2009年10月13日
#175 真壁 伸弥 『走ることだけは負けない』
◆試合が始まると全部解ける
—— サントリー初の2試合連続マン・オブ・ザ・マッチ受賞ですね
正直なところ、何で獲れたのか自分自身分かりません。(笑)。
—— それはどっちの試合のことですか?
どっちもです(笑)。特に1試合目の九州電力戦なんて、ノックオンはしているし、トライは取れてないし、ラインアウトのサインミスもしましたし、何で獲れたんだろうという感じです。
—— 2試合目はどうでしたか?
2試合目は1試合目よりは上手く行ったところもありますけど、あの試合では有賀さんとかの方がふさわしいと思っていました。
—— 初トライを獲ったのは?
第2節のコーラ戦です。
—— どちらかというと、開幕戦と第2節の方が自分としては良かったという感じですか?
開幕戦は緊張していて何も覚えてないですね。試合ではいつも緊張するんですけど、2節の方がかなり楽にはなりました。3節は秩父宮で、試合前の緊張はだいぶ慣れてたんですが、グラウンドに出た瞬間に人の多さにびっくりして、そこでまた緊張してしまいました。
大学時代はあんなに大勢の前で試合をしたことはなかったので、パッと出た瞬間に「ヤバイ」と思いましたね。違う意味で緊張していました。
—— 4節の花園でも5,000人くらいは入ってましたけど
だいぶ慣れましたね。
—— 大学時代の試合ではお客さんはどれくらいいたんですか?
どうですかね、数百人だったと思います。早稲田戦の時は多くて、1回だけ長友さん(泰憲)の代の時に大学選手権に出て、秩父宮で早稲田とやったんですが、その時は大勢いたんですけど、なぜか緊張はしませんでした。
—— その違いはなんでしょうか?
分からないですね。
—— もともと上がり性なところはあるんですか?
ありますね。
—— 小学校の学芸会などでも緊張していたんですか?
そうですね、1週間くらい前から緊張して、頭の中でシミュレーションして、それでもっともっと緊張してしまってダメになるんですね。
—— 本番はどうなんですか?
ラグビーに限っては、試合が始まると全部が解けて、楽しめるんですが、やっぱりグラウンドに出てキックオフのホイッスルが鳴るまでが最高にキツイですね。
◆業界運動会でもドキドキ
—— それは昔からなんですか?
ずっとですね。高校も大学も。小学校の学芸会もそうです。始まるまでが辛いんです。
—— 運動会とかでもそうでした?
そうです。ちょうどこの前、業界運動会というのがあって、サントリーや他の飲料会社が集まってやる運動会があったんですが、それでさえドッキドキでした。200m走るだけだったんですけどね(笑)。
—— そこまで緊張しやすいとなると、心理学やマインドコントロールのことを少し学ぼうとかは思ったりしなかったですか?
ATQ(※)で海外に行った時にそういったセミナーがありました。確かニュージーランドに行った時でしたが、それを受講して「異常」と言われました(笑)。イメージをする時に、普通ならいい方向にポジティブなイメージをするんですけど、僕の場合悪い方向にイメージをしてしまうんですね。こうしたらノックオンしちゃうとか、そういう悪いイメージをしちゃうんですね。それが宜しくないので、「イメージすることを変えて、改善していきましょう」というアドバイスを頂いたんですが、一向に改善出来ていません。
※ATQ:Advance to the Quarterfinal=2011年ワールドカップでベスト8入りを目指すために、ユース世代を中心とした包括的強化プロジェクトで、日本ラグビーフットボール協会が行っている。
—— それは深層心理の部分なので、180度変えるのは難しいですね
そうですね。性格的にネガティブなんでしょうね。
—— 何日も思い悩んだりすることもあるんですか?
例えば仕事でもそうですけど、「○時にミーティングがあるから準備しておいてください」といわれると、心配だからずっと前から準備をし始めます。準備は早くからするんですけど、いざ時間が近づいてくると、これで本当にいいのか?と思い始めて、緊張が高まってきて、本番で何も言えないということがあります。
—— 学校のテストはどうでした?
テストは高校までは完璧でしたね。早くから取り組んでいました。高校でラグビーを始めるまでは勉強をしっかりしていました。高校でラグビー部に勧誘されて、タッチフットをやった時に面白いと思ってラグビー部に入ったのがラグビーを始めたきっかけなんです。
◆打球がトラウマ
—— ラグビーのどこが面白かったですか?
やっぱり今までやったことのないスポーツというところですね。でもいざ部活に入って、試合に出た時に、ダマされた感がありました。
—— それはなんですか?
「当たればいいよ」と言われて、軽いイメージで臨んでいたんですが、部に入ってすぐに試合に出たので、怖くて何もできなかったです。
—— 辞めようとは思いませんでしたか?
いちど辞めようと思って、練習にも行かなくなった時があったんですが、自分は体が大きかったので、先輩とかが必死で説得に来てくれました。けど結局、戻ったのは先輩たちが卒業して自分たちの代になった時でした。
—— 何高校ですか?
仙台工業高校というところです。
—— 強かったんですか?
仙台育英と試合をすると0-50くらいで毎回負ける感じです。仙台では2位か3位ですね。
—— 中学では何をしていたんですか?
バスケです。バスケは小学校からやっていて、小学校では野球も少しやっていました。
—— いろんなスポーツをやっていたんですね。
そうですね。仙台工業のバスケ部が当時はほぼ帰宅部状態で、やるからにはちゃんとやりたかったので、ラグビーにしたんです。
—— 野球部は考えなかったですか?
自分はずっとキャッチャーをやっていたんですが、いちどピッチャーをやってみろと言われてやったら、打たれて、打球が自分の股間に飛んできて、それがトラウマで、握りこぶしくらいの大きさのボールは全部嫌いです。やるならちょっと大きめの、サッカーボールくらいの大きさが良いですね(笑)。最近少しゴルフにも手を出しているんですが、まぁ当たることはないですもんね。当たったら相当痛いでしょうね。
—— 小さい頃から体は大きかったんですか?
そうですね、背の順で並ぶ時はいつも後ろでしたね。
—— いま何cmですか?
192cmか193cmですね。
—— 190cmに到達したのはいつ頃ですか?
いつだろう。高校の最後くらいだと思います。80kgくらいで当時は足も速かったんですが、今はとても速いなんて言えないです。
◆ATQからラグビーが面白くなってきた
—— 中央大学に入ったのは?
高校卒業して就職する気満々で就活をしようとしていたんですけど、監督からいきなり「大学からラグビーの推薦が来た」と言われました。全然大学のラグビーなんて知らなくて、どこが強いとかも知らなかったんです。結局監督が「いちばん最初に来た中大に返事をするのが良いんじゃないか?」というので、中大のことを少し調べたら、法学部があるということで、「じゃぁラグビーはそこそこやって、ちゃんと勉強してそっちの方で行こうかな」と思って中大に決めました。結局大学に入ったらラグビーしかしませんでしたけどね。
—— 入ってみてどうでしたか?
あまりあれこれ考えてラグビーをしていませんでしたね。大学の時に1回フランカーもやってみたことがあったんですが、「使えないなぁ」と言われて終わりました。さっきも言ったように、本当はラグビーをそこそこやって、勉強しようと思ってたんですけど、ATQに呼ばれて本格的にラグビーをするようになって、それからラグビーが面白くなってきました。
—— 何年生の時に呼ばれたんですか?
2年の終わりくらいだったと思います。海外に行って海外のラグビーを見て、すごく面白いと思いました。
—— 何人で行ったんですか?
最初は3人でした。2回目に行った時は1人で行きました。
—— どの辺が楽しかったですか?
ニュージーランドに行ったんですが、向こうはほぼラグビー中心に生活をしていて、ラグビーと関係なさそうな町の人もみんなラグビーが大好きで、街全体がラグビータウンのようなイメージでした。こんなにラグビーって盛んなんだと思いました。
—— それは何と言う街だったんですか?
ハミルトンという場所です。オークランドのちょっと北寄りです。
—— どれくらい行っていたんですか?
3ヶ月か4ヶ月ですね。
—— その間の大学はどうしたんですか?
部長とかに助けてもらいながら、特に休学とかはせずに乗り切りました。
—— ずっとこっちにいたいなぁとかは思わなかったですか?
今でも思います。ずっとニュージーランドにいたいですね。ニュージーランドで仕事探して、ニュージーランドに住みたいですね。
◆やるなら徹底的に
—— 英語はどうですか?
英語は全然分からないです。行っていた時は何となく雰囲気で分かる部分もあったんですが、今はもう全然だめですね。雰囲気すらつかめないです。
—— サントリーのチーム内にも外国人選手がたくさんいますね
しゃべってはいるんですけど、全然分からないです。またライアン(ニコラス)は日本語も上手いので、半分英語、半分日本語になるので余計に分からなくなったりします。
—— ほかに印象に残ったことは?
ラグビーを練習する時間が朝と昼と午後と晩に4回あって、1日中練習していて、その間で仕事をしている人はしているんです。本当にラグビーが好きで、ラグビーにかけているというのが凄く伝わってきて、「中途半端にやっていてごめんなさい」と思いました。
—— それで社会人になってもやろうと思ったんですか?
そうですね。やるなら徹底的にやろうと思いましたね。
—— サントリーを選んだ理由は?
もともとしっかり仕事をしながらラグビーをやりたいと思っていたからです。仕事の内容が営業というところに惹かれました。
—— 大学時代、尊敬している選手はいましたか?
尊敬していたのは、東芝の大野均さんでした。それからサントリーのことを調べたら、大久保直弥さんとか、篠塚さん(公史)とか、すごい選手がいるんだと知って、サントリーに入りたくなったんです。
—— 大学時代の自分は自信を持って言える成果を上げたんですか?
全然です。最初の頃は全然まじめにやっていませんでしたし、ATQに選ばれた時も「なんで俺?」と思ってましたからね。社会人になってもう少しラグビーの勉強をしようと思いました。大学の頃はビデオも見たりしませんでしたし、ミーティングも出てるだけという感じでした。
◆本能で動いている
—— サントリーに入ってどうですか?
ラグビーを考えないで今までやってたなぁというのを改めて実感しました。教わることが多すぎて今困っています。全然頭に入らなくて、練習が少し怖いです。長谷川コーチや篠塚さんにいろいろアドバイスをされるんですが、それをノートにとって必死でやってます。練習が怖いです。試合の方がいいですね。あんまり言われると頭がパンパンになって、ラインアウトの時なんてテンパっちゃいますね。ミスすると「ヤバイ、怒られる」って感じでビビってます。
最近一番怖かったのは、キャプテンに「お前は本当にばかだな!」と怒られた時ですね。心にグサッときました。
—— どんな状況で言われたんですか?
サインミスをするときもそうですし、ボールゲームする時も何も考えてないプレーをしてしまったりする時ですね。本能で動いているタイプなので、最近よくいわれますね。
—— 得意なプレーはなんですか?
プレーではないですが、走ることです。走ることだけは負けないですね。フィットネスには自信があって、中学校からずっと走ってます。走るのが凄く好きなんです。
はじめは中学校の時に好きな子がテニス部にいて、その子の部活が終わるのが7時くらいで、その子を見るために走ってました。でもそれだけじゃなくて、夜とかもずっと走ってましたね。
—— 走るのが好きなんですね
休みの日とも昼間遊んで、夜中走ってましたね。中学校から初めて、大学でもずっと走ってましたね。社会人になってからは多摩川沿いを夜、走ってます。
—— 先日のフィットネステストはどうでしたか?
もう少しで小野澤さんに追いつけるところでしたが、2位が成田さんで、全体で3位でした。
—— その体力は親の遺伝ですか?
親はスポーツはまったくしないです。
—— 兄弟は?
姉がいますが、文化系です。
—— 親は大きいんですか?
親父は大きいです。スポーツはしないですが、仕事が体力を使う仕事なので、筋肉はすごいです。
—— 走ってる時の何が好きなんですか?
走ってると落ち着くというのもありますけど、音楽を聴きながらノリノリで走ってるときが楽しいですね。
—— どんな音楽を聴いているんですか?
その時の気分によるというか、逆に曲調によって走り方が変わってくるんですよね。何も考えないで走るのが良いんです。何で好きなのかは分からないですね。日課みたいな感じになっています。それが今になって確実に活きています。ここだけは通用するなと思います。
◆全試合メンバーに入って優勝
—— いま、課題は何ですか?
まず知識が足りないということと、責任感がないところですね。性格的に「まぁいっか」とすぐ思っちゃうタイプなので、そういうところですね。長谷川コーチに「お前は今年がラグビー1年目だ」と言われた程です。
—— レギュラーで試合に出られるとは思っていました?
全然思ってないです。毎回メンバー発表の時にドキドキで死にそうです。
—— 今年の新人は仲が良いんですか?
仲はいいですけど、一緒に飯に行ったりとかはしないですね。
—— 仕事はどうですか?
楽しいです。順調だと勝手に思ってやってます。数字のこととかもあまり言われず、好きなようにやらせてもらっているので、伸び伸びやっています。
—— 今年の目標は?
ここまで来たら、全試合メンバーに入って、優勝に貢献したいです。
—— もう少し先の目標はありますか?
考えてないです。直近のことだけしか考えられないです。でもやはり、2011年のワールドカップには出たいと思っています。ニュージーランドって決まった瞬間に、行きたいと思いました。
—— 海外でのプレーなどは考えていますか?
ATQに2回目に行った時に、ハリケーンズのセレクションに出させてもらったんですが、そのセレクションの途中で後十字靱帯を痛めて帰国したんです。それが悔しくて、いつかNPCのメンバーに入ってやると思っていた時期はありました。今はサントリーでいっぱいいっぱいです。今サントリーで全然できていないのに、あの時にそんなことを思っていたなんておかしな話ですよね。
—— ファンへのメッセージをお願します
ずっと今までファンなんていなかったんで、何て言っていいのか困りますね(笑)。試合中に名前を呼んでもらえるのはすごくありがたくて、元気が出るので、それに答えられるようにしっかり走って貢献します。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:植田悠太)
[写真:長尾亜紀]