SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2012年3月14日

#270 竹本 隼太郎 『嫌いになるくらい追い込んで、それでもラグビーを好きでいる状態』

竹本隼太郎キャプテンには、新しいシーズンが始まってすぐの6月、リーグ戦が始まって中間地点の11月、そして今回と、今シーズンのポイントとなるタイミングでインタビューを行ってきました。昨シーズン、新キャプテンとして日本選手権に優勝、今シーズンはトップリーグでも見事優勝を果たし、そして日本選手権2連覇、今シーズン2冠に向かって、チームを牽引し続ける竹本選手。シーズン中盤以降からシーズンクライマックスまで、そして今後に向けてお話を訊きました。

◆力を発揮できない

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—— リーグ戦を12勝1敗という成績でしたが、キャプテンとしてどう感じていますか?

リーグ戦が深まるにつれて、サントリーらしいラグビーが出来るようになってきたという感じです。目標は2冠で、春からエディーさん(GM兼監督)やコーチ、選手間で話し、シーズン中その目標は全くブレませんでした。だからリーグ戦1位通過には固執していなかったですし、プレーオフが大事だと思っていました。その中で、結果的にリーグ戦1位になれたということは、自分たちがやってきたラグビーが、正しかったんだと思います。リーグ戦を通して力を発揮できましたし、良いラグビーをやっている証明だと思うので、自信を持ってプレーオフに臨み、力を出せたと思います。

—— 全勝にはこだわってはいなかったんですね

もちろん1戦1戦戦って、自分たちのラグビーをより良くしていこうという思いでやってきて、結果的に1敗だったわけです。その1敗した試合で、東芝がフィジカルで戦ってきたことで出た課題は、もちろん修正しますが、内容としては良いところがたくさんありましたし、全く悲観はしなかったです。

—— 東芝戦後の記者会見で、エディー監督が珍しく怒っていましたが、そのことに関してはどう感じましたか?

凄く良い準備をしてきて、その試合の週でも、疲れがたまっている中、必死に練習して準備した記憶が、いまでも残っています。そこで準備してきたことが、東芝の激しく、グレーゾーンを攻めてくるブレイクダウンで、サントリーのテンポに出来なくて、力が発揮できませんでした。その中でも78分までは勝っていたということは、評価出来ることだと思います。結果的に負けてしまったことに対して、エディーさんは非常に悔しかったと思いますし、僕たちも悔しかったですね。あの悔しさは、いまでも忘れていません。

◆チームとしてレベルアップ

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—— 昨シーズンのチームと比べて、いまのチームは更に変わっているんですか?

昨シーズンのプレーオフ、日本選手権では、勢いがありました。選手1人1人からも「やってやる」という気持ちを感じました。今シーズンに関しては、春から準備を始めて、フィットネスだけじゃなく、フィジカル面も強くなっていて、アタックシェイプもレベルアップして、新しいラグビーをやっています。難易度は高くなっていますが、ノンメンバーや若手も含めて、凄く理解度は深まっていて、間違いなくチーム全体としてレベルアップしています。いろんなメンバーが出ても、同じ意識でやっていますし、同じラグビーが出来るということは、凄く良いことだと思います。

—— リーグ戦最後の2試合を欠場しましたが、スタンドで見ていてどう感じましたか?

試合もそうですが練習を見ていて、試合以上にキツイ練習をしていて、その中にいる時は気づかないんですが、外で見ているとテンポも凄く速いですし、練習の強度を凄く感じました。みんなが頑張っている姿を見て、勇気をもらいました。

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—— 焦るということはありませんでしたか?

焦りもありますけど、自分もその中にいてリード出来ていたということを考えると、自信になります。半分焦りや不安で、半分自信という状況ですが、悪い方には捉えないようにしています。

—— ジョージ・グレーガン選手(昨シーズン引退)も、いまチームにいる外国人選手も、良いお手本になると選手たちが言っています

本当にお手本になります。例えば、ボールへの執着心やトライをさせない執着心など、トップリーグにはない意識を持っていると思います。インゴールに入ってからトライをさせないシーンを何度も見ていますよね。口で説明されてもなかなか伝わらないところがありますが、プレーで見せてくれるので凄く説得力があります。そこを「真似しなきゃいけない」と、みんなが感じていると思います。

—— 真似が出来るものですか?

最初から真似が出来たら、もうみんなが真似出来ていると思います。はっきり言って難しいことです。けど、間違いなく近づいている途中ではあるので、良い効果を感じることが出来ています。

◆改善点を示してくれる

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—— 優勝の瞬間は、静かに喜び合うという感じでしたが、キャプテンとしてどう感じていましたか?

喜んでいないことはなかったですが、日本選手権があるので、喜び過ぎて満足してしまうことが怖いと感じていたと思います。けど、みんな一体感があって、まだまだやるべきことは残っているという意識があったと感じました。あの後、日和佐や玲央(岸和田)と話しましたが、やっぱり自分のプレーには満足していないですよ。そして日本選手権で力を発揮するチャンスがあると思っているので、気が緩むということがなくてよかったと思います。自分としても、もっと出来る部分がたくさんありました。

—— もっと出来るというところを具体的に教えてください

少なからずミスがあったということと、コンタクトのところでもっとファイトしても良かったと思うところがありました。タックルに入って、もっとファイトしていたら相手を倒せるということもありました。ワークレートは良かったので、もっと精度を高めることが出来ると思いました。

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—— 今シーズンは、結果は出ていても、満足しないという気持ちが、試合ごとに出てくるんですか?

やっぱり目指すところが高くなっていて、だから満足できないんだと思います。目先の目標がトップリーグの優勝であれば、満足しても良いと思うんですが、春から監督やコーチ陣、スタッフが、スーパーラグビーで戦えるレベルを目指すと言っていて、本当にその方向に進んでいるんだと思います。

試合や練習毎に良いところや問題点があると、その都度レビューしてくれて、自分としてはパフォーマンスが良いと感じても、監督やコーチは更に先を見ているので、改善点を示してくれるんです。リーグ戦ではそういうことを続けてきたので、選手自身もそういう考え方になりました。

—— 選手から見て、改善点を示してくれる場面と、褒めてくれる場面のバランスはどう感じていますか?

人によると思うんですが、目標にしていることが高いので、ほとんど褒められないんじゃないかと思います(笑)。

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—— 昨シーズン獲れなかったトップリーグ優勝ということで、試合の日の夜は選手同士で喜び合ったんですか?

今年に入って初めてアルコールを飲んだので、とても楽しかったですね。1月、2月と、日曜もしくは月曜の祝日に試合があったので、飲めませんでした。僕は独身なのでいいですが、結婚されている人は大変だったと思いますよ。

—— その日、グラウンドを離れてからは、選手同士で何を話しましたか?

僕は隆道(佐々木)とアオさん(青木)、ハタケ(畠山)と飲みに行きましたが、ぜんぜん満足していなかったですね。僕以外の3人はプロ選手ですし、意識が高くて、成長し続けていると感じました。グラウンドから離れても、次の試合ではどうしようかという話をしていたと思います。

—— 社員選手でも、ラグビーに対するプロ意識は高いと思いますが、それも優勝の原動力になっていると思いますか?

社員選手の方が多いわけですし、それは間違いないと思います。今シーズンはノンメンバーなくして、本当に良い練習は出来なかったと思います。試合に出られないと分かっていても、来シーズンや自分の成長のために必死で練習しているノンメンバーを尊敬していますし、ノンメンバーのお陰で密度の濃い良い練習が出来て、プレーオフ準決勝のNEC戦、そして決勝のパナソニック戦があったと思います。

◆キャプテンの役割は非常に重要

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—— 日本選手権に向けては、気持ちを切り替えて臨むのか、それともこのままの流れで試合に臨みますか?

2つのミッションのうち1つ達成して、これまでやってきたことが改めて正しかったと分かりました。決勝の試合中に自信を持つことも出来ました。自信がついたことで、余裕を持つことが出来て、更に精度を高めて日本選手権に臨めると思います。どうしても実力がないと、焦ってしまったり、いつもと違うプレーをしてしまったりするんですが、決勝ではいつも通りのプレーが出来ました。前半に逆転されたり、相手のペースの時でも、崩れませんでしたから、精神面の強さもレベルアップしていると思います。

これまで2冠を獲ったチームは、2006-2007シーズンの東芝しかなくて、ここ何年かのプレーオフから日本選手権への流れを見ていると、プレーオフで優勝してしまうとハングリーさがなくなり、日本選手権で力を発揮できなくなるということが、続いています。その逆で、日本選手権で優勝するチームは、プレーオフで勝てなかったから「日本選手権で勝てなければシーズンで何も残らない」という思いで臨むと思います。昨シーズンの僕らもそうでした。

プレーオフと日本選手権との間で、もう一度モチベーションをもってやらないと日本選手権は勝てないと思います。そこでしっかりとチームとして切り替えて、足並みを揃える必要があると思います。

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—— 日本選手権では気持ちの部分が非常に大切ということですね

大切ですね。ハートだけじゃないですけど、スケジュール管理やSC(ストレングス&コンディショニング)が大事です。スケジュールやSCの部分では、チームがしっかりと準備をしてくれるので、それと連動して、もう一度メンタルをリセットしなければいけないですね。キャプテンの役割が非常に重要になってくるので、自分から率先してやっていかなければいけないと思っています。

—— キャプテンとして、どういう意識でやっていて、その出来はどうですか?

ラグビーが変わったので、新しいラグビーを率先してやることと、練習や試合においてプレーでリードすることだと思っています。以前と比べて、それが原因かは分かりませんが、いろいろと考えることが多くなって、ビッグプレーやインパクトプレーが出来ていないような気はします。その中でもワークレートやミスを少なくプレーすることが出来ていますし、アタックやディフェンス、それとミーティングなどでも、昨シーズンよりは良いリードが出来ていると思います。

—— 考えることが多くなったということは、具体的にどういうことですか?

試合中であれば、プレーの選択を時間帯や風向き、セットプレーの状態などを考えて、判断しなければいけないですよね。基本的にはセットプレーの選択はキャプテンが決めています。スクラムやラインアウトで何をやるということは、それぞれのポジションの選手と話し合って決めています。その中で意見がぶつかることもありますが、この選択が正解というものはないんです。だからその選択に対して、みんなでやりきるしかしないですし、そう思い込ませることが凄く大事だと思っています。

◆考える癖

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—— 昨シーズンと比べて、キャプテンの大変さは変わりましたか?

大変さの中でも、プレーヤーとしての大変さがいちばんで、昨シーズンも今シーズンも他の選手と一緒に必死にやっています。キャプテンとしては、判断のキャパシティーは広くなったので、迷わず判断が出来るようになったと思います。考える癖をつけることで、普段から考えていれば、そんなに大変なことはないですね。

—— 普段から考えるようにするために、どのようなことをしているんですか?

勝ちたい気持ちをずっと維持することだと思います。その気持ちを維持することは難しいことですが、好きなことであれば、考え続けることが出来ると思います。

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—— 昨シーズンよりも今シーズンの方が、ラグビーが好きになっていますか?

それは間違いなく好きになっていますね。それはチームと自分が成長しているからだと思います。より複雑なラグビーが出来るようになっていますし、フィットネスもフィジカルも強くなっています。まだまだ成長出来るというところにワクワクしますね。

例えば、寝た状態から起き上がってダッシュをするというフィットネスがあるんですが、それが凄く速くなっていて、若井さん(コンディショニングコーチ)から「世界的にこのタイムでゴール出来る人は、なかなかいないよ」って言われて、凄く嬉しく感じました。普通に走ったら遅いんですけど、寝て起きてという動作を入れると、僕は抜群に速いですね(笑)。

その原因は体の使い方だと思います。体が大きい外国人選手では、動作が大きくなってスピードが遅くなるという身体的な要因もあると思いますが、それでも、速いというのは嬉しいですね。数字は嘘をつかないですし、28歳が体のピークだと思っていたのに、先週よりも速くなっていたり、34歳で成長している元さんやザワさん(小野澤)がいるんで、自分はまだまだだと思います。

—— そう考えると、来シーズンは更に楽しみですよね

来シーズンも更に上がると確信しています。

—— すでに来シーズンの監督が変わるということが分かっていますが、そのことについてはどう感じていますか?

まだ考えられていないというのが本音ですね。その中でも、この2年間で良い文化が出来ています。ラグビー以外での部分でも、みんながサポートし合ってやっていく中で、ラグビー自体も良いラグビーになって来ていると思います。良い習慣を経験して、自分たちだけで追い込むことが出来れば、更に良くすることが出来ると思います。ただモチベーションや目標がブレたり、ラグビーを好きでいることが出来なくなると、悪い方向に進んでいってしまうと思います。だからどちらの方向にも進める状態だと思います。

—— チーム内でのリーダーシップが重要になってくると思いますが、選手みんなが自覚していることですか?

もっと自覚しないと駄目だと思います。そんな簡単なことじゃなくて、それは本当に難しいことだと思います。それを考えると、今シーズンのうちに、更にチームを高みに上げた方が良いと思いますね。ラグビーを嫌いになるくらい追い込んで、それでもラグビーを好きでいるという状態にするために、リーダーたちが頑張らなければいけないと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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