2009年9月 1日
#174 佐々木隆道×有賀剛 スペシャル対談 『ラグビーはやった人を虜にしてしまう』
『楽しみな開幕戦』(佐々木)
—— 2人の対談は毎年恒例となっていて、今年で4回目になりますが、今シーズンは今まででもっとも良い状態で開幕を迎えられるのではないでしょうか?
佐々木:いいか悪いかは分からないですけど(笑)、剛も僕も揃って開幕から出られそうな状態なのは今年が初めてなので、そういう意味で他のメンバーも怪我人があまり出ていないし、良いメンバーで開幕を迎えられるので、楽しみな開幕ではあります。
有賀:現段階で一番強いと言われている東芝にも勝ちましたし(8月21日プレマッチ)、いい状態ですね。確か1年目の時も東芝とプレマッチをして勝って開幕を迎えた記憶があります。プレマッチは東芝戦と翌日の三菱重工戦も良いゲームが出来て、勢いもついたと思いますし、あとは個人個人がしっかりいい状態で開幕に臨めればいいなと思います。
—— 開幕前、とても良い状態ということで、もう試合がないこの時期の過ごし方で一番重要なことは何ですか?
佐々木:コンディションづくりと練習での精度を高めること、この2つですかね。あとは"自信"ですね。自信を持ってやることです。
有賀:そうですね、隆道が言ったとおり、コンディションですね。あとは開幕から何試合かナイターがありますので、時間も慣れていないし、まだ暑いので汗でボールが滑ったり、暗かったり、そこの部分のイメージをしっかり持って臨めれば問題ないと思います。スタッフもそれを考慮して、練習時間を組んでくれていますけど、東芝戦も結構ボールがスリップしてたので、気をつけないといけないですね。
—— 今年こういう良い状態で開幕を迎えられた要因は何だと思いますか?
佐々木:何だろう。運?...かな。怪我をしてる選手も何人かはいますが、何でですかね。
有賀:練習の量やメニューのバランスをスタッフが考えて作ってくれたのが、今年は当たったってことでしょうね。1週間の流れを考えてメニューを作ってくれたり、総合した運動量を考えてくれたりしています。環境も今まででいちばん良かったと思います。グラウンドはちょっと芝がダメになっちゃいましたけどね(笑)。
『ポジティブに戦い抜けるように』(佐々木)
—— キャプテンもリーダーシップメンバーも4年目のメンバーが中心にチームを引っ張っていく体制になりましたが、そのあたりの責任感や自分の行動パターンの変化は?
佐々木:僕はキャプテンで、チームを勝たせることが責任なので、自分が納得できるように、みんなの意見を聞きながら、当たり前ですけどそういうことをやっています。どちらかと言ったら、剛たちリーダーシップメンバーの方が大変なんじゃないですかね。
有賀:リーダーとして、いろいろ声をかけたり、引っ張っていくということだけですよ。
—— 佐々木選手は、去年までとスタンスはだいぶ変わりましたか?
佐々木:そうですね。やっぱり常に声をかけてみんなが集中し続けられるというか、ポジティブに1試合を戦い抜けるようにしています。
—— 練習中はどうですか?
佐々木:練習中もそうですね、1つのミスに対して、「このミスはチームの雰囲気悪くするな」とか、「このプレーは勝つチームにふさわしくない」と思った時は言うようにしています。去年までも言う時は言ってましたが、キャプテンも副キャプテンもいましたので、その人たちが言わなかったら、別に言わなくていいのかなという部分も多少ありました。そういうことはキャプテン(山下大悟)には言ってましたけど、僕からチーム全体に言うようなことはあまりなかったですね。
—— 有賀選手は意識的に何かしてることはありますか?
有賀:意識的にというわけではないですが、やっぱりこの時期になるとある程度メンバーも固まってきますから、Aチームのメンバーはその座を守らなければいけませんし、Bチームのメンバーはその座を奪いに必死になりますから、「それぞれがチームを勝たせるためにやろう」ということを言っています。
去年は僕もBからのスタートだったので、Bチームのこともいろいろ分かりましたし、Aチームの人は余計なことを言うよりプレーで示せばいいと思ってます。もちろん気を使う部分もありますが、みんなのモチベーションが上がっている状態でいられるように、AもBも上手くやっていかないといけないですね。
—— 今の体制で行くと、試合中も2人がそれぞれフォワードとバックスのリーダーとしての役割があるんですか?
佐々木:ゲームメイクに関しては、僕はハーフ団に任せてますし、剛もいろいろ言ってくれるので、あまり試合中に細かいことは言わないですね。「ここが弱いからこうしよう」とか「ここがダメだからこうした方が良い」というようなことをみんなに伝えて、チームの方向性を決めていくだけですね。もちろんフォワードに個別に話したりもしますが、みんな結構いろいろ言ってくれるので、試合中に僕は大したことは言ってないと思います。
『例年になく走り込んだ』(有賀)
—— 先日藤原丈嗣選手にインタビューをした時、藤原選手が「去年は僕ら3人ともJISSでリハビリしててダメ世代」なんてことを言ってました
佐々木:ははは(笑)、怪我世代ですね。
—— その頃の心境はどうでしたか?
佐々木:みんな頑張ってたし、僕ら3人以外にもいろんな競技の選手が怪我と向き合ってやってるし、サントリーにいなかったというのは、逆にやりやすかったのかもしれないですね。グラウンドにいるとどうしてもラグビーのこと考えてしまいますからね。
剛が先に復帰して、試合に出た時は「あいつ良い時期に怪我したな~」、「最後出てきたな~」って思ってました。しかも結構すごかったじゃないですか。やっぱ有賀剛は違うね、と思ってました。うらやましかったですね。
—— 有賀選手は無理せずに復帰するということでやってましたが、最後に間に合いましたね
有賀:そうですね、怪我したときは絶対無理だと思ってましたからね。すごくリハビリも順調で、リハビリは通常途中でリハビリのスランプみたいな時期があるんですけど、それもなくて、ずっと上り調子で行けたので良かったですね。けどやっぱ復帰したんですが、リザーブスタートというのは悔しかったですね。
—— その後の調子もずっと上り調子ですか?
有賀:そうですね。隆道が3月頃に結構ハードなリハビリをしていたので、自分もちょうどその時期くらいから、少し早めに体を作り始めましたし、春も例年になく走り込んだので、今はこの4年間でいちばん良い状態かもしれないですね。
—— 佐々木選手は状態どうですか?
佐々木:毎年毎年、その年がいちばん良いと言っていると思いますし、それが当然だと思うのですけど、やはり蓋を開けてみないと分からないという部分はありますよね。自信はありますけど。
やはり何が起こるか分からないので、最後シーズンが終わった時に、今年は良かったなということが分かると思います。今は感覚的に「良いんじゃないかなぁ」とか、「ちょっと走れてきたな」とかそういうレベルですよね。けどそれが結果として良いか悪いかは分からないです。
去年1年間を棒に振ってしまったので、そういう面では慎重です。常に最高と思ってプレーしていないというか、体のことを考えながら、体に疲れをためないようにしたり、それでもしっかりトレーニングはしなければいけないし、練習でも100%やります。
—— 大人になったということですか?
佐々木:こんなことを考えないで出来ることが一番いいんですけどね。
『集中している時のジョージは凄い』(有賀)
—— チームの雰囲気は良いですか?
佐々木:別に今まで一度も悪いと思ったことはないですよ(笑)。
—— 失礼しました(笑)、有賀選手が以前話していたように、これまでのチームの雰囲気と少し変わってきてるように見えます
有賀:確かに「こうしたい」、「ああしたい」ということを出来るようにはなってきました。もっと簡単に言うと、去年はバックスまであまりパスが回ってこなかったということで正直不満も多くて、東芝戦なんかを振り返ると、久々にみんなボール持って走ったなという感じがありますし、そういうことを考えると最初の段階なのかなとも思いますが、ようやく変わり始めてるのかなという感じですね。トゥシ(ピシ)が入ったことも大きいですね。
—— 今年のグレーガン選手は絶好調ですね?
佐々木:調子いいですね。体が大きいですね。大きいというか筋肉がついてますね。体重もかなり増えたみたいですが、ウーチ(ウチ・オドゥーザ/元サントリー)みたいな体つきになってきてますね。背中にコブがあるようなイメージですね。日本人にも白人種にもない体ですよね。彼らだけの独特の体つきというんでしょうか。
—— グレーガン選手から学んだことはありますか?
佐々木:ジョージと話していて、「こういうのって大事やな」とよく思うのは、1人1人の責任をしっかりと全うすること。チームの中でも2人で話してても、そういうことを常々言っているので、その辺ですね。それは今まで自分たちも言ってきたことなんですけど、ジョージもそういうことを思ってやっているんだなということで、全然言葉の重みが変わってきますよね、間違ってなかったなって。
あとは自分のコンディション管理に対してはすごく気を使っていて、そういう部分で尊敬できる人ですね。
—— 有賀選手は?
有賀:オンとオフの切り替えが非常に上手ですよね。集中してる時のジョージは本当に凄いですね。ああいう世界であれだけの試合を戦ってきた人は、ここいちばんの試合で凄い力を発揮するんじゃないのかなぁと思います。去年はトップリーグでビッグゲームに出ていないですが、今年は結果を出してくれるんじゃないかなぁと思います。
『勝チームに必要なこと』(佐々木)
—— 有賀選手は早く寝ているというお話ですが、佐々木選手も早く寝ているんですか?
佐々木:去年よりは早く寝るようになってますね。去年は何でかわからないですが、あまり寝れなかったですね。今年はもう起きてられないですね(笑)。練習終わって家に帰る途中でもう眠いですからね。
—— 睡眠時間はどれくらいですか?
佐々木:8時間半ですね。だいたい12時に寝て、8時半に起床ですね。
有賀:僕は7時間半、12時就寝、7時半起床です。
佐々木:と言いつつ、剛は実は10時に寝てるんですよ(笑)。
有賀:絶対そんな早く寝てないです(笑)。今日ちょうどライアン(ニコラス)とその話になったんですが、ライアンは9時に寝てるらしいですよ。6時に起きてるって言ってました。
—— 今はプロメンバーは午前中トレーニングをしているんですか?
佐々木:そうです。午前中トレーニングして、いったん帰って、午後、全体のトレーニングです。僕も以前と違って、いったん家に帰るスタイルになりました。前はずっとクラブハウスにいたんですけどね。
—— リーダーシップメンバーのミーティングなどはクラブハウスでやるんですか?
有賀:そういう機会をいま、週1くらいで設けてます。エディ(ジョーンズ)と清宮さんを含めて、ちょうどやり始めたところです。先週どうだったとか、練習でどうだったとか、こうしたい、ああしたい、そういう話をしてます。
佐々木:当たり前なんですが、そういう場で僕らが意見するということは、選手の方が大変になるんですよね。けどそれって勝つチームにすごく必要なことなんです。
—— 4年間の中でいちばん強そうだという手応えはありますか?
有賀:やってきたことに対する自信じゃないですけど、今までもいろいろやってきたんですけど、これだけのことを春やってきたんだ~っていう気持ちは今年は強いですよね。
『まずは神戸戦から全力』(有賀)
—— 今年の目標は何でしょう?
佐々木:全部勝つことが目標。でも、最初の頃や、去年までと違って、「絶対優勝する」っていう感じではないです。もちろん勝ちたい、優勝したいんですけど、そんな先まで見てないです。
まずは開幕戦で神戸に勝つこと、次は相手はどこだっけ...?そういう感じなんですよね。次はコカ・コーラに勝って、次は?キューデン...?そういう感じです。ひとつひとつ目の前の試合を全力で戦うということです。
今までは先を見過ぎてたと思うんです。目指すところは一緒なんですけど、見方の問題ですね。結局全勝したいということには変わりはありませんからね。
今年のチームは試合を重ねるごとに、リーグ戦に入ってからも強くなっていくと思います。そういうチームがやっぱ強いですよね。こっからまだまだ強くなっていかないと、優勝は見えないなと思ってます。
有賀:隆道が言ったように、先を見てもきりがないですからね。網走で他チームの試合なども見ましたけど、どこのチームも侮れないし、ちょっと出来が悪ければ、負けてしまうような力のあるチームが多いので、まずは神戸戦から全力で戦っていきたいと思います。
—— 個人としての目標はどうですか?
佐々木:まぁ活躍したいですね。とにかく活躍したいです。
有賀:大きい怪我なくシーズン終えたいですね。それから、小野澤さんより多くトライを取りたいです(笑)。
—— もう少し先のイメージはありますか?
佐々木:持ってないです。日々強くなりたいので。来年キャプテンかどうかも分からないですよ。別に役職なんて関係ないと思ってますし、毎日毎日少しずつ強くなって凄い選手になりたいです。小野澤さん倒したいです、被せてみました(笑)。
—— 有賀選手は?
有賀:前半戦しっかりやって、11月のジャパンに呼ばれるように頑張りたいと思います。
『ワールドカップを良い機会にするために』(有賀)
—— ワールドカップが10年後に決まりましたが?
佐々木:実際、自分は出ないですからね。絶対出てないと思いますね。あまり意識しないですね。その時にラグビーに関わってられているのであれば力になりたいとは思います。
有賀:ワールドカップを良い大会にするために、今から僕らがやらなければいけないことをやるだけですね。協会や関係者と一緒にラグビーを盛り上げていければいいんじゃないですかね?まだ日本にはラグビーを知らない人も多いと思うので、そういう中で出来ることには協力していきたいと思います。
佐々木:そうですね、その辺のプロモーションは僕らの仕事ではないですし、僕らはグラウンドの上で日本のラグビーの強化のために頑張る、それだけですからね。それ以外何もできないです。日本のラグビーのレベルを上げる、それだけです。
—— 改めて、今の時点で思うラグビーの魅力は?
佐々木:剛みたいな人に出会えることですかね(笑)。
有賀:小野澤選手に出会えることです(笑)。パスあり、キックあり、タックルあり、抜いたり、いろんな要素が凝縮されたスポーツというところですかね。
佐々木:ラグビーをこうして続けているのも、自分にとってプラスだと思っているからだし、面白いし、楽しいし、熱くなれるし、辞めることは考えられないですね。ラグビーの魅力はそういうところで、やった人を虜にしてしまうところですね。絶対に成長できますからね、みんなのためにやる仕事があって責任があって、人に認められなきゃいけないし、チームワークも必要だし、考えることも大事で、これだけいろんな要素があるというのはなかなか無いんじゃないでしょうか?
でも、例えば僕が野球をやってたら、「野球最高」って言ってると思いますから、スポーツはみんな良いということですよね。ゴルフも面白いと思いますが、僕はやっても熱くはなれないですよね。
同じラグビーでも、僕は剛みたいに華麗に抜くようなことなんてないですから、タックルで倒したり、ボール奪ったり、いまのプレーすごかったって言われたいとか、そういう欲求を満たしてくれるからやめられないんですね。それでいて自分も成長出来ていろんな人に会えて、いいことづくしじゃないですか。
—— そうするとやはり怪我をすると相当なストレスがたまるんじゃないですか?
佐々木:剛なんてそういう面では強いですよ。怪我して「しょうがないじゃん」って言いますからね。
有賀:何かして怪我したという状況が変わるのであればしますが、もう変わらないので、それは受け止めて治すことに向き合っていこうという気持ちですね。
佐々木:そこが強いですよね。僕なんかその気持ちの切り替えができなくて、ちょっと嫉妬しますね(笑)。剛の方が人間的に強いですね。
—— 最後に、ファンにメッセージをお願いします。
佐々木:けがから復帰して、自分らしくチームを引っ張っていきたいですし、楽しんで1年間やっていきたいと思うので、良い時も悪い時も見ていてほしいなと思います。
有賀:勝てるように全員が全力でやっているので、それを後押しして頂けるよう声援を送って頂ければと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:植田悠太)
[写真:長尾亜紀]