2012年1月30日
#266 木下 博史 『泣きながらグラウンドに入って、最初から激しいプレー』
◆初めてにしては
—— 今年の新人の中でトップリーグ出場第1号となりましたが、いかがでしたか?
緊張したというのが、いちばん印象に残っています。前日のホテルからずっと緊張していました。
—— 緊張がピークに達したのはいつでしたか?
出場する時にいちばん緊張したと思います。グラウンドに入ったら、出来ることをやるしかないので、開き直るというか、思いっきりやろうとしか思わなくなっていて、プレー中はそこまで緊張もなくなっていました。全く緊張感がなくなったわけではなく、良い緊張感の中でプレーできたと思います。
—— 木下選手が出場する時に、他のみんなが喜んでいたように感じましたが、それは感じることが出来ましたか?
みんなと握手して、「頑張れよ」って言ってくれました。本当に嬉しかったですね。
—— 最初のプレーは覚えていますか?
キックオフ後のサポートだったと思います。
—— その後、約20分間プレーしましたが、いかがでしたか?
一度、僕がタックルに行って、触れもせず抜かれてしまって、そのままトライに繋がってしまったので、その時は焦りました。ただ取られてしまったのはしょうがないので、切り替えてプレーしました。
—— 全体的な自己評価はどうですか?
初めてにしては、動けたかなとは思います。
—— メンバーに選ばれるという予感はありましたか?
前の週の山梨でのリコー戦でもリザーブに選ばれていて、その時は出場することが出来ませんでした。そして次の試合がコーラ戦で、ここでもリザーブに選ばれて、いろいろな先輩から「点差が離れたらあるぞ」って言われていたので、しっかりと準備はしたつもりでした。
—— リコー戦で初めてメンバーに入った時と、いままで選ばれなかった時とは何が違いましたか?
怪我をせず、ここまで頑張ってきて、フィットネス面でも徐々に上がってきました。それにスクラムなどのセットプレーでも少しずつ自信がついてきました。自分の中でも良くなってきていると思っている時に、リザーブに入ることが出来て、そして試合にも出ることが出来たので、本当に自信になりました。
—— 先ほど、ファースト・プレーについて聞きましたが、ファースト・スクラムについてはいかがでしたか?
尾崎さんと池谷さんにしっかりとサポートして頂いて、良いスクラムが組めたと思います。欲を言えば、もうちょっとコントロール出来れば良かったと思います。
—— スローイングはやりましたか?
スローイングはやらなかったですね。一度タッチに出たんですけど、危ないと思ったんじゃないですかね(笑)。その時はクイックで始まって、それがインターセプトされて、トライを獲られてしまいました。
◆サポートプレーやタックル
—— 一度トップリーグで試合をした後、メンバーに選ばれない試合が続いてしまいましたが、そのことについてはどう感じていますか?
試合に出た時にも感じたんですけど、実力的にはまだまだ下の方だと思っています。ただ怪我せずに地道に練習していけば、またチャンスが巡ってくると思うので、良いコンディションを維持したままチャレンジしていきたいと思います。
—— 自分の良いところはどこだと思いますか?
派手なプレーはないですけど、サポートプレーやタックルですかね。ただタックルは大学の時は良いタックルが出来ていたんですけど、最近は良いタックルが出来ていないので、少し自信がなくなってきていますね(笑)。
—— 大学の時に比べて伸びているところはどこですか?
確実にフィットネスは上がっていて、ウエイトでもベンチプレスの数値が上がっています。
—— タックルが上手くいかないのは、どこが課題だと思っていますか?
いままで低い姿勢からタックルをしていたんですけど、サントリーに入ってからは、低い姿勢だと相手に的を作らせてしまうので、高い姿勢から入る瞬間に低くなって入るというタックルを教えてもらいました。それがまだ身についていなくて100%出来ていないので、その部分でタックルを外されたりしているのかなと思いますね。
—— 試合前にはテンションを上げる方ですか?
そうですね。同志社大学の時に、グラウンドに泣きながら入ることもしょっちゅうありました。サントリーでは、緊張しすぎて、気持ちは入っているんですけど、緊張の方が大きすぎて泣いたりとかはありませんでした。これから経験を積んで、大事な試合の時などでは、大学時代みたいに泣きながらグラウンドに入って、最初から激しいプレーが出来るようになりたいですね。
◆毎日スローイング
—— 大学の時からトップリーグでプレーしたいと思っていましたか?
いちばんの希望はトップリーグでプレーすることでした。それにトップリーグの中でも、高校からずっとサントリーのファンだったので、直人さん(中村/サントリーOB)にお願いしました。
—— 高校の時からトップリーグに行きたいと思っていたんですか?
いや、その時はただのファンで、憧れでしかありませんでした。
—— 大学のどの辺からトップリーグを意識しましたか?
2年生の時にも試合には出ましたが、運よく3年生から試合に出続けることが出来て、その辺りから高いレベルでプレーしたいという思いになりました。トップリーグの中ではサントリーだけに希望を出して、他はトップイーストやウエストのチームでした。もしサントリーに入れなかったら、こんな高いレベルではプレー出来ていなかったと思います。
—— 大学ではキャプテンなどは経験しましたか?
キャプテンやフォワードリーダーなどはなかったんですが、一応フッカーなので、スクラムなどはリードしていました。ただ日常生活では副寮長をやっていました。あまり権限はないですけど、そういう役職には就いていました。
—— 自分ではリーダーシップがある方だとは思いますか?
あんまりないかもしれないですね(笑)。大学の時には、後輩とも同期みたいな感じで和気あいあいとやっているようなタイプでした。高校の時は一応フォワードリーダーをやっていましたが、その時も和気あいあいとやっていました。
—— 以前、平選手と話していて、木下選手はよく「ピンチ面(つら)するな!」と言われているそうですね
どうですかね。こういうレベルの高い中だと僕はレベルが下なので、自分に自信がないということはあるかもしれないですね。高校の時から自主練などをやって、ちょっとずつ自信をつけてきました。
—— いまも自主練はしているんですか?
人よりも多くやらないといけないと思っています。スローイングが今いちばんの課題なので、毎日スローイングはしています。
—— ピンチ面は自信がついてくるとなくなってきそうですか?
大学の時はそこまでヤピンチ面とか弱気とかは言われていなかったんですけど、自信がついてくれば、そういう顔はなくなってくるかもしれないですね。
◆泥臭さ
—— いつからラグビーを始めたんですか?
ちゃんと始めたのは高校からですね。高校の時はロックをやっていて、一時期フランカーやNo.8をやって、最終的にロックに戻ったんです。それで大学2年の時に、関西リーグの開幕戦をロックで出場したんですが、その後に怪我をしてしまいました。その年の春シーズンに帝京などの体の大きい大学と試合をしたんですが、僕は体がそこまで大きくなく、フィットネスもそこまで高くないので、体重を増やして筋力をつけて、1列目になろうかなと思っていたんです。それをコーチに相談したら、「自分で考えてそうしたいのであれば応援する」と言われて、そこから怪我をしている間ずっとウエイトトレーニングをして、3年の時に復帰して、それからはずっとフッカーをやっています。
—— そこでかなりの筋肉がついたんじゃないですか?
筋肉もつきましたが、脂肪が多くて(笑)、体重は増えましたが、ぜんぜん走れなくなっていました。サントリーに入って最初の頃は、ぜんぜん走れなかったので、その時は辛かったですね。
—— もう慣れましたか?
慣れたと言えば慣れましたが、1つのレベルをクリアすると、どんどんレベルが高くなってくるので、まだまだ青さん(青木)のフィットネスに比べたら、ぜんぜん足りないですね。
—— 他のフッカー選手よりも体は大きいですよね
高校から大学に行く時にフッカーになろうかなと思っていたんですけど、大学の先輩で180cmくらいで試合に出ていた人がいたので、もう少し頑張ってみようと思ったんです。それで大学2年の時にフッカーに転向することを決めました。
—— 1列目になって、面白さはどこでしたか?
スクラムのコントロールやラインアウトでもプレッシャーはあるんですけど、綺麗に投げられて良いボールが出た時の達成感というか、充実感が好きですね。
—— ラグビーを始める前は何をやっていたんですか?
小学校の時からサッカーとかやっていて、中学では最初サッカーをやりながら柔道をやっていました。ただ左肘を脱臼骨折してしまって、辞めてしまいました。ただ何かしらの部活には入らなければいけなくて、卓球をやりました(笑)その後、体育の選択授業で友達にラグビーやろうと誘われて、そこで初めてラグビーをやったら面白かったんです。
—— ラグビーのどの辺が面白かったんですか?
最初はルールが難しかったんですけど、ボールをみんなで繋いでトライを獲るところとか、泥臭さが好きでした。
—— いまも同じですか?
自分が出来るのが泥臭いプレーしかないというのもあるんですけど、目立たないけど良いプレーというのがいちばん好きですね。普通見ていても気づかない良いプレーをして、そこに気づいてもらえると嬉しいんです。
◆レベルの高いところで挑戦していきたい
—— 社会人1年目ですけど、今シーズンの目標は何ですか?
公式戦に出るというのが目標で、1試合出場することは出来たんですけど、その目標は継続していきたいと思います。
—— サンゴリアスとはどういうチームだと感じていますか?
やっていることが本当にレベルが高くて、毎日充実していて、自分でもレベルアップしていることが感じ取れる良い環境だと思います。
—— 目標にしている選手はいますか?
やっぱり山岡さんと青木さんです。
—— 2人とも日本代表経験者ですが、最終的にはどの辺を目指したいですか?
正直、僕はそんなことを言っていられるレベルではないので、まずはサントリーでしっかり試合に出られるレベルになるということが当面の目標です。
—— そうなるために、いまいちばん考えていることは何ですか? フォワードの中ではフィジカルが弱い方なので、ウエイトトレーニングをして、体を強くすることが大切だと思っています。
—— 弱気というようなことを言われていますが、根性や負けん気などはある方だと思いますか?
根性はある方だと思っています。高校でも大学でも、練習が終わった後に居残りでタックル練習をしたり、自主練を良くしていたので、そういう意味では根性がある方だと思いますね。負けん気もある方だとは思います。
—— それは表に出さないタイプなんですね
そんなに出てないように見えますかね(笑)。大人しいとはよく言われます。生まれた環境がそうさせたんですかね。
—— 生まれはどこですか?
山梨の田舎です。
—— 兄弟はいますか?
1つ上に兄がいて、いま大学1年生の妹がいます。
—— 家族はスポーツをやっているんですか?
スポーツをやっているのは僕だけで、兄は軽音楽部でしたし、妹も部活には入っていませんでした。父親が少し野球をやっていたみたいですけど、そこまで本格的な感じではなかったですね。
—— 山梨から大学に行く時が転機だったのかもしれないですね
親元を離れて京都に行ったので、そこがいちばんの転機かもしれないですね。最初は東京農業大学に行こうと思っていたんですけど、「同志社に行くつもりがあるならどうだ」と言われて、そこから親を説得して同志社に行くことにしました。ラグビーをやるからにはレベルの高いところで挑戦していきたいという思いを親に話しましたね。
—— ファンに自分のアピールポイントをお願いします
派手なプレーはないですけど、地味なサポートプレーや泥臭いプレーで頑張っているなというところを見て欲しいですね。サポートが欲しいというところに走っているようなプレーをしたいので、誰かが抜けた時の速いサポートなどを見て欲しいです。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]