2010年1月28日
#188 田中 澄憲 『アライブしつづけるラグビー』
◆振り返してみたら
—— 今年は好調ですか?
ちょっと前半戦で体調崩したりもしたので、それを除けば好調というか、普段通りですね。
—— 体調を崩したのはかなりはじめの頃ですよね?
そうですね、ちょうど2節目が終わった頃、コーラ戦が終わってすぐですね。ですが、基本的にはあんまり体調が良いとか調子が悪いとかはないですね。ここ2~3年ずっと変わらないという感じです。
—— 簡単に言いますけれど、それは大変なことですよね?
自分ではそういう風にコンディションを整えているという部分もあると思いますが、あまり上昇気流とかはないですね。
—— 2節目後の体調の崩し方というのは、選手生活で初めてですか?
初めてでしたね。
—— それ以外、コンディションがずっと一定に保てることは、多くの選手が目指していることだと思います
結局は、自分のできることとできないこと、求められていること、後はメンタル的なところ、そういったところが自分で把握できているから出来るんだと思います。もちろん、ずっと横一線なわけではなくて、足りないところは吸収していきますし、良いところは維持していく中で、経験がカバーしてくれたり、それが自信につながったりもします。でもやはり、いちばん大事なのは経験でしょうね。
—— 振り返ってみたら、という感覚ですね?
そうですね。「ずっとこのままでいよう」とやってきたわけではなく、「振り返ってみたら」いろんな負けだったり悔しい思いも経験して、そういう時に「こうしたら良かった」とか思うこともありますが、「これだけやったのに負けたのは仕方ない」というところで、逆に気持ちを切り替えられたこともありました。
やはり長くやっていると、勝つことも負けることもありますし、優勝できることもできないこともありますから、常にチームも個人もそのときに持てる力を全て100%出すということが大事ですね。100%出せなければ負けるわけです。
—— 100%を出せるようにするには?
100%とはいっても、試合で自分の思い描いた通りの100%ができるかと言ったら、できることの方が少ないわけで、後で自分でどう処理するかなんです。自分の中では「もっとできた」ということはあると思うんです。若い選手は自分にないものを絞り出そうとすることがありますが、それはできないので、そういうところを若い選手にどんどん伝えていきたいですね。
経験とは何かと言われると困ってしまいますが、こういうところなんでしょうね。でも逆に言うと、「調子が良い」という感覚もありませんからね。若いころは「今日は調子いいな」ということもありましたが、歳のせいかもしれないですが、疲れたなぁとは感じますが、調子良いなとは感じませんね。ただ歳なだけですね(笑)。
◆何てことしてくれるんだ!
—— 今年は後半から出ることが多いですが、気をつけていることはありますか?
やはりいつ出ても良いようにすることには気をつけています。出ている選手が怪我して出ることもありますし、アクシデントで出たり、劣勢で逆転しなければいけない状況、僅差で勝っていてその試合をコントロールしてリードして終わらなければいけない場面など、出る状況には様々な状況があります。体は常に動かしているようにしていますし、試合の状況は常に見ていて把握するようにしています。
—— こういう出場の仕方は今まではあまりありませんでしたか?
僕が入社して4年間くらいは、洋司さん(永友/前サントリー監督、現キヤノン監督)がいて、ずっとリザーブでしたが、その時のリザ―ブはどちらかというと怪我の時に出たりというくらいだったので、今のリザーブとはちょっと違いますね。当時はラグビーは15人で戦うという感じでしたが、今のラグビーは22人で戦うという感じですよね。そういう意味では、今まではこういう機会はなかったですね。
—— 先に出ているグレーガン選手を見ていてどうですか?
説的な言い方になりますが、ジョージ(グレーガン)のリザーブというパターンは、ないなと思いましたね。彼の良いところはゲームコントロールだったりディフェンスだと思います。それらは見習うべきところであったり、吸収しなければならないところなので、もちろんリスペクトしています。
—— 逆に自分の良いところは、どういうところだと思っていますか?
経験とかですね。僕もどちらかというと、コントロールするタイプなんです。ジョージと違うところと言ったら、ボールを取りに行く速さとか、流れをつける、テンポを上げるという部分だと思います。
—— グレーガン選手がサントリーに来る決まったとき、「何てことしてくれるんだ!」と言っていましたね(笑)
そりゃそうでしょ(笑)。それは思いますよ。やっぱりサントリーでトップリーグでラグビーをしている以上、自分が試合に出ることがいちばん大事ですし、それがなかったらやる意味はないと思っていますから、同じポジションはみんなライバルですし、その相手がジョージだからって変わることではありません。そこはしっかりチャレンジして、見習うところはしっかり吸収してやっています。
◆そう来たか
—— そういう中で、去年は9番をほぼ守りましたね
去年は正直言って、開幕直前にジョージが来て、開幕戦がジョージが9番でしたが、僕が今までサントリーで10年間やってきて、それなりにチームの意向も分かってるつもりでやっている中で、2週間くらいチームと一緒にやって、日本語でのコミュニケーションも取れない選手を使われたということがすごく悔しかったし、怒りましたね。
だからこそ、それで吹っ切れたところもありました。それから一生懸命練習して、それでも駄目だったら仕方ないと思ってやるようになりましたね。それでもジョージを使うということであれば、それはチームの方針なので仕方ないと思いましたし、それでチームが勝つなら後悔しないようになりました。
—— グレーガン選手が来て火がついたんですね
そうですね。悔しいというよりは怒りでしたね(笑)。「そう来たか」と思っていました。みんなそうだと思いますよ。そういう気持ちがなければトップリーグで優勝を狙うようなチームじゃないですよ。
—— 今年のチームはどうですか?
もともと選手のポテンシャルやコーチのスキル、環境はあるのでやっぱりトップチームだと思います。今までと明らかに今年は違う点は、「自分たちはこれで勝つんだ」というところですね。清宮さんはそれをずっと言っていましたが、相手に合わせてこうしようあぁしようという部分もありましたし、こだわり過ぎていたところもありました。
今年はフィットネスも上がりましたし、その中で自分たちの形でやれていて、みんな自信を持てているところが明らかに違うところだと思います。
—— 最終節の三洋戦はどうでしたか?
僕は個人的には、リーグ戦も1位通過じゃなければ、2位も3位も同じだと思っていますし、だからこそ、あの試合は勝たなければ、引き分けも同点も同じだと思っていました。だからなんでチャレンジしなかったのかと思いましたし、自分の出番がなかったことも含めて悔しくて腹が立ちました。それは僕だけじゃなくて、見ているメンバーも同じだったと思います。
◆遅くすることが大事な場面もある
—— 今シーズンの優勝は?
それだけの力はあると思います。あとはそれを試合でしっかり出せるかどうかですね。それを出せたら間違いなくチャンピオンになれると思います。
—— 自分のプレーでファンに見てほしいところは?
あまりそういうことを考えたことはないですね。何でしょうね。例えば、良い流れの時は加速するようなコントロールですし、あるいはチームを落ち着かせたりという部分ですね。逆に言うと僕が途中から出て違和感がない方が良いんだと思います。負けていたら変わらなきゃいけないんですが、勝っている時は、そのままがいちばんですからね。
スクラムハーフは見方が難しいんですよ。何でもかんでもテンポが速ければいいわけではないですし、逆に遅くすることが大事な場面もありますからね。普通に見ているとテンポが速い方が良いという風に見られがちなんですが、試合の流れで変わってくるなかで、どうやってコントロールしているかというところを見てほしいですね。
分かりやすい例で言えば、試合に勝っているのに、テンポを上げてドンドン上げて攻め込んでディフェンスに隙ができてしまうよりは、テンポを遅くして、相手が苛立ってくるような展開に持っていったり、速い球出しができなかった時に、いったんゆっくりして、自分たちの形を作りなおして、またそこからテンポを上げて攻めるということもあります。
そういう見方をするとまた面白いと思いますよ。こういうことは会社でもよく応援して下さる社員の方に言われたりします。「なんであそこ速くしなかったの?」とか(笑)。「いろいろあるんですよ」と言って教えてあげています。
—— 田中選手が考えるサントリーらしいラグビーとは?
僕が思うのは、シンプルなラグビーだと思っています。あんまり難しいことを考えないで、基本がしっかりあって、前に出て行って、80分間攻め続けるフィットネスがあること。アライブしつづける、そういうラグビーですね。
—— そこに近づいていますか?
そう思います。だから強いんじゃないですかね?難しいことをせず、シンプルなことをして、80分間フィットネスも落ちてませんから。サントリーらしくなっていると思います。ディフェンスも良いと思いますよ。みんな自信もってやっていますよ。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)