2009年1月21日
#164 金井 健雄 『2年目開幕レギュラー、そして』
◆スクラムにかける思い
—— 大学4年生の時にキャプテンをしていながら大学選手権の決勝に怪我で出場できなかった訳ですが、その"未達成感"を持ってサンゴリアスに入ってきたんですか?
それはもちろんですね。
—— あの日はすごく寒い日でしたけど、どんな気持ちでスタンドから見ていたんですか?
まずはここ(決勝)まで来れて良かったと思って、やるからには勝ちに行くという気持ちでしたね。大学選手権ではスタンドから見る機会が多くて、出ている選手を信頼していました。そういう意味では後悔はしていないですね。出たかったですけれど。
—— それまでに大きな怪我をしていたことは?
初めてでした。
—— 初めてスタンドで見ていたことに、そしてそれが学生最後の試合だったことに後悔はないんですか?
はい。結果的にチームが決勝まで来れて、早稲田と戦えたので。
—— 選手としてやりきったというのはなかったんじゃないですか?
そうですねぇ(笑)。キャプテンとしては結果が出たんで良かったんですけど、個人的にはずっと出るつもりでいたので、決勝のピッチに立てないのはすごく残念でした。
—— 大きな怪我を初めてして、若干不安を抱えながら社会人のチームに入ってきたという感じですか?
そうですね。
—— 入ってみて、練習で来たり、やってみたりしていたのとは違いましたか?
学生と社会人ではかなり違って、その中でもサントリーは競争が激しくて、すべてが違う感じですね。
—— 例えばどんなところですか?
まずスクラムにかける思いというのがすごく強くて、そして毎回強いチームと戦うので張りつめた雰囲気がありますね。やっぱり学生の時は早稲田や明治への思いからやっていたというのがありましたけど、今はぜんぶのチームと接戦が予想されて、何が起こるか分からないという中でプレーしているというのは、ラグビーしているなって感じがします。
—— まずは精神的な緊張感をキープするサイクルが学生とは違うということですね?
そうですね。学生は「この時のために俺たちは練習をしてきたんだ」みたいなのがあるんですけど、社会人は1戦1戦が勝負ですね。自分としても勝負だし、チームとしても勝負ですね。
—— それでは学生の時よりも先を見ないで目の前のことに集中するという感じですか?
そうですね。今のところそういう感じですね。まずこの試合に出られるか出られないかというのがあって、出られたら出られたでチームが勝つためにはどうすればいいのかという、目の前のことをやっていくので今は精一杯な感じです。
—— 試合の位置付けというのが違うとともに、体力的な面とか技術的な面、戦術的な面での違いを肌で感じたことはありますか?
やっぱりみんなすごいプレーヤーで、技術もすごいし体力もあるんで、逆にそれを利用してプレー出来ればと思っています。学生の時は逆にみんなを引っ張っていかなきゃいけないという感じでやっていたんですけど、社会人では他の人がどんどん引っ張っていってくれる感じで、いかに自分がそこで機能するかというようにやっています。
—— では体力的に学生と社会人では違っていて、やっていけないという感じではなかったんですね
当たりとかはめちゃくちゃ強くて、それにみんなデカくて、自分は体が小さい方なので、「まずは体の使い方からやり直さなきゃいけないな」って感じでした。
—— それは今やり直している途中ですか?
はい。やっぱり当たりで勝てないんで、いかにズラしてゲインするかということを考えています。
—— 自分のイメージに近づきそうなのは大体いつぐらいですか?
まだ怪我したところが完全ではないですけど、猶予もそんなにないので、マイクロソフトカップまでには良いプレーが出来るようにしたいです。
◆周りのことを見るのが好き
—— 怪我は足でしたよね?
そうですね。左足首を脱臼骨折しました。リーグ戦、11月23日の早慶戦でやりました。
—— 自分としては早めに治った方ですか?
いや、ちょっと時間がかかったなという感じです。復帰してからも全然足が動かなくて、やっと動けるようになったのは9月くらいでした。
—— では本当にトップリーグのシーズンイン直前ですね。今はもう違和感はないですか?
全然あります(笑)。
—— 自分の力はこんなもんじゃないぞと(笑)
と、思っています。
—— 大学でキャプテンという重責を担って、社会人になって新人という立場になり、多少肩の荷が下りたとは思うんですが、キャプテンというのは自分に合っていると思いますか?
周りのこととかを見るのが結構好きで、そういう意味ではまとめたりするのは楽しいですね。
—— 高校の時もキャプテンをやっていたんですか?
高校でもやっていました。けど高校と大学は違って、大学ではそれぞれに意思もやる気もあって、やり方が違って楽しかったですね。
—— 例えばどんなところですか?
選手それぞれが勝ちたいのは当たり前で、それをいかに不満なくまとめるかというところと、監督が林さん(雅人)ですごい方で、そういう方と選手との意見が合うように、いかに持っていくかというところですね。
—— 辛かったことは何ですか?
ないですね(笑)。結構ポジティブに考える方なので。
—— では社会人になっても周りは見えている感じですか?
どうですかね。見ている方ではありますけど、見えているかはまだわかんないですね。
◆フロントローユーティリティ
—— リザーブで5試合出場していますが、この結果は不満ですか?
怪我があったので、それがどれだけ治るかという部分でやっていて、たまたま出してもらったという感じで予期せぬ出場ではありましたね。
—— 左プロップでの出場ですね?
基本的に左プロップでの出場です。
—— 本職はフッカーですよね(笑)
本職はフッカーなんですけどね(笑)。ロシア遠征ですごいスローミスをして、それから遠ざかってます(笑)。
—— スクラムじゃなくてスローに問題があるわけですね(笑)。秘密練習とかしていますか?
慎さん(長谷川/フォワードコーチ)と練習をしているんですけど、今ちょっと手も怪我しちゃって休み中なんですよ。ちゃんと認められるように頑張ります(笑)。
—— 今までスローが不得意だったわけではないですよね?
ちょっと不得意でした。
—— じゃあ、それがクローズアップされてしまったロシアだったんですね
そうですね。ロシアですごい出ちゃいましたね。
—— それは風とかの影響ですか?
ボールが拭かれていない滑る状態で、投げる時に滑ってしまったんですよ。自分の緊張もあったと思うんですけど。あれは思い出したくもないですね(笑)。
—— 大学ではずっとフッカーですよね?
はい。
—— 左プロップも出来るというのは、自分としてはどこでもいけるぞという感じですか?
そうですね。そこは売りにしています。
—— 右プロップも出来ますか?
右プロップも出来ます。
—— 後ろも出来るんですか?
いや、後ろは出来ないです。フロントローだけです。
—— フロントローユーティリティというのが売り物だとすると、他に自分で売り物だと思うところはどこですか?
体が動きやすいので、フィールド系を売りに出来たらと思います。
—— フィールド系で例えばどういったところですか?
サポート系のプレーだったり、突破系のプレーだったり、体が大きい人たちが届かないところまで動けるようにですかね。
—— それは今ある程度出来ていますか?
そうですね。運動量を上げるという意味では、少しは出来てきたかなと思います。
◆ワールドカップに出てみたい
—— サントリーに決めたきっかけは何ですか?
林さんの薦めもあったんですけど、いちばん伸びるチームでやりたいという思いがあって、将来的に日本代表としてワールドカップに出てみたいというのがあるので、そのためにはサントリーのようなチームで揉まれてレギュラーを取ることが重要なんじゃないかなと思ったからです。
—— 他のチームからも誘われましたか?
そうですね。いくつかのチームからありましたね。
—— 地元のチームからもですか?
そうですね。地元のチームからもありました(笑)。
—— 昔は三洋に行くかもというイメージはあったんですか?
もともと社会人でラグビーをやるイメージがなくて、大学でやるかも分からない状態だったんですよ。
—— ラグビーを始めたのはいつですか?
高校からです。
—— 高校はどこですか?
太田高校です。
—— じゃあ、三洋に練習に行ったりしたんじゃないですか?
三洋のグラウンドで練習をしたことはありますけど、練習に参加したことはないですね。
—— 高校でラグビーを始めたきっかけは何ですか?
中学はテニス部だったんですけど、テニス部の友達に誘われて始めました。
—— テニス部ということは、ハンドワークが得意ですよね?
まぁ比較的。
—— けどスローインで苦労していると(笑)
おかしな話ですけどね(笑)。
—— テニスはいつからやっていたんですか?
小学校の時からやっていました。
—— それは親からの勧めでですか?
結構習い事をやっていて、その中の1つですね。
—— 他にどんな習い事をしていたんですか?
あとはバドミントンとか空手とか水泳、あと野球もやっていました。
—— それじゃ週5日じゃないですか(笑)
そうなんですよ(笑)。あとそろばんとかピアノとか。
—— 週7日ですね(笑)。それは一種の英才教育ですね
どうなんですかね。結構やっていましたね。
◆やってみようかな
—— 兄弟はいますか?
姉が1人います。
—— お姉さんも色々とやられていたんですか?
そうですね。やっていましたね。
—— ご両親の教育方針なんですかね
どうなんですかね。暇にさせるのが良くないと思ったんじゃないですかね。
—— では今でもピアノは弾けるんですか?
いや、今はぜんぜんですよ。今度練習したいとは思っているんですけど。
—— バドミントン、水泳、野球、テニスとスポーツが多いですね。好きでしたか?
そうですね。運動自体は好きでしたね。
—— 小さい時から得意でしたか?
得意というか。昔は太っていたんですけど、運動するようになって骨太が残ったくらいになりましたね。
—— 昔というのは小学校の最初の頃ですか?
そうですね。
—— では、足も速いんですね、きっと
中学になってから速くなりはじめましたね。
—— バドミントン、水泳、空手、野球、テニスもやって、テニスをやっている友達がラグビーにいったんでラグビーを始めたって、何でそんな簡単にラグビーにいったんですか?
どれも「これだ!」という感じではなくて、「じゃあ、やってみようかな」って感じでしたね。
—— ラグビーを始める前のイメージはどういう感じでしたか?テレビとかで見ていましたか?
いや、全くないですね。
—— では全く分からない状態で入ったわけですね
そうですね。
—— レギュラーはすぐ取れたんですか?
1年の5、6月には出させてもらいました。
—— フロントローだったんですか?
3番でした。もともと人が少なかったんですけどね。
—— やってみてどうでした?
めちゃめちゃ辛かったですよ、スクラムが(笑)。よく分からない状態で「とりあえず組め」みたいな感じでしたから。
—— では、ここが面白いなと思ったのはいつですか?
新人戦に出た時に結構ボールを持たせてもらえて、もともと結構体重もあったので、突破してトライ取ったりして、その時いいなって思いましたね。合っているなって思いました。
—— 高校生とはいえ、走れるフロントローはそんなにいないですよね?
どうですかね。それがあって良いなって思いました。
—— 突破とかトライが気持ち良かったということですね
そうですね。気持ち良かったですね。
◆まとまることの楽しさ
—— その後、高校時代は順調に伸びたんですか?
1つ上の先輩たちに結構すごい人たちがいて、その中で逆に委縮しちゃって、自分はサポートに回ればいいやっていう感じで目立たないようにやっていたというのはあったんですけど、大学に入ってから変わりましたね。
—— 高校のキャプテンの時はどうでしたか?
キャプテンの時は逆に人がいなかったんで、自分がいかなきゃって思っていました。
—— 体で引っ張っていくという感じですか?
そうですね。
—— 突破するとかトライするという単純な面白さじゃないラグビーの面白さってどこかで見つけましたか?
高校ではまとまりきれなかったですけど、大学に来て熱い思いとかを感じて、まとまることの楽しさというのを大学に来てから感じましたね。
—— 慶應大学に入ったときは、慶應でラグビーをするつもりで入ったんですか?
もともとそういうつもりはなかったんですけど、1回浪人して考える時間があったんで、ゆっくり考えて「やっぱりやった方がいいかな、やらなかったら後悔するだろうな」と思い、やれるだけやってみようと思ってやりました。
—— では慶應大学に入ってラグビーをするというのは浪人時代に決めたんですか?
そうですね。
—— 慶應大学に入ってみてどうでした?
入った当時の監督は三宅さん(清三郎)という方なんですけど、思ったよりはやりやすい環境でしたね。最初は「レベルが高すぎてついていけずに落ちこぼれになるんじゃないか」なんてずっと思っていなんですけど、やってみたら意外とスムーズに溶け込めて、試合も少しずつ出してもらえて、順調にステップアップ出来る環境だったなと思います。
—— 大学2年生くらいからはレギュラーだったんですか?
1年の時ですね。いま東芝にいる猪口拓さんが怪我をした時からレギュラーです。拓さんが4年の時ですね。
—— じゃあ、2番ですね そうですね。
—— 慶應大学ラグビー部の良さは何ですか?
「魂のタックル」とか言うんですけど、気持ちが凄いこもっているところですかね。理論的じゃないんですけど(笑)。
—— 気持を込めるということは、かなりのハードトレーニングをしているということですよね?
ハードトレーニングはしましたね。
—— 林監督も学生時代を「思い出したくないくらいのハードトレーニング」と言っていましたからね
やっぱり夏合宿が凄いですね。本当に山籠りみたいですよ。1年の時の合宿は3次まであったんですけど、1次が終わって1回帰ったときに人知れず泣いたりしましたね(笑)。
◆記憶に残るプレー
—— 自分で自分の性格をどう思いますか?
負けず嫌いではあるんですけど、その中でもポジティブな負けず嫌いというか、もし負けたとしても「次頑張ろう」って思えるので、気持ちが切れにくいんですよ。
—— それは何かがあってそういう性格になったんですか?
何かがあってというわけではないんですけど、大学1年の時からがむしゃらにやってきて、今年は出られないんだろうなって時も不意にキャプテンが怪我をしてしまって試合に出られたりとかして、たまに降ってくるチャンスをものに出来たからいいのかなと思います。
—— 体が強いというのがあるんでしょうね
そうですね。
—— それと1年の浪人というのが精神的なパワーを生み出しているんじゃないですか?
そうですね。理由づけがしっかりしているのはそこだと思います。
—— トップリーグで最初に出たのは第2節の九州電力戦でしたが、最初の試合というのはやはり印象的ですか?
やっぱり緊張しまくっていて、印象的というよりは無事終われて良かったという感じですね。
—— 月寒は初めてでしたか?
初めてでした。
—— 社会人でも出来ると思ったのはどの辺りからですか?
まだそこまで確信的にはいってないですね。まだ少しは出来るかなくらいですよ。
—— 話を聞いていると高校の時から同じ路線を歩んでいるというか、浪人や怪我などで外から見るということはあっても、基本的には自分のイメージは狂ってないですよね。
どうなんですかね。普通に生活しているだけなんですけどね(笑)。
—— 先ほど日本代表という話が出ましたが、短期的な目標と中長期的な目標は何ですか?
短期的な目標は、また試合に出られなくなってきているので、残りわずかですけど試合に出て記憶に残るようなプレーをしたいですね。長期的な目標は、2年目からは開幕からレギュラーが取れるようにやっていって、そしてその活躍で日本代表に選ばれて、そこでしっかりと良いプレーをして定着することですね。
—— レギュラーを獲得するためには自分にとって何が課題なんですか?
スクラムのライブでみんなの信頼や自分の自信をしっかりつけていくことが、今サントリーでやるべきことです。
—— それはパワーだったり技術だったりと色々あるんですか?
パワーよりは技術ですね。自分は結構落ちてしまうことがあるので、まずはそこからですね。
—— 趣味は何ですか?
なんですかね。本とか音楽ですかね。家に帰れば音楽がずっと流れていますし。
—— 何系ですか?
J-POPですね。
—— 本はどんなものを読むんですか?
現代小説ですね。社会人になって経済の本を読んだりもしてみたんですけど、よく分かんなかったですね(笑)。
—— 好きな作家は誰ですか?
昔は金城一紀さんが好きだったんですけど、今は重松清さんとかさだまさしさんとかですね。
—— さだまさしの歌も好きだったんですか?
いや、歌は全然聞かなかったんですけど、『解夏』(幻冬舎)などを読んで好きになりました。
—— 金城一紀のような素直な話が好きなんですね
めちゃくちゃでも、正統派になっているところが面白いですね。
—— ご両親が応援に来たりしますか?
そうですね。群馬から車で2時間くらいで来られるみたいなので、だいたい来ていますね。
—— お姉さんはどうですか?
姉も結構来ますね。
—— 林監督はどんな人ですか?
外では理論的なイメージがあると思うんですけど、現場に入ると熱い人ですね。試合が始まったら理論じゃねぇんだって感じです。試合の前は理論的なことを言っているんですけど、試合が始まるとそんなことは忘れている感じです(笑)。そこは面白いところですね。
—— 清宮監督はどうですか?
清宮さんは、このセオリーでいけば間違いないという自信が滲み出ていて、言われたとおりにやっていれば強くなるんだという感じでやっていますけど、まだそこまではつかめていないというか見えていないですね。
—— 最後に、ファンに一言お願いします
フロントローって初めて見る人には何をしているのか分からないと思うんですよ。ウィングと違って見ただけでは分からない部分があるんですけど、そういうところに興味を持って頂いて見て頂ければなと。その上で凄いと分かるように活躍できればと思っているので、まずは楽しんで見てほしいですね。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]