SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2010年2月 3日

#189 小野澤 宏時 『トライ王。ビックリしました!』

◆取ろうという意志

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—— おめでとうございます。とうとうトライ王を取りましたね

とうとう取りましたねぇ、トライ王。ビックリしました!(笑)。

—— 最終節までトライ王が取れるという自信はなかったのですか?

取ろうという意志はあっても、取れるという自信はないですね。

—— では試合が終わって、取れたという感じですか?

それはもちろん自分だけで成り立つものではなく、他の人もあってのもので、他球場でも試合はあるので。それに1試合何トライ取れるかもわからないですし。

—— でも直接のライバルは対戦していました

そうですね。まあそこのひとつの懸案事項はクリアしたなという感じです。

—— 試合の途中でライバルが抜けだしたのを、追いかけて行ったプレーがありましたね

それは試合に勝つために、僕には僕の役割がありますから(笑)。トライ王のために追いかけて行ったわけではないですよ。単純にトライは取られちゃいけないじゃないですか。他の人ならいいという発想じゃないですから(笑)。

◆数の縛りから解放された

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—— トライ王を取りたいと思ったのは、トップリーグができた時からですか?

いや、なんて言うんですかね。バックスリーで試合に出たなら、たくさんトライ取りたいじゃないですか。

—— トライ王は取りましたが、13節の三洋戦とプレーオフの東芝戦ではトライがなかったですね

ウイングとして最悪ですよ。すいません。トライ王というのはリーグ戦での結果の話でしかないですからね。そこだけの喜びで、終わってしまえば周りも数を数えなくなりますし、自分の中でもホッとしますし、という感じですね。

—— 嬉しさは続いているんですよね?

いや~、もうないですね。もう誰も数を数えなくなるので、数の縛りから解き放たれたという感じでしかないです。

—— 今年の14トライのうちで、最も印象的なトライはどれですか?

サニックス戦の後半40分にトライしたやつですね。トライへの意志というか、自分の中で今まで“待ってた”感があるなと、自分を再認識できたトライです。そこからより自分の意志が変化した瞬間でしたね。

—— それ以降やり方が変わったんですか?

いや、やり方というか、いちばんシンプルにボールタッチを増やすとか、走るとか、チャンスの回数を増やすという面で、ターンオーバーされた時の保険をかけ過ぎていたというか、怖さを知っているというプラスの要素が、ちょっとマイナスにも働いていた部分がありましたね。

それでチャンスの回数が減っていたというか、自分からその場に行かなかったというか、どこか意識の中で“待っていた”部分があったのかもしれないです。その怖さもすべてわかって、リスクを取ることの尊さを再認識したのが、サニックスでのトライでしたね。

—— グラウンドの左端にいることで、相手の14番と15番を引きつけておいて、自分の味方の14人が相手の13人とやり合うというアドバンテージを作るという役目もあるということですね

そうです。すべてのプレーに良さも悪さもあって、チャンスのところに行けてないということでもあるので、そのリスクもメリットもすべてわかって、自分でチャンスをもぎ取りに行くということの偉大さというか、そういうのを感じたんです。

何も知らなかったら行けるし、その行けることがすごいのかもしれないし、無謀なのかもしれないということもあります。そのすべてをわかって行けない自分がいたんだなと感じたシーズンでしたね。それを振り返ることができたのが、サニックスのトライの後くらいです。

—— それはトライ王を取ったこと以上に価値のあることですか?

そういう感じが僕の中ではあって、エディーさん(ジョーンズGM)から「たくさんボールを持て」とか「トライを取れ」とか言われ続けて、「そりゃそうだ」と思うところと、それが上手くできなかった理由というのを考えさせられましたね。

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◆奪い合ってのトライ王

—— 今年はチームがトップリーグ最多得点で、全体として得点が取れるチームになっていたと思うんですが、それは実感としてありましたか?

得点という部分だけでなく、各場面で自分たちのプレーを追求する、自分たちの方向性でチャレンジするということがキーワードとして出ることが多かったので、それがたまたま得点に反映したのかなと思いますけどね。シーズンが終わってみて、チームに関係してない人が評価してくれるとわかることかなとも思いますけど。どうですかね?(隣の山下選手に訊く)

山下:そうですね(笑)。トライ王取って、嬉しいです。同じチームに3位が2人いる中で、なかなか取れないですよ。ヤス(長友)だって10トライで、剛(有賀)だって10トライ取って、そんな中、チームとの因果関係もありますけど、自分たちのラグビーを追求していこうというのがあったから、そのスタイルの結果ですね。けど、すごいですよね。10トライの人がいる中で14トライですから、奪い合ってのトライ王ですからね。

—— 先ほど印象的なトライについて聞きましたけど、逆に印象的な取れなかったトライはありますか(笑)?

ないです(笑)。ただ、その場合はそれで成長を促す可能性になったとしたら、それはそれでいいんじゃないですか(笑)。みんな自分のプレーをビデオで見てますから、それで気付けばプラスになったんじゃないかなと思います。

—— 来年トライが増えそうですね

どうですかね(笑)。そればっかりは分からないけど、そういう気持ちを自分で持つということが大切だということです。けどそのひとつの要素だけではできないことでもあります。

◆自分のことであれば確定できる

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—— 日本選手権については何かありますか?

なんだろうなぁ。負けてもいいと思って試合をやったこともないですし、試合をやる前にどうですか?って聞かれても、それはひとつしかないですから。それでいろいろと理由をつけていくと、嘘くさくなりますし。

嘘じゃないですけど、それ以外にないですし、それに対する準備もラグビーの準備をすること以外ないですよ。別に座禅を組みに行くわけでも、滝に打たれに行くわけでもないので。いい準備をするのは、いつのどの試合でも変わらないです。

—— 試合に向けていつも意識していることは?

少なくとも自分の80%を出せるように。そして不確定なことはグラウンドだけにしておきたいんです。相手がいたり、グラウンドコンディションだったりは、自分ではどうしようもできないので、自分のことだけであれば確定できるじゃないですか。自分の意思で出来る部分は、試合までにすべて自分で確定させます。

ラグビーはチームスポーツですし、不確定な部分が多いので、そういった不確定な部分は試合だけにしておかないと、どの要素で自分がイマイチだったのかということが、反省出来なくなってしまうんですね。だからいつも同じ1週間を過ごして試合に臨みます。

—— 80%が最低レベルとは?

そこまでは今週も出せるということが分かれば、自分の最低限の部分以上が出せるということで、それ以下にはならないので、悪くても80%は出せるという状態ですね。

—— それでいて90%や100%が出せたという時は?

それはそのまんまで、いろいろなバイオリズムの問題があるかもしれないですし、気持ちのこともありますし、もしかするとラグビーの不確定要素でたまたま相手がいなくて抜けたということがあるかもしれません。

そこにはいろんな要素があって、その理由は後付けでしかないので、自分のことに関しては、自分次第でしかないので、そういった不確定の要素を極力減らしているということです。不確定な要素が多いといろいろと面倒くさいんです。基本、面倒くさがりなんです(笑)。

◆数値的に測れる唯一のもの

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—— 試合を基点として、そこから逆のぼって準備をしているんですか?

試合から逆算して1週間のこととして練習をやっています。自分のいちばんダメな状態でも、ここまでは出せるということを数値的に測れる唯一のものが、ウエイトトレーニングなんです。その確認する作業であるウエイトトレーニングを週の最初の3日間しか出来なかったら、その3日間を全力でやらないと意味がないので、そのためにオフをしっかり休んで、その3日間全力でやります。

オフにしっかり休むには、試合が終わった瞬間から体を休めるために行動しなくちゃいけないんです。そうでないものが入ってくると、余計なものが入ってきて、しっかり体を休められなかったまま、ウエイトに臨むことになってしまいます。

—— 最低の80%から100%に上がるときは?

ウエイトをやっていても「今日は挙がる」みたいな日があります。そういう日はMAXを測定する日じゃなくても自分でやります。

—— 例えば走っていて相手が遅く見えるということはありますか?

それに関しては、いくら遅く見えても良いと思います。自分の中で「今日のってる」みたいな感覚ですよね。「今日はのってないな」というときでも、自分の80%は出てるという確証が持てていれば、問題ないという感覚です。

—— 「今日は凄いぞ」という日はどれくらいの比率であるんですか?

わかんないですね。自分が良くて良かったのか、相手が悪くて良かったのかもわからないので、そういうことを考えない様にしているんです。それを考え出したらきりがなくて、面倒くさいんです。前の試合が良くても悪くても、やるべきことは変わらないということです。わからないことを考えていても仕方がないので。

◆やるべきことをやる

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—— そこへ行きつくまでは、100の日もあれば10の日もあったんですね?

それまでは重さだったんです。自分の中で何キロもてばこれくらいという感じだたんですが、それをパーセンテージにしてみると「そうか~」って思ったりして。

—— それまでは80%だったのが、気づかなかっただけとか?

それもそうですね。なかなかクリーンとかでも100%は出せないですよね。

—— クリーンの100%は把握しているんですか?

はい。クリーンだったら140kgです。80%だと120kgとか125kgを持てればいいという感じですね。

—— その週の挙げた重さと試合のパフォーマンスはリンクしているんですか?

挙がったから良かったとか、挙がらなかったから悪かったということもありません。あくまで自分の中でいつもと同じ準備をしたということで、不安要素は取り除けるんです。最低限の準備はしたという感覚に入れるんです。あとは自分でイメージして臨むだけですね。それがその通りになれば良かったとなるし、ダメだったらダメだったなと思うだけです。

—— それを引きずったりはしないですか?

若いころはありましたが、今はないですね。もちろん今でもトライを取れなかったら「あ~あ」って思いますけど、それで次の週やることを変えるかと言ったら変えません。やるべきことをやるというだけです。

—— 変える要素は自分以外のところに?

トレーニング方法やコーチングに出会う運だけは、持っておきたいと思っています。自分で出来ることは変わらないので。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)

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