2012年4月 6日
#271 "エディケーション Eddiecation エディー監督が語る世界と未来のラグビー"『みんなが機能し素晴らしく美しいものが生まれる』
【"チーム"というコンセプト】
今、サントリーはオリジナルのラグビーをやっていますが、日本代表についてお話すると、日本人は他の国と比べると体が小さいので、他の国にも負けない強みを見つけなければいけません。日本代表では体が小さいということに適したスタイルを作っていこうと考えています。
他のスポーツのトップコーチなどにも会いに行って話を聞いていますが、日本のチームの準備の仕方などの面で勉強になりました。日本人のチームを育てていく時に、"みんなが一体となってやる"ということが重要であるということを学びました。その中で、まずはみんなに成功を与えること、そして何か成功した時には良くやったと強調してあげること、そしてチームの一員でいることがどれだけ特別なことかを理解させることが重要と考えています。
スポーツメディアでは、スーパースターである選手が大きく取り上げられ、チームというよりも個人を取り上げる傾向があります。高校のスポーツでも大学のスポーツでも同じことが起こっています。メディアが個人を評価する傾向があるため、日本で"チーム"という一体感を作り出すことが、いちばん難しいのではないかと思っています。ラグビーは15人でやるスポーツなので、チームで動かなければ"美しいラグビー"は出来ません。サッカーは少し違うと思いますが、ラグビーは本当にチームプレーが重要です。
チームというコンセプトの中で良い選手とは、まずはスキルを持っている選手です。そしてタフな選手、あとはチームのために献身的にプレーをしてくれる選手です。これはその選手の周りにいる選手も上手くプレー出来るように導いてくれる選手ということです。今挙げた中で、スキルとタフということを最初に言いましたが、私が求めるラグビーのスタイルはスキルがあり、タフでなければ出来ないので、スキルとタフを最低条件としています。そこからチームのみんなに、チームの価値観を伝えていきます。
【正しいことをしてくれる人に導く】
指導者として選手の行動や態度は変えられますが、選手の性格やキャラクターを変えることは出来ません。例えば、その選手が凄くわがままだとして、それを変えることは難しいことですが、その選手のチームでの行動を変えることは可能です。そして凄くわがままな選手でも、チームプレーヤーとして機能しなければいけないと理解させることは可能です。今まで指導してきた中でも、わがままな選手はたくさんいました(笑)。
普段の社会があるように、スポーツの中にも社会があります。社会の中にいろいろな人間がいるように、スポーツの社会の中にもいろいろな人間がいます。説明する時にいつもこの図で説明をしていますが、このカーブのいちばん上の10%が「常に正しいことをしてくれる人たち」です。そしてカーブの下にいる10%が「変えることが難しい人たち」です。勝つチームというのは、「常に正しいことをしてくれる人たち」が多いチームです。どのような組織を見ても、そういう形になると思います。
チームにとって、「変えることが難しい人たち」は時には必要ですが、一貫性を持ったパフォーマンスは期待出来ません。コーチとしてはそれを見抜かなければいけません。例えばリーグ戦13試合で、10点満点中6点や8点を取れ、平均7点を毎試合取れる選手が良い選手です。2点の試合があったり、9点の試合があったりする選手は、良くない選手です。なぜかというと、パフォーマンスの波が激しく、一貫性がないからです。
選手によってはあまり良い性格ではない選手もいます。そういう選手の行動を2シーズンくらいはコントロールして変えることが出来ますが、それ以上は持続させることは出来ません。クラブの中には現役生活で100キャップ以上プレーする選手、60~80キャップの選手、40~60キャップの選手、30キャップ程度の選手もいます。30キャップの選手は、2シーズンは良いプレーをするかもしれませんが、それを維持することが出来ない選手が多いです。能力は高いかもしれませんが、一貫性を持ってプレーすることが出来ません。
選手には"成功を経験させる"、"練習でも勝ったという気持ちになれるようにする"、そしてその"選手の強みを話す"ことで、「常に正しいことをしてくれる人たち」へ導くようにしています。
日本には「心・技・体」という言葉がありますが、私としては「技・体・心」という順になります。なぜスキルを先に言うかは先程言ったように、私が求めるラグビーはスキルがなければ出来ないからです。宮本武蔵の本を読みましたが、「良い侍は良い刀を使うのではなく、頭を使って刀を振っている」と書いてありました。体と頭や精神は連動していなければいけません。
サントリーではアタッキングラグビーを掲げていますが、今、守りのラグビーが主流になろうと、大きな波のように押し寄せてきています(笑)。私はアタッキングラグビーの方が、よりラグビーの魅力が伝えられると考えています。守りのラグビーが主流となる流れを変えなければいけません。例えば、昨シーズンのサントリーのようなプレースタイルで、今シーズンを戦っていれば、リーグ戦の順位は真ん中くらいだったと思います。それは、ブレイクダウンでのレフェリーの笛の吹き方が変わったこと、そして他のチームもプレースタイルを変えてきたからです。周りの環境の変化に気づかなければいけません。
今シーズンはその方法を少しだけ修正しなければいけませんでした。他のチームは昨シーズンのサントリーのようなラグビーをしようとしていると思います。今、サントリーが何をやっているかというと、来シーズンが終わった時に、また他のチームが真似したいと思うようなラグビーのスタイルを先にやっています。成功するチームとは、常にみんなよりも先に違うスタイルで前に進んでいかなければいけません。ビジネスも同じです。
前回もお話しましたが、いろいろなタブレット端末が出ていますが、私は最初のiPadがいちばん良いと思います。ラグビーでも同じで、みんなが真似したいと思うラグビースタイルを作り上げ、作り上げながら常に変化をしていくと、他の人たちは常に追いかける状態になります。アタッキングラグビーについては、これからも追及していくと思います。考えや原理はアタッキングラグビーですが、違う形でやっていくと思います。
【ポジティブな結果が出るようにルールがある】
ラグビーやスポーツのネガティブな部分を見ることは嫌いです。試合にはルールがありますが、そのルールが何故あるかというと、ポジティブな結果が出るようにルールがあるのです。そのルールのもとに、レフェリングについては、厳しいレフェリングが良いと思います。
たまにエンターテイメントな要素を入れなければいけないと勘違いをしているレフェリーがいます。試合の流れで「プレーオン」と言ってしまったりすることがありますが、それはレフェリーの仕事ではありません。レフェリーの役割とは、ルールに基づいて笛を吹くことです。ルールを破ったチームはペナルティを負うべきです。レフェリーがその時の試合の流れによって、試合を継続させたりすることは、レフェリーの仕事ではないですし、そういう権利もありません。世界的に見ても、ラグビーのレフェリングがいちばん難しいかもしれませんが、日本では、若くて良いレフェリーが育ってきていると思います。これからの日本のラグビーがどういう方向に行くかということを示していると思います。
動きがないラグビーの試合は誰も見たくないと思います。ボールが見えない試合というのは、最悪です。だからルールをしっかりと理解をした人たちが必要です。選手のスピードも上がっていますし、体も大きくなって、強くなってきています。それを補うために、これからは主審を2人おいて、1人はブレイクダウンだけを見るレフェリー、もう1人は試合の全体を見るレフェリーというような形も必要かもしれません。
私がラグビーを通じて伝えたいことは、ラグビーとはオーケストラのようなものだということです。みんなが良く機能すれば、とても素晴らしく、美しいものが生まれます。そうすることによって、みんなが楽しむことが出来て、見ている人に楽しみを与えます。みんなが一致団結して行えば、こんな素晴らしいことが達成出来るということです。そして、ファンはそういうものを見たいと思っているはずです。自分の人生において、誰でも良いことをしたいと思っているはずです。それを達成するためには、良いチームワークが必要なんです。
(通訳:松平貴子/インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]