SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2007年5月31日

#90 小野澤 宏時 バイスキャプテン 『自分の走りのチャレンジ』

◆誰も満足してない

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—— 日本代表として戦ったクラシック・オールブラックス戦はどうでしたか?

今シーズンに入っていちばん強い相手だったので、純粋にどこまでできるかチャレンジしようということしかなかったですね。自分たちがアタックし続けるというリスクに対して、2試合目は1試合目よりもチャレンジできませんでしたし、単純なキックが多すぎたというか......。

—— 小野澤選手が抜け出して、そのまま行けばトライになったのでは?というシーンもありました。

あれ抜けた時は、いつもだとライン際で内側から後方の選手が来る状態なので、外を向いたりしながらとかして、カバーに来る人間が何人どれぐらい来てるかを、自分の中で全部わかった状態で走ってくるんです。あぁこれ走ろうとか、ここ内に切ろうとか、もうある程度1人目よりもその裏のことを考えて走れるんです。

でもあの時はブラインドサイドになって、スタンドオフがいなくなって僕がスタンドの位置に立って、相手のプッシュが速かったので、そのディフェンスのいちばん内側を抜いて裏に出た形だったと思います。自分よりも左サイドのカバーの人数がちょっとわからないまま、ロムー(ジョナ/WTB)が下がってフルバックの位置に立っていて、僕らから見て相手の左サイドのアウトサイドセンターが真っすぐ下がってたので、僕が走っていって右に抜いたら、真っすぐ帰っている奴に捕まえられるなというのがありました。

その左側のカバーの人数がどれぐらいいるのかというのを確認するのが、僕の中ではちょっと時間がなくてできずに、後から聞けば「いなかった」って言われるんですけど、自分の中では真っすぐと右側ばっかりを見ていて、内側に切って外に向いちゃったので、逆のサイドにどれくらいいるかがわからなかったんです。

それで裏にボールを転がそうと思って蹴ってしまったんですが(苦笑)、もうそれが悔やまれます、僕の中では...。左が空いてたってみんなに言われるんで、ショックで...そのまま真っすぐから左へ行けばと...。しかもまさかあの1回しか、自分の中できっちりチャレンジできてアタックできることがない、とは思ってなかったので...。

—— 清宮監督は試合観戦後、サンゴリアスの代表選手たちも不満だろうと言ってましたが、カーワン(日本代表ヘッドコーチ)は満足している部分もあると記者会見で言っていました。

カーワンも満足は絶対してないと思いますよ。練習していたことが全く出てないし、あんなに安易に陣地を取っていこうなんていうことは練習してなかったし、もうちょっとディフェンスを広げるための、キック、パスとかそういうポジショニングを取っていながら、1回もそういうプレーができなかったし、だから誰も満足してないんじゃないかと思います。

◆成功する確率を上げる

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—— 選手側から見ての今後の課題、あるいは解決策は?

あれだと前回のワールドカップの時みたいな感じで、トライを取られるまで時間を稼ごうというか、とりあえずエリアで戻してディフェンスし続けて、スコア的にはあれぐらい、でしかないじゃないですか。やっぱり攻撃する意志を見せないと、攻撃し続けるとか、自分たちがアタックをしていくというリスクを、リスクとして感じるんじゃなくて、それによってもっとディフェンスをコントロールするっていう、そういうことをずっと4月の頭からやってきてるんで、その精度を高めることをリスクとして受けるんじゃなくて、もっと成功する確率を上げるような練習をして、アタックとしてもっと仕掛けていかないと、何かこれでどこで点取るんだ?ってあるじゃないですか。

—— 個人的な課題あるいは達成感は?

いやぁ~何にもないですねぇ...。ただ思い切ったアタックをスタンドオフが選択できない不安感を、与えてしまったバックスラインだったのかなぁっていうのはあります。やっぱりスタンドオフがそれを選んだから何だ、みたいなことじゃなくて、ここなら圧倒的に勝てるという、ところまで意識づけができなかったのかなぁと思って、個人の反省ってやっぱりそこら辺りかなと思います。

—— サントリーから日本代表に選ばれていた5人のうち、有賀(剛)選手が落ちましたが。

ズバッと言っていいのかなぁ?...剛には何度か練習中にも言っていたんですが、剛の欲しいタイミングでボールが来なかった時に、何かそこでプレーが終わっちゃう時があって、選ばれた剛士(立川/東芝/FB)ってその辺がプレーに深みがあると言うか、インサイドありきで自分のプレーがあるという、そういう感覚があります。

自分が欲しいところに欲しいタイミングで来ないと「えっ?何で来ないの?」という剛と、そうでない剛士の違いがあって、そういうのを剛もきっと感じながらやってたと思います。剛士には余裕があるというか、去年やっぱり剛は怪我して、それからバッチリと思い切ってできてない、というところはあるんじゃないかと思います。

—— それではいい意味でここで鍛えなおして、みたいなことはありますね?

まぁそうですね。でも大丈夫ですよ、剛はぶっ飛んじゃってるんで(笑)。

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◆自分のことだけ考えている

—— 小野澤選手自身は選ばれて当たり前という感じでしたか?それとも争いは激しかったんですか?

そうですね。まぁそこまで身体的に大きくないし、何をどうするのかが結局わからないと、例えばウイングに求められるのはパンチだみたいなことだけですと、結構あいまいとしているじゃないですか。トライを取るだけのことであれば、誰にも負けない自信はあるんですけども。だから当たり前かどうかは、自分ではよくわからないですね。

—— 他の残ったメンバーはどうですか?

あんまりもうなんか、代表へ行っちゃうと自分のことしか考えてないので(笑)、あんまり同じチームだからどうこうというのもなく...。

—— キャリアからしてバックスのリーダー役的なことはやってるんですか?

前はジミー(ジェームス・アレジ/NTTドコモ関西)と廣瀬(俊朗/東芝)がやってました。

—— でも2人とも抜けちゃいましたね。

どうするんだろう?わかんないす、まったくもう、そういうのないので(笑)。本当に自分のことだけ考えてますから、自分がどうやってアピールするかだけですから。このスケジュールの中でどう自分のパフォーマンスを落とさずに、自分のルーティンを崩さずにやっていくか、ということだけしか、この1か月は考えてなかったです。

—— 月近くまでシーズンがあって、あまり休みもなく代表の合宿があって、肉体的にしんどいところはないでしょうか?

代表ってそんな感じなんですよ、結局。去年や今年、初めて選ばれたわけじゃないので、代表に行っちゃうとこうだよなぁって思いながらやっていて。だから年間を通して追い込むところで追い込まないと、という意識で自分では国内シーズンの時にやれていると思うので、それに対しての驚きとかストレスみたいなものはないですね。変に「試合期なんで」と維持することだけしていると、後は落ちてくだけなので。

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◆ステップが思い通りに

—— トップリーグ中もそういう意識で鍛えていたということですね。

はい、去年は春シーズンに体を作れたので、正直もっと春シーズンに自分のルーティンの中で、試合に向けての維持じゃなく、あるいはチャレンジするということだけじゃなく、本当に体を作りたいという気持ちは確かにあったんです。去年の春はその部分で嬉しかったなというのがあるんですが、まぁ代表ってのはこんなもんです。ラグビーだけしていれば体がデカくなるっていうタイプでもないので、本当にやり込んでトレーニングと栄養、そのバランスをしっかり保てないと、痩せていっちゃうと思います。

—— その面でいちばん気をつけてるのは?コツというか?

僕の場合はウエイトトレーニングをきっちり入れることですね。代表としてもこれをやれというのはあるので、そういう中でそうじゃない時間を取れる時に、どれだけできるか、みたいな感じです。

—— プレー自体は毎年どんどん良くなって、ピークを更新しているんじゃないかと思うんですが。

はい、自分でもそう思います。頑張れなくなったら、辞めようと思っています。あまりその、いろんなスキルとかが上手いって訳でもないので、自分のフィジカルで勝ちにいきたいっていう部分で、スピードを上げることとかに純粋にチャレンジできなくなったら、引退しようと思っています。

—— 近い将来トップリーグのトライ数歴代1位になる可能性があります。そのトライで進化しているところは?

スピードが上がったなぁと。瞬時のスピードというか、切れのスピードが上がりました。ステップが自分の思い通りに切れる感覚があって、その角度つまり走っていって、横に切れるなぁって感じがあるんです。スピードに負けて自分の走ってる前へ行くような角度が浅くなっちゃうようなことがなくて、バァーってこう、真横にいけるようになりました。

—— それができると自覚したのは、いつからですか?

去年の春シーズンの時に、相手が外を抜かれたくないのに、外をノータッチで抜けたりとかできた時に思いました。僕ってなんかこう綺麗に抜いてくタイプじゃないので、やっぱりこう半分ずらして抜いてくっていうのがあって、相手にできる限り近くに寄っていって、そこから横へスピード勝負という感じで行くんですね。

—— それは去年の春に感じたんですね?

春の時に思いましたね、昔よりも自分のスピードをコントロールできてるっていうことが。

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◆本当に試したかった

—— ではまだまだ進化中ということですね?

そうですね、去年よりも"クリーン"とかも挙がっていますし。

—— それは他の人にも伝えられるものですか?

例えば僕の中でそれがクリーンがどれくらい挙げられるかというのは、単純にどれぐらいの強さで地面を蹴れるかということじゃないですか。そういうことを数値化していくだけでしかないので、伝えるとか教えるということではなくて、やる、ということだと思います。

—— クリーンとステップとの関係は?

僕の中では僕よりも体重がなくて、僕よりもクリーンを挙げる奴でなければ、自分の体をコントロールすることでは負けないと思っています。体重100kgの奴が僕よりもクリーンが挙がらなければ、その力をコントロールできないので前に行っちゃう、そうするとステップとしては角度が浅くなるんじゃないかなと思います。

—— クラシック・オールブラックス戦ではそのシーンがなかったですよね。

それを本当に試したかったんですよ、だからショックなんですよ.........それが何よりショック、もう..........。

—— これからワールドカップに向けてその「走り」ですね、見てほしいのは。

走りを見て欲しいですねぇ.....。自分もその走りがどこまで行けるのか、ほんとチャレンジしたいんで、だからもうショックですね今回は、ほんとショックですね、あぁショックだ........。

—— サントリーではバイスキャプテンです。キャプテンからは何と要請されたんですか?

いや、何も...。とりあえず、ザワさんはバイスキャプテンで、と言われただけなんで、自分としても、キャプテンがチームの長(おさ)ですから、それが選んだらイエスと言うしかないですね。でも今にいないんで、どんな影響をチームに与えられるかもわからないので、戻ってきてからですね。

変に自分の中で、こういう仕事をしようみたいなことを、いないながらに考えちゃうと、戻った時に現実とのギャップがあると思うので、戻ってきながら、大悟(山下/キャプテン)の調子も見ながら、大悟と話し合いながら、やると思います。

—— 去年ゲームキャプテンやった経験があるから、今年はいい意味で楽だなっていうのはありませんか?

いやぁ~、いまこっち(サントリー)にいないので、プレッシャーみたいなものもないです。

◆チームが強くなってきてる時

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—— 去年とチームの体制が違ってそれぞれがそれぞれの活動をやってますね。

ワールドカップイヤーというか、昔もチームが強くなってきてる時って、代表にもたくさん選ばれて、昔は代表に9人も選ばれた時があるんですが、やっぱりこうでしたよね。

—— 東芝が変わりました。

その辺も全く意識してないです、まだ。それよりも土田さん(雅人/元サントリー監督)の頃もそうだったんですが、サントリーがチームとしてやろうとしてることの目標と、違ってくるかもという焦りはあります。清宮さんもそうだろうし、だからサントリーで自分がチャレンジするという意味では、マイナスなのかなという焦りはあります。

でもそういう時ってチームが強いのかなと。昔もそうでしたから。今それに似た感覚があるので、帰ってきてから代表の選手がそこに入って1個ずつズレてくっていうのじゃなく、俺らが代表にいっている間にサントリーのラグビーを吸収した、というアドバンテージがあるよっていうみんながいてくれるはずだし、昔はほんとそうだったんですよね。ですからそこらに焦り感はありますね。

—— 今年のテーマは?

個人でいいんですか?ワールドカップに向けてのチャレンジしか考えてません。ワールドカップではチームとしても勝ちますが、自分として走りで状況を打開できなかったらウイングとしてどうなんだ?って。そう思っていたいなぁと、4年間思い続けてきたので、自分の走りのチャレンジが、とても楽しみですね。

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(インタビュー&構成 針谷和昌)

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