2007年11月 6日
#116 エディー ジョーンズ 『サントリーの時代』
◆楽しかった
—— 南アフリカ優勝おめでとうございます
ありがとうございます。楽しかったです。
—— 監督時代と比べてすごくリラックスしているという話をフランスで聞きました
ヘッドコーチのテクニカルアドバイザーとしての仕事は、監督とは全然違うので、そういう面で楽しかったです。
—— 仕事の内容は戦術にフォーカスしてアドバイスするといったようなことなんでしょうか?
南アフリカの戦術、主にアタックのコーチをしました。ラグビーの部分だけを心配していればいいので、良かったですよ。監督のように大会中の生活のことや、飛行機での移動のことなどは考える必要ないですから。
—— 南アフリカのチームとしていちばんの出来だった試合はどの試合ですか?
初戦のイングランド戦です。最初の30分が良かった。その後は良いプレーがなかったんですが、逆に言うとそれを出すような展開になりませんでした。
—— それはなぜですか?
相手がそれなりの対応をしてきたからでしょう。
—— いちばん最初の試合にいちばん良いゲームができたというのは、大会へ入るにあたっての準備で何か特別なことをしたんですか?
決勝トーナメントでどこと当たるかということも左右する大事な試合でしたので、勝ったからこそ準々決勝でフィジーと当たったわけですし、大事なゲームになることは分かっていましたね。
—— エディーさんの個人的な希望としてはオーストラリアと当たりたかったんじゃないですか?
それはあまり考えなかったですね。自分の国を置き去りにするということではないんですが、プロのコーチとして、南アフリカが優勝することを第一に考えていました。感情は大事ですが、リベンジをすることを優先してはいけません。
◆常に新しいラグビースタイルが生まれてくる
—— 南アフリカは1敗もしませんでしたが、その強さは?
理解しやすいゲームプランがあって、いろんな状況にも対応できるプランだったので、やりやすかったですね。
—— 勝った最大の理由はなんだと思いますか?
選手層の厚さでしょうね。いろんな選手から代表を選ぶことができました。ラグビーの歴史も長く、どの時代でもチームにワールドクラスの選手が5人くらいはいるようなチームです。
—— エディーさんが加わったことで変わったと思うところは何ですか?
やはり戦術ではないでしょうか。常にパワーを重視したチームだったので、昔はそれほど戦術は重要とされていなかったんじゃないでしょうか。そこでまったく新しいプランを提案しました。対戦するチームの研究もしましたし、自分たちのチームをどう良くしていくかということもすごく考えました。
—— 南アフリカの人の性格として、それは浸透しやすかったですか?
すごくリラックスしていて、教わることにすごくいいリアクションをしてくれました。
—— その辺は日本人と似ていますね
日本の選手の方が教えるのは難しいですね。日本人は大学のラグビーの力が強くて、ラグビーの哲学をそこで教え込まれるので、教えにくい部分があります。
—— そういうときにはどうやってアプローチしていくんですか?
一度できあがっている哲学を崩していかないといけませんね。なぜかというと、疲れてくるとその哲学に戻ってしまう傾向があるので、コーチ陣が強い意志を持って、チームをひとつの方向に持っていく必要があります。
—— 今回のワールドカップでこれまでのラグビーとだいぶ変わりましたか?
ラグビーのいいところです。つねに新しいラグビースタイルが生まれてきます。1つのチームがあるスタイルで結果を残すと、他のチームもそのスタイルを取り入れます。アルゼンチンが大会の初めの方でキッキングスタイルで結果を残しましたので、他のチームも真似をし始めました。やはりキックの多いチームにどう対応できるかが大事な要因になりました。準決勝でそのアルゼンチンに勝てたのは、その対応ができたからです。
日本に来てからトップリーグの開幕節を何試合か見ましたが、やはりキックが多いですね。今シーズンは日本でもキックが多い試合が増えると思います。
◆勝ちに行かないといけない
—— エディーさんから見て、ワールドカップでのジャパンはどうでしたか?
がっかりしています。やはり勝ちに行かないといけないですね。「負けても点差が少なければいい」という感じが伝わってきました。基本的には体が小さい人種なのでそれはしょうがないですが、その中でも何をしなければいけないかを考えて、相手より多く点を取らなければなりません。ディフェンスももちろん大事ですが、優先しなければならないのは、相手より多く点数を取るということです。
—— ジャパンはそういう点でトレーニングする時間が不足していたという感じですか?
JK(ジョンカーワン/日本代表ヘッドコーチ)は、日本代表との時間が短かったので、コーチングスタッフを批判はしたくないんですが、今からできることは、4年後に向けて今からスコッドを編成して、ゲームプランを考えていくべきだと思います。
—— エディーさんもそれほど多くの時間がなかったのではないですか?
僕は世界トップクラスの選手たちをコーチしていたので、その点は問題ありませんでした。いい選手がたくさん出てきているので、それをどう配置するかでした。薫田さん(真広/前東芝監督)や清宮さんのような若いコーチたちも、国際経験をした方がいいですね。
ワールドカップの決勝に出るチームのスターティング15は、15人全員のキャップの合計が650必要になります。なので、ワールドカップで良い結果を出す選手は、40キャップくらい持ってる選手ばかりですね。だからジャパンも早めにスコッドを決めて、次のワールドカップに向けて試合を重ね、経験させていかないといけないと思います。
今回のアルゼンチンのメンバーは、99年から一緒にプレーしている選手たちばかりでした。でなければ、良い結果は出せなかったと思います。
—— フランス人のお客さんはすごくラグビーに精通していましたね
はい。トンガ戦はサッカーの盛んな地域で行いましたが、4万人が集まりました。
◆小さなこと、細かいことを良くしていく
—— 日本に来て、トップリーグの開幕戦を見た感想をお願いします
サントリーは良いゲームをしました。今年はサントリーの時代になると思います。厳しい時代を乗り越えて、すべてのものができ上がってきていると思います。選手も良いですし、スタッフも良いですし、プレースタイルもすごく良いです。
—— 東芝には5年ぶりの勝利でしたが、海外でもよくそういうことはあるんですか?
どこでも起こることですね。毎年何人かが引退して新しい選手が加わってきますから、ある程度そういったサイクルはすべてのチームにあります。強いチームは悪いサイクルから抜け出すのが早いですね。
—— 今後サントリーが気をつけなくてはならないことは何でしょうか?
常に前に出ていく姿勢が大事です。「1mゲインすることは簡単だけど、1cm単位で良くしてくことは難しい」という意味のことわざがあります。今は小さなこと、細かいことを良くしていくことです。
—— エディーさんから見て今年は優勝できると思いますか?
はい。
—— 南アフリカのコーチは今大会で終わりですか?
はい。これからは南アフリカにはハンティングに行かなければなりません(笑)。
—— 今後の予定は?
4年間サラセンズ(イングランド・プレミアシップラグビー所属)と契約しています。ヨーロッパチャンピオンにするために頑張ります。これからの3年間は、南アフリカでやったようなポジションで他のチームとやりたいと思っています。2011年以降はインターナショナルコーチをしたいですね。日本に来ることもあるかも知れませんね。
—— 日本にはどれくらいいるんですか?
トータルで4~5週間、3~4か月ごとに来るつもりです。
(インタビュー&構成:針谷和昌/通訳:ジェフリー・カトラー/編集:植田悠太)
[写真:長尾亜紀]