2011年1月26日
#228 特別編 『フルバックはボールを活かし人を活かす』
フルバックは特殊なポジションだと思います。チーム15人の最後尾の選手であり、守りの要の選手と言えます。他の競技で言えば、どのポジションでしょう?サッカーのゴールキーパー?リベロ?野球のキャッチャー?インタビュー前にそんな話をしていると「キャッチャーかもしれませんね」という選手もいました。さて、皆さんのご意見は?
【Q1】いちばん後ろから見ていると、よくわかりますか?
【Q2】前に出て、ラインに参加するタイミングは?
【Q3】何にいちばん気をつけてプレーしていますか?
【Q4】フルバックになったきっかけは?
【Q5】どんな時がいちばん嬉しいですか?
【Q6】他にやりたいポジションは?
【Q7】キャッチする時に気をつけていることは?
【Q8】カウンターアタックの瞬間、何を考えていますか?
【Q9】性格は?
『1人目◇有賀 剛』
◆有賀 剛(あるが ごう/1983年11月3日/175cm・84kg)
【Q1】いちばん後ろから見ていると、よくわかりますか?
良く分かりますね。後ろから見ている時は、たいていディフェンスの時なので、ディフェンス面がどういう状況なのかということを見ています。もちろん相手も見ています。それぞれのチームに良い10番がいるわけで、サントリーはアタッキング・ラグビーをやっていますが、まだ日本全体としてはキックが多いし、10番との対決であったり、9番、12番も蹴れるということを自然に頭に入れておいて、10番のキックをケアしつつ、今日のディフェンスの状態はどうなのかな?って後ろから見ていますね。
ミスをすることももちろんありますけど、毎試合あるわけではないですし、その80分の中で修正していくという感じです。もっとこうした方が良くなるよとか、良かったらフォワードを褒めたりしますし、日和佐とか両ウイングとはよくコミュニケーションを取りますね。どうしてもフォワードまで遠いので、いろいろと日和佐に言ったりしています。
【Q2】前に出て、ラインに参加するタイミングは?
相手のボールを奪ったとわかったら、後ろからスーッと上がっていって、ボールをもらうようにしています。どこの位置に入るかというところは、状況を見ながらやっていますね。
頭を使うし、ディフェンス面に関しては、危ないと思った瞬間にスッとそこに入れるとか、危機管理能力というか予知能力が凄く大切になってきます。アタック面に関しては、スタンドオフやセンターに比べて自由なポジションで、どこにでも入って行けるので、そこで穴を見つけてスーッと入ってボールをもらうのが好きだし、それをやれば相手も嫌だろうなと思います。
【Q3】何にいちばん気をつけてプレーしていますか?
典型的な感じで言うと、キック処理ですね。いまのサントリーは攻めるスタイルなので、キックからどう攻めるか、キックからチャンスが生まれますからね。自分がキャッチしてから攻撃がスタートするので、それを今いちばん重要視しています。あとはボールを持った時には、ハードランニングをするということを意識しています。キック処理であったり、キックリアクションであったり、そういうところを気をつけています。
【Q4】フルバックになったきっかけは?
高校1年生の時は10番から始まって、結局、花園には11番として出場しました。2年生になって13番を少しやっていて、ずっとフルバックをやってみたいという思いはあったんですけど、その思いは監督に伝えず13番でプレーしていました。その思いが通じたのか分からないですけど、監督に「お前、フルバックやってみろ」って言われたのがきっかけですね。2年生の花園予選の前くらいだったと思います。
ポジションを固定されているより、相手の穴を見つけてそこを攻めていくという、比較的自由なポジションなので、自分に合っているというか好きだなって思いもありましたし、得意だなっていう思いもありましたね。試合中にパッと見て、どういう状況で相手がどういうプレーがしたいか、だから自分たちはどうしなきゃいけないか、そういうのを読む力は他の人以上にあるかもしれないです。
【Q5】どんな時がいちばん嬉しいですか?
簡単に言えば、活躍した時ですね。もちろん人によってはこだわりもあって、絶対にトライを取らなきゃ嫌だという人もいると思います。どういう形であれチームに貢献できれば嬉しいですし、『フォア・ザ・チーム』ということを自分の中で凄く重要視しています。チームがどうやったら勝つのかということを重要視しているので、トライは誰が取ってもいいという感覚でやっています。だから自分が貢献して、チームが勝利を収めた時は、やっぱり嬉しいですね。あまりトライのことは考えていないですが、昨年はコンディションも良かったですし、たまたま良い状況でボールが来たから10トライも取れたと思います。
【Q6】他にやりたいポジションは?
9番とかやってみたいですけど、絶対無理だと思います(笑)。9番とか10番は専門職なので、生まれ持ったセンスとか器用さがないと出来ないと思います。ラグビースクールの時は9番だったんですよ。永友さん(洋司/サントリーOB/キヤノンイーグルス・ヘッドコーチ)にずっと憧れていて、小さい頃は明治の9番になるってずっと言っていましたからね。あと13番もやって、面白いなって思いましたね。12番だけやったことがないかもしれないですね。12番は公式戦でつけた記憶がないです。高校生の時に9番もつけたので、他は全部つけました。
【Q7】キャッチする時に気をつけていることは?
ボールを最後までよく見ることです。途中で相手を見ちゃうと、ボールを落とすこともあります。風を読まなければいけない日もあります。風って僕らバックスリーにとっては、嫌な存在なんです。風の影響でボールが凄く飛んだり、逆に風に押し返されて飛ばなかったりするので、まずはキャッチをしてからですね。いちばん良いキャッチは、正面を向いて胸で取るキャッチです。背走しながらキャッチすると、なかなか次に行き難いので、選択肢が狭くなります。前で取ると、ランもあるしキックもあるしパスもあるしと思えますけど、背走しながらだと、そこから前に行くのは難しいですよ。
【Q8】カウンターアタックの瞬間、何を考えていますか?
自分たちのスタイルを貫くだけです。三洋戦の時に、ボールをキャッチしてから相手がいるところに突っ込んで行くプレーをしましたが、三洋戦は風下でしたし、あれだけの風の中だと蹴っても知れてるわけですよ。15人全員が攻めるという意識があるので、あそこは迷いなく行けました。その時も、相手の位置と自分が走るラインは見ています。けど、ちょこまかしないで、真っすぐ行って3人くらいにタックルされても、サントリーの選手は戻りも早いので、絶対チャンスが生まれると確信して行きました。
【Q9】自分の性格は?
頑固とか、負けず嫌いとか、ちょっと綺麗好きとか、いろいろあるんですけど、いちばんは負けず嫌いですかね。勝負の世界でやっているので、絶対そういう気持ちは必要だと思います。完璧主義という部分もあったんですけど、最近完璧を求めちゃいけないと思い始めました。相手がいることだし、ミスは必ず起こることだし、プレッシャーを掛け合うスポーツなので、完璧を求めることが無理だと思いますね。
それと、怪我をしてしまっても、やってしまったことを振り返るよりは、早く前に進もうという気持ちに切り替えられるので、自分の中では長所だと思いますね。ドクターに復帰まで何カ月って言われても、それよりも早く復帰しようという気持ちをエネルギーに替えて、リハビリに取り組めます。親父も同じラグビー選手でしたし、小さい頃から親父に「怪我で泣いてきた選手をいっぱい見てきた」っていうのを何回も聞かされて、自分はそういう選手になりたくないと思いました。もちろん自分が大きい怪我をすることも想像できなかったですけどね。ただ怪我をしたからといって、それで終わりたくないという思いがありましたし、結局そこからどうなるかは自分次第だと思いますから。
『2人目◇ピーター・ヒューワット』
◆ピーター・ヒューワット(PETER HEWAT/1978年3月17日/191cm・101kg)[通訳:松平貴子]
【Q1】いちばん後ろから見ていると、よくわかりますか?
後ろから見ているので、どこに攻めたらいいのか、スペースはどこかという戦術的なことは見えます。見えているので、キックした方がいいのか走った方がいいのかという判断が出来ます。そういう時はコールします。
【Q2】前に出て、ラインに参加するタイミングは?
サインプレーとして、フルバックが入るサインがあるんですが、15番としてターンオーバーの時が怖いので、いつどこに行くかという判断をします。サントリーがターンオーバーした時に、15番が入れば攻撃が1枚増えるので、そこでどこに行った方がいいのかを判断します。それは経験を積むことによって、どこにスペースが空いているのかというのが分かってきます。そこの判断でフルバックがライン参加し、攻撃のオプションを増やすんです。
【Q3】何にいちばん気をつけてプレーしていますか?
出来るだけシンプルにすること、リスクが高いプレーをしすぎないように気をつけています。若い頃はタックルを受けた後に片手でパスをしたりと、トリッキーなプレーをしすぎてしまい失敗しました。
【Q4】フルバックになったきっかけは?
ゲームを読むことができ、キックもできるからでしょう。18歳の時にフルバックになったんですが、コーチも自分自身もそう思っていました。ラグビーを始めたのが16歳で、少し遅かったんですが、ウイングや12番もやりました。ラグビーを始める前はクリケットをやっていました。伯父がクリケットでオーストラリア代表だったんです。クリケットでもラグビーでも、早く代表に選ばれた方を続けようと思っていました。それでラグビーでU21の代表に選ばれたので、今でもラグビーを続けています。
【Q5】どんな時がいちばん嬉しいですか?
チームのパフォーマンスに貢献できた時ですね。
【Q6】他にやりたいポジションは?
10番ですね。今も10番でプレーしますが、サントリーはランニングラグビーなので、10番も15番も似ています。どちらも好きですね。
【Q7】キャッチする時に気をつけていることは?
ジャンプして取るかどうかの判断ですね。周りの指示を聞いて、どちらにするか判断します。
【Q8】カウンターアタックの瞬間、何を考えていますか?
どこにスペースがあるかを考えています。強いチームはスペースが狭かったりします。その時はパスをしてワイドに展開していきますね。
【Q9】性格は?
大らかな性格ですね。親からもそう言われていました。あとONとOFFの切り替えが出来ます。あまり怒りっぽくはないですが、試合中に何か汚いプレーがあった時には怒りますけどね(笑)。日本に来たのは2回目で、1回目に来た時はオーストラリアA代表と日本代表の試合の時でした。その時に敬介さん(沢木/バックスコーチ)と試合をしました。日本に来る前に3年間ロンドンで生活したことがあり、海外で生活するのも2回目でが、自分の性格は日本にも合っていると思います。
『3人目◇小田 龍二』
◆小田 龍二(おだ りゅうじ/1985年6月12日/180cm・85kg)
【Q1】いちばん後ろから見ていると、よくわかりますか?
特に良い試合の時と悪い試合の時では、その差がわかりやすいですね。良い時は自分が指示出さなくても、周りが動きますね。悪い時はスペースが空いたり、反応が鈍かったりします。それは試合前の練習でも感じます。みんなが無意識のうちに動けている時は良い試合になります。
【Q2】前に出て、ラインに参加するタイミングは?
自分が行こうと思った時なので、感覚ですね。味方の動きで行くかどうかを決めます。
【Q3】何にいちばん気をつけてプレーしていますか?
俯瞰で見るイメージでプレーをしています。はっきり見えているわけではないですが、調子がいい時は見えているような気になる時があります。前にラモス瑠偉さんが「司令塔や周りを見なければいけない選手は俯瞰で見る能力が必要だ」って言っていたんです。その言葉を聞いてなるほどと思って、意識するようになりました。
【Q4】フルバックになったきっかけは?
高校1年までスタンドオフをやっていたんですが、他に良いスタンドオフがいたので、監督からフルバックをやれって言われてなりました。自分としてもスタンドオフは限界を感じていたので、良かったと思っていますね。
【Q5】どんな時がいちばん嬉しいですか?
アタックに関しては自分が絡んで得点した時ですね。ディフェンスに関しては、フルバックがタックルに行かずに、バランスや指示だけで済むことが良い状態だと思うんです。いろんなフルバックがいるので自分で行く人もいると思いますけど、僕は周りを動かしてプレーするので、タックルに行かなくても得点を許さない試合はいいですね。
【Q6】他にやりたいポジションは?
あまりないですね。ある程度はどのポジションも経験してきましたけど、フルバックですね。
【Q7】キャッチする時に気をつけていることは?
まずはキャッチすることを意識します。ただ次の攻撃のパターンも頭には入れています。あまり次のことを考え過ぎると、ボールを落としちゃいますね。感覚的な部分ですけど、相手がキックした時点のウイングのポジションは意識します。
【Q8】カウンターアタックの瞬間、何を考えていますか?
僕がいちばん最後尾になるので、出来るだけ前に行くことを考えます。それでトライまで行けばいいですけど、それは難しいので、味方がサポートに来るまでは出来るだけ立っていようと思っています。攻める方向はキャッチした後、敵のポジショニングを見て決めます。あまり前にスペースがない時は、ボールを生かす方法を考えますね。
【Q9】性格は?
周りを気にするタイプで、俺が俺がというタイプではないですね。バランスを見ながら周りを活かすタイプです。あと昔から慌てないって言われます。バックスリーの選手は個性的というか自由な人が多いですね。ただ誰も俺が俺がというタイプではないと思います。繊細というか、几帳面な人が多いと思います。
フルバックはチームにとって"切り札"的ポジションだからでしょうか。3人に共通して言えるのは、芯が強く、静かなる闘志を持って冷静にプレーするタイプだということです。そしてサンゴリアスのフルバックたちは、みんな穏やかで優しい人なんだと、今回インタビューして改めて感じました。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]