えて全てに取り組みます。

相手に勝つということもそうですし、今までの自分に勝つこともそうです。そしてチームを運営するにあたっても常に勝つことを意識してやっています。

その"勝つ"という目標がブレないためには、現状に対して絶対に満足せず常に問いかけることが必要です。私の場合は、他の人の本などを読んで、他のチームの勝ち方などを研究し、それを自分のチームに当てはめながら考えます。例えば、アメリカンフットボールのニューヨーク・ジェッツは、今シーズンはあまり成績が良くありませんが、過去2シーズンは良い成績を残していました。ジェッツは試合の後のチームミーティングで必ず映像を見せるんですが、その映像のタイトルが『ジェットのようにプレーする』というもので、チームの重要な価値観などが映像に表れています。

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その方法をサントリーでも取り入れ、『サンゴリアスらしくプレーする』というタイトルの映像を毎試合毎に作り、試合翌週のチームミーティングで見せています。選手たちもその映像を楽しんで見てくれています。その映像には、全て良いプレーが入っているのですが、単にトライをした選手が出てくるのではなく、ボールがない時にどういう動きをしてチャンスを生み、どうやってトライに繋がったかという動きの部分で、良いところをピックアップして映像にまとめています。

私の中には80分間完璧なラグビーをしたいという理想があります。それはこれまで誰もやったことのないことです。今シーズンのサントリーでは、40分間は完璧なラグビーをしたことがありますが、80分間続けることは出来ませんでした。40分間でも素晴らしいことで、サントリーも凄く強くなっていると思います。そして更に良くなると思います。

例えば、画家であれば完璧な絵を描きたい、建築家であれば完璧なビルを建てたいと望むと思いますが、それと同じ事です。完璧なラグビーを披露することが出来れば、世界に対して"これが正しいラグビーだ"と示すことが出来ると思います。

【勇気】

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勝つことは好きですが、ラグビーに対してロマンチックな気持ちもあります。どのような流れでプレーしているかということも、私が気にしている部分です。ただ勝つということだけでは、私にとっては魅力的ではなく、"美しいラグビーをして勝つ"という要素がとても重要だと思っています。

リーグ戦で東芝に負けた後の記者会見では悔しさを露わにしましたが、あれは本当に負けたことが悔しかったんです。誰にも言っていなかったことですが、「今シーズンは全ての試合に勝ち、完璧なシーズンで終えたい」と思っていましたが、東芝に負けたことでその目標を果たすことが出来ませんでした。

スポーツにおいて、負けん気は必要だと思います。その負けん気とは、生まれながらに持っているものと、環境の中で育まれるものの2パターンがあると思います。チャンピオンチームの中では、選手やコーチ、全ての人が、そういう気持ちを持っていると思います。

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もともと日本人は"自分からやる"というよりも、"やられたらやり返す"という文化の方が強くあり、その性質を変える努力をして、試合の中でも最初から全力を尽くすようにしました。そうすれば、試合に負けたとしても、「全力を出していないから負けた」ということは絶対にありません。自分たちに力がないから負けることもありますが、その方が良い負け方だと思います。

ラグビーの試合において、いちばん良くないなことは、ハーフタイムの時点で3対30で負けていたとして、後半に頑張って25対30になったとしても、それは良くない努力の仕方です。後半に頑張ったことを前半からやらなければいけないということです。負けている時に努力をするということは、勇気がいらないことだと思います。勝つためには、最初からベストを出し切る勇気を持ってプレーしなければいけません。

【夢】

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私は今シーズン限りでサントリーを離れますが、このチームには良い選手も良いコーチもいます。ただ、1つだけチームとしてやってもらいたいことは、常に向上心を持って取り組んでもらいたいということです。スポーツクラブはビジネスとまったく同じだと思います。利益が良いほど、会社も良くなります。それと同じで、ラグビーでもスポーツクラブでも、勝ち続けていくためには向上心を持って、常に改善していかなければ勝てないと思います。

サントリーはトップリーグの他のチームに比べてまとまることが簡単なチームではありません。選手はいろいろな地域に住んでいて、職場も違います。チームを1つにするためには、いろいろなことをやらなければいけませんでした。今、サントリーに対していちばん心配なことは、「これからも向上心を持って、常に改善していけるか?」という部分です。

次に日本代表の監督として、これから改善していきたいことについてです。ジョージ・スミスは日本人のような体格ですが、本当にボールが欲しいという気持ちでプレーしています。30点リードしていて、もうすぐ試合が終わるという時でも、ボールが欲しいという気持ちが溢れています。日本人に足りないところは、そういう気持ちだと思います。日本人の文化や育ち方の影響で、そういう気持ちが生まれにくいだと思いますが、勝つためにはそういう気持ちの部分が重要です。

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ジョージ・スミスの家族はあまり恵まれておらず、今でもジョージが多くの家族の面倒をみています。ジョージは19歳でブランビーズに入りましたが、同じように勝つことへのハングリーさを持っているジョージ・グレーガンも、そういう環境で育ちました。日本人の良い選手は、高校ですぐにスーパースターになってしまいます。それでテレビに出たり、スポーツメーカーからサポートを受けたりします。大学でも同じ扱いを受けるので、ハングリー精神がなくなってしまうんです。日本代表の選手たちには、もっともっとハングリーさを身につけて欲しいと思っています。

隆道(佐々木)は今シーズン凄く良くなりました。ただ、彼はまだまだ自分が良い選手だとは思っていないと思います。隆道はジョージ・スミスが出来ることを間近で見ていて、自分自身ももっと上手くなれるということを自覚し始めています。隆道は高校でも大学でもスーパースターでしたが、自分のレベルと世界のレベルのギャップを感じていると思います。そして、その差を今縮めていて、間違いなく日本で最も改善された選手です。

野球ではMLBへ挑戦する夢があり、サッカーでも世界で活躍する選手がいます。ラグビーは花園に出ることが夢ではいけません(笑)。ラグビーでも1人の選手が世界で活躍すれば、他の選手も海外を目指すようになると思います。日本人選手も世界を目指すようになれば、もっともっとハードワークをするようになると思います。もっと大きな夢を持たなければいけません。日本代表では、その夢を叶えたいと思っている30人を探そうと思います。そうなれば、日本代表チームも必ず強くなると思います。

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(通訳:松平貴子/構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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