2007年3月29日
#84 佐々木 隆道 ファン投票MVP 『日本代表になって親にジャージを渡したい』
3月3日、サントリー府中スポーツセンターで行なわれたサンゴリアス・フレンズ「第5回ふれあいイベント」に来場されたファンによる投票の結果、佐々木選手が『サンゴリアス2006-2007 MVP』に選出されました。
[MVP投票結果](上位6名) | ||
1位 | 佐々木 隆道 | 38票 |
2位 | 小野澤 宏時 | 28票 |
青木 佑輔 | 28票 | |
4位 | 平 浩二 | 23票 |
ライアン ニコラス | 23票 | |
6位 | 有賀 剛 | 18票 |
◆自分のプレーが通用しない
—— ファンによるMVP選出、おめでとうございます
ありがとうございます。
—— 選ばれた瞬間の気持ちは?
えっ!?と思いました。これまで毎回、何とか賞というものがある度に、周りから「お前、可能性あるよね、あるよ」なんて言われていたんですが、実際に受賞したことはありませんでした。それで長谷川慎さんの格好の餌食になっていましたので(笑)、今回は本当に選ばれて、嬉しかったしビックリしました。
—— トップリーグのベスト15にしても、外国人を含めライバルが多いですね
ポジション的にも、いちばん激しくてクレバーな選手が多いところなので、これまでは選ばれなかったのかなと思っています、よくわかりませんけど(笑)。
—— 今シーズンは新人ながら全試合に出場しましたが、自分での1年目の評価は?
最初は自分のプレーがぜんぜん通用しませんでした。ずっともどかしい気持ちでやっていたんです。結果を出さなきゃいけない、自分の納得するプレーをしなきゃいけない、と思いながらもそうはいかず、でもチームは勝っているという状態が前半戦にあって、精神的にきつかった時期でした。
その後1か月間のブレイクが幸いなことにあって、いろいろな人と話す機会が多くあり、自分のプレーを見直す時間を作れたことが大きかったと思います。後半、その成果もあっていい調子でいけて、そのままシーズンを終えられることができたというのが、ざっとした今シーズンの流れです。
自分で自分を評価してみると、だんだん対戦相手も1人の嫌な選手として見てくれだしたかなと思います。そういう相手の評価も踏まえて、内面もプレーも成長した1年だったと思います。
—— 最初に通用しないと感じたのは、どういうところですか?
僕がボールを持ち込んで、そこでターンオーバー(攻守逆転)される回数が多かった。僕のラグビー人生を考えても極めて多かったんです。清宮さんからも指摘されて、個人トレーニングもしました。
—— もう少し具体的に言うと?
基本的なところなんですが、ボディコントロールやボールコントロールです。元さん(申騎)、康太さん(上村)に手伝ってもらって、清宮さんが横にいてという形で練習したんですけれど、やっぱり先輩たちは上手いんですよね。そういう先輩のプレーをしっかり盗むことができて、後半はボールを取られなくなりました。
—— いろいろな人と話したのはどんなことですか?
チームの中で言えば、ご飯を食べながらちょっと話をしたという感じですが、選手ですと直弥さん(大久保)とか、心さん(菅藤)とかですし、親とも話をしました。親には具体的な話はしませんが、話すだけで気がまぎれますから。両親両方と話しますし、花園での試合のときには、いつも大応援団で来てくれます。
—— 見直したプレーというのは?
口では説明しづらいんですが、春シーズンに取り組んでいたタックルシチュエーションです。エル(アラマ・イエレミア前バックスコーチ)に教えてもらっていましたが、相手を芯でしっかり捉えることが、後半でき始めてきたんです。
ラインの中でどういう足の運び方をするかなどの、タックルの基本の一部です。具体的には、タックルのポイントでのフットワーク、しっかりと肩でヒットすること、相手を両手でバインドすること、倒したらすぐ立つことなどです。
自分の中でもいいタックルが入った感覚を持てるようになってきました。積み重ねてきたものが、ブレイク期間の後に出始めました。
—— 精神的にきつかったところは?
メンタル的に弱っていたので、まず気持ちの充実を図ることが、いちばんでした。自分の思うようにいかなくて、ラグビーをしていること自体がつまらなくなってきそうな感じがする一方で、普通にラグビーができることは幸せだ、ということも重々わかっているので、そこの間の葛藤がすごくありました。
後半、純粋に楽しんでラグビーをすることができ始め、楽しくやっていたら結果も出て、最後は最高でした。
◆NEC戦のトライ
—— 後半、最高だった試合、あるいは最高のプレーは?
NEC戦の時のトライです。
—— あの、左右にステップを踏んで体を前後に揺さぶって、相手を抜き去っていったトライですね
そうです。奇跡の(笑)。あの辺りから気持ち的にもノッてきましたね。それまではああいうプレーをしたいと思っていても、できませんでした。
—— 練習のふとした瞬間、一連のプレーが切れる直前に、佐々木選手はよくあのプレーの動きをしていましたが、以前にやったことはなかったんですか?
大学3年生まではやっていたと思います。4年で怪我をして、今思うとそれからそういうプレーを避けていました。ほんと「忘れてた感覚やなぁ」っていう感じでした。
—— 今シーズン最も印象的な試合は?
マイクロソフトカップの決勝と、日本選手権で負けた試合は、一緒ぐらい大きい試合でした。2つとも何もせずに終わった試合なので.....。決勝は申し訳ないというか、開始5分ぐらいで怪我して20分まで出ましたけども、チームにとって自分がマイナスでしかないという感覚があって、あんなに辛い試合はなかったです。
それでも信頼してくれているスタッフと仲間に応えられなかったことに対して、今でも残念な気持ちが残っています。負けた試合だとかそういうのではなくて、悔しがる資格もない試合でした。
—— もし勝っていたとしても、その気持ちは変わらないものですね
仲間が頑張ったから優勝して、それに便乗しているだけだと思って、心の底からやったとは思えなかったと思います。僕は試合の途中で退場したのは、今まで2回しかないんです。今まで唯一だったのが、高校生の時の練習試合でしたが....あ、あるわ、もう1回、今回で3回目!でした(笑)。
2回目は大学4年の慶応戦、春の招待試合ですね。関東学院のことしか見てなくて、試合には負けていませんが、足下をすくわれた時の試合でした。1回目の高校の時の退場は筋肉系の打撲でした。相手のキックをチャージしにいったら、膝蹴りを受けて僕の体が空中で1回転したんです。あれはヤバかった。治療も痛かったですし。
トヨタ戦(日本選手権)は1年間やってきたことを、まったく出せずに終わってしまいました。スクラムからのパスもミスしまくりでしたし、前の日の雨と花園の砂利.....あれ砂利ですかね.....やっぱり砂利だと思うんですが、ボールにすごく付いていて、とてもパスしにくいボールだったんです。「あぁ、たぶん届かんなぁ...」と思いながらやっていました。
冷静だったら、それを心さん(菅藤)にも声に出して事前に言っていたと思うんですけど、冷静さを欠いていたんですね、あの時は。この悪条件の中でも、自分はできると信じたかったんです。言い方を変えると、「できない」と言うのが嫌だった。言ったら負け、みたいな感覚です。
—— それが冷静さを欠いていたということでしょうか?次回もし同じ状況になったら?
次回そうなったら、言います。
◆中学の時に走っていた道を走った
—— 新シーズンへ向けての抱負をお願いします
まず今年できなかったことをしっかりやることだと思います。セットプレーもぜんぜんダメでしたし、バックスもパスのスキルにせよキックの使い方にせよ、精度が低かったと思います。まだまだ優勝するレベルではなかったんだと思います。
優勝するべくして優勝できるようなチームになるために、まずは今年出た課題を絶対にクリアしなきゃいけない、それプラスアルファーがまだあって、自分が大事にしているところなので、あまりチームメンバー以外に公表したくないんですが、一言で言えば、流れをつかむプレーをしていかなきゃいけないということです。
—— 小野澤ゲームキャプテンは、いろんな意味で個を強くすることが大事と言っています
個人として考えてやるということは当然のことで、考えながらラグビーをするというのは今まで通りの僕のスタンダードです。僕はワークレートという、ボールキャリアだったりタックルの数だったり、スイープ(※)に何回入っているかとか、そういう数値はチームの中でも高い位置にいます。
※ スイープ
sweep/ボールにプレーしようとする相手プレヤーを
掃くように押し退ける行為。ラック形成の時に使われる。
ボールに離れて行われれば反則。(以上JRFU用語集より)
ワークレートは高いのですが、僕の場合、成功率が低いんです。例えば今まで20回タックルに行って15回成功、5回ミスだとすると、17回のタックルでいいから95%の成功率、16、17回成功するプレーをやっていきたいと思っています。そういう成功率ですべてのプレーをやっていきたいんです。
そのためには、すべて基本だと思います。体を強くすることと、基本プレーをもう1回しっかりとやること。初心に返ってそれを楽しんでやりたいと思っています。
—— 新人で全試合出場した疲れはありませんか?
体の疲れは取れています。ずっと体と相談しながらやってきましたし、自分の中でキレもあったし、ずっと動いていましたから、最後の怪我だけが残念です。
—— 日本代表候補にも選ばれていますね
日本代表はラグビーをしていたら皆が目指す場所ですし、まずはそのチームに選ばれるように、自分に負けないようこの1か月を過ごしています。これから40人に絞られますが、それに選ばれたら最終メンバーに選ばれるよう、またそこから気持ちも新たにやっていこうと思っています。日本代表になって、親にジャージを渡したいですね。
—— リスタートはどんな感じですか?
日本選手権に負けて1週目はまだチームの行事もあったので、府中(サントリースポーツセンター)でずっと自転車を漕いでいました。2週目に実家(大阪)に帰って、地元の懐かしいところ、中学校の時に走っていた道を走ったりしました。それから恩人に会ったりしてリフレッシュしました。
実家から戻ってきて「ふれあいイベント」があって、その翌週から徐々にペースを上げてきています。3月末の日本代表候補のフィットネステストに向けて、自分の中でしっかりとイメージできていますので、どんな結果が出ても後悔はありません。
4月からブログを始める予定です。可能であれば、僕を応援してくれる人たちとのコミュニケーションの場にしたいと思っています。応援だけじゃなくて、悩みごとでも相談でも、何でもいいので僕でよければ(笑)送ってください。
こういうことをしてほしいとか、うちの小学校に来てラグビーを教えてほしいとか、時間があれば行きますし、何でもいいですから送ってきてほしいなと思っています。
(インタビュー&構成 針谷和昌)