2006年12月26日
#66 長谷川 慎 いざ府中ダービー! 『プライド勝ち』
◆最後に勝ったのはトップリーグができる前
—— ずっと東芝には勝ってないんですか?
勝ってないですね。トップリーグ初年度からは殆ど勝ってないです。トップリーグ1年目の時も、東芝に勝てば優勝だったんですが、それに負けて4位になっちゃったんです。最後に勝ったのはトップリーグができる前の年、サントリーが決勝でNECに逆転トライで負けた年でしたが、その年以来ずっと勝ってないですね。
—— そうすると苦手意識はあるんでしょうか?
苦手意識はそんなにないです。ずーっとサントリーが強くて、その次の年も東芝に勝っていれば優勝という時に負けて、引導を渡されたような感じでしたが、それ以来、サントリーが勝てなくなったんです。そこで貯金がなくなった、みたいな感じです。
—— 今年のプレシーズンマッチでは勝ちましたね
練習試合ではこれまでも何回か勝ってますが、練習試合は別です。出ているメンバーも違うし、チームの完成度も違いますから。もちろんこの前のプレシーズンマッチで勝ったことは、今のサントリーは若いチームですので自信になったと思いますが、多分あれがすべてではないと思います。
—— 公式戦で勝てなかった原因は?
とくにサントリーは、僕が思うにはですよ、NECも東芝もサントリーに勝つようなチームを作ってきたと思うんです。ディフェンスを整備して、ブレイクダウン(密集でのボール争奪戦、接点)で圧力をかけてきて、サントリーは完全にそれに当てはまって負けていました。
今年はスタイルも変わったし、これまでのいいところを残したまま、悪かったところが良くなっていると実感しているので、また次のステージにぜんぶのチームが移るような気がしています。
◆ポイントは接点
—— そうすると今度の試合のポイントは何ですか?
ポイントはやっぱり接点でしょうね。いつもサントリーって、NEC戦でもそうでしたが、モール、ラックのボールの取り合いで負けるともたつきます。トヨタ戦も接点のところでいい勝負されていたから、競った試合になりました。
それとスクラム、そしてラインアウト。だからやっぱりフォワードですね、ポイントは。夏のプレシーズンマッチは、この辺りが相手に対して勝てていました。最低でも夏ぐらいのプレッシャーをかけないとと思います。
—— サントリーのフォワードはそんなに大きくないですよね
サントリーのフォワードは小さいですよ、横幅も。
—— それでどうして強いスクラムを組めるんでしょうか?
基本的に体が大きい方が重いんだから、絶対強いんです。でも、小さいから大きい奴らに負けないように研究するんだと思います。
今Bチームがとても強くて、プロップ、フロントローは練習が終わっても残ってやってますよね。ここを持ってやってみたり、あそこを持って組んでみたりという具合にいろいろやっていて、Bチームが強くなっています。そしてBチームが強くなると、そういう相手に練習しているんですから、Aチームも強くなるんです。
じゃあこんなパターンの練習をやろうとか、ここはこうしようとやって、どうやったらでかいチームに勝てるか?ずっとサントリーのプロップは考えてきたと思うので、いざという時に応用が効くんです。それは技術的なことですが、サントリーは昔から「スクラムで勝って当たり前」で、ドローだと「何やってんねん」と言われるチームなんです。
僕、坂田(正彰)、直人(中村フォワードコーチ)の3人が揃って日本代表だった時があります。僕らは足が速いわけではないので、スクラムで勝つことが僕らが選ばれている理由であって、それができなくなったらジャパンに呼ばれなくなります。だからみんな必死で、負けないスクラムの組み方を練習しました。いまその技術と考え方を下のメンバーに移している(教えている)最中です。
◆紙一重にこだわりがある
—— 強いスクラムを組むポイントは何ですか?
スクラムって紙一重なんです。あと1cm、あと1歩押せれば、紙一重を超えられるんです。その紙一重に自分の持っているプライド、こだわりがあるんです。そこで耐えられない奴は、ずっと耐えられないし、そこで耐えられた奴は、ずっと耐えられるんです。
だから「スクラムでは負けない」と言って自分にプレッシャーをかけてるんです。「スクラム番長」なんてでかいこと言われていて、ターンオーバー(攻守逆転)されたら、いままで築き上げてきたものが崩れます。そういうプレッシャーがあって、背負っているものが違うと思っているから、だから絶対に負けられないんです。
「サントリーはスクラムが強い」というイメージは、僕と坂田と直人さんで作ってきました。直人さんに代わった元吉(和中/元サントリーラグビー部)がジャパンになったり、負けちゃいけない雰囲気を作ってきたんです。それを後輩たちに伝えたいですし、いま下に教えているところです。
—— 後輩たちにちゃんと引き継いで欲しいわけですね
サテライトリーグのセコム戦でもスクラム押していたし、今のうちのBチームはどことやっても負けないと思います。
全体的に見ると、スクラムというのは相手によって違うので、はまったら強いけどはまらなかった時に、まだ応用が効かせられてないと思います。この相手に対しては強いけど、この相手に対しては弱い、ということもよくあるので、「あぁ嫌やな」と思った相手にどれだけ対応し、応用ができるかということです。
◆嫁さんといるより長い
そのために研究するわけで、こうきたらこうしよう、ここを持ち替えようとか、話し合って最後の最後まで練習しています。3対3でスクラムを組んだりしながらですね。ただ練習している、という感じですが、それが大切なんです。いろいろやってきて、ギリギリのところで「あんだけやってきたんだから」と思えるかどうか、です。
例えば僕、坂田、直人さんの3人なら、いまでも目をつぶっても、あるいは周りが真っ暗な中でも、ポイントですぐに組めますよ。嫁さんといるより坂田と組んでる時間の方が、絶対に長いですから(笑)。
—— 現状のスクラムはどうですか?
いい状態になってきていると思います。
—— 東芝戦でのあなたの役割は?
僕に期待されるところは、いままで話してきたとこ、そこしかないですから。夏のプレシーズンマッチの時にも、真麻(青木/スマイルカフェ連載中)に「キープレーヤーは誰ですか?」と聞かれて、「僕」と答えました。真麻が次にイケ(池谷陽輔)に聞きに行ったら、イケも「慎さん」と言っていたそうです(笑)。
試合が終わって清宮さんから「プロップのプライド勝ち」と言われましたが、今回もそう言われるように、そこまで自分の気持ちを持っていって、試合がしたいですね。
—— 楽しみですか?
もちろん。試合を左右するようなスクラムを組みたいですね。
(インタビュー&構成 針谷和昌)