2011年8月 2日
#250 竹本 隼太郎 『先週より良いと思えること』
◆今年は恩返し
—— 2シーズン目のキャプテンですが、就任にあたって何か段取りはありましたか?
段取りは特にありませんでした。しかし、去年何も知らず1年間やらせてもらって、監督、コーチはもちもん仲間にも育てられたところがあったので、スムーズに決まりました。シーズン中は、練習や試合に没頭し、オフの時期に考える時間もあったので、考え方も熟成されました。
—— 昨年に引き続き、継続してほしいと言われたんですか?
オフに入って、1週間後に言われました。監督、コーチたちスタッフとご飯を食べに行って、美味しいお酒を飲みながら話しました(笑)。
—— 快く承諾したんですか?
はい。そうじゃないと、もったいないと思いますよね。去年は、経験がないままキャプテンをさせてもらい、せっかく先行投資してもらったので、今年は去年の経験を活かして恩返しできると思います。
—— 昨シーズンは日本選手権優勝で、久しぶりの有終の美でしたね。キャプテン初シーズンとしてはどうでしたか?
そうですね、理想が高いというか、最初から完璧を求めすぎていた気がします。あれもこれもどれもというシーズンインから何ヶ月もあって、2歩先3歩先のこと言っても、なかなか伝わらないんですよね。やっぱり細かいところよりも、幹というか気持ちのところをいった方が良いと思いました。このことは試合が始まった時に気づきました。口先だけじゃなく行動で示さないといけないなって。
—— それは3試合(トップリーグ戦)終わった後からですか?
そうですね、その3試合は綺麗にプレーしすぎていました。自分のプレーにも集中できてませんでした。
—— チームが変わったのは、みんなが口を揃えて言っていますが、サテライトのクボタ戦からだったんですか?
間違いなくそうです。
—— そこがターニングポイントだったんですね
う~ん、他でも勝たないといけなかったし、どっかでターニングポイントになっていたと思うんですよ。一番どん底だったのが第3節(NEC戦)だったんです。春から一番きつい練習してきましたし、走れるようになりました。でも勝てない、どうしてなんだろうって、みんな疑心暗鬼になってました。「戻すなら今のうちだ」とまで言っていましたから。そんな状況下でも、みんな同じ向きに足を揃えていればやれるということを信じてました。それをBチームが実行してくれたんですよね。
—— 各リーダーたちが、試合スタイルを変えていこうと、スタッフ陣に言ったのですか?
いえ、言っていません。良くはなってきてたんですよ。練習では出来ていたんですが、試合になると出来なくなっているのが課題だったんですよ。試合だと相手も真剣勝負で来ているんで、そこでプレッシャーを感じてミスをしていたんですよ。課題が明確だったので、やれば出来ると思っていました。1勝2敗だったんですが、負けた試合は勝てていたと皆で話をしてました。一番はチームがまとまることなんだなって思ってましたし、じゃぁどうやってまとまるかは、エディーさんやスタッフが助言してくれました。
—— Bチームの勝利で、Aチームが一番勇気づけられたんですね?
そうですね。
◆第一歩が踏み出せた
—— 次の試合になって、チームは変わっていましたか?
織機(豊田自動織機シャトルズ)戦が92-8だったので、変わりましたね。
—— どういう風に変わりましたか?
とにかく信じてやることだけでした。トップリーグに所属しているチームは、前半20分間は、そんなに点は取れないんですよ。プレッシャーも強いですし。それでも、やりきる強い気持ちを、メンバーから感じられましたし、自分も1年目と同じハングリーさを追求し、ポジションが変わるかもしれない危機を感じました。そうしたら1人1人仕事量も質も変わって、92点に繋がりましたね。「これだ!」っていう第1歩が踏み出せました。第3節までは自分たちを信じ切れなかったんですよね。
—— 5節以降は楽しかったんじゃないですか?
迷いが吹っ切れた、という気持ちの余裕がありました。とりあえず最悪の状態を脱することが出来たって感じです。
—— 本当にチームが変わったと、確信が持てたタイミングは、どこだったんですか?
後半戦2試合目の三洋戦(現パナソニック)ですね。それをターゲットにやっていたんですよね、たしか11月9日です。前半戦終わってからの1ヶ月、もう1回フィジカルもフィットネスもスキル面を鍛え直して、前半戦でつけた良い勢いを継続して持って行けた感じです。NTT戦でまた確認して、このままで行けるっていう勢いで、三洋戦に勝って更に自信がつきました。そこも2つ目のターニングポイントですね。
—— 三洋戦に勝利したのは久しぶりでしたよね?
そうですね、「勝ったじゃん!」って思いました。
—— キャプテンとして、中盤から後半戦にかけて、気をつけていたことはありましたか?
まずは、同じようにやりきることがありました。その後も他のチームにも点差をつけて勝っていたので、1シーズンも終わっていないのに、こんなに変わったので自信つき過ぎかな?と感じていました。一時的なことにとらわれず力を出そうと意識しました。
—— そこは上手く行きましたか?
最終節の東芝戦は負けたので、負けたことに関しては上手くいっていませんでした。しかし勝った試合は、上手くいっていたと思います。でも一長一短ですね(笑)。
—— リーグ戦が終わってからプレーオフに向けて、チームへの自信や信頼感はありましたか?
ある程度の自信と、まだまだこれだけじゃ優勝は出来ない気持ちもありました。東芝に負けたおかげで、このままではいけない、という危機感はありました。プレーオフの準決勝で東芝に負けたら、昨年、一昨年と同じように日本選手権も、下から戦わないといけない流れになりますので。すごいアドバンテージですよね。次は正念場だという感じで準備しましたね。
—— 勝利して良かったですよね
これは監督はじめ、スタッフ陣のマネジメントのお陰です。
◆降ってくる雪が目に入っても
—— プレーオフの決勝で負けましたが、その辺はどう感じていましたか?
内容は悪くなかったので、悲観的にはならなかったです。レフリーの壁とか、環境の壁とかは感じていました。それって思ってもしょうがないことなんですよね。具体的に自分たちに出来ることは、自分たちのプレーでしかないので、それを貫くことですよね。
—— 日本選手権はどうでしたか?
プレーオフの優勝、準優勝チームは2週間空きますが、そこでも日本で一番良い準備が出来たと思ってました。タフな練習や、雪の中でも降ってくる雪が、目に入ってきても分からないくらい、練習に集中してました。精度も高まり、更に自信がつき、トヨタだろうが神戸だろうが、どっちが来てもやってやるという気持ちでした。準決勝も内容が良かったですし、決勝に関しては「もう失うものはなにもない。これだけやったんだから良いじゃん!」って思いました。
—— 日本選手権・決勝当日は、周りの雰囲気がサントリー優勝という感じでいました。選手としては何か感じることはありましたか?
腹が決まっている、という選手間の気持ちは伝わってきました。とにかく次のプレーに集中するだけで、僕自身そうでしたし、みんなもそう感じていたと思います。朝6時からハードなトレーニングして、会社で仕事して、またウエイトやって、一番キツイことしているのは間違いなかったです。シーズン中にレベルが上がり続けているのは、サントリーだけだという自信はありました。
—— それだけハードトレーニングしていながら怪我人が少なかった理由は何ですか?
練習を管理してくれているからです。走行距離ですね。密度の濃い練習ができているからだと思います。練習時間を長くて、密度の濃い練習をするのは無理です。練習に対する意識の差だと思います。ファイティングスピリッツなんです。戦う意識があるからこそ、目の前の練習や相手に集中できるんです。そういうときは、あんまり怪我しないんですよね。
—— サンゴリアスのファイティングスピリッツの根源は何ですか?
例えばですが、キツイときに手を膝につくとか、頭をさげる、顔がやられてる...とかですね。外から見てもわかりますよね?前はそういうのが多かったんです。今はそのような選手はいないですね。試合中でも、そういう場面ってあるんですよね。きつくてもキツくない顔をするとか、涼しい顔してれば反則あった時に休んで、体力回復して良いプレー出来る。そうすると、弱いところを見せないでプレーし続けられるんですよね。昔、フィットネスで緩めていたところを思いっ切り力を出す。そうすると、副産物的な相乗効果が表れてくるんですよね。
◆メンタルタフネス
—— 日本選手権優勝して、正直嬉しかったですか?
僕は一番ホッとしました。「あ~ぁ、優勝したんだ」って。これ以下はあり得なかったなぁと思ってました。
—— これ以下とはなんですか?
優勝出来なかったらあり得なかったことです。本当は2つ獲りたかったですし...。本当に、「あ~ぁ、良かった!」ですよ(笑)。
—— ホッとした感じですか?
一番は、ホッとした感じです。来シーズンは、多分はしゃげると思うんです。でも今シーズンは、はしゃぐ余裕が無かったです。
—— それはキャプテンとしての責任感なんですか?
そうですね、肩の荷が降ろせた感じです。責任あるポジションで、良い経験になるだろうし、認められているのも嬉しかったです。しかし、優勝した瞬間は、キャプテンとしてのスキルは足りなかったと思いました。春夏ひどかったなぁって思いながら、みんなのおかげで成長出来ているなぁと思いました。でもまだまだですけどね。本当にギリギリ優勝できて良かったが本音です。
—— 喜びに浸る間もなく、シーズンが始まりますがどうですか?
シーズンが終わって3週間、フルタイムで仕事をしたんです。とてもありがたいですし、感謝していることですが、僕の所属している赤坂支店の上司が、仕事もキッチリやらせるんですよね(笑)。「必ず会社に戻って来い!」とルールを決められたんですが...。正直非効率だなと思いましたけど、これもメンタルタフネスとして位置づけました。17時半に職場を出て、ウエイトとフィットネスを思いっ切りやりました。
—— 去年以上にオフのトレーニングをしたわけですね
去年以上にやってました。体が強くなっているので、感じ方は一緒なんですよ。昨年も一昨年も、常に105%目指してトレーニングしているので、気持ち的にはそんなに大変ではなかったです。家に帰ってくるのは、夜の10時11時で、それでもできるだけ早く出社して、結構大変な生活してたんですが、またラグビーに集中出来る環境になりました。トレーニング自体のレベルが上がっていて、最高のシーズンインを迎えることができました。シーズンの終わりに近いくらいのフィットネスを戻しました。シーズンインしてから、バックトゥベースキャンプを1週間やって、去年のフィジカルとパワーを戻して。フィットネスに関しては、もう今の時点で去年を超えちゃったんですよ(笑)。
—— こんな内容だと新人はキツいんじゃないですか?
新人はキツイです。ただ、新人の良いところは体力があって、それが当たり前だと思えば慣れてくると思います。僕の1年目は楽でした。だからスタートラインを下げる必要はないですね。
◆ポジティブな選手を増やしていきたい
—— 話を聞くと順調そうですが、今年はチームをどの方向にもっていきたいですか?
いきなり100点やらなくていいから、先週より良いと思えることですね。具体的に毎試合、毎練習変えていくこと。他のチームより、早く悪いところを改善できるチームにしたいですね。そうすることだけでも、間違いなく日本一になれると思います。まだまだ意識できるところはあります。本当にポジティブな選手は一部だと思いますので、もっと増やしていきたいですね。やらされている感ではなく、自ら行うことでモチベーションも上がりますし、モチベーションが上がればスキルも上がります。ちょっとの工夫で、成長が早まることを気づかせたいですね。
—— 今の話をチーム全体に伝えていくために、何かやろうとしていることはありますか?
まず、自分が実験台です。常日頃から練習に対して、色々話をしていますし、実際に周りも認めてくれています。300mを走ることに関しては、今チームで3位なんです。フォワードでダントツNo.1です!走り方変わったね?と言われたら、意識変えてるから、と言えますから。キツいフィットネスに関しても、イメージが先行しちゃっているから、キツく感じるんですよ。自分で率先して練習する前向きなコメント発する人たちが増えてきました。
—— キャプテンもそうですが、バイスキャプテンも意識が高いですよね
もちろんです。それが当たり前だと思っています。
—— 各リーダーたちのコミュニケーションはどうですか?
ザワさん(小野澤)とハタケ(畠山)は、日本代表なので全然話せていないですが、コミュニケーションの量は去年より増えています、瞬間的なコミュニケーションとか。練習中もウォームアップの時から、意識するところはみんなでバンバン言っていますし。試合中も去年より全然良いですね。多分去年の経験が活きています。
—— 選手みんなの意識が変わったのですか?
去年より確実に変わっています。試合に対する意識が変わりましたね。例えば、クラブハウス内の紙に書いて貼ってある言葉を、覚えている選手は何人ぐらいいるんだろう?って数えるくらいでした。今はグラウンドに出ているメンバーは、ほとんどが覚えていますよ。
◆心の壁を作らないで欲しい
—— 今年も凄く期待しますが、不安があるとしたらどんなところですか?
不安は慢心することですね。今の自分たちが強いと思っちゃうことですね。今そう思っている選手はいないですけどね(笑)。成長を止めることが一番怖いですね。でもそういった兆しはないですね。今のスケジュールがそうさせないです。
—— そうならないためにも意識を強くするんですね
はい、僕自身キャプテンとして助け舟は出します。少しずつ変えていくことが大事だと教えていきたいですし。僕の1年目を知っている仲間は、今の位置にいることを奇跡だと思っていますよ。しかし僕の違うところは、人の意識より2倍も3倍も強く持っているだけですよって言いたいです。まぁ気持ちが強いところもありますけど(笑)。
—— キャプテンとして、ファンの皆さんに"ここのサントリーを見て欲しい"ところはどこですか?
絞れてないですが、アグレッシブアタッキングブラグビーはぶれないことです。仕事量の高さと、プレーの質を見てもらいたいですね。そんな中で、ファイティングスピリッツとタフさ、コミュニケーションの量ですかね。
—— モチベーションを高く持ち続けることの重要なポイントは?
僕は思うのは、みんな心のどっかで制限していると思うんですよ。例えば試合に出られればいいだけが目標の人、日本代表だけが目標の人、世界を目指している人など。そういった壁を持っていることが問題だと思うんですよ。2年後には、世界のチームと戦って勝つクラブチームになれると思うんですよ。でも、格好良く見せるためだけで、成長できる自分を想像出来ない人たちがいると、絶対目標なんて達成出来ないと思います。だから心の壁を作らないで欲しいですね。
—— それは変わったところを周りが指摘や褒めてあげることですね
そうです、そう思います。好きだったら自分からやり始めますし、それで褒められたらまた頑張れますし...だと思います。極端な話ですが、頑張れない人は、あんまりラグビー好きじゃないんです。だからラグビー好きになって欲しいですね。どんなに追い込まれても、好きじゃないと苦しいラグビーのライフスタイルなので、必ず迷います。ラグビーが楽しくない時期は誰だってあるんですよ。僕もそういう時期もありましたが、僕は好きを選びましたよ。みんなにも好きを選んで欲しいですね(笑)。大好きだったらいても立ってもいられないんですよ!ヤス(長友)だって、毎日体のケアしてますし、そういう人は試合出てますね。
—— 好きになれないともったいないですね
そうです、本当にもったいないです。
—— キャプテンは、見せて聞かせてですね
あとやってみせて(笑)。それってなんでしたっけ?あ!山本五十六ですよね(笑)。
—— その繰り返しなんですよね
そうしないと人は動かないですよ。言ってもダメですよね。心の壺がどこにあるのか。このチームにいるからには、将来が安定しているからなんて、思ったらつまらなくなりますよね。試合に出られなくても好きになって欲しいですね。キツい練習の中、ついて行くのがいっぱいいっぱいでやっている人が、半分ぐらいですかね。
—— その中でも体力がアップしたら、考え方も変わりますね
変わります!自信がついてきて、(相手を)抜いていったら、「こうやったら抜けるんだ」って思えれば変われますし、早く気づいて欲しいですね。
—— これはトップアスリートに共通してますよね
最高に楽しいですよね。こんなにスピードが上がるなんて思ってなかったですし(笑)。僕も28歳で辞めるつもりで一生懸命頑張ってきましたから(笑)。ちなみに先週ザワさん(小野澤)も、杉本さんのスピードトレーニングで走り方学んだら「どんどん上がっちゃうよ~」って。やっぱり一流の選手の意識は違いますよね(笑)。新しいことに気づける、そして成長に気づけるだからこそ、意識することに注力できるんです。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:小宅崇)
[写真:長尾亜紀]