SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2011年9月29日

#253 有賀 剛 『自分たちがやってきたスタイルを信じるという力』

◆鼓舞するタイプ

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—— バイス・キャプテン2年目ということで、どういう心構えでいますか?

実はバイス・キャプテンは4年目なんですよ。大悟さん(山下/元キャプテン/現NTTコミュニケーションズ)、隆道(佐々木/前キャプテン)とやって、タケ(竹本)のバイス・キャプテンが2年目です。バイス・キャプテン4年目というのはサントリーの中では記録ですかね(笑)。

—— なるほど、3人のキャプテンを支えてきたということで、それぞれいかがでしたか?

バイス・キャプテン1年目の時は社会人3年目でしたが、怪我をしてしまって、大悟さんのサポートは出来ませんでしたね。隆道の時は、他にもリーダーがたくさんいて、青木とかタケとか、僕らの年代でリーダーを固めてしまって、ああいう結果になってしまいました。

—— 去年はどうでしたか?

去年は、エディー(ジョーンズ/GM兼監督)体制になって、週1回はエディーとタケと3人で話をしていたので、エディーの考えも理解しながら動けていましたし、コミュニケーションが取れていた年で、チームとしてどういう方向に向かっているのかも分かっていたので、それで上手くいったと思います。

—— 3人での話し合いの時は、有賀選手も竹本選手もいろいろなことを話すんですか?

エディーも必ず「どう思う?」と聞いてくるので、その時に自分たちの意見も言いますね。最初の頃は、なかなか"アタッキングラグビー"が機能せず、結果がついてこなかった時に、タケもエディーから相当厳しいことを言われていました。

その時に僕が怪我から復帰するサテライトの試合(クボタ戦)がありました。何か伝えられるものがあればいいと思い、自らエディーに申し出て、その試合のキャプテンをやらせてもらいました。やっぱり「これで勝つんだ」というスタイルを信じることを伝えたかったので、そういう部分ではリーダーとしての力を発揮できたと思います。タケの支えにもなったでしょうし、Aチームの刺激にもなったと思います。

僕はリーダーとして、どちらかと言うと、鼓舞するタイプで、あの時も「絶対に自分たちの方が良いラグビーが出来るし、自分たちが試合に出るべきだということを証明しよう」という思いで試合に臨みました。そういう気持ちでみんなも試合に臨んでくれたと思いますし、本当に良いラグビーを見せてくれたと思います。あそこからチームが変わったと思います。

◆同じ相手に二度負けなかった

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—— 最初は結果が出ませんでしたが、そのスタイルを信じ切れた理由は何ですか?

最初は結果が出ず、負けていましたが、テレビでAチームの試合を見ていて、その時に「何で蹴るんだ」とか「何で自分たちのラグビーをやらないんだ」という声が飛んでいたので、試合を見ていた選手はみんな気づいていたと思いますよ。あのサテライトの試合は、外で見て感じていたことを表現してくれました。

—— では、いまはAチームでもチームを鼓舞しているんですか?

Aチームに上がった時は、タケが言ったことに対して、気づいたことを少し言うくらいです。そんなに前に出て、言ったりはしないですね。ポジションも後ろなので、気づいたことを言ったり、補足的なことしか言わないですね。

—— 竹本選手とのコミュニケーションはいかがですか?

いま、あまり一緒に練習や試合をやってはいないですけど、チーム状態や試合内容についてメールでやり取りをしています。上手くいけば府中合宿から合流できるので、またそこからやっていきたいですね。

—— なかなか優勝が出来なかった日本選手権で、去年優勝したのは、どこが良かったと思いますか?

去年良かったところは、同じ相手に二度負けなかったことですね。負けた相手にリベンジして上に上がっていって、最後も良い内容で勝つことが出来たので、良かったと思います。負けた試合を反省して、課題を克服していきましたが、それに加え「優勝する」というハングリーさも去年は違いましたね。あとノンメンバーの選手も練習でファイトしてくれて、毎日試合以上に激しい練習が出来たので、それも優勝できた要因だと思います。

—— 激しい練習をしていても、怪我人は少なかったですよね

それは本当にエディーの力であったり、吉田さん(一郎/ヘッドトレーナー)やメディカルスタッフのマネジメントの凄さを感じますね。

◆自信が顔や体に

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—— 昨年日本一になって、今年の精神面はいかがですか?

今年もハングリーですよ。1回日本一になったというよりは、みんなタイトルを1つしか獲れなかったという思いの方が強いですね。だから、今年は2つタイトルを獲るという思いで練習しています。

—— 2つタイトルを獲るために、去年足りなかった部分はどこですか?

足りなかった部分と言うよりも、今年は全体的にレベルアップしていて、去年はゼロからのスタートで、体を作ることから始めました。今年はそのベースは出来ていて、よりレベルの高いことに挑戦しているので楽しみですね。ただ、どのチームもサントリーをマークしてくることは間違いないですし、同じようなチームも増えてくると思いますが、エディーさんは、「そんな簡単に真似できることではない」と言っていましたね(笑)。そういう練習を組んでいるんだと思います。

—— 今年日本代表に参加する前は、サントリーの練習に参加していましたか?

シーズンオフになってからすぐに日本代表に参加したので、今年はまだチームの練習には参加していないですね。ただ練習しているところを見ましたが、相当走っていますね。

—— チームに対する不安なところはありますか?

ないですし、みんなないと思いますよ。みんな自信を持っているんじゃないですか。これだけやってきたという自信が、顔や体に表れていますよ。

—— 今年のワールドカップには、残念ながら有賀選手は出場できませんが、経験上、代表選手がチームに合流することで難しいことはありますか?

去年1年間やって、大まかなことは分かっていると思いますけど、ワールドカップというものは別物で、そこで何が起きるかは分からなくて、燃え尽きてしまう選手もいるかも知れません。もしかしたら怪我をして帰ってくる選手もいるかも知れないので、本当に総力戦だと思います。あと代表では、体を鍛えられる時間があまりなく、サントリーの方が練習量は多いですが、それは代表選手の宿命だと思いますよ。そこを上手くやるのが、トップの選手だと思います。ただサントリーでは誰ひとりレギュラーとして確定していないので、代表選手が帰って来てから競争しなければいけないと思っています。

—— 今年は外国人選手を多く獲得していますよね

サントリーからも5名の外国人選手がワールドカップに出場する可能性があって、エディーも長年の経験で、ワールドカップはそういうものだと理解しているのかもしれないですね。いまチームの戦力として計算できていても、ワールドカップの後は分からないので、タイトルを2つ獲るためには、選手は多い方が良いという考え方だと思います。

◆パフォーマンスを出してなんぼ

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—— 今回の有賀選手の怪我について教えてください

最初は昨シーズンの日本選手権準決勝の神戸製鋼戦で膝を痛めていたんです。その試合で、少し変な音がして、そのままプレーを続けていて、翌週もほとんど練習が出来ない状態で、決勝戦に臨みました。神戸製鋼戦で、一度怪我をしていたんです。

そのまま春シーズンになって練習をしていても、違和感があったり、その影響で他のところを怪我してしまったりしていて、どこかおかしかったんだと思います。それで日本代表のイタリア合宿に行った時に、階段を上るだけでも変な音がするようになってきてしまったので、日本に帰って来て検査しました。

体をゆっくり休めなければいけない状態だったんですが、あまりオフもなく、ワールドカップイヤーということで頑張っていたんです。でも、あのままワールドカップを戦っていたら、今シーズン3月まで体がもたなかったと思いますよ。

—— 検査をする段階で、これはしょうがないという思いでしたか?

イタリアにいる時に、国際電話で何度か吉田さんに電話をしていて、イタリアでもMRIを撮ってもらおうとチャレンジしてみましたが、その病院では撮ることが出来ませんでした。ただこれだけ長くラグビーをやっていると、自分の中で大丈夫か駄目かということが、なんとなく分かるようになってきて、その時は7対3くらいで、駄目だと思っていました。

やっぱり検査をちゃんと受けないことには分からないので、日本に帰って来てから検査してもらって、チームドクターとも話をして、ワールドカップだから頑張るか、それとも手術を受けるか相談しました。そして手術をする決断をしました。

—— かなり厳しい決断だったと思いますが、決め手は?

パフォーマンスが出せないということですね。こういう立場でいる限りは、パフォーマンスを出してなんぼだと思うので、ワールドカップを「出場して意義がある」という大会にもしたくなかったですし、ましてやチームスポーツなので、それでチームに迷惑をかけるということは、自分の中で許せなかったですね。

◆元気を頂いています

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—— 有賀選手の場合、怪我をしてもスムーズに復帰をしていますが、今回はどうですか?

スムーズにいくように頑張っていますけど(笑)、ただ先は長いので、あまり焦らずやろうと思っています。8月11日に手術をしたので、1か月後には走り始められたらいいと思っています。

—— リハビリは大変ですか?

単調な動きを毎日しなければいけないので、メンタル的に大変です。ただリハビリをしているJISS(国立スポーツ科学センター)にはいろいろなアスリートがいて、いろいろな話が出来るので、そこで頑張れていると思います。

—— 例えば、どんな種目のアスリートと話をしますか?

競泳やバレーボール、陸上、スノーボードやサッカー選手もいますね。そういう選手と話をして刺激を受けていますし、勇気づけています(笑)。結構メンタルが弱っている選手も多くて、「本当に復帰できるんだろうか」と悩んでいる選手もいるので、そういう選手と話をして、「元気を頂いています」という言葉を頂いています。

—— メンタルをケアしてくれる人はJISSにはいるんですか?

いないですね。そういう人は必要だと思いますよ。必要以上に時間がかかれば、選手は不安になってきますからね。僕は「絶対治る、治らない訳がない。まずそういう気持ちでやらなければ駄目だよね」と言って励ましています(笑)。半信半疑でリハビリしていたら、治るものも治らないと思います。

—— それはドクターを信じて、トレーナーを信じて、自分も信じるということですか?

そうですね。それは去年1年間で教わったことですね。自分たちがやってきたスタイルを信じるという力は、もの凄く大きいということを教わりました。

—— 他のアスリートも、信じたいけど信じ切れない部分があると思いますが、そこを信じ切るためにはどうすればいいですか?

僕が信じ切れているのは、信じてやってきたことに結果が出ているということの繰り返しですね。その積み上げだと思います。

—— 今回の怪我をきっかけに、新しい課題にチャレンジするという思いはありますか?

怪我をしてシーズンに臨むことが多いので、プレーというよりは、いかにコンディションを良くして試合に臨むかというところですね。そのためにはJISSで習っているトレーニング方法であったり、この期間でしか出来ないことを取り入れたりしたいと思っています。コンディショニングが良ければ、パフォーマンスが出せるという自覚があるので、より良い状態で試合に臨みたいですね。

—— 1か月後に走り始めたいということですが、どの辺りで自分のプレーが出せると思っていますか?

もちろん目標は開幕です。そこから逆算していくと、プレマッチの東芝戦には出場しなければいけないと思いますし、その更に前の府中合宿にはチームに合流したいと思っています。ただあくまでも目標で、無理をするのがいちばん良くないと思うので、しっかり状況を見てやっていきたいと思います。

◆日本人は弱いんだから

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—— 今シーズンの目標は何ですか?

毎年言っていますが、今年こそは2冠を獲りたいですね。手術をするかしないかと考えた時に、もちろんワールドカップも大事ですけど、このノリにノッているサントリーでの今シーズンも、同じくらい大事だと思って、そのシーズンが駄目になってしまうのは、自分のラグビー人生においてマイナスだと思ったので、手術を決断しました。だから自分が試合に出て、2つのタイトルを獲ることが目標ですね。

—— サントリーがノリにノッていると言うのは、選手全員が自分たちを信じ切れているということですか?

自分たちのスタイルを信じ切れているのはもちろんですし、凄く練習をしていて自信もついてきていると思います。エディーはもの凄く厳しいですよ。練習の内容が悪ければそこで止めて、もう練習をやらせないですからね。監督が思っている目標と、選手全員が同じ目標を持っているかということが大事だと思います。僕はまだチームに合流していないので、そこは分からないですけど、凄く良い文化は出来ていると思います。

以前のチームだったら、休みの日に練習をしていたら、休めと言われていましたけど、いまは休みの日にみんな練習していますよ。呼ばれてグラウンドに来ている人もいるかも知れないですけど、自分から練習に来ている選手も増えましたし、もの凄く練習していますよ。本当に休んでいないですからね。本当に良い文化が出来ていると思います。その辺でエディーはプロフェッショナルだと思います。

エディーは「日本人は弱いんだから練習しなさい」という感じですからね(笑)。日本人とスーパーラグビーは何が違うのかというと、エディーが以前、"準備の違い"って言っていたんですよ。去年1年間で、そこには練習量の違いもあると感じましたね。スーパーラグビーの選手は、もともと持っている能力も凄いと思いますけど、やっぱり練習量も凄いんだと思います。

—— その中で、集中した練習をしなければいけないんですよね

もの凄くキツい中で練習しているのに、ぜんぜん声が出ていなければ、エディーは「もう終わり」って感じですからね。もの凄く厳しいですよ。そこの厳しさが違います。コミュニケーション能力も高いんですけど、バシバシ怒っていて、更に1人1人を良く見ていますね。人から聞いたんですけど、エディーは選手1人1人のお父さんになることが理想だそうですよ。厳しさがあったり、愛があったり、外から見ていても分かりますよ。

—— ファンに向けてメッセージをお願いします

頑張ってリハビリしているので、気長に待っていてください。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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