2007年2月27日
#79 篠塚 公史 新人で全試合フルタイム出場 『陰ながらチームを引っ張っていきたい』
新人ながらトップリーグ開幕戦からマイクロソフトカップ決勝戦、そして日本選手権準決勝戦までの全試合にフルタイム出場。
◆気持ちの切り替え
—— 全試合フルタイム出場はきつかったですか?
かなり。後半は自分に鞭打ちながら頑張りましたが、体がきつかったですね。それを気持ちで乗り越えました。
—— 気持ちでどうやって乗り越えたんですか?
気持ちの切り替えをしっかりとしました。会社での仕事とラグビーの両方をやっていますが、仕事の時は仕事だけ、ラグビーをやっている時はラグビーだけ考えるようにしました。そういう気持ちの切り替えができて、乗り越えられたと思っています。会社の周りの人たちも応援してくれるので、そのまま応援してもらえるように、ずっと頑張らないとと思いました。
—— 仕事とラグビーと、プライベートは?
プライベートはシーズン中はちょっとだけです。ついこのあいだ、お台場のナイトクルージングに初めていきました。癒されましたし、リラックスできました。夜景とか、好きなんです。
—— 気持ちを上手く切り替える方法があるんですか?
気持ちをコントロールしながら仕事にもラグビーにも集中しよう、そういう考えでサントリーに入ったので、自分で考えながらやってきました。仕事もラグビーも両方やらないと、将来が不安だったんです。ラグビーを辞めた後のことも、一応計画的に考えておこうと思っています。他のチームは仕事をしないという話を聞いて、今ラグビーをやっているうちはいいかなとも思いますが、やっぱり仕事もやらないといけないと思って、サントリーを選びました。
◆ラグビーだけに集中
—— 今年は練習が早く始まるので、新人もなかなか仕事をする時間がないのではとベテラン選手が言っていました
はい、シーズンに入ったらほとんど仕事はできませんでした。会社自体がラグビーをやっていることに対して理解してくれていますし、課長とかにも「今はラグビーだけに集中しろ」と言われています。
それでも不安はありますね。今はラグビーに集中しなきゃいけないんだと思いますが、仕事もやりたくてサントリーに入ったので、やらないことがちょっと不安です。
—— 将来の計画は具体的には?
具体的な絵はまだ描けていません。今やっている仕事はスーパー担当なんですが、とても楽しいのでしばらくはこのまま、この担当の仕事をしていきたいと思います。
—— 仕事の楽しさは?
始めた頃は「これ、どうなのかな?」と思っていたんですけれど、ラグビーで今年サントリーは注目されていましたので、お店の人も見てくれてるんです。それでお店の人も「ガンバレ」って言ってくれますし、たまにお店でオバちゃんに話しかけられたりします。「デカイね、何やってんの?」「ラグビーやってます」なんていう会話をしてます(笑)。
◆何もかも初めて
—— 日本代表スコッドに選ばれました
僕はまだ全体的にパワーとかが弱いし足りないと思っているので、選ばれるとは思ってもみなかったです。選ばれたのはもちろん嬉しいですけれど、不安もありますね。
—— 結構、いろいろと不安に感じる慎重派なんですね
不安ばっかりですね、何もかも初めてなんで...。よく「運動量ある」「走ってる」と言われるんです。チームのみんなからも「凄いな」とか言われるんですが、そういうところに期待されているのも不安です(笑)。今度体力測定があるんですが、このフィットネステストで落ちたら、チームに帰ってこれないんじゃないかと思っています。そこが不安です。
—— でもまだ1か月ありますよね
もちろん鍛えますが、その間にセブンス(7人制)の合宿も入っているんです。7人制はずっと行きたかったんです。だから選ばれて良かった。今シーズンは自分のところまで話が来なくて、残念に思っていました。丈嗣(藤原)がアジアで金メダルなんて取っちゃって、僕もすごくやりたいなと思ってたんです。
—— じゃあとても楽しみですね
はい、凄い楽しみです。日本代表の方もありますし。
—— 清宮監督はスコッドに選ばれた9人に「帰ってくるな」と言ってますね
そんなこと言われて、凄いプレッシャーですよ。そんなプレッシャーかけられたら、帰って来られません(笑)。
◆絶好調が怖いところ
—— 7人制と日本代表と日程はどうなっているんですか?
2月27日~3月4日にセブンスの合宿があります。セレクション合宿です。ここで選ばれると3月19日~25日の国内合宿に行きます。そして26日から4月4日にかけて香港で大会があります。国内合宿と日本代表の体力測定が重なってますから、セブンスに選ばれた場合は、測定をして香港に合流という形になるんじゃないでしょうか。
とにかくセブンスも楽しみですし、日本代表も楽しみです。今のうちにいろいろ経験したいですね。
—— 楽しみばっかりで不安がることはないんじゃないでしょうか?
今まで挫折したことがないんです。順調にきすぎてると思います。絶好調なんですが、それが逆に怖いところでもあります。
—— 1年目からサントリーのレギュラーになれたのは、自分ではどこが良かったと思いますか?
大学生から社会人になって、意識が変わったなと自分で思います。スクラムを組んで、ラインアウトを飛んでおけばいいと、学生時代は思っていました。今はフィールドプレーでも目立ちたいし、いろいろ最初の方はタックルとかミスしてばっかりだったんですが、段々よくなってきてると思いますし、タックルに入れると気持ちいいですしね。
エル(アラマ・イエレミア バックスコーチ)とかも練習が終わった後に教えてくれたりして、毎日が勉強になっています。
◆開幕戦はビックリ
—— 開幕戦はどうでしたか?
開幕戦の先発メンバーに入ったことは、自分でもビックリでした。自分では1年目は体を作るくらいでいいかなと考えていたんです。最初からは無理だと思っていたんですが、メンバーに入っていざ試合に出てみたら、トップのレベルで試合ができることが面白いし楽しいし、ずーっと出たいと思いました。
—— 出来はどうでしたか?
緊張しまくりました。だからほとんど覚えていません(笑)。夢中になりすぎてました。
—— その緊張が取れてきたのは何戦目ですか?
秩父宮でいちばん最初にした試合です。3戦目の日本IBM戦ですね。秩父宮は大学時代にやり慣れているし、ホームグラウンドみたいな感じがしました。それでノビノビできたと思います。同期の人たちも応援に来てくれて、バックスタンドで毎試合見てくれていました。
その応援が試合中に聞こえちゃうんでうすよね(笑)。それ聞くと、リラックスするというか力が抜けちゃう、それが良かったですね。思いっきりできました。大学時代にはあり得なかったですからね、自分の名前を呼んでもらえるなんて。
◆運動量と背の高さ
—— レギュラーを取れたポイントは自分ではどこだと思いますか?
清宮さんがどう思っているかわかりませんが、運動量と背の高さでしょうか。開幕戦といういちばん大事な試合で使われたことに、最初は驚きましたが自信にもなりました。僕でも出られるんだという自信がつきました。同時に大学と社会人とのパワーの差も感じました。
—— そういう中で今年のベストゲームは?
満足する試合は1つもないですけど.....マイクロソフトカップの決勝戦、東芝に負けたんですけど、そして負けちゃったら良かったも悪かったもないんですが、自分の中ではいちばんできたかなと思います。
—— ラインアウトで何度もボールを奪っていましたね
今まで僕が前でスロウワーを見て飛ぶということはしていなかったので、東芝は予想もしてなかったと思います。でも相手は全体的に低いボールが多かったので、取れるとは思っていましたが、あそこまで取れるとは思っていませんでした。でも自分は飛んでいるだけで、下で支えてくれた慎さん(長谷川)とか前田(航平)のお陰です。動いたなと思ったら飛んでました。
—— 飛ぶタイミングは自分で言うんですね
はい、僕が言います。それで僕が先に飛んじゃうと、後ろが見えなくて感覚で投げるしかなくなる、と練習でフッカーの皆さんに言われていました。でも、東芝戦の後半もそうなんですけど、人数を4人とかにして、僕が飛べないように対応されちゃいました。まぁイタチごっこみたいなものですから、来シーズンの楽しみでもあります。
—— シーズンのどの辺りで全試合フルタイム出場を目指そうと思いましたか?
ブレイク期間までの前半は、フルタイム出場が何人かいまして、小野澤(宏時)さんだったり、ガヤさん(池谷陽輔)だったり、隆道(佐々木)だったり.....その時にフルタイム出場をやってやろうと思いました。
—— そこから気をつけたことはありますか?
怪我をしたくないんですけど、そのために消極的なプレーはしないように心掛けていました。それでダメなプレーをしちゃうと、次に出られないと思っていました。怪我しそうな時は何となくわかりますし、危ないなと思う時は、察知できるというか、自分でもよくわからないんですけど、そういうところがあります。
◆思い出したくない
—— 今年は監督にメチャクチャ怒られたことがありましたね、あまり人のいない試合後のロッカールームでしたが
マイクロソフトカップ準決勝のヤマハ戦の後ですね。
—— 20点差あったのが1点差に迫られて、最後かろうじて逃げ切った試合でした
思い出したくないです。ちょっと忘れかけていたんですけどね。あんなに怒った監督は見たことなかったんで、ビックリしました。その後もずうっと気になってましたし、次の試合出られないかな?出られなかったらどうしよう、とも思ってました。
あの時は、もう残り時間あと僅かで、普通だったら時間を使うプレーをするんです。モールを押しながら時間をかけてというのは自分でもわかっていたし、ラインアウトに並ぶ前まではわかっていたんですが、並んだら歓声でサインが聞こえなくて、どうしようと思っちゃって、飛んだんです、自分が。その前にパニックになったんですけど、自分が前に飛んだら青木に返すプレーがあって、そう体が反応しちゃって、気がついたら投げていました。
試合中も隆道にキレられました。あんな隆道は今までなかったし、初めてでした。今までは「次、頑張れよ」とそんな感じで言われてましたが、あんなに隆道に試合中に怒られて、しまいにはロッカーでも監督に怒られて.....ヤマハ戦もいい経験になったと思います。あれだけ言われたら、同じことはもう絶対にしないですよ。
あんな簡単にボールを渡しちゃったらダメで、その後のプレーは必死でした。ヤバい、これ取られたら俺のせいだと思って、ムチャ走りました。泣きそうでした。敬介さん(沢木)が助け舟を出してくれて助かりましたが、もうちょっと監督に言われていたら、たぶん泣いてました。
最初ロッカーでは敬介さんが言い出したんですよね。そうしたらその話に監督が乗っかってきちゃって、ほんと助かりましたというか、「お前あれどうしたの?」と敬介さんが言い出したんだから、助かってないですよね(笑)。忘れられないですね、これは。たぶん優勝しててもトントン、ぐらいの話です。
◆支えられている
—— そういう今シーズンを振り返り、来シーズンに向けての意気込みは?
今年の目標は優勝することだったんですが、自分が全試合に出場しても、4試合ぐらい負けているんですよね。つまり4試合したら1回負けている計算になるので、俺がもうちょっとどうにかしていれば、勝つことができたんじゃないかとも思うんです。悔しいですね。
トヨタに負けた試合に出られなかった人たちに、申し訳なかったなと思います。そういう人たちを含めたチームを代表して出ているので、みんな出たいと思ってその中で選ばれて出ているので、出られない人の分まで頑張って、勝って、一緒に喜びたかったです。
前半あぁいう状態だったんですが、後半始まってライアン(ニコラス)がペナルティゴールを入れて、その後も流れは少しうちの方へ来ていたんですが、その流れを完全に持ってこれなかったですね。
来シーズンはまずは試合に出続けて、もっと自分に自信をつけたいです。自信がつけばどんどん発言できると思うので、今シーズンは手探りというか、周りを気にしながらやっていた部分もあった。隆道みたいに思いっきりチームを引っ張る性格でもないんで、陰ながら頑張りたいです。陰ながらチームを引っ張っていきたいです。
—— フルタイム出場が続くよう期待しています
もう一言。両親が全試合に来てくれて、熊谷に住んでいるんですが、遠い熊本や大阪や新潟にも来てくれて、トヨタに負けた時にはメールをくれました。(※と言いながらその時の携帯メールを探す篠塚選手...見つけ出して見せてくれました)
「今日は残念だったね!フル出場ご苦労様!正直もう一試合見たかったけどね!また明日から体を休める暇も無いけど頑張れ!!」
この母からのメールはほんとに嬉しかったです。親からメールを貰うことは余りないので、嬉しかったですね。支えられているなと思いました。今まで迷惑をかけた分、少しは親孝行しているのかなと思いました。
(インタビュー&構成:針谷和昌)