2011年11月17日
#259 小野澤 宏時 『引っ張り上げるだけがリーダーじゃない』
◆ 準備は自分のみで出来る
—— 今回のワールドカップ、ストレスは溜まりましたか?
日本に帰ってきたら、試合の時のストレスは忘れちゃいましたね(笑)。
—— ボールが回ってこない時間が長く感じました
なかなかトライが獲れなかったですね。
—— ワールドカップに臨むときの体調はどうでしたか?
良かったですよ。もちろん気になることはありましたが、不安になることはありませんでした。現状で何が出来るかが明確でしたからね。
—— 出来ることはやったという感じですか?
どういう人を選ぶかは別として、自分個人で出来る準備を怠ったとは思っていないですね。常に良いパフォーマンスを発揮する準備は自分でのみ出来ると思っているので、そこだけは準備していました。
—— ニュージーランド戦でトライを獲りましたが、試合後はどういう思いでしたか?
試合に負けた瞬間で、インタビュアーに「トライを獲りましたね」って言われましたけど、大味な試合の中での1つのパスカットからのトライに、そこまで注目しなくてもいいんじゃないかという思いがありましたね(笑)。そのトライが勝ちに繋がったとかがあればいいんですけど。
—— ただあのトライがなければ、更に悪い状況になっていたかもしれないですよ
もちろん大変なことになっていたかもしれませんが、相手が強いとか、相手がどうであれ結果に対してコメントをするべきかと思いましたし、言い訳もしたくなかったですね。ワールドカップでの4戦の結果はああいう結果で、オールブラックス戦の結果もああいう結果なので、それ以上でもそれ以下でもなく、あれはあれでしかないです。
—— フランス戦で7点差まで迫った時、かなり勢いがあったと感じましたが、実際にプレーしていてもそう感じましたか?
点差と時間のプレッシャーが掛かって、相手に精神的な動揺が生まれていたとは思うんですが、それはカナダ戦でもトンガ戦でも感じました。どうやって点を獲るかということばかり考えていたので、どの試合でもあまり変わらなかったですね。
—— チームとしての浮き沈みはありましたか?
ワールドカップが初めての選手も多かったですし、その選手から緊張が伝わってくることもありましたけど、緊張とリラックスのバランスを取りながら試合に臨もうとは思っていました。チームとしてもいいバランスで試合に臨めたと思います。
◆質を高めることだけが大切
—— 大会の雰囲気はいかがでしたか?
前回のフランス大会は特別な大会という感じがありましたけど、ニュージーランドは日常にラグビーがある国なので、淡々と大会に臨めたと思います。もしかしたらチーム側がそういうところにキャンプ地を選んだのかもしれないですけどね。
—— 世界との差は感じましたか?
感じたところと感じないところがあって、準備することが大切なのかなと思います。今大会は準備不足の一言なんですけど、その一言じゃ伝わり切らない部分でもあるんですよ。よく言われる“自分たちのスタイル”を、自分たちの中だけで通用する基本のプレーを、そこの質を高めることだけが大切だと実感しましたね。
—— 今回、決勝に残った2チームと対戦したわけですが、その2チームと対戦して感じた手ごたえはありますか?
オールブラックスは強いなって単純に感じましたね。もう少し試したかったことが、アタック面でもディフェンス面でもありました。フランス戦では、コンタクトシチュエーションでも、ある程度の手ごたえはありました。
—— 前回のフランス大会ではオーストラリアと対戦しましたが、その時に感じたことと違いはありましたか?
ラグビーのスタイルがまったく違うんですけど、オールブラックス戦ではディフェンスの際にタックルをさせられて、そこでスペースを空けられてしまったことがありましたね。チームとしてのリスクとメリットの線引きがはっきりしてきたら、もっと仕掛けられると思います。そういう悔いはありますね。
—— 今回出場した選手の思いを、どこかで吸い上げられると良いですね
スタイルが確立されていれば、それでフィードバックが成立すると思うんですけど、まったく違いことをやろうとしていれば、チームのベーシックな部分じゃないところになってきますよね。サントリーの中で、同じポジションだったり関係性の高いポジションとの中で話し合って、世界で試してみたけど、絶対に通用するということはありますね。僕もそうですけど、どの選手も自分の中での成功体験でプレーしていると思っていて、どうしてもそのチームの色に偏るので、ワールドカップで感じたことをこのチームの中で話すことは出来ると思います。
—— 日本代表でも11番、12番、13番がサントリーで並んでいましたもんね
だから、平とは「これは大丈夫だね」という話をしましたね。同じ部屋でしたし(笑)。良いところはどんどん話していけばいいし、それを持ってサントリーから日本代表に選ばれれば、そこで伝えていけばいいと思います。
◆いちばん良かった
—— ワールドカップに3回出場しましたが、どれも違いますか?
開催国が違って環境が違うということと、自分の年齢と経験も違うので、昔は単純に若かったと思います。今回はいちばん良かったと思います。
—— 発見はありましたか?
個人的には1回目の時は分からない怖いもの知らず感というか、勢いはありましたね。2回目の時はチームとしてとか、佐々木キャプテンの下、オーストラリアにチームとしてどう戦うかという思いがありました。
そこから4年経って、ジョージさん(グレーガン)のサントリーの中でのチームとの関係性というか、存在感をどう出して、どう精神的にいい影響をチームに与えられるかを見させてもらいました。本人がどう考えてやっていたかは分からないですけど、緊張もリラックスも両方必要で、そういうことを強く言う人だったし、チームが方法論に偏れば、気持ちの面を個人的に強く言うこともありました。逆にチームの過半数が気持ちの部分を占めていれば、技術論や方法論をポンって言ったりもしていました。
欠けているところを補ったり、チームの細かなバラつきをかき集めてくる人でした。チームが1つの矢印に向かってやっている中で、逆に1つに偏らないようにして、いろいろなものを持ち合わせるようにしていたと思います。そういう経験を積んで、引っ張り上げるだけがリーダーじゃないと感じたので、チームにいい影響を与えたいという思いで今回のワールドカップに臨みました。もし次のワールドカップに出られて、2011年のワールドカップの時は若かったなんて言っていたら面白いですよね(笑)。
—— 悔しさはありましたか?
勝てないことですよね。単純にそれだけですよね。
—— 勝つまでは辞められないという思いはありますか?
そんな先までは見られないですけど、終わった直後だからだと思いますが、向上心はありますね。次の一歩を踏み出すだけの向上心は、意外と「ある」と感じています。
—— 去年は新しいトレーニング方法を取り入れましたが、今年は何か考えていますか?
JP(ジョン・プライヤー/フィットネスアドバイザー)がいて、トレーニングを一通りやってみると、弱いところが凄く分かるんです。僕は弱いところが分かると、可能性を感じるんですよ。弱いところのレベルを上げれば、更に成長出来ると思わないですか(笑)?本当に有難いと思いながらやっています。
—— チームに合流して、状態はどうですか?
まだ体のバランスが悪いですね。そこで弱いところが浮き彫りになってきています。
—— それはいつ頃から感じているんですか?
帰ってきてサントリーに入ってみて、弱い部分が見えました。いろいろな引き出しを持っているコーチがたくさんいるので、ここが強くなればもっと走れるなって感じたりします。
—— トップリーグで2年連続トライ王でしたが、これに関してはどうですか?
まずはチームの状況も凄く良いので、まずはこのチームにフィットしないと試合に出られないという緊張感があります。まずはそこからですね。そして試合に出たら勝ちたいですし、勝つときは自分でトライを獲りたいですね。そして自分がトライを獲ったら他の人よりもトライを獲りたいですし、トライを多く獲ったらトライ王を獲りたいというだけです。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀(Courtesy of The Japan Times / Z.Papp)]