2008年12月10日
#162 ジョージ グレーガン 『コンタクトで勝たなければいけない』
◆日本語の理解力
—— 日本に来て何試合かやりましたが、日本のラグビーの印象は?
日本のラグビーはスピードがあって、スキルもだんだん上がってきていると感じます。サントリーはスクラムとかラインアウトがとくに強く、そこに重点をおいているチームなので、ポジティブに考えてそこを強化していくことが必要だと思います。後半戦に向けてゲームを理解して、ゲームの中でどこを修正していくかという全体的なマネージメントが、いちばんの鍵になってくると思います。
—— ゲーム中、ここに来てくれている筈なのに、いない、とかいう状況もありましたか?
やっぱりコンビネーションがそこには重要になってくると思います。いちばん最初、心(菅藤)と曽我部と組んで、それから野村ともやりましたけれど、日本語の問題がありました。日本語をまだ自分自身が理解していないので、同じような言葉に聞こえてしまったりしました。 自分の言語の理解力が上達していないので、そういうところで彼らとのコンビネーションが難しかったところはあります。でもそれは練習で調整していけば、どんどん解決していくことだと思います。そういう形でこれから前に進んでいければなと思っています。
—— オーストラリアでの代表戦でもスーパー14でも、ずっと勝って来ているジョージとしては、今は我慢の時ですか?
前の自分の成績と比べれば、個人的にはまだあまり上手くできていないかなという部分はありますが、チームとしてはかなりできてきていると思います。練習から始まって、何か月か経ってチームの内容はできてきているので、あと7試合、後半戦がファイナルに向けてありますけれど、トレーニングして一緒にチームとして戦っていくということが、これから勝つためには重要になってきます。 たくさん問題があるということはとてもいいことで、それを1つ1つ解決していくことでいいチームになっていくと思うので、いま自分としてはたくさん練習したり考えるところがあるという点で、いい状態だと思っています。
—— コンディションはいいですか?
コンディションはすごくいいです。いま少し首に違和感があるので、その部分はちょっと心配なところはありますが、全体的なコンディションはすごくいい状態です。試合が毎週ある訳ではなく、3回やったら途切れてとか、いままた中断期間だったりとかするので、次の試合をやるまでにはよりいいコンディションに持っていけるでしょう。
ヤマハ戦の前、すごく暑かったので、かなりみんな疲れていたと思うのですけれども、いまは完全に涼しくなってきたし、チーム全体としてもいまいい状態になってきていると感じています。
◆ルーティーンワーク
—— ジョージの世界最多キャップ139も凄いんですが、その間、17試合しか代表戦を欠場していないんですね。そのコンディショニングの秘訣は何ですか?
何回か怪我をしたことがあって、2004年には足を折ったこともあります。それ以外にも鍼治療で治したりという、ちょっとした怪我をしたこともあります。全体的に1つはラッキーだったということが大きな部分です。 もう1つは体づくりで、自分なりのルーティーンで、ウェイトリフティングなどを毎日毎日欠かさずやるという、自分の中でのルーティーンワークをやってきたことだと思います。
サントリーを離れてオーストラリアに帰っている時でも、マッサージをしてもらったり、必ずトレーニングをしたりしていました。毎日やっていることをどこにいてもやるということが、自分の体づくり、コンディションを整えるという面で大きいことだと思っています。それが怪我をなかなかしないということに繋がっているんだと思います。
—— ルーティーンの内容が固まったのは、選手何年目ぐらいですか?
最初に始めたのは奨学金をもらえるようになって、そこからラグビーを本格的にやろうとやり始めた時に、体づくりのことも考えて、自然にルーティーンワークをするようになって、それが19歳ぐらいの時ですね。
だんだん歳をとってくると、トレーニングの内容も少しずつ変わってくるんですけれども、ちょっとトリッキーというか"いいとこ取り"という感じで、ベースとしてやってきたある部分を少しカットしたりとか、ショートワーキングでありながらもずっとやってきたのと同じ効果が出るような形で、自分の中で少し短くしてみたりはしています。基本的には何をやっても、短くなっても、体をいいコンディションにもっていけるように、自分の体がそうなっています。
—— もともとのルーティーンワークというのは、オーストラリアのラグビーの中でしっかりと構築されているものなんですか?
トレーニングシステムというものは、各国いろいろなクラブでだんだんと確立されてきていて、ブランビーズ、ワラタス、そしてワラビーズでもかなりの選手がそういうルーティーンワークをやっています。
向こうのラグビーは1月の初めから12月3日くらいまで、1年を通してずっと試合をやっているので、夏などブレークはちょっとあったりしますが、その間に8~9試合のテストマッチがあったりするので、コンディションをキープしていくということは重要で、みんなその考えが統一されてきています。ですからいろいろなクラブにルーティーンワークが普通に導入されています。
◆なぜスキンヘッドに?
—— ジョージは暑いのと寒いのと、どっちが好きですか?
1年通して、どのシーズンも好きです。夏は海にも行くしビーチも好きだし、たまにビーチバレーをやります。スキーもするので雪が降る冬も好きです。四季折々に季節が変わっていくことが好きなので、日本はとくにいい国ですね。
—— ジョージはとてもハンサムですが...
おー、サンキュー、ありがとう(笑)。
—— ジョージの本に載っている写真を見ると、96年まではスキンヘッドでなかったんですね。なぜスキンヘッドにしたんですか?
アフロにしていた時は、髪を梳かすにも何をするにも、ひっかかったりとかで面倒くさかったので、それでもかなり短くしていたんですが、1回剃ってしまったら、もう楽で、これがいちばんいい、ということになりました。それからはずっと髪を剃っています。面倒くさくないので。
それまでは手入れしないとアフロ状態ですごいことになって、3人目の子供のジャズという娘はアフロで、すごく爆発している髪型なので、昔はそのような感じになってました(笑)。
—— 今朝か昨日か剃りましたね?
昨日の夜です。
—— どのぐらいのペースで剃っているんですか?
3~5日に1回、暑い時には3日に1回ぐらいです。普通の髭剃りで剃っています。
◆コンタクトの部分で勝たなければいけいない
—— 何歳の時に初めてラグビーをやったんですか?
10 歳の時にラグビーユニオンでプレーした時が初めてです。
—— 誰かにすすめられたんですか?
僕が卒業したセントエドモンドカレッジという学校には下から上までずっと学校があります。そのセントエドモンドカレッジに入学すると、この学校ではいちばんラグビーが強く、クリケットも強かったんです。
それでクリケットとラグビーのどっちにしようかということになりました。僕は 6 歳から 10 歳まで、ラグビーリーグの方でプレーしましたが、ユニオンとそれほど内容は変わりません。そこでラグビーを選択して、それからはずっとラグビー一筋でプレーしてきました。
—— 最初からラグビーを面白いと感じましたか?
その頃の年齢になってくると、楽しむことを覚えてくるので、実際にやった時には難しいというよりは凄く楽しく感じました。
—— どこに楽しさを感じましたか?
14 歳まではスタンドオフでプレーしていたんですが、キックとかパスとか、すべてのことにおいての楽しさをそこで覚えました。
—— 自分が上手いと思いましたか?
自分が上手いというか、少しはできる選手だとは思っていましたが、チームもいいチームで、アンダー 10 から 12 、 14 、 16 まであるんですが、そのすべてのチャンピオンになったチームでした。チームに凄く上手い選手たちが揃っていたので、それで楽しくプレーができたということもあります。
—— ラグビーをずっと続けていくぞと決心したのは何時ですか?
プロフェッショナルになったのは 1996 年に初めてブランビーズに入った時なんですが、大学の時もずっとラグビーをやっていて、 1994 年に香港セブンスのメンバーに入って、そこで初めてプロになってラグビーを続けようと決心しました。
—— そこまでで最も印象的なラグビーの思い出は何ですか?
小さい頃、いいコーチたちにたくさん会っていたし、自分もそのコーチたちにかなり発言したりもしました。練習も凄くたくさんやりましたし、コーチとの時間が今まででいちばん心に残っていることです。
そのコーチが言ったのは「ラグビーはコンタクトスポーツなので、その部分で勝たなければいけない」ということでした。「そこが強くなければいけない」という彼の言葉は今でもよく覚えています。
—— コンタクトスポーツというところが面白いなぁと思ったところですか?
そうですね、その言葉がいちばん自分に響きました。
—— 今のジョージも同じように思いますか?
15 歳で初めてコーチからそういう言葉を聞いた時から、今もずっと変わらずそれは自分自身の同じ思いになっています。
◆パスの魅力
—— ジョージにとってのラグビーの魅力は何ですか?
ボールのハンドリング、パスがいちばんラグビーの魅力だと思います。試合を繋げるパーツとしてはキックも大事ですが、やはりラグビーのいちばんの魅力としては、パスですね。
—— 具体的にパスのどういうところが楽しいと思いますか?
自分がこんなパスをしたから楽しいとか喜びを感じるとかではなくて、例えばパスをして、パスを受けた選手がそれを持って走るのか、またパスをするのかは選択肢によりますが、面白いゲームというのは、パスが凄く速くてボールが動くゲームなので、そこがラグビーの魅力だと思っています。それがイコール"魅了するラグビー"というものにも繋がると思うので、パスがいちばん魅力的です。
—— いつもボールを動かしたい、そこを見せたい、ということを意識しているんですね?
スタンドオフでずっとプレーしていたこともあって、プロになってもパスを凄く意識してやっています。今でもパスの練習をしますが、そのパスの精度とかタイミングによって試合がかなり動くので、やはりそこがいちばん自分の中で重要な要素になっています。
—— エディーさん(ジョーンズ)が「ジョージは恐い時がある」言っていましたが、試合中の写真を見ても恐い顔をしている時がありますね。それについて自分ではどう思いますか?
ハハハ(笑)。集中して選手たちに話したりとか、いろいろなことを伝えようとする時に必然的にそういう感じになってしまいます。別に怒っているからとか、そういう訳ではありません。集中して気持ちからくるものが、そういうふうに顔に出るんですね。
—— そういう顔になるのはリーダーとしての意識からですか?
ラグビーというのは激しいスポーツなので、かなり集中しなければいけないし、いろいろなことを伝えなければいけないスポーツでもあるので、そういう顔になるということもありますが、今まで自分の試合の中では、一度も他人に叫んだり、怒ったようなことはありません。
確かに直接誰かに対して発言をすることはありますが、怒るということは一度もないです。何かあったら謝ったり、自分はこういう理由でこう言ったんだよということを、後でちゃんと1対1でも話すことが重要で、そういうことを通して選手たちとコミュニケーションとることを、自分でも心掛けてきました。
見た目としてはかなり恐く見えるかもしれないですけれど、一度も怒ったりとか罵声を発したりしたことはありません。
◆褒めて育てる
—— 怒らないということは難しいことですが、それをジョージはどこで学んだんですか?
どこで学んだというより、そういうふうに自分で思っているんです。例えば誰かがミスしたとして、話はしますが過去は変えられないので、そこで怒っても次のプレーには繋がりません。
例えばそのことは忘れて、ここをこういうふうに練習して良くしていこうとか、基本的に先のことを考えてプレーしているので、何かミスしたことを怒るよりもそのミスが何故起こったのかということを考えて、じゃあミスしないようにここを変えていこうというやり方、誉めて育てるということを基本的に心掛けています。
—— エディーさんはもう1つ、ジョージは真面目だと言っていましたが、自分でもそう思いますか?
自分では真面目と言うか、僕はスウィッチするのを凄く速くできるタイプなので、真剣にやる時は真剣にやり、遊ぶ時には遊ぶ、そうしています。
エディーは僕があまりお酒も飲まないということを言っていたそうですが、僕はお酒も結構飲むし、プレミアムモルツも大好きです(笑)。家にもお酒が結構ありますし、真面目なところとおちゃらけるところと、自分は切り替えが速くできると思っています。エディーはたぶん、もっともっと僕のことを知っていると思うので、もっといろいろなことが聞けると思いますよ(笑)。
—— ジョージの垣間見せる笑顔から、僕はジョージが結構いたずらっ子なんじゃないかなぁという気がするんですが
いたずらは好きですね。他人にちょっかい出したりとか。
—— どんないたずらがありますか?
いい質問ですね(笑)...ワラビーズにいた時の話...... ケープタウンの海辺のカフェで、マット・ギドウ選手とお茶をしていました。僕は海の400mぐらい先を指差して「アザラシ(Cape Seal)がいるよ、ほら」と言ったんです。そうしたら、ギドウが信じて浜辺へわざわざ降りて行きました。
楽しみにして降りて行ってからよく見たら、「ただの藻だった」って言って、凄くがっかりして戻って来ました。波で藻がユラユラしていたので、アザラシに見えるんですね。
—— 仲の良い人にはそういうイタズラもするんですね
そうですね。
—— 日本のチームメートはきっとまだそういうジョージを知らないでしょうね
ちょっかいを出して、皆を笑わせるのも好きなので、徐々に(笑)。
◆パフォーマンスとコミュニケーション
—— ジョージはキャプテンをずっとやって来ましたが、キャプテンにとっていちばん大切なことって何ですか?
先ずいちばんはパフォーマンスですね。2番目はコミュニケーション。選手に何をするか、何をしたいか、ということを明確に伝えるところが、キャプテンシーとしてのリーダーシップの資質だと思います。
明確にしたことを話せば、選手たちもそれに着いてきやすいですよね。それに対して彼らも動きやすいということがあるので、そこをどうやって伝え、動かすかということのリーダーシップだと思います。
—— その方向性はヘッドコーチと共に考えるんですか?それともジョージなりのものを持っているんですか?
いいチームというのは、コーチとキャプテンが凄く近くにいて、一緒に動いています。自分から、コーチから、というよりも、すべてが繋がっているということです。自分から言ったこともコーチから言ったことも、選手たちはどちらにも更に話を聞いたりとか、その辺りはうまく噛み合っているという感じで、どちらからというのはないですね。一緒に動いているという団結力が強いんです。
—— ジョージが「あぁーっ幸せだなぁ」って思う時は?
ラグビーですか?プライベートなことも含めてですか?
—— 両方お願いします
プライベートなこととしては、やっぱり家族と一緒にいる時がいちばん幸せです。ラグビーに関して言えば、チェンジングルームで、いろんな選手が少しずつ自分の意見を言い合ったりする時です。それは勝ちたいとか勝つためだけではなくて、選手たちがいろんな話ができる、そこに一緒にいれる、ということが凄く幸せだと思う時です。
—— それは試合の時のロッカーということですね?
はい、そうです。
—— よく試合前に本を読んでいますが、どんなジャンルの本ですか?
特にジャンルのこだわりはありません。試合前には、たまに音楽を聴いたり、本があったら本を読むという感じです。本はロマンスコメディーとかは読まないですけれど、フィクションの推理小説などを読んでいます。
◆クラブを大事に
—— いろいろなところから声が掛かった筈ですが、なぜオーストラリアにずーっと居たのですか?
オーストラリアでワラビーズ(代表チーム)に選出されて、ずっとプレーしていたということもありますし、2003年のワールドカップでも優勝するチャンスがあったので、そこに向けての自分のモチベーションが高かったので、オーストラリアのチームに所属していたいという気持ちが強かったんです。
あとはオーストラリアでは凄くラグビーを楽しめたので、そこの部分がいちばん大きいですね。そしてクラブを信頼してやる性格、それを大事にする性格なので、いろいろなチームに行かずにプロになって最初のチームであるブランビーズ一筋で、そのチームに忠誠心を持ってプレーして来ました。
フランスへ行ったのは、代表を引退したのでいろいろな世界でプレーしてみたいと思ったからです。ブランビーズ一筋から、世界のラグビーを経験してみたかったし、フランスからも呼ばれたので行ったんです。代表を引退してブランビーズから離れる決心がつきました。
フランスで1年間やって契約も終わり、引退しようと思っていたんですが、そこでちょうどいいタイミングで日本からの話がありました。
—— それで行こうと思ったということは、先ずフランスの体験も良かった、ということですね?
そうですね。フランスで海外のラグビーの素晴らしさを知りました。日本では日本のラグビーの素晴らしさを体験し、またその日本ラグビーの発展に少しでも貢献できればと思います。
◆プレイグラウンドを造る
—— ブレーク期間に1回オーストラリアに帰りましたね。オーストラリアはどうでしたか?
はい、とても良かったですが、グレーガン基金の合同ミーティングとかで忙しかったです。
—— グレーガン基金は日本ではやらないんですか?
あぁ、もしかしたら(笑)。オーストラリアを周っていかなければいけないんですが、それもまだぜんぜん周りきれていないんです。シドニーとブリスベンに今回行きましたが、まだ他のところにも周らなければいけません。
—— それは周っていって、ジョージが仕組みを作ってるんですか?
プレイグラウンド(遊び場)を造っています。例えば針谷さんが「じゃあ僕はブランコを造る」と言ったら、そのブランコ代を出してもらって、そうやって皆で少しずつ出し合って、1つのプレイグラウンドを造るというやり方です。
—— じゃあその土地も確保しなければいけないということで、お金もかかりますね
そうですね。確かにお金はかかります。
—— プロジェクトはいつからスタートしたんですか?
2006年に最初のプレイグラウンドができましたが、お金を集め出したのは2005年からです。
—— プレイグラウンドは、いま幾つあるんですか?
シドニーに1つ、そして小さいのがブリスベンに1つです。病院と一緒にプロジェクトを進めていて、先ずスペースを確保するというところから始めているので、時間がかかります。ブリスベンではいま、その場所を待っている状態です。それができたらまた別の場所にという計画です。
—— とても長期のプロジェクトですね
はい。ランドウィック地区(Randwick)のクージービーチ(Coogee Beach)に1つ建てようと次の計画をしていて、法律上のOKサインが出るのを待っている状態です。それのゴーサインが出れば、来年造り始めて、たぶん1年以内に新しいプレイグラウンドができると思います。
—— ゴールがないですね
そうですね。
(通訳:白倉綾子/インタビュー:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]