SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2010年12月28日

#223 特別編[故・山本和宏氏 追悼特集] 高澤祐治+沢木敬介 『まだまだですよ-4』

◆復帰した時により高いパフォーマンスを

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—— ファンの為にも順番でお訊きしていきたいのですが、先ず、試合で選手が倒れた時に、最初に駆けつけるのがドクターですか?

僕(ドクター)とトレーナーです。

—— そこで、大きい怪我だと判断した場合はその後どうするんですか?

交替させますね。だいたい倒れた瞬間にほぼ分かっています。インカム(トランシーバー)で誰がどういう怪我をしたかを伝えて、少し様子を見ても良い状況なのか、すぐに交替させないといけない状況なのかを判断して伝えます。出血の場合はとりあえず一時交替できますが、そういう情報を聞いて、ベンチで控えの選手が準備したりします。

難しいのはゲームの展開がそこに関わってくることです。負傷した選手が70%のパフォーマンスしか出せないけど、その選手がグラウンドにいて欲しい場合と、70%だったらリザーブの選手に替えた方が良い場合とあります。なので、監督やコーチともコミュニケーションがしっかりとれないと、すごくやりにくいですし、向こうもやりにくいと思います。サントリーはそこがすごくやりやすい環境だと思います。

—— 怪我をして、交替した選手がベンチに下がった後はどうするんですか?

アイシングして、試合中はそのままです。試合が終わってからロッカーで診察して、今日は応急処置で良いのか、その日のうちに病院に行った方が良いのかを判断します。

—— 病院に行って診てもらった後は?

診察が終わって、復帰まで3週間かかるとか4週間かかるとかなった時に、山本さんの出番が来ます。グラウンドでリハビリができないレベルであれば最初は病院でリハビリをして、それが終わったらグラウンドでリハビリをします。コンディションが70~80%になったところで、ストレングス&フィットネスの若井君と新田君が引き継いで、グラウンドレベルになった選手を、練習に入っていける状態までもっていきます。その途中途中の過程で僕がチェックしたりしますが、リハビリの過程でまた痛みが出てきたり、思うように回復して行かないことが出てくると、僕がまた見てどこに異常があるのかを再診察したりします。

やはり怪我をしないことがいちばんなんですが、僕らのやることは、怪我をしてしまった時に、より早く対応してあげてより早く治して、復帰した時により高いパフォーマンスを出せる状態で復帰させてあげることです。

—— 他のスポーツと比べて、怪我が多いラグビーは、この分野は進んでいるんですか?

進んでいると思います。ラグビーでこの分野で成功すれば、どの競技に行っても通用すると思います。

◆これは続かないかもしれない

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—— 山本さんの話に戻りたいと思います

お葬式の時に、彼と十何年も一緒に草野球をやっていた方がいらして、その人と僕と夏山さん(真也/部長)で話をしてたら、山本さんは決して人に弱音を吐いたり弱みを見せないという話になりました。そういう彼が、サントリーの仕事を始めた時に、この野球仲間に「自分はこれは続かないかもしれない」と話していたそうなんです。それは、病院の中でのリハビリしかやったことがないのに、日本一を目指すラグビーのチームのスポーツのリハビリなんて出来ないかもしれないということを、こぼしていたみたいです。

これも僕は初めて聞いたんですが、当時サンゴリアスの選手だったいたアラマ・イエレミアが前十字靱帯の手術をしました。日本に来てまだ間もなく、日本に慣れるためにもリハビリを日本でやる、ということになった時に、山本さんがマンツーマンで見たんですが、スポーツの現場で診るいちばんはじめの大きな怪我ですごく不安だったそうです。それが結局半年ちょっとで復帰まで持っていけて、それで自信がついてやっていけると思ったそうです。

—— アラマ・イエレミア選手もそういう知識は豊富だった選手なんですか?

そうですね。もしかしたら、アラマにとっては物足りなかったかもしれません。それでも一緒にやると言って、日本でリハビリをすることにしたんです。結果、早く復帰出来ましたし、いい状態で復帰出来ました。

—— その体験がなければ、もしかしたら途中でやめていたかもしれないということですね

可能性はなくはないですね。千葉の遠くから夜遅くに来て診て、最初の頃は知識もほとんどなかったので、トレーナーにも怒られたり、すごく疲れたと思います。「選手に触るな」と怒られたこともあったそうです。そんな時代もあったんだねという話をしました。

—— そういう部分を見せず、順調に育っていったという印象だったんですね

もちろん彼の中にストレスはあったと思いますが、それを乗り越えるだけの強さも、サントリーを強くしたいという情熱も持っていました。それから非常によく勉強をしていました。

[沢木敬介]

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山本ちゃんは、めちゃくちゃ厳しい人でしたね。なんて言ったって頑固ですからね。名言があって、僕が山ちゃんに「怪我はセンスで治すんだ」と言いました。そうしたら山ちゃんが怒って「違う、怪我は努力で治すんだ」と言うから、「努力できるかどうかもセンスだよ」と言ったら、「確かに」と言いました(笑)。そこから僕と山ちゃんの間では、「怪我はセンスで治すんだ」という話になっています。

僕がサントリーに入ってきて、僕とアラマが同じ時に前十字靱帯を切って、2人でべったりお世話になりました。僕のちょっと前に澄憲(田中)が病院でお世話になっていましたが、山ちゃんがサントリーに入ってからの最初の大怪我が僕とアラマだと思います。やっぱり怪我はきついですけど、怪我をして分かることや勉強することもたくさんありますね。人よりも頑張らなくちゃいけないですし、人のせいにしていたら復帰できないですし、自分がした怪我だから自分で治さなきゃいけないんです。「怪我をしたのはお前だよ」と何度も言われましたね。だから、治すにはしんどいことをやらなくちゃいけないという教育もされました。山ちゃんのリハビリは本当にしんどかったですよ。

基本的に怪我をしてしんどいことをやらないと行けないのは僕らも分かっていましたが、やっぱりしんどいですし、ときどき喧嘩もありました。リハビリを「うるせ~な」と言いながらやったりもしました。でも、山ちゃんのリハビリをしていたら、復帰した時にフィットネスが高くて、普通に練習している奴より走れました。それくらいハードなリハビリでした。その辺は彼のすごいところですね。「このレベルまで達しなかったら復帰させない」という山ちゃんの強い意志もありましたし、それは山ちゃんじゃないと出来ない部分もあると思います。やはりリハビリをやっている時はしんどくて、グダグダと文句を言ってやってた時もありましたが、文句を言いながらでもやればいいんです。

山ちゃんの厳しさは、高澤先生と山ちゃんの信頼関係だと思います。高澤先生が、その部分は山ちゃんに任せてますから、高澤先生が「怪我はもうOKだ」と言っても、山ちゃんのところでリハビリが不十分だと思えば、復帰させませんでした。そこで復帰させることは、選手のためにならないですからね。そういう流れは非常に良いものがありました。だからすごくしんどいリハビリでしたが、すごく早く復帰できました。普通では8カ月かかるところを、アラマは4カ月、僕は5カ月で復帰しました。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:植田悠太)
[写真:長尾亜紀]

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