2011年4月 8日
#237 ジョージ グレーガン "ラスト"インタビュー 『100%今を生きる』
「ラストインタビューを」と言ったら「今はもう元選手だよ」と笑いながら返してきたジョージ・グレーガン選手。そんな和やかな雰囲気の中、日本のジョージ・グレーガンへのラストインタビューが始まった。(通訳:松平貴子)
◆身の回りのことを誇りを持ちながらやる
—— ジョージの引退には涙がまったくありません。明るい引退は、やり切った、ということでしょうか?
仕事が終わった、っていう感じです。去年と比べてみると、去年は終わり方が残念だったなと思います。トップリーグでも日本選手権でも。ある程度歳をとってくると、勝つというチャンスが少なくなってきます。なので、すべてやり尽くしてもう1回チャンスが来るように、そのチャンスをつかむために今シーズンやりました。これは自分だけのことじゃなく、チームのみんな、怪我人も含めて、全力を尽くしたと思います。日和佐、西川、大島たち若い選手はこれから10年先までラグビーをやると思うけれど、僕は終わりですから、やることがまた違いますよね。
—— 去年やめるつもりだったのが、1シーズン延ばしたのですか?
去年は決勝に行くチャンスがあったにもかかわらず、行けなかったことが残念でした。3年目の今年に対しては契約のオプションがありました。それで契約を引き続き行い、やめるということは考えませんでした。去年勝っていても、勝つということが仕事ですから、引き続きやるつもりでした。
世界的にも通用するコーチ陣とラグビーをするというのも1つの仕事であり、今年はそれが達成出来たと思います。それでサントリーのこれからの未来は凄く良いなということも、確信出来るようになりました。未来の勝利を保証する訳ではないですが、準備がしっかり出来ているということです。サントリーは選手たちがしっかり準備して、勝つチャンスが保証されているので、これからのことについては安心しています。
—— よくジョージは「良い準備」と言います。これは練習以外にどんなことが含まれているんですか?
フィールドでトレーニングする時は、みんないつも準備しますが、そこまでの持って行き方だったりとか、フィジカル面でもそうですし、ストレッチやジム、ストレングス&コンディショニングでやることや、メディカルでやる治療だったりとか、怪我をしてから行くのではなくて、怪我をする前にメディカルのところへ行って、怪我をしないようにしたりとか、しっかりと自分の体を管理してそしてハイレベルで練習出来るようにすることです。グラウンドに立った時、自分はすべてを尽くして準備は万端だという状態で臨むようにすること。100%、意識だったり態度だったり、そして体の準備をしっかりしないといけないですね。
—— エディー監督は、規律ということでクラブハウスのルールとか生活面も意識するように指導していますが、ジョージの言う意識にはやはりそこも入っているんですか?
うん(=日本語)。そうですね、すべて。身の回りのことを誇りを持ちながらやるということも、凄く大切です。それをしっかりちゃんとやって、常に気にかけているということが、選手として大切なことです。
—— 先日、冗談でエディーさんに「このまま行くとみんながジョージ・グレーガンになるのでは?」と言ったんですけれど(笑)
No! No No No No No No ...ハハハ(笑)。みんな違う。それも凄く大事。いろんな性格があってみんな違う。準備というのは、規律を守って今までやってきたということです。それは僕が凄くこだわってきたこと。怪我の面では運も良かったんですけれど、準備のところでしっかりとやったことによって、怪我も防げたんだと思います。今シーズンは何人かの選手が、練習前、練習後、何をやっているのかなと僕を観察していて、そしてコピーをしているというか真似をしてる訳ではないんですけれども、みんなストレッチとかの回数が増えているような気がします。
練習の前の準備をしっかりとして、練習して、練習後もやって、次の日の練習に臨む時も、しっかりと体が動くようにする。ルーティーンというのは習慣で日々やることが大事です。そして自分に合ったものを1人1人がみつけることが大事で、ツジ(辻本)にはゲーム前の準備の仕方を教えてあげたんですけれど、それもやっぱり自分の習慣として自分に合ったものを身につけていくのがとても大事ですね。
—— ジョージはそのルーティーンを、いつ頃から身につけたのですか?
選手生活を送りながら、だんだんと固まってきたものです。オーストラリア・スポーツ・サイエンスというものに基づいてやっていることが多いのですが、キャンベラにオーストラリア・スポーツ・サイエンス・センターという専門の学校があります。最新のベストな情報、やり方があって、施設も良く、理学療法士によるマッサージを含めて、そこにはすべてがありました。そのセンターに学生時代にもブランビーズ時代にもアクセスがあったということで、運良くそういうプログラムに19歳から学習出来て、若いうちから身につけることが出来ました。
そこで、ストレッチ、アイス、お風呂、そういうことも習って、1999年からはティラピスをやり、3-4年前からヨガを始めたりしたことも、とても良かったと思っています。それはラグビーと違いますよね。これをやることによって、意識、規律を守れるというところに繋がります。若い時から自分の体をしっかり管理することが大事だ、ということを習ってきました。
◆どうやったら良くなるんだろうといつも考えてきた
—— 改めて言うまでもなく、ジョージには素晴らしいことがたくさんあります。準備を出来ること、エディー監督が言う「こんな負けず嫌いは見たことない」という負けず嫌いなこと。まだたくさんあると思いますが、自分自身は何が人より良かったんだと思いますか?
あー、勝ちたいという気持ち、それが凄くもチベーションになります。やっぱり負けるのは凄く嫌いです。勝ち負けに関係なく、すぐこれはどうやったら改善出来るんだろうかとか、どうやったら良くなるんだろうかと、いつも考えてきました。もし今後もプレーしていたとしたら、良いシーズンだったけれども、ここを改善出来たり自分でももっとこう出来るんじゃないかとか、トップリーグの決勝戦で負けたのも良いレッスンになって、次はどうやったら良くなれるか?改善点は何か?を常に考えていたことでしょう。
その勝ちたい気持ち、態度、本当に勝ちたいと心から思えるということが、今シーズンのチームには出来たと思います。サントリーのスタイルをやるには、タフな試合になります。三洋も東芝も、最後の20分は凄くタフになりますよね。タフになるのも、楽しみにしておかないといけない。それがどうしても勝ちたいんだという気持ちにつながり、そういう気持ちを持つことでエネルギーも湧いてくるんだと思うんです。
それは難しいことです。なぜかというと、「ちょっと難しいよね。今日はちょっとこっちを向いてないかもしれない」なんて言うのは簡単です。「こちらのスタートが良くなかったし、向こうの勢いも良くなってきた。得点も取られ疲労も感じているし、じゃあ、来週もあるから」と言うのも簡単。
だけれど、難しいけれども、次の10分、個人個人が自分の仕事を全力を尽くしてやる。自分の役割を果たす。それが凄く大切です。チャンピオンのチームは、それが出来る選手たちの集まりだと思います。今シーズンはそれが出来てきたと思います。
—— 勝ちたいと思って、そうやってやるところが、ジョージは楽しいのでしょう?
そういう競っているのが、好きです。大差で勝つのも好きなんですけれど、やっぱり接戦も好き。サッカーでもバスケットボールでもすべてのスポーツで最後の20分は大切です。ゴルフのオーガスタ(マスターズ)でも最後のホールが大切ですよね。
—— じゃあファイナル(日本選手権決勝)は、最後のいちばん良いところに登場したんですね?
うん。でも凄く奇麗に終われるのかなと思ったけれど、得点を取られてしまった。サントリーではいつも、ファイト、ファイト(笑)。
—— そうやってすべての戦いが終わった今、ラグビーという言葉を聞いてどんなシーンを思い浮かべますか?
フィールドの中で達成出来たこともたくさんありますが、最も記憶に残ることはフィールド以外のことだったりします。凄く良い試合をして勝った後のロッカールームの出来事だったり、網走キャンプで面白い寸劇をやったりとか。亜紀さん(長尾カメラマン)から凄く奇麗な写真のアルバムをもらったんですが、1年目の網走の合宿で、カラオケバーでダンスをやっていた写真がある。ザキ(尾崎)が教えてくれたダンスをやっているところです。それを見て「あー、これが凄い思い出だぁ~、楽しかったなぁ」っていうふうに、凄く良い思い出になっています。それから日和佐とハドルしていて、僕の頭だけがポッと出ていたりとか、そういうのも良い思い出です。ザキにカラオケでギュッとされているところとか(笑)。
◆水とヨーグルトと玄米茶
—— ジョージが日本で「いいな」「好きだな」と思ったところは?
食べもの。凄い美味しかった(=日本語)。安全。何をするにしても簡単で、とても住みやすいところ。ここに来て、自分の家というものも見つけることが出来ました。子供をここで学校へ行かせようかなと思って学校を見たりもしました。エリカ(奥さん)はビジネスもやっているのでオーストラリアに居ると決めたけれど、3年間の間に休みがあったらここに来て、地元の人のようになりました。
『和をもって日本となす』(ロバート・ホワイティング/角川文庫)という本があります。プロ野球を通じて日本文化を紹介している本ですが、グレーガン・ファミリーは和を持っています(笑)。
—— ジョージが毎日やっていたことってありますか?
いつも、次のトレーニングは何だろうって、考えていました。13時半のミーティングだったら、何時に行かなきゃいけないのかなとか、鞄や電話の準備とか。8時15分にキャプテンズラン(試合前日練習)があった時は、渋滞(=日本語)を考えて家を早く出なければいけないなとか。いつも次のトレーニングのこと、その準備を考えていました。
引退はしたけれども、今日もヨガをやります。今ヨガをやっているのはトレーニングではなくてただ好きだからですが、いつもヨガをやりながら、あ、これをやったらもっと良くなるなって思っていたんです。次は、次は、という感じです。これをやったら次につながると考えて、いつも準備していました。
—— いつも食べたり飲んだりしていたものは?
朝、いつも水。水と凄い美味しい日本のヨーグルト(=日本語)。ナチュラルな青いラベルがついているヨーグルト。ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリー、バナナとミックスして、いつも食べています。ジュースをいつも飲んでいます。自分の家にあったエスプレッソマシンは、今サンゴリアスのスタッフルームにあります。マグを持ってますけれど、いつも玄米茶(=日本語)。自分の家からクラブハウスまでは、いつも玄米茶です。だいたいいつも、玄米茶(笑)。
—— ジョージはよく本を読んでますね?
僕の好きな作家はエルモア・レオナルド(ELMORE LEONARD)。ちょっと待って、ちょうど今、本を持ってます(と言ってバッグの中から『HOMBRE』を取り出す)。フィクションライターで、とてもたくさん本を書いている人なんです。あと好きなのは『Valdez is Coming』『Get Shorty』、HARPER LEE の『To Kill a Mocking Bird』。
◆2人とも一緒にゾーンに入っていた
—— ジョージは"ゾーン"(スポーツをプレーしている間に起こる超集中状態)って知ってますか?
はいはい、わかります(=日本語)。
—— ジョージがゾーンに入ったことは?
ベストなゲームで、そういう時は勝っている試合という訳でもないですね。スクラムハーフはとくに、すべて見える、という時があります。ジョー・ロフが2001年にトライをした時、スクラムからのプレーだったと思うのですが、3フェーズ目に凄く良いトライをしました。僕をスマッシュするように凄いプレッシャーもかけられましたが、でも練習みたいに、かえって相手にそれをして欲しかったという気持ちでした。とても短い時間でしたが、そこでスペースが空いていました。ロフと僕の2人とも一緒にゾーンに入っていたような感じなんですが、ちょうど良いところにちょうど良いタイミングでいたんです。
僕がパスをして、タックルをされました。穴が開いていて、既にそこにパスが投げられ、受け取ったロフは50m走ったんですが、誰にも触られなかったんです。信じられないプレー。やっぱり2人ともゾーンにいたのかなと思います。凄く速く起こったことですが、完璧だったという感じです。10年前の話です。だけど凄く覚えています。ファンタスティックでした。相手はガクンとなってました。
試合の流れは速いんですけれど、良い決断を次から次へと下していって、そのすべてに良い判断をしているという感じです。「自信というものは目でプレーしているもの」という言葉があります。ゾーンにいる時、すべて見えている。自信というものは目でプレーしているものだということが、本に書いてあったんですが、凄くそれは本当だな、確かに、と思ったんです。
—— ほかにもありますか?
ライオンズのシリーズ、2001年のメルボルンでの2試合目、シドニーでの3試合目。それから1999年のワールドカップ準決勝で南アフリカと対戦した時、凄く接戦でした。2004年のスーパー12の決勝の時。オールブラックスに24-0で負けていた試合、ハーフタイムまでに24-24に追いつき、結局35-32ぐらいで負けてしまったんですが、とても良いテストマッチでした。2007年のウェールズ戦の時は、凄くスローモーションに見えましたし、良いプレーもしました。1人シンビンがあったんですが良いカバーが出来た試合です。もっとあるかもしれませんが、今思い出すのはそんなところです。
いつもゾーンには入りたいですけれど、入れることは数少ないですよね。今までやった中で、たぶん6回ぐらい。もっとあるかもしれないですけれど、本当にそういうゾーンに入ってやったというのは、数少ないです。
2000年に南アフリカでストーマーズと戦った時、今も覚えていますが、ワークインデックスという仕事量が出るものがあって、150回パスをしました。アタックも凄く多くて、チーム全体でも悪いパスがなかったですし、僕も良かったです。少し疲れた(笑)(=日本語)。
—— ジョージの良くしていこうという項目の中に、ゾーンもあるんですか?
もしスタメンで出ている時には、チームの最初のプレーのいくつかを把握していること。最初のアタックのラインアウトはこれで、スクラムはこれで、キックはこれで、キックオフリターンはこれで、といったようなことを頭に入れておく。そうしたらメンタル的にも準備出来るので、イメージする、ということが大切です。
一方で、最初に良いスタートが出来なくて、プレッシャーがかかった時はどうしたら良いか?という準備、シミュレーションをすることによって、フィールドにいてそういう状況が起こったとしても対応出来ます。そういう意味で、そこでもゾーンに入っているのかなと思います。そういう準備をしながら。
ゾーンは、すべて完璧で、時間もあって、スローモーションみたいなんですね。だけどそこに居れる状況は、何回もありません。だけれどそこに行くまでには、良い準備をしていかないと行けませんね。
◆今のモダンな試合の流れを伝えていきたい
—— 話を変えます。ジョージ・グレーガンという名前には「G」が4つもあるんですが、意識してましたか?
しなかったです。
—— G4 (Four)?
G4!フフフ、新しいニックネーム(笑)。お早うございますG4、ハハハハ(笑)(=日本語)。
—— これからの目標は?
ワールドカップ中、コメンテーターの仕事を少しやります。エスプレッソ・バーを幾つかシドニーでオープンするので、それを手伝います。エリカがビジネスをやってカフェとかを経営してくれていて、これまでも関わるところは関わっていましたが、そしてビジネスパートナーもいるんですが、これからオーストラリアにフルタイムでいるので、もう少し実用的なことを手伝うことが出来るかなと思っています。時々会議に参加したりとか、大きな会社と関わっているので社長さんに会いに行ったりとかしようと考えています。
GG財団の良いアイデアも幾つかあります。次はメルボルンですが、そこでたぶん忙しくなるでしょう。過去3-4年やってきたことですが、そこにもチャンスがあると思います。メルボルンは5つ目のプロジェクトです。
—— コメンテーターという話がありましたが、どんなコメンテーターを目指しますか?
マイナスの思考とかでなくて、何と言うんでしょう、しっかりと言うことは言う、そして聞いている人に、今のモダンな試合の流れなどを伝えていきたいなと思います。たぶん、こういうふうな感じでやりたいのかな、とか、チームはこういう流れでやりたいのかなというものを、聞き手に伝えたい。
例えばサモアとかニュージーランドのラインアウトが5人で、なぜそれをやってるのかといえば、それは外にスペースが空くからということで、コリー・ジェーン、ジョー・ロコゾコ、ミカエレ・ベサミノ、ロロ・ルイなど、足の速い選手たちが走れるからというようなことです。
そんなに難しいことは言わないようにしますが、チームのスタッツを見ると、各チームがどういうふうにプレーしているのかというのがわかると思います。そういうチームの分析を使いながら、聞き手に伝えていきたい。
—— GGカフェでやりたいことは?
ビジネスパートナーがとても良い友達で、一緒にやっています。みんなで集まって楽しい場を創っているというところなんですが、"Locals"という地元の人が来るという意味の名前をつけたバーを、オープンしようかなと思っています。たくさんの良い友達とやっているんですが、テイスティングとかもこの前やりました。僕の役割は、ハイボールを持ってきて、それを試す役(笑)。
◆フレンドシップよりも強いメイトシップ
—— あらためて、ジョージにとってラグビーの魅力は?
チームワーク。Mateship(メイトシップ)。オーストラリアでは友達のことをメイトと言います。メイトシップはフレンドシップよりももっと強いものです。それは仲間同士の深い関係。力を合わせて一緒にやるというところ。そしてその経験を一緒に味わえる。そういう経験を一緒に出来て、関係も深まってくる。今年はそれが出来たので、今シーズンのチームに会う度に、「あぁ、それを一緒に経験したな」と思い出すことが出来るだろうと思います。やっぱり、これがラグビーだなと思います。
—— ジョージにとって人生とは?
いつも前に進む。今、現在、100%今を生きる。ジャズも大好きなんですけれど、コンサートにこの前行きました。ハービー・ハンコックが良いことわざみたいなことを言っていました。「今を生きろ。だけど、行動には責任を持って」(笑)。
—— サンゴリアスの仲間たちにメッセージを
サンキュー、ありがとうございました(=日本語)。日本での生活とか経験について、とてもやりがいのある経験をさせてくれました、そういうふうにもっていってくれた、環境をつくってくれた、ということに凄く感謝しています。来年は、絶対チャンピオン(=日本語)、2冠!(笑)。
—— ファンに対してメッセージを
自分だけじゃなくサントリーに対してとても良いサポート、ありがとうございました。プレゼントをもらったりいろんなことをたくさんしてくれ、本当にありがたいと思っています。本当に「ありがとう!」、それ以上の言葉がありません。
—— ジョージ、ありがとう
(インタビュー&編集:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]