SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2011年8月26日

#251 エディー ジョーンズ 特別編 "エディケーション Eddiecation エディー監督が語る世界と未来のラグビー" 『難しくてシンプルなスポーツ』

【ラグビーのシナジー】

スピリッツ画像

ラグビーはとても難しいスポーツですが、その中の「シンプルさ」がラグビーの面白さだと思います。多種多様なプレーがあり、例えるならばオーケストラを見ているような感覚と似ているかもしれません。それぞれの音色が響き合うと素晴らしい音楽になるように、ラグビーも1人1人が良い仕事をするとシンプルで素晴らしいプレーになるのです。シンプルさが一番の魅力ですね。

私はシドニーのランドウィックというチームでプレーしましたが、ここが初めて「ランニングラグビー」を始めたチームです。いつも美しい試合が展開され、私は素晴らしいコーチ陣に教育されて、更にラグビー愛が生まれました。今のラグビー指導の原点が、ランドウィックで受けた教育です。

多くの人がラグビーはシンプルなスポーツと言いますが、まず理解しなければいけないことは、その根底には「難しさ」があるという事です。スクラム、ラインアウトやフォワードとバックスのシナジーも高度なスキルが必要になりますし、レフェリーのマネジメントも難しいですよね。ですが1つのしっかりとしたビジョンがあれば、全員が心技一体となり、1つの目標に向かって歩むことが出来る。だからこそ美しさや魅力が生まれてくるのです。

例えば、チームとしてラインアウトの成功率を90%と設定してクリア出来たとしても、それだけではチームプレーには連結しません。ラインアウトからのボール捌きやプレーの方向性を設定することによって、美しさや魅力が生まれてくるんです。フィジカル面だけではなく、メンタル面も含めてです。フォワードコーチがラインアウトの成功率を設定することも大切ですが、フォワードとバックスのシナジーさがより重要だということを、フォワードコーチにも理解させることも必要です。

スピリッツ画像

私がプレーしていた当時、木曜などは20時まで練習をして、夜中までビールなどを飲みながら試合について沢山語り合いました。チャンピオンチームでしたし、みんなラグビーの知識が豊富で、常にどうすればもっといい試合が出来るかという話をよくしていました。そこで連携することがどれほど大切なのかを理解し、学ぶ事が出来ましたね。

こういった時間を重ねる事で、チャンピオンチームとしての在り方や違いを学ぶ事が出来ました。サントリーでもホームでの試合の時は、試合後にみんなで飲みながらコミュニケーションを取る機会を与えたいですね。

どこの組織、企業でも取り上げられる問題としてコミュニケーション力があります。明確な目的をもってミーティングを行うことだけではなく、話し合える場を提供することも大切なんです。今の若い選手は、ソーシャルネットワークでコミュニケーションを取っていますが、その場ではラグビーについては話をしないですよね。だからサントリーではラグビーの話をする場を提供しています。

実は先日、初の試みとして1つのトライシーンを全員に送信しました。そこから選手たちはソーシャルネットワークを使って会話を始めたのです。若い選手たちのコミュニケーションツールを使って、ラグビーの話をする場を見つけることが出来ました。こういった使い方は新しい発見でした。ビールを飲みながら語り合ったり、ソーシャルネットワークを通してラグビーの話をすることは、シナジーに繋がることだと思います。

【日本人らしいプレースタイル】

スピリッツ画像

指導者としてのラグビーに関わる事もとても面白いです。コーチングには終わりがなく、常に向上し学び続けることが出来ますし、試合を重ねることによりスキルアップが出来ます。現在のイギリスのサッカーを見ていても、指導者は60歳くらいの方もいますよね。自分の子供も育てあげ、若い子達の気持ちも分かっている。経験や知識を積み重ねて良い指導者になっているんです。

フルタイムで指導することになり、日本人選手に対し「面白い」と感じたことがあります。それは高校や大学で良い指導を受けているかどうかによって、選手それぞれに大きな違いがあることです。様々な国の選手を見てきましたが、この点については日本人選手が一番ギャップがありました。気持ちをあまり表には出さない、日本人特有の気質が潜んでいますが、学ぶ能力はとても高く、向上心も強く持っています。

以前、府中に南アフリカのコーチを招いたことがあり、彼はイギリスと南アフリカで2回ワールドカップ優勝にチームを導いているスタッフの1人でした。その彼が、「サントリーは一番明るいチームだ」と言っていたんです。そこで気づいたのですが、世界中で改善の余地が最もあるのは日本人ではないかということです。フィジカル面、メンタル面、戦術面でも全てにおいて改善の余地があると思います。それが楽しみですね。

スポーツサイエンスに基づいて、国際的に活躍しているチームと同等の準備はするのですが、日本人らしいプレースタイルを研究しプレーさせなければいけません。ですので今の我々のスタイルはサントリー独自のものであり、他のチームにはない唯一無二のスタイルです。スピーティーで激しく、スキルフルで頭を使って戦術的に考えないとプレーできませんが、今の形は日本人に100%合っていると思います。

試合にミスはつきもので、ざっと30ヶ所ぐらいはあると思いますが、その中から3ヶ所のミスを見つけ出して修正することで全体のミスがなくなります。全ての箇所を指摘しない所がコーチングのキーポイントなのです。幾つかのポイントとなるミスを選手に理解させ修正させることで、試合中のプレーにも反映されるのです。ポイントを見つけることは経験によるものになりますね。時々間違うこともありますけど(笑)。

良きも悪きも色々なアドバイスがある中で、まず大切なことは聞く耳を持つことです。翌日までには試合の整理をしておきたいので、試合後は修正ポイントを見つけるために、1人で2時間~3時間考える時間を設けています。

【ラグビーをやるモチベーション】

スピリッツ画像

チームはひとつのグループとしてマネジメントをしていきますが、同時に個々の能力も引き出せるようにしています。指導者として経験を重ねるごとに、選手自身の強みにフォーカスを当てて見るようになりました。まずはラグビーをやるモチベーションがどこから来ているかを把握して指導するようにしています。

多くの選手は"ラグビーが好き"という理由だと思いますが、他にも知名度やハイサラリー、両親からの影響など選手によって人それぞれ違います。なので選手1人1人がどういうモチベーションでラグビーをやっているかを理解することが大切です。それに加え、その選手の強みは何かということを理解して、どうすればその強みが引き出せるかを考えます。

2週間に1度は選手1人1人とミーティングをするようにしています。ミーティング自体は数分のものですが、選手をより理解出来ます。日和佐の例で言うと、彼のウエストの太さでどれだけモチベーションが高いかが分かります。脂肪がついてきた時は、少しおかしいなと思います。小さな事を把握するのも大切なのです。

会話でのボディーランゲージもチェックしています。日本に住むようになり、以前より選手のボディーランゲージに注意を向けるようになりました。日本人はあまりオーバーアクションではありませんが、少しの動きで何を伝えたいのかが理解出来るようになりました。

ラグビーの指揮者は監督だけではなく、キャプテンも同じです。チームで最も大切なことが監督とキャプテンのコンビネーションです。キャプテンがリードすべき場面もありますので、いつどのタイミングでタクトを渡すかも指導力だと思います。試合までの準備期間は監督がベースを作りますが、ピッチの上ではキャプテンがリードしなくてはいけませんので、試合の数日前からは一歩引いた位置で練習を見ますね。こういった判断はその都度変わりますが、指導者として大切にしています。

スピリッツ画像

(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

一覧へ