2007年5月 7日
#88 山下 大悟 キャプテン2年目 『豁然大悟』
◆もうちょっと
—— 「豁然大悟」(かつぜんたいご・かつぜんだいご)という言葉をこのあいだ初めて知りました
仏教の言葉ですよね。
—— 大悟という名前はここから来てるんですか?
後付けでこういう意味がある、と親父は言ってたんですが、もともと高見山大五郎(大相撲)が好きで、大五郎にしたかったんだけど、お袋の大反対にあって、大悟にしたんですよ。で、「郎」を取って「大五」にするときに、こういう意味を考えて「大悟」にしたそうです。
—— 豁然大悟の意味は「いままで塞がっていた眼界が急に開けてすっかり悟ってまったく疑念がなくなること」だそうですが、いまの楽しそうに練習している山下選手にピッタリ当てはまるのでは?
復帰できて、練習できてるけど、まぁまぁ6割ぐらいっていう感じじゃないですか(笑)。
—— 完全復帰したのは4月からですか?
そうです。
—— そうすると怪我が治るまでにかれこれ1年半ぐらいかかったんですね?
そうです、ちょうど1年半じゃないですかね、怪我してから。
—— それだけ時間が経つと、例えば走ってみると体が重いとか思うような感覚でないとか、いろいろあるんじゃないでしょうか?
まぁ、リハビリで走ったりはしてましたが、実際にラグビーの練習の中で走ってみると、まだまだだなと感じます。そういう感じですけど、まぁ、できなくもないかな(笑)、という感じですね。
—— この1年半の間に、体、とくに上半身が確実に大きくなったんじゃないかと思うんですが、その体の違いは動いてみて自分で感じますか?例えば走ってみて体が前より重く感じるとか
そういうことはないですね......そういうことで言うと、まぁ、まだですが、良くなった点とすれば、上半身が上手く使えるようになったかなと思います。肩の肩甲骨まわりを意識したトレーニングを常にしてきたので、凄く柔らかくなりましたね。腕は大きく振れば振るほどいいじゃないですか。腕が大きく振れるようになって、力が出せるようになったとか、それからパスが速く放れるようになったとかっていうのはありますね。
—— そうすると下半身が戻ってくれば、全体はグレードアップですね?
そうですね、そうだと思いますね。怪我する前はフルスクワットのマックスが195kgだったんですが、その数値はバックスの中でいちばんで、でもいまはマックスでたぶん160kgぐらいですね。で、クリーンも怪我する前は115kgだったんですが、いまはまだ100kgとか105kgなんで、もう ちょっとですね(笑)、はい。
—— 左右の足のバランスは、リハビリで解決してるんでしょうか?
いやぁ、まだですね。ただ、できないこともないからやってるんですけど、まだですね。
◆何かが足りない
—— 今年は幸いなことに約2か月シーズンスタートが遅いので、自分としてはまだまだ時間があるという感じですか?
ピッチは上げていますよ。
—— その上げ方の加減は?
どこまで上げるかの判断の基準は、自分の主観です。後は新田さん(博昭/ストレングスコーチ)と相談したりしてやってます。
—— 状態はいいってことですね、不安はありませんか?
自分の中で、何かが足りないんです。具体的に言うと、大腿直筋が弱いですね。そこをもっとトレーニングして、膝のスタビリティ(柔軟性)を上げていけば、問題ないと思います。
—— そのために毎日やっていたりすることはありますか?
ウエイトとトリートメントをやってます。ウエイトは大腿直筋、トレーニングとトリートメントは膝のスタビリティのために。当然、毎日ですよ。みんなが練習に来る前、朝の間にやっています。進捗状況はいい感じです。
—— どのくらいのペースで最高潮に上げていく予定でしょうか?
早く上げていきたいですね。それが早ければ早いほどいいと思っています。具体的にいつ?というより、もう1回ハワイへ行きたい、ハハハハハハハ(笑)。
—— ハワイ?もう1回ということは既に行ったということですね?
3月に家族旅行で行きました。ハワイは1年振りでした。
—— そういえば、ハワイで体がよくなったと言ってましたね
ハワイには何かが宿っています、何かが.....。行った人はみんな言うと思うんですけど、すべてがいいですよね。
—— そういうところへ行くと体の調子がよくなるということは、精神面も体にリンクしてるということですよね
僕の経験上、精神的なものは大きいと思っています。" whatever " " whenever "ですよ。いつでも、何でも、" everything OK "で、リラックスしているみたいな...。「ハワイアンタイム」を買いにいくんですよね、みんなハワイへ行くことに対してお金を払うということは。
—— 他にそういう空間、場所はありますか?
考えると、沖縄かなぁ...わかんないですね。暖ったかくて、海が綺麗で.....そういう感じでしょう。ずっと居たら飽きるのかもしれないですけど。
◆僕と高野さんでアレンジ
—— 最近の練習はどうですか?
いま監督と直人さん(中村/フォワードコーチ)と敬介さん(沢木/バックスコーチ)が、ニュージーランドへ行っています(※インタビューは4/26実施)。行く前に「こういうメニューをやってくれ」みたいなものを渡されて、それをもとに練習をやってますが、それをこなすだけだったらまったく面白くないので、僕と高野さん(貴司)で毎日ミーティングルームでビデオを見て、その中で与えられたメニューをアレンジしてやってるんです。最初にやり始めたときよりも、みんなのイメージとかが明確になってきていて、いまみんなが物凄く上達していると感じています。
清宮さんのブログにあったと思いますが、いまは"パーツ"をやっている段階です。"パーツ"というのは例えば「長くて速いパス」だとか、専門用語でいうと「ステップイン」とか「オーバータックル」です。そのパーツの部分が、みんな非常に良くなってきたなと思っています。
—— 監督たちが帰ってきたら、期待以上の成果が上がっているのでは?
実際に毎日、監督やコーチが見ていないので、リクエストと同じイメージでできているのかは別にして、監督たちがいないということで、こなすだけの練習をやっちゃうとどうしようもないので、その中で自分たちで、こうじゃないかとか、もっとこうしたらイメージがつきやすいんじゃないかとか、僕と高野さんでやってることが大事だと思うんです。こういう時期に主体的にやることが大事であり、イメージをどんどん共有していくことも大事だと思うんです。
—— 今年は海外留学してる選手とか、日本代表合宿に参加してる選手とか、去年と比べてみんないろいろなところでやってますね
取り組んでいることはそれぞれ違うと思いますが、僕らの基本は府中にあるし、僕らが府中で取り組んでいることの成果は凄く出ていて、手に取るようにその成果を感じているところです。仮に監督たちのリクエストしたことと、いまできていることのイメージが違ったとしても、「これこれこういう考えでやっている」ということをしっかり言えることが大事だと思うんです。そうすれば"キャッチボール"ができますから。去年はキャッチボールが少し足りなかったと思い ます。
清宮さんはそのままでいいと思うんですが、選手はこういうふうなんだということが監督にわかるようにコミュニケーションを取ったり、選手が言ったことから監督がさらにイメージを膨らませたりとか、そういうやりとりが大事だと思います。去年はそこが少し足りなくて、本当の大事な試合やトーナメントへの対応力がなくなっちゃっていたんじゃないかと思います。より主体的にやっていかないと、試合のときの対応力に欠けてしまうと思うんです。
—— それが最後の東芝戦とかトヨタ自動車戦に出たんでしょうか?
東芝戦についてはそう思います。
—— トヨタ戦は?
トヨタとの試合はそれ以前の問題ですね。やろうとしていることが、まったく出せなかったので、あの試合は別です。トヨタ戦は、気持ちの問題というのではないと思います。歯車が噛み合わなかった、ということです。相手のモチベーションが良かったとか言われてますが、気持ちの問題は大した問題じゃない。歯車が合わなくなったときに、上手くチェンジできなかったとか、そういうことの問題だと思います。グラウンドでプレーするのは選手ですから、それを上手くやっていくのは、キャプテンの仕事だと思っています。
◆ハートが折れない
—— キャプテンとして今年のリーダーシップメンバーを選んだ基準は?
直弥さん(大久保)とザワさん(小野澤宏時)の2人がバイスキャプテン(副将)ですが、うちのベテランはみんな本当に素晴らしくて、若手と同じトレーニングをやって、なおかつもっとやっている人もいます。そんな中でも人間としてプレーヤーとして、とくに僕が信頼しているのがこの2人です。
直弥さんは本当に、ハートが折れないですからね。直弥さんには若いフォワードを引っ張ってってほしいと思いますし、ザワさんはいままで通りにやっていってくれればいいと思っています。リーダーシップメンバーの高野さんは、ここ数年みんなのリーダーです。そしてもう1人、耕太郎さん(田原)は、客観的にサントリーのラグビーを見ることができるので、いろんな意味でどんどん発言してほしいということで、リーダーになってもらいました。
—— 新人4人がようやく練習に合流しましたが、どうですか?
怪我していて練習には参加していない選手もいますけど、バックスの成田くん(秀悦)、スクラムハーフですが凄い速いです。彼は春のうちにどんどん成長するだろうし、そうしたら相当いいんじゃないですか?
—— すべて順調そうですね、キャプテンとして心配事はないですか?
心配はとくにないです。
—— 今年の目標は、当然2冠ということになりますか?
もちろん2冠です。圧倒的にいきたいですね。他のチームの監督や選手が変わったりとか、いろいろあるんでしょうけど、強敵ばかりなので、しっかりとやったいきたいと思います。
—— 個人的な目標は?開幕スタメンですか?
いまのところは開幕よりも、もっと前に試合に出ます。そして当然開幕には出るつもりです。足の回復が6割であること以外、問題ないですよ。そしてチームとして、去年できたこととできなかったことがチームの中にありますが、できなかったことができるようになるだけじゃなくて、できたこともプラスしてもっと大きくしていきたいと思ってます。もっとこういうふうにしようとか、どんどんイメージが膨らんでいくようなチーム、それで強いというチームにしたいですね。
(インタビュー&構成 針谷和昌)