SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2007年6月 6日

#91 高野 貴司 リーダーシップメンバー 『自分のチームだと思えるチームに近づいている』

◆若いメンバーの成長が楽しくて

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—— リーダーシップメンバーになってくれと言われた時のことを教えて下さい

正式には、大悟(山下)から電話がかかってきて、「高野さん、リーダーシップメンバーをやってもらいたいんですけど、電話で失礼なんですけど、いいですか?」って言われて(笑)。去年1年、大悟がキャプテンをやって、もう1回大悟がチャレンジするなら手伝おうと思ったので、「やります」と言いました。

チームが若くなったから、もうそんなことを僕がしなくてもいいのかな、と思うところもあったんですけど、僕は去年、試合にそんなに出ていないですし。出てないけどBチームの若いメンバー、試合に出れないメンバー、そいつらの成長がすごい楽しくて.....。

自分ももっとプレーしなくちゃいけないんだけど、若い奴らの成長が結構、一緒にやっていてわかって楽しくて、去年はBチームの中の"声の掛け役"みたいな感じだったんですけど、今度は「そのままそれをチーム全体にやってくれればいい」と言われたので、単純にAチーム、Bチーム、みんなに同じようにやっていけばいいのかなぁと思ってます。

—— 去年からフォワードのまとめ役をやってましたね

Bチームのメンバーというのは、すごくモチベーションが難しくて、Aチームは試合に出てどんどん成長していく、Bはいろんな考えや試合に出れない不満とかを持ちながら練習している中で、どれだけモチベーションを落とさずにAチームに対してチャレンジできるか?

そういうふうにやろうとした時に、去年は坂田さん(正彰)がいて、あと僕がいたという形でした。坂田さんはかなりのベテランですし、坂田さんは坂田さんですべてをコントロールできるという感じだし、いちばん下の奴らから見ても坂田さんというのは凄い人じゃないですか。

坂田さんはずーっと試合に出てきて、今このポジションにいるという感じなんですが、僕の場合はどっちかと言うと、たまにしか試合に出れない状況がずーっと何年も続いてきてて、それで僕もやらなきゃいけないし、Bチームとしてもやらなきゃいけないというところで、自然とやっぱりポジション的にバックローの仕事になってくるんですよね、そういうのって。スクラム組む時にしろ何にしろ、うるさく声を掛けてやっていて、それが自然にそういう状況になってきたという感じなんですけど。

—— グラウンド以外での相談なんかもよくあるんですか?

とくに相談という訳ではないですけど、会社とかで、順二(高谷)とか俊平(伊藤)とかアズ(東野憲照)とか同じ事務所にいる奴らとは、たまに2人だったり飯食いに行ったりした時には、そういう話になりますね。「もっとチームこうした方が...」とか、「僕はもっとこうした方がいいですかねぇ」みたいな、そういう話です。

◆いちばん上がってる奴のところに持っていく

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—— 他の人のモチベーションを上げようとする時のポイントはどこでしょうか?

ラグビーって1人でモチベーション上げようとすると、ほんとそいつ自身の問題で、とくに如実にわかるのは瀬川(貴久)なんですけど、すごいんですよコレが、上下が、ハハハ(と笑いながら手で浮き沈みを表現)。

でもみんながそれをわかってきて、セッさんがそういう気持ちになってると、盛り上げてあげようとするんですね。みんな多かれ少なかれそうなんですけど、周りからそういう声が掛かった時に、やっぱり人間って反応するんですよ。1人でモチベーション上げるのではなくて、周りが凄いやってるところに自分が入って行った時に「あ、おかしいな」と気づくんでしょうね、体がたぶん本能的に。

みんなモチベーションが上がったり下がったりすると思うんですけど、いちばん上がってる奴のところまで持っていくんですよ。僕は常になるべく下がらないように、いちばん上のモチベーションでやれるように、これはいろいろありますけど、自分の基準を決めて、自分はここまでやったら自分の中ではいいんだ、というのを決めて去年は1年やったんですよね。それはまぁいろいろ自分の中での基準があったということで、その中身は秘密なんですけど(笑)。

—— 今年は与えられたものでなく、自分たちで何かを作っていこうというところも絶対に必要だと言ってやっていますね

去年1年やってみて、清宮さんという凄い存在があって、清宮さんはラグビーに対していろんな情報を持ってきてくれて、それをいろんな形で僕らに言ってくれる訳です。それで去年いろんなプレーが始まって、けど実際シーズンが終わってみたら、確かに与えられたことをほとんど吸収して強くなってると思いますが、ですけどもう一歩のところで、もう1個アイデアがあれば、極端な話をすると、アイデアと言うよりも自分でやろうとする気持ちがもう1個あれば、トヨタにあぁいう負け方はしなかったかもしれないと思います。

要は清宮さんが言ったような型にはまった時には、しっかり何でもできるけれども、それがちょっとはずれたのがトヨタとの試合だと思ったんですね、シーズンが終わった時に。それで清宮さんはいろんな情報はくれるけれど、もっと自分からラグビーに対して興味を持って、いろんな試合を見て、こういうことをやってみようとか、考えてもいいじゃないかと思ったんです。たぶんみんなそう思っているだろうし、清宮さんが言ってることを自分の中でアレンジして、もっと新しいことした方がラグビーが楽しいだろうと思ったんです。

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◆去年は言われるままやっていた

—— トヨタ戦の負け方は、それ以外の負けとは違うので、そういう考えが出てきたんですね

トヨタ戦前には、そういうことはそんなに感じなかったですね。やっぱり1年目で結果を見てみないとわからないというのと、実を言うとトヨタ戦にあぁいう戦い方になったのは、あぁいう戦略で行こうとチームで決めたんですけど、見てる方としては、あそこをあぁいうふうに行った方がいいんじゃないか、というところがありました。

例えば前半あるフェーズプレーを使ってやろうとチームで決めていたんだけど、俺たちから見たらそのフェーズラインになっていない、一緒に練習してきたような形にしっかりなっていなかったんですね。それなのに「後半どうしよう」って考えた時に、そのフェーズではちょっと上手くいけないから、別のフェーズに変えようということで変えたらしいんですね。

でも僕からしてみれば、前半そのフェーズをちゃんとやっていないのに、そのフェーズができないっていう判断をした、そこがちょっともったいないな、と思ったんです。

—— 上(スタンド)から見てると気がつくけど下(グラウンド)でやっている方は気がつかないということがあるのでは?

それはもちろんあると思いますし、ハーフタイムとかに言う機会も今回はなかったんです。でも僕が言う言わないではなくて、出ている選手が「まだやりきってない」と清宮監督に言ったら、その後のやり方も変わったかもしれません。

—— 「選手がもっと意見を言ったら清宮監督の考えも変わったかもしれない」というのは山下キャプテン(大悟)も言っていました。2人はたぶんその話を直接してないと思いますが、考えていることが一致しているなぁと思います。

いや、話してないですね。清宮さんが入ってきて、去年はみんな清宮さんに対してみんな遠慮してたと思います。僕もそうですけど、遠慮してたってのもあるし、悪い言い方をしたら言われるままやってた。けど、やってみて、ここはこうした方がいいんじゃないかと言えば、清宮さんからもそれに対して違う答えが出るかもしれない、と思います。そういうコミュニケーションがもっと必要だったということです。

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◆口にできなかったことを口にしよう

—— コーチングスタッフがオーストラリア&ニュージーランド研修に行った時、言われたことだけじゃなくて、自分たちで工夫しようという話をしてましたね

もともと清宮さんがスーパー14の試合をテレビで見て、こういうプレーを春にやってみようという提案があった時に、だいたいおおまかなことだけ言って、旅立っちゃったんです。で、それをビデオで何回も見て、練習方法としては普通にディフェンスするよりこうやった方が、最初はわかりやすいなだとか、そういう確認を大悟としました。

—— 去年よりもやること増えてますね

やること増えてますね。1個言われたことに対して、それをやって上手くいったらまぁいいや、というだけでなく、オプションを増やすという意味でも、去年は口にできなかったことを口にしようということですね。

—— 去年で選手を辞めようと思った、という話をチラッと聞きました

そういうこともありました。昨シーズンが終わってその後のアンケートがあるんですが、引退すると書いて清宮さんのところへ持って行ったんです。なぜかと言ったら若い子たちが入ってきて、「試合に出場できるのかなぁ」「できないのかなぁ」と考えて、「できないな」と。いろんなことを考えても「できないな」と思ったんです。

それで清宮さんと話をしたんですが、そこで清宮さんと今までになかったコミュニケーションを、初めて取れたんです。「僕に何を求めているか?」「ふだんどういうプレーを目標としてほしいのか?」っていうのを、その時初めて知ったんです、清宮さんが考えていることを。例えばの話ですが、シノ(篠塚公史)は6番でずっとフランカーをやっていて、シノには身長があってラインアウトを取る役割をやっていて、そこは僕には無理じゃないかと思ったんです。で年齢も30歳手前だし。

そう話して返ってきたのは、「俺も確かに去年、ラインアウトという意味でお前を土俵に上げていなかった。けど、試合に負けてみて、やっぱり攻撃的なライン、アタックラインにもっと重きをおきたい。そのためにもう1年お前やってくれ」そういうふうに明確に言われたんです。そういうふうにちゃんと僕に対してのビジョンを持ってくれてるんだったら、僕の辞める理由と噛み合わないなと思って、それでやろうと思ったんです。

◆新しいことをやっていこう

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—— 前回インタビューした時に「ライン参加する自由さ」が面白いと言っていましたが、それと同じことなんでしょうか?

意味合い的には一緒じゃないんですけど、それを僕は評価されてなかった、と感じてたんですけど、実はそうじゃなかったということです。

—— ではモチベーション高いですね、今

高いです、高いです。それが違うから、やっぱり高いです。

—— 年齢的な衰えとかは

もともと体力ないですからね、はっきり言っちゃうとフィットネスは。ウエイトでいくら重いのを挙げたって、持久力がないですから。高校、大学の頃から(笑)。この歳になると、もちろんそこを伸ばさないといけないのはわかるけど、ほかにやることがある、もちろんそこもカバーしなきゃいけないですよ、それは言われましたけど、そこにばっかりこだわらないで、新しいことをやっていこうかなと思ってます。

—— 自分でも新しいことやろうとしてるし、チームとしてもそうだし、楽しみですね

戦略はもちろん新しいことをやるんですけど、プレーも新しいことをやろうということで、やっぱり新しいことをやるのは楽しいですよね。

—— で、張り切っていたところに怪我しちゃったんですね、軽くて良かったですけど

はい(笑)。

—— 今年の目標は?

やっぱり試合に出たいということが、僕の中でいちばん目標としていることです。

—— ポジションは?

ポジションは、フランカーで。もちろん、どこでもいいですよ。

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◆素晴らしいチームになる

—— チームの目標としては?

アンケートの今年の抱負のところにも書いたんですが、優勝を目標とするのは当たり前で、ほかにチームとしておおまかに言うと「素晴らしいチームになる」ということを目指して、優勝とか結果じゃなくて1人1人が「サントリーが自分のチームだよ」という気持ちをもっと持ったチーム。ハッキリ言って僕が入った1年目というのは強い時代でしたが、入って試合に出れなくてBチームでやっていて、「俺のチームなのかな?」と疑問に思っていたチームでした。

おそらく今の若い子たちはそういう気持ちは持っていないと思うけど、もちろん試合に出れないのは悔しいけれど、チームとしてやってきたことでチームが勝って優勝して喜べるような、ミーティングで清宮さんが言ってたけど、「Bチームの下からトップまで全員が同じ熱さでいれるようなチーム」、それが目標ですかね。

—— 何が必要なんですか?同じ熱さを持つには?

コミュニケーションももちろんですし、さっき言ったようにモチベーションが下がっている奴がいたら、上げてやるのも必要だし、あと新しいことをやるっていうことをもっとみんなが意識したら、新しいことってすごく楽しいことだと思うから、その辺ですかね。

—— 自分が下がっちゃったらどうするんですか?誰か上げてくれるんですか?

上げてくれますよ!他の人たちが、Bチームにいても元気ないと、イセ(伊勢田彬人)とかアズ(東野憲照)とか順二(高谷)とかも「やりましょうよ!やりましょうよ!」と盛り上げてくれてます。ラインアウトとかのプレーでも、相手のラインアウト役を去年やっていたので、太一(田原)とか若い奴らも「やりましょう、自分たちで」「東芝イメージして」とか、僕が下がってる時にも自然と若いメンバーからの盛り上げがありますよ。

—— 入ってきた当時より今のサントリーの方がいいチームだということですね?

僕はそう思います。入ってきた時は優勝しましたが、その時に比べたら格段に「自分のチームだな」って思えるチームに、どんどん近づいています。

—— 素晴らしい状態で、辞めるなんてもう言ってられませんね

そうですよ(笑)。

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(インタビュー&構成 針谷和昌)

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