SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2011年4月13日

#238 ジョージ グレーガン "ラスト"インタビュー+4 『底辺の痛みもわかっているんじゃないか!』

尾崎 章(おざき あきら/プロップ)

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ジョージにはDJ OZMAの曲のダンスを教えました。網走合宿の時は、ちょうどジョージが合流した1年目で、やっぱり誰も声をかけられないでいたんです。その時、大悟(山下/元サントリー・キャプテン、現NTTコミュニケーションズ)が「ザキさん(尾崎)、ジョージが寂しがっていると思うんで、誘ってあげましょうよ」って言ってきたんです。あいつ、結構気遣いなんですよ。それでジョージを誘ってご飯を食べに行ったんです。

その時にいたのが、ジョージと大悟と、ハレ(ティーポレ/元サントリー、現リコー)、心(菅藤)と、あと康太(上村)もいたかな。そのメンバーでご飯を食べた後にカラオケに行って、ジョージに「日本スタイルはこうだ」ってところを見せようとしたんです。当時、DJ OZMAが流行っていた時で、しかも教えやすかったんで、ジョージと一緒に踊ったのが最初ですね。

それで何かあるごとにジョージから「今日もダンス、イイよ」って言ってくるんですけど、僕は「今日はゆっくり飲もう」っていう感じでした。ジョージのラストインタビューの話を聞くと、その網走でのイメージが強かったのかなって思います。本当に最初だったから覚えているのかなって思いますね。だから、その時からジョージを見ると、いつもDJ OZMAを思い出します。

僕がコミュニケーションを取るというよりは、ジョージから取ってくれますね。ジョージはあれだけのスーパースターで、スーパースターだからこそ、自分がどう振る舞わなければいけないかがわかっているんだと思います。ワラビーズ(オーストラリア代表)で世界最多の139キャップも取っていて、トゥーロン(フランストップ14所属)でもプレーしていましたし、誰もが知っている選手で、偉そうな態度を取ったとしても、たぶん許される選手だと思うんです。

けど絶対にそういうことはしなくて、むしろいちばん謙虚かもしれないですし、僕みたいな選手のことも覚えてくれて、試合に出ていない時でも話しかけてくれるんです。本人は意識していないかもしれないですけど、あんなにスーパースターなのに、僕らみたいな末端な選手にもしっかり声をかけてくれて、凄いと思いますよ。もちろんプレーも凄いですし、ラグビー以外でも社会人として学ぶことが多かったですね。

ジョージは日本に来た外国人選手の中でもスーパースターだと思いますね。アラマ(イエレミア/元サントリー)も凄かったですけど、ジョージも凄いですよ。ああいう形で日本選手権も優勝して、"持っている"んだと思います。

実際に試合になってジョージが9番に入ると、どこが変わるということはわからないですが、チームが良い方向に傾くのは肌で感じます。毎回、何か良いことが起こるんですよ。日本選手権でも、ジョージが入ってすぐにトライ獲れましたよね。あの辺とかは、ジョージとスタンドオフのトゥシ(ピシ)やピーター(ヒューワット)とのコミュニケーションが、凄く良く取れているのかなって思いますね。

僕がジョージとの思い出でいちばん印象に残っているのは、試合に出られないメンバーにも日々気をかけているところですね。僕の隣の隣のロッカーがジョージで、普通は試合に出ていないメンバーで、外国人同士でもなければ、あまり話さないと思うんですよ。それでもジョージは、目に入った選手に自然と何かしら声をかけてくれるので、凄いと思いますね。もしかしたら疎外感や孤独感をいちばんわかっているんじゃないかって思います。若い頃からワラビーズでプレーしていて、色々と辛い思いもしてきて、そういう底辺の痛みも分かっているんじゃないかって、僕個人的に考えているんです。

あと同じポジションのキヨさん(田中)、耕太郎(田原)、日和佐とかは、凄いライバル意識を持っていたと思いますよ。キヨさんにこの話をしたら、そんなことないって言うと思うんですけど、練習や試合に対しての準備はもの凄くやっていましたよ。キヨさんといえば、日本のジョージ・グレーガン的なところがあると思うんですよ。どうやれば強いフォワードになれるかとか、どういう戦術で戦えばいいのかとか、そういうところをしっかりと言ってくれて、それはジョージも同じなんですよ。

その2人がお互いの立場や力を認めながらやっている姿は、僕らをかきたててくれましたね。ロッカーでジョージとは反対側の隣の隣がキヨさんで、そういう2人の姿を見ると、友情なのか敵対心なのかはわからないですけど、かきたてられるものがあるんですよ。

来シーズンはジョージがいなくなりますけど、そこはエディーさん(ジョーンズ/GM兼監督)の手腕に任せて...。あとデュプレア(フーリー/元ブルー・ブルズ(南アフリカ)/ポジション:スクラムハーフ)も入りますし、日和佐も成長していますし、それとキヨさんもスタッフとしてチームには残るので、そこは大丈夫だと思っています。

辻本 雄起(つじもと ゆうき/ロック)

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ジョージから教わったことは"ルーティーン"についてですね。エディーさんにもルーティーンを作れと言われていて、いろいろと試してみたんですが上手くいかず、早くルーティーンを作れと言われていたんです。僕の中で試合に臨むルーティーンを探している状態で、エディーさんからジョージにそういう話をするようにと言ってくださったんです。ジョージには試合に向けて、精神的にもフィジカル的にも、どういう準備をしているのかという話をしてもらいました。「人にはそれぞれ合う合わないがあるけれど、僕はこういうやり方をしている」という話をしてもらったんです。

実際にジョージのルーティーンを教わって、特別な驚きはなかったですけど、絶対に「これをやる」というのが確立されていて凄いと思いました。ストレッチにしろ、試合前のイメージトレーニングにしろ、音楽を聴くことも、毎回欠かさずにやっているんです。でもジョージから話を聞いてから、僕はまだ試合をしていないんですよ(笑)。

そのルーティーンで大事なのは、やっぱり基本で、試合の一連の流れを想像するんです。ラインアウトでこのエリアだったら、どういうサインを出して組み立てるかをイメージしたり、その他のシチュエーションだったら、どういうプレーをするかというイメージを膨らませることを、4つくらいのシチュエーションに絞って、そのイメージをしっかり時間を取って、集中できる環境の中やるんです。

普段のジョージを見ていて感じたことは、ジョージはいろんな人とのコミュニケーションを大切にしていて、どんなことがあっても笑顔で挨拶をしてコミュニケーションを取っていました。それとジョージはいつも「練習は大事」って言っていて、練習に対する姿勢は、毎回こだわってやっていると感じました。

ジョージと初めて会った時は、たぶんジョージが来日して今シーズン初めてクラブハウスに来た時、ロッカーが僕の真向かいで、ヒューイ(ピーター・ヒューワット)と話をしていたんです。そこでジョージが僕に気づいてくれて、僕から自己紹介をしました。その時、ヒューイが「ツジ(辻本)は海外のラグビーが好きで、よく見ていたんだよ」って言ってくれて、ジョージから「どこのチームが好きなの?」って聞かれたんです。そこで「ブランビーズも見ていました」って言ったら、ヒューイから「ワラターズじゃなかったのか?言っていることが違うだろ」ってツッコまれたのを覚えています(笑)。それからジョージは、会った時は絶対声を掛けてくれて、いつも「元気?」とか、コミュニケーションを取ってくれました。

あと練習や試合でいいプレーをした時は必ず「イイね!」って言ってくれますね。あそこでのプレーは良かったとか、プレーが良くなってきたとか言ってくれていました。それで頑張ろうって思えました。

つづく

(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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