SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2007年3月15日

#82 小野澤 宏時 ゲームキャプテンが振り返る 『優勝するチームはもっと個人が強さを出せているチーム』

ウイングとして今シーズン16試合にシンビンでの退場10分間(トップリーグ第2節ヤマハ発動機戦)以外フル出場し、すべての試合でゲームキャプテンを務めた。

◆アライブの原点である意志

小野澤 宏時 画像1

—— すべての試合でゲームキャプテン、お疲れ様でした

疲れました(笑)。シーズン中、何かいろいろ考えなきゃいけないのかなぁという空気になった時もあって、1年間の中で波がありました。僕自身はこういう役職に就いていない時にも、キャプテンに引っ張られてやろうと思ったことはありません。だから「キャプテンは誰がいいか?」とシーズン前に監督に訊かれた時、「キャプテンは誰でもいいです」と答えました。キャプテンというものに対しての「?」が、今シーズンの僕のスタート時の気持ちでした。

僕が任された委員(※)という役目のイメージは、フィジカルの重要性とか、グラウンドに立つまでに選手個人がしてこなければいけない準備とか、地味な部分だけどチームが必要としている裏付けの部分を見せることだと思っていました。でも夏合宿入った時に、大悟(山下)が怪我からまだ復帰できないかもしれないと感じて、大悟が試合でキャプテンをできない代わりにということで、ゲームキャプテンを引き受けました。

 ※キャプテン(山下大悟)、バイスキャプテン(長谷川慎・浅田朗)、委員(小野澤・サイモン メイリング)の5人がサンゴリアス2006-2007のリーダーシップメンバー

—— リーグ戦では最初から2試合目、最後から2試合目に負けただけで、その間はチームの状態も良かったですね

すごく良かったです。ほんとにチームが上手く回転している時は、ゲームキャプテンはいらないと思いました。チームのどこかが不安になった時にこそ、ゲームキャプテンは必要になってくる気がします。今年は「Alive(アライブ)」というチームスローガンができましたが、2試合目のヤマハ戦で負けた試合では、アライブの原点である意志が抜けちゃっていたなと思いました。チャレンジするためにやってきたんだということを思い出して、それからは本当の意味でアライブという言葉をターゲットにやってこれたと思っています。

小野澤 宏時 画像2 小野澤 宏時 画像3

◆大悟と2人でよく話し合った

—— マイクロソフトカップ準決勝のヤマハ戦でも、最後は何とか逃げ切りましたが、同じような状態になりました

何でしょうか。結果が出てしまうことを怖がったんじゃないかと思います。そういう状態になった時に、チームを引っ張り上げる術は、プレーでも言葉でもないのかなぁと思いました。そう思うとキャプテンの必要性がまたわからなくなりますが、そういう時にチームの芯になるもの、核になるものが必要だし、誰かに引っ張ってもらわないとできない選手ばかりじゃ優勝できないとも思いました。

本当に優勝するチームには勢いがあって、もっと個人が強さを出せているチームだと思いましたし、そうやってユラユラ揺れている時に、1本真っ直ぐなものにするというところで、キャプテンというものが必要なのかもしれません。そしてその多少の揺れを、僕は感じられなかったんだろうなと思いました。キャプテンには必要なことをやっていくという役割があって、そこに自分に足りなかったものがあったと思うし、一方でキャプテンを必要としないぐらいの個人の強さが、チームにも足りなかったと思います。大悟に申し訳ないなと思いました。

—— そうは言ってもサンゴリアスも小野澤選手も成長したのではないでしょうか?

シーズン最初の頃よりも確実に変わってきていますし、その過程では大悟、隆道(佐々木)たち、リーダーのイメージがあるメンバーとよく話しました。今までは微妙なポジションだったので、そういうことに関して、話したことがなかったんです。大悟との意志のズレを、できるだけなくす必要があると思っていました。僕らは山下(大悟)キャプテンの元に集まったメンバーですから...。

ですから僕が不安になった時は「お茶の時間をとってもらっていいですか?」と言って(笑)、2人でよく話し合いました。僕が迷った時にこうしようという思いと、大悟が思うものとは違っていたので、早く戻ってきてほしいなと思いました。ずっと大悟が戻ってくるまで、という意識でやっていましたが、途中の1か月のブレイク期間に入るちょっと前の頃に、大悟の今年の復帰は無理なのかな、自分が最後までやらなくちゃいけないのかな、と思いました。

◆いちばん深くまで届いた言葉

小野澤 宏時 画像4

—— ポジション的にゲームキャプテンはやりやすかったですか?やりにくかったですか?

ウイングだからある程度全体を、余裕を持って見ることができたのかなとも思いますが、フランカーやセンターの人たちの体を張ったプレーとも違ってくるので、すごく戸惑いました。2戦目のヤマハ戦で負けた時に、僕だけではどうしようもないと思って、皆の手を借りようと思いました。それで皆を集めた時に、スタンドオフの敬介さん(沢木)や心(菅藤)に、「フォワードをコントロールしていてどう?」とか、話を振ってみたりもしました。

とにかくヤマハ戦でも、インゴールに皆を集めて意見を聞くと、個々には皆正しいんですね。そこから一歩踏込んで、「皆わかってるんだから、ここからこうやろうよ」と言い出せなかったのが悔やまれます。いや、シンプルに「こうしよう」と言ったんだけれども変わらなかった、という感じです。でも2戦目のヤマハ戦より、マイクロソフト準決勝のヤマハ戦の方が手を尽くせました。

2戦目を負けて終わった後に監督から簡単な一言がありました。「お前ら最後までアライブできたのか?」という言葉です。エリアマネジメントとか、今年いろいろな大切な言葉がありましたが、いちばん深くまで届いた、いちばん響いたのはこの言葉でした。あの試合は足をつっていたんですが、でもそんなこと関係なく、実際そうだなと思いました。あの西京極のスタジアムの外の暗がりの中で言われた言葉です。それを胸にずっとやってきて、準決勝のヤマハ戦は、最後の最後で止めることができましたから、いいんじゃないでしょうか。

—— そこを乗り越えての決勝の東芝戦でしたが

最後、ロスタイムが4分と出ました。ここの最後のところで、僕は左サイドにいたんですが、これはリーダーうんぬんではなくて、選手個人としてミスしてしまったことが、いまだに悔やまれます。「43分35秒」という電光掲示板もしっかり見えていました。なぜかノーハーフ(※スクラムハーフがいない状態)で、ラックになったので寄っていって、寄っていく時は「これで終わる」と思いました。

それでボールを持って、自分で突っ込んでいくなりまたポイントを作るなりして、あと15秒、20秒使えば良かったのに、実際あと15秒、20秒で終わると思っていたにもかかわらず、パスを心(菅藤)に放ってしまったんです。ぜんぜんダメでした。最低ですね。選手個人として、最低。終わると思ったのに、何でパスしてしまったのか。あの後の相手の最後のワンプレーが3分間続いたんです。いまだにあの時のボールの感触も残っている感じです。最低です。

◆スマートで乱暴でなかった

小野澤 宏時 画像5

—— 今シーズン最後となってしまったトヨタ戦はどうでしたか?

先を見過ぎたのでしょうか。シーズン終盤にかけて、結果がでちゃうことに対して、皆怖いと思っていたような気がします。言い方が難しいんですが、試合が始まってしまったら90分後には結果が出ちゃうということで、妙に慎重になっていたというか、勝つということに慎重になり過ぎていたのか、勢いがなかったですね。

負けたら終わりというトーナメントの闘い方を意識したのかもしれませんし、でも皆リラックスしていてピリピリした感じでもなく、怪我をしているメンバーがいたりと、いろいろあったのかもしれません。最後の方にきて、試合前のミーティングでアライブという意志のことを話さざるを得なかったなぁ、そういう状況だったなぁというのはあります。

闘う意志、そこは最初に示したアライブじゃないですか。トヨタ戦でも相手にペナルティがあった時、9番(田中澄憲)、10番(野村直矢)とゲームキャプテンの僕がプレーの選択している間に、アライブチャンネル(※よりアライブできる選択肢がある場合、決まった形よりもそちらを選択する)ということからすれば、他の選手がチャンスだと思ってクイックでいこうという動きがあってもいい筈です。「ここはタッチキック」「ここはペナルティゴールを狙おう」と勝利するために慎重に話し合うというのではなくて、そんなことは関係なくて目の前のそのワンプレーを全力でやれば、自ずと道は開けてくる筈なんです。そこを「勝つために」と慎重になりすぎて、結果的に消極的になってしまっていました。

とてもスマートで乱暴ではなかった。言い方を変えると「個を活かすために組織がある」という、今年のチームフィロソフィーの「個」がなかった気がします。個の強さの集まりがチーム、という形でいいと思うし、トヨタに2トライ差離された時、「ウイングを馬鹿にしてんじゃないよ。インゴールから走っても、11秒12秒でトライ取ってきてやるよ」、そう思いました。

でもキャプテンとしてそれを言うべきなのか?ウェールズ戦の時を思い出します。残り38秒で再逆転されて次のキックオフに向かっている時、当時のサントリーのメンバーにキャプテンの直弥(大久保)さんが「お前ら、あきらめんなよ」と言ったんですが、「誰もあきらめてねーよ」と皆が答えたんです(笑)。ある種の乱暴なイメージが、今シーズンの最初の頃はあったんですが、最後にかけてなくなっていました。

小野澤 宏時 画像6

◆新田さんに感謝

—— トヨタ戦の後は、チームはどんな状態でしたか?

サントリーというチームは、確実に成長していると思います。実際にそれを感じたのは、最後のトヨタ戦が終わった翌週初めから、ウエイトをしている選手がいました。もちろんそういうトレーニングは継続してやるべきことだと思いますが、伊勢田(彬人)をはじめ皆がやっていたんです。個人個人が敗戦を噛みしめて、熱が残っているなというのもあるし、個人の強さの重要性も感じたんだろうなということも思いました。

—— 選手としてほぼフル出場、自分なりの評価は?

毎年小さい怪我とか捻挫とかで1試合、2試合は出ないんですが、今年はなかったんでホッとしてます。休めるポジションじゃない、というのもありましたし、怪我うんぬんよりも、フィジカルの面でウイングとして必要な部分、こだわらなきゃいけない部分で、去年よりも実感できるくらいアップしています。具体的には、足の速さとか、ステップとか...。それが実感できたことにビックリしてますし、新田さん(博昭フィットネスコーチ)に感謝しています。

ベスト15を取れたのも新田コーチのお陰だと思うので、いただいたトロフィーを新田さんにあげようかなと思っているんですが、そういうところで嬉しい顔をしないんですよ、新田さんは(笑)。「俺は当然のことをしたまでよ」と、嬉しいくせにそういう顔をする姿が目に浮かびます。それがイメージできちゃうので、渡すきっかけがないんです。だからそっと家に送ります。

—— 新たなシーズンはワールドカップの年でもあります

代表として僕が4年前のワールドカップに出た時に感じた「4年後はこうありたい」という姿とは、まだまだ差があります。ランナーとしての速さと強さの面で、まだまだ足りていません。もっとでかくなっても今以上のキレを持てるくらい、体のコントロールができてる姿を思い描いていましたので、それから考えると時間がないなと思います。参ったなという感じです。そういう点で、春シーズンがとても重要な年になります。

(インタビュー&構成 針谷和昌)

一覧へ