2010年4月26日
#195 竹本 隼太郎 "新キャプテン" 『1%でもパフォーマンスを上げ続ける』
◆結果に繋げたいという気持ち
—— いまの気持ちは?
シーズンがまだ始まっていないですが、昨シーズンから練習も変わって、選手のポテンシャルが上がってきて、それをすべて勝利の方向へベクトルを向けて、1%でもパフォーマンスが上がって戦っていくと思うと、凄く楽しいですね。
—— 練習が変わったのはどの辺ですか?
ウエイトで筋肉をつけて、そのつけた筋肉をグラウンドで活かすためのトレーニングが増えました。しんどい時でも最大筋力を上げるとか、そういう部分ですね。それに練習量は上がりましたね。ウエイトもフィットネスも管理され、全体の練習量を上げつつ、なおかつ怪我をしないような管理体制がしっかり整ってきましたね。
—— 去年もかなりハードなフィットネスをやって、それでも怪我人もほとんどなく、シーズンを通してほぼメンバーが固定されていたので、それはそれで成功したと思いますが、今年は更にその上をいっている感じですか?
必ず頑張れるようになっているので、やった分だけ良いパフォーマンスを出して、みんなで勝ちの喜びを分かち合えたら、凄く楽しいと思います。そういうところをみんなで体感していきたいです。
—— 最初にキャプテンと打診があった時はどんな感じでしたか?
シーズンが終わって1週間後くらいに振り返りの面接があって、その時にチラッと言われました。その時はシーズンが終わって間もなかったので、喪失感というか、努力が報われなかった感があって、ラグビーのことを考えていなかったんです。その話をされた時は思いもよらなかったですね。だから、最初は考えていなかったです、考えてみますと答えました。
—— いつ返事をしたんですか?
その面接の1ヵ月後くらいです。仕事に集中しながらゆっくり考えていて、昨シーズンは練習量も多くて、質も悪くなかったのに結果に結びつかなかったというところが、自分としてはモチベーションになっていました。昨シーズンやったことを今シーズンになって止めてしまってはもったいないですし、今シーズンは昨シーズン以上のことをやって、結果に繋げたいという気持ちが強くなって、キャプテンを引き受けさせてもらいました。
—— バイスキャプテンを決めることにも時間がかかったと思いますが、その経緯は?
基本的にフォワード1人、バックス1人でいいと考えていて、サントリーにはリーダータイプが多く、役職を与える必要がないと思っていました。僕がフォワードなので、バックスから1人だけ選びました。昨年と同じで、同世代で仲が良く、コミュニケーションが取りやすいので、剛(有賀)にしました。
—— すぐに引き受けてくれましたか?
即答ですね。
◆コミュニケーション
—— 今までもアフターマッチファンクションなどで、キャプテンが取材を受けるなどして間に合わない時に、代わりに挨拶することが多かったですが、そういう意味ではキャプテンに就くというのは自然になったという感じですか?
いままでの自分ではダメという思いはありますが、変な気負いとかはなく、自然に受け入れましたね。
—— キャプテンをやっていく上で、何に気をつけていこうと思いますか?
コミュニケーションですね。みんながコミュニケーションを取れるように引っ張っていくこともそうですし、選手とスタッフ間のコミュニケーションを取っていかなければいけないから、さらに選手同士のコミュニケーションを成長させていかなければいけないですね。そしてスタッフに要望があったら、ちゃんと言っていきたいし、逆にスタッフ陣の気持ちも分かるように、選手とスタッフが対等になるようにやっていきたいですね。
—— 今まで選手同士でミーティングやるということは、あまりなかったですよね
それは増やしていきますね。みんないろんな知識を持っていますし、リーダー性ももちろんあって、いろんなアイディアもあると思うんですよ。でも、その情報が吸い上げられることがなく埋もれてしまっているので、どんなことでも正しいことはチーム全体に、スピードを意識してすぐに広めたいですね。
—— 監督やスタッフ側とのコミュニケーションも密にしていかなければいけないですよね?
そうですね。いま、オフシーズンなのに練習が始まっていて、フルタイムで仕事をした後にフィットネスやウエイトをやっています。その中で、オフシーズンにも関わらず、シーズン中よりも高い目標体重と体脂肪を提示されたんです。この時期は結婚式もあるし、歓送迎会もあり、お酒を飲む機会も多いんです。
シーズン中は運動量が豊富なのに対して、いまは週3回の練習で目標設定が高いという状況で、どうやったら出来るのかという具体的な方策はなかったんです。17時半まで働いて、18時半から練習がスタートしていて、食事を取る暇もないんですよ。そういう中、食事の重要性を話したら、すぐ行動に移してくれて、いまは夕飯が食べられるようになっています。
それと去年は、たくさん走っていた割には、質という面でみんな走り方を知っているわけではなかったんです。走り方の指導を受けつつ量の練習をやっていたら、素人目から見ても、もっと伸びるんじゃないかと思っていたんです。
その思いから、走り方のトレーニングを提案したら、本当に良いと思ったことはすぐに取り入れてくれて、新田さん(博昭/ストレングスコーチ)も若井さん(正樹/コンディショニングコーチ)も練習中に走り方を教えてくれるようになったんです。
そういった意味では、正しいことは取り入れてくれるので、逆にこちらから言っていかなければいけないとも思いました。言ったらやってくれるので、こちらも嬉しいですし、もっと頑張りたいという気持ちになりました。
◆楽さに逃げない
—— 大久保直弥選手がコーチとしてチームに1年ぶりに帰ってきましたが、どうですか?
頼もしい兄貴ですよね(笑)。
—— チームからは離れていましたけど、去年の戦いは見ていてくれたんですか?
それはそうだと思いますね。外から見ているけど、思った以上に内側のことを知っていそうですね。30歳以上の選手から話も聞いていると思いますし、いろいろな時代を経験しているので、チームがどっちの方向へ向かっているのかを分かっていると思います。
—— 他に気をつけようとしていることはありますか?
今はゆっくりとラグビーのことを考えられていて、いろんなアイディアも浮かんで、いろんな提案も出来ると思うんです。去年陥ったことなんですが、シーズン中は12時まで仕事をして、13時半からウエイト、練習してと息つく暇もないので、ラグビーについて自動的にしか考えられなくなってしまったんです。リーダーとして、自分がそうならないようにしていこうと思いますね。さらにチームが勝っていたので、特にそうなっていましたよね。考えなくてキツい練習をすることが楽でしたから。そういう楽さに逃げないようにしなければいけないですね。
—— 去年はそこが足りなかったところだと思いますか?
順調過ぎて、選手もスタッフもファンもそれが正しいと思っていたと思います。キツい時にパフォーマンスを見せられるか、競った試合で力を発揮できるか、そういう部分でのメンタリティは自分も足りなかったと思います。
—— トーナメントに入ってからが悔しかったですか?
僕はトーナメントに入ってからが悔しかったですね。リーグ戦は負けなしでしたからね。ただ満足はしていないものの、悲観もせずに淡々と進んでいきました。
—— 大学でもキャプテンをやっていた経歴から、社会人5年目でのキャプテン就任はどうですか?
早くもなく遅くもなくちょうどいいですね。このタイミングの方が有難いですね。
—— 何人かはチームを離れましたが、同期のメンバーがチームを引っ張っていく感じですか?
何人か抜けても、まだ大所帯ですからね。ずるずる下がっていくも、盛り上がっていくも自分たち次第なのでね。
◆淡々とやりすぎていた
—— サントリーのラグビーとはどういうラグビーだと思いますか?
アタックかディフェンスかと言えば、アタッキング・ラグビーですね。攻撃は最大の防御という感じだと思います。
—— 一時期言われていた、サントリーはスクラムにこだわるという部分があまりクローズアップされなくなっていますが、フォワードとしてその辺りはどう感じますか?
プロップは他の人よりも努力してこだわっていた部分はありますが、3シーズン前の優勝した時の圧倒感はなくなりましたよね。昨シーズンはスクラムでいいアドバンテージから攻めたという場面もあまりなかったですし。ただそれは他のチームが対策を立ててきて、レフェリングのグレーゾーンのところで、スクラムの強みを殺されているという部分も多かったと思います。
—— チームの具体的な課題は何ですか?
淡々とやりすぎるところです。プレーオフにしてもリーグ戦同様、体が慣れてしまって淡々と戦っていましたね。もちろん隆道(佐々木/前キャプテン)だって、いいリーダーシップを持って、トーナメントだから勝敗の方が大事だということを言っていましたが、体がリーグ戦に慣れてしまって、練習にしろ試合にしろ強弱がつけられていなかったですね。それが淡々とやり過ぎていたということなんです。
—— ここで盛り上がらなければいけないところで、盛り上がれなかったということですか?
そうです。東芝はその逆ですよね。リーグ戦はあまり良くなかったですけど、盛り上がりどころを知っていて、最後だけ取っていくという感じですよね。本当にやられました。
—— その東芝もトヨタに負けてしまったので、その部分は面白いですよね
一発に懸ける思いという部分で、東芝もトヨタも戦っていたんだと思います。コンスタントに強かったのは三洋ですし、サントリーだと思います。だから去年やってきた努力を、選手たちは自信に思わなきゃいけないですし、誇りに思わなきゃいけないですよね。そして、その努力を止めてしまったら元に戻るだけなので、もったいないとも思わなきゃダメですね。
◆応援の力に支えられた
—— キャプテンとしての今シーズンも目標は何ですか?
もちろんリーグ戦、プレーオフ、選手権を勝ち続けることですね。それは成長し続けること、1%でもパフォーマンスを上げ続けることだし、勝負どころで力を出せることですね。
—— 勝負どころで力を出すポイントは何ですか?
コミュニケーションを取って、練習中からこういうプレーをするぞという、ピンチやチャンスに声を掛けてまとまって、ピンチを乗り切る、チャンスを取りきるという部分ですよね。
—— 去年はラグビー以外のところでチームが何かをするというのがなかったですよね
今まではアライブ野球やアライブボウリングってありましたけど、去年はなかったですね。そういう一体感というのは、関東選抜やコンバインのチームで、東芝や三洋の選手とラグビーをすると違いを感じますね。コンバインのチームにしても、仲間に声を掛けるし、プレーで何かやろうとしますね。そういう意味ではサントリーは大人しいのかもしれないです。
—— 今年の具体的なイメージは?
去年から一歩先に行くには、全体のボールキャリアを良くしなきゃいけないですし、その部分で自信をつけるコミュニケーション、モチベーションを上げる練習が必要だと思います。この練習の目的は何で、意義は何だという部分が出来ると、成長するのが目に見えて分かると思います。
—— ファンの皆さんに、今年はここを見てくださいというところはどこですか?
強い相手こそ、キツい時こそ、競っている時こそ、力を出せるというところが注目ポイントだと思います。去年も応援の力には支えられましたし、今シーズンはそれ以上の応援を期待しています(笑)。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]