2006年10月31日
#54 田原 太一 『ロックらしいプレーヤーになる』
◆兄ちゃんも姉ちゃんも母ちゃん父ちゃんもデカイ
—— 出身地は鹿児島ですね
鹿児島の指宿郡です。
—— 温泉で有名な
そうですね。でも家は温泉地からちょっと遠くて30分ぐらいのところです。
—— ご実家は何をされてるんですか?
農家です。
—— 兄弟は?
3人兄弟で、兄ちゃん、姉ちゃん、と自分で、2つずつ離れています。兄ちゃんが28歳、姉ちゃんが26歳、僕が24歳です。兄ちゃんにはいつも叩かれ、いじめまくられてました。とくに理由なく、じゃれ合いの中のしばき合いという感じです。
—— お兄さんも大きいんですか?
はい、デカイです。身長190cmぐらいなんですが、ガリガリで体重は70kgぐらい。
—— でも子供の時に2歳違うと敵わないですよね
敵わないです。お姉ちゃんもデカイ。母ちゃん、父ちゃんもデカくて、父ちゃんは180cmぐらい、母ちゃんが165cmぐらいです。自分たちはあまり考えたことないんですが、周りからはデカイのは家系ですねって言われます。
兄ちゃんの後を追って、兄ちゃんが小学校で剣道をやっていたので剣道をやり、中学では野球をやっていたので僕も野球をやりました。兄ちゃんは高校からはバドミントンをやって、僕はほんとはラグビーをするつもりがなくて、野球をやろうと思っていたし、勉強しようと思って高校へ行ったんです。
—— どんな勉強を?
父ちゃんの仕事を手伝っていたんですが、それが面白かったんです。父ちゃんは電気の免許を持っていたので、農業をやりながら例えば冬になると、お茶が盛んな土地なので霜が降りてくるのを防ぐ扇風機の修理とか、人の家の屋内配線の修理とか、お茶の工場の機械の手入れとか、そういうことを手伝っていて、面白いなと思っていました。
もともと細かいことをするのが好きなんです。裁縫なんかも好きですよ。電気工事士の試験も通りましたが、もうそれから7年経っているので、今でもちゃんと直せるかどうかは分かりません。裁縫は破けたところを自分で縫ったり、ご飯も自分で作ったりして、そういうことを自分でやることが好きです。
—— そうすると野球の方がラグビーより細かいでしょう?
野球部に入部しようと思って、高校(鹿児島工業高校)へ入ってグラウンドへ練習を見に行きました。練習は中学でも高校でもあまりやっていることは変わりませんでしたが、単純で見ていてやりたいと思わなかったんです。そのすぐ隣でラグビー部が練習していて、同い年のやつらが楽しそうにやっていました。
野球部は1年目はほとんど球拾いで面白くなさそうで、その練習を見た日の夜、寮で先輩から「ラグビー部の監督が明日、教官室に来てくれと呼んでる」と言われました。
ずっと練習を見てたのがバレたのか(笑)、行ったら体の大きな監督からラグビーをやれと言われ、その日からラグビー部の練習に参加しました。周りはラグビー経験者が多かったわけでないですし、スポーツ自体が嫌いでなかったので、楽しいなと思いながらやりました。
◆普通のスポーツじゃ使わないボール
—— 具体的にはどの辺が面白かったんでしょうか?
普通のスポーツじゃ使わないボールを追い掛けているのが楽しかったし、体を動かしているのも楽しかったんです。でもその頃はまだ、ただボールを使って遊ぶみたいな感じでしたけど。
—— それがラグビーらしい練習になってきたのは?
ゴールデンウィーク明けぐらいからでした。その辺から1年生も練習に参加させるということで、いろいろと覚えていって、新しいことをどんどん発見できました。ラインアウトでボールを取ることが、いちばん面白かったですね。ラインアウトも普通の競技ではなかなかないことですし、チームの上の3年、2年がもちろん主役でしたが、練習で飛ばせてもらいました。
中学の終わりぐらいで身長が186cmあったので、ポジションは最初からロックでした。ロックから動いたことはないし、他のポジションをしろと言われても、できる自信もないですね。ロックが自分にいちばん合っていると思います。
—— 選手たちはよく「ぶつかることが楽しい」と言いますが、田原選手は?
ぶつかるのは苦手です(笑)。最初はすごく恐怖心がありました。野球だったらぶつかるのはキャッチャーぐらいでしょう、クロスプレーで。僕は殴り合いや、喧嘩が嫌いで、格闘技も見たくないタイプなんです。今はやらざるをえないのでぶつかってますが、でも面白くなくは、ないですね。
—— 慣れてきたんですか?
ラグビーをやっていて体をぶつけることの楽しさが、だんだん分かってきました。自分からぶちかまそうとはしないし、最初はビビリながらやってたんですが、試合で練習してきたことができたり、ちょっとでもチームの流れに乗れるプレーができたり、トライにちょっとでも絡むことができたら、自己満足ですけど気持ちいいというのがあります。
—— 高校時代のラグビーの成績はどうだったんですか?
高校時代は活躍はしませんでしたし、チームも鹿児島の1位になれるかなれないか、そんなチームでした。チームメートに1人だけすごい選手がいたんです。明治大学からコカコーラに行った山下大輔(コカコーラウェストジャパン/フッカー)。この前のトップリーグの試合では1番で出てましたが、そういうすごい選手が同期にいたんです。
彼は高校の時は8番(ナンバーエイト)でした。小さい時からラグビーをやってて、ナンバーエイトもスタンドオフもできる、器用な選手でした。大学へ行ってから1番かフッカーをやってました。
◆自分のしたいことが固まってきた
—— 同志社大学へ進んだのは?
高校の時まで自分が何がやりたいというのはなかったんですが、正直ラグビーを始めて、自分のやりたいことが固まってきました。ラグビーを一生懸命やってみたいと思って、 強いチーム、少しでも上のチームでラグビーができるといいと思いました。
大学ではどこが強いかなんてよく分からなかったんですが、ラグビーを知らない子供の時でも、同志社、明治、早稲田、そういう名前を聞いたことがありました。他は日 大以外、誘いがなかったので、平(浩二)と同じセレクションでとってもらいました。
—— どうでしたか?同志社は
今まで狭い鹿児島の県内だけでやっていましたから、全国各地から花園に出た有名選手も集まってきていたんで、ビックリというか、ドキドキものでした。
試合に出られるようになったのは、3年生からでした。1つ下のやつが怪我をしてチャンスをいただけて、活躍というかそのまま定着したけど、シーズンの最後に僕が怪我を してまたその1つ下のやつにポジションを返した、みたいな感じでした。
4年の時はずっと出て、その下のやつは僕の隣、5番で出てました。僕は4番でした。チームは大学選手権の準決勝で早稲田に負けました。その早稲田には、隆道(佐々木) 、青木(佑輔)がいました。最後に負けたこの試合がいちばん印象に残っていますが、前年も早稲田に準決勝で負けていたので、2年連続の負けでした。
僕は国立という場所にのまれて、直人さん(中村コーチ)に「お前がテンパってるのすぐ分かった」と言われました。
※中村コーチのコメント
「TVで見てたんですが、ラインアウト・リーダーで副キャプテンである太一は、サインを出さなきゃいけない役目だけど、見ているこっちが緊張するぐらいアワアワしていて、太一を見ていてこりゃ負けるなと思いました。ラグビーの対戦相手ではなくて、完全に『東京』に負けていた感じでした。見ていられなかった」
—— 何にのまれたんでしょう?
観客もそうですが、国立競技場で早稲田とやる、そこに立っている、ということにです。大きな舞台でやったことがなかったので、自分でもっと落ち着いてラインアウトのサインを出さなきゃいけないのに、それができませんでした。
相手を見て判断してサインを出す、というのがなくなって、後手に回ってしまいました。攻めてないし、とりあえず飛んでみたら取れない、って感じでした。
◆いちばん上のトップでやりたい
—— サントリーに入ったのは?
もうその時にはサントリーに入ることが決まっていました。大学3年の時に声を掛けてもらって、武山さん(哲也/チームディレクター)と大学の監督が同期で、高校ジャパンで一緒に遠征に行っていたり、直人さん(中村)とも同志社大学時代、1年と3年でかぶっている(1年が中村直人、3年が監督)ということでした。
九州出身ということでコカコーラからも話がきたんですが、自分がなぜラグビーを続けていきたいのかを考えた時、いちばん上のトップでやりたいという気持ちがあって大学にも行ったし、やっぱりサントリーでやりたいなぁ、と思いました。
※再び中村コーチのコメント
「サントリーに来て下さいお願いします、と勧誘に行った時、平と二人一緒だったんですが、女子高生みたいに二人で目を合わせてウフフ、みたいな感じで、一言も喋らないんです。頼りないなぁーって感じでした」
—— そのサントリーで今年2年目ですね
新人の年は、社会人になって自分の未熟さを実感しました。
長谷川慎さんにも言われて、筋力トレーニングをやらなきゃいけないと思ったし、体力が課題だと思って1年間やりました。体力は少しはつきましたが、他の選手に比べたらまだまだです。
ラグビーを続ける上では、少しでも筋力アップしないと厳しいと思っています。外国人選手には絶対にしっかりしないと体を当てることができないし、日本人選手にも普通にはじかれてしまうと思います。
自分で体力が上がってきたとはあまり感じ取れません。数字は上がってきてますが、まだ小さいです。目指すところはとことん上を目指したらいいと思ってるので、まだその何%達成なんてことも分からないくらいです。
—— 体作りということですがもう少し具体的に足りない点を
上半身も下半身も、メンタルの部分も弱いと思います。精神的に強い人間にならなきゃというのも課題だと思ってます。
—— メンタルの強化はどうやってやるんですか?
日々の練習でできる部分、強くなれる部分が少なからずあると思うんで、ビビってちゃできないスポーツですし、恐怖心を取り去るのは無理かもしれないけど、自分から率先して向かっていくようにならなきゃいけないと思っています。
私生活では変わらないと思うので、ラグビーをしている間だけでも、変わらないといけないと思いますし、グラウンドで体を張れるようになりたいと思います。
声は出すようにしてるけど、気持ちが空回りすると声が出なくなって、黙々してしまうことがあります。試合中は声を出してるとリラックスできる、というのもありますので、声を出すようにも心がけています。
◆怪我しにくい体
—— 新人の去年はどのくらい試合に出たんですか?
途中交替がほとんどでしたけど、14試合の中の10試合に出ました。出来は試合によって波があるんですけど、自分の中で監督に求められているプレーができてるだろうかという不安は、毎試合残っている感じでした。ラインアウトはサインを出す方ではなかったんで、ある程度はできたのかなと思います。
元さん(申騎)みたいにゲットしたり、康太さん(上村)みたいにタックルできる訳ではないので、相手のボールを完璧にズラして取ったりとか、相手のボールを取ってトライに結びついた時に、バックスにも誉めてもらったりするようなプレーをやりたいし、そういうところを目指すし、それをやれればそこに自分の楽しさがあると思います。
—— 今年は先発で出ましたね
IBM戦に出ました。ラインアウトの時、相手がずっとシノ(篠塚丈嗣)のところに立っていたので、同じサインで取り続けました。相手のボールを取ってチャンスにすることはできなかったんですが、マイボールに関してはまぁまぁの出来だったかと思います。
—— 怪我はあまりしない方ですか?
怪我しにくい体だと思います。去年1年まったく怪我してませんし、半年以上休まなくちゃいけない怪我や、手術、骨折もしたことないですね。激しいプレーをしていないのかも(笑)。これだけ体があるから続けられるんですし、それは親に感謝してます。
—— 清宮監督はどうですか?
ラグビーに対してすごい考えを持っていて、それができない人は使ってもらえないし、それができる人はチャンスをもらっている、そういう監督だと思います。
◆要領が悪い
—— 今年の目標は?
ロックとして試合で何をしなければならないか?を明確に捉えてそれをやっていきたいと思います。早野さん(貴大)、カツオさん(大久保尚哉)、ドンク(サイモン・メイリング)という日本代表クラスから盗んで、ラグビーを何年続けられるか分からないけど、終わる時に満足できるように、自分の力を高めていきたいと思います。今は試合に出れない悔しさはあります。
個人的な目標としては、少しでもロックらしいプレーヤーになることです。いちばん近くの早野さん、カツオさん、ドンク、直弥さんが目標です。
—— 具体的な盗む方法は?
練習でも、試合中のプレーからでもです。例えば早野さんのトライ(セコム戦)は、早野さんの強い部分で取れたと思うので、そういうプレーを盗みたいと思っています。
—— サントリーの会社での仕事は営業ですか?
営業ですが、あまり上手くいってないのが現状です。要領がすごく悪いタイプなんです。人にじゃんじゃん接することができないタイプで、人見知りが激しいんです。自分が変わるためにも、営業であることでいい経験ができると思いますし、人見知りなので話すことにも度胸がいるし、ものをズバッと言えなきゃいけない部分が、自分には足りない部分だと思いますので、配属を聞かれた時には、「営業にいきたいです」と答えました。
—— 営業やってて楽しい時は?
自分で持っていった提案に対して、それは一方的なものでなくて持っていった先の意見も乗っけた形で売り場を作って、「今日、すごい売れたよ」なんて声を掛けてもらった時に、良かったな、またやりたいな、なんて思いますし、それがいちばん嬉しい時です。
◆課題は「ポジティブになる」
—— ホームページの自己紹介項目への答えは殆ど自分で書かなかったので、違っているんですね?ちょっと確認していきましょう
「ニックネーム」は、「タイチ」です。
「愛すべきモノ」は、「携帯電話」は合っています。メールが殆どで、電話はそんなにないです。それから「鉄幹(てっかん)」、鹿児島の芋焼酎ですが、酒は毎週末飲んでいます。寮がある中野島だったり、新宿や渋谷です。飲みに行くメンバーはだいたい決まっていて、伊藤俊平とサントリーフーズラグビー部の加藤郁己、長崎陽です。 ビールを1人10杯ぐらい、みんなで焼酎のボトル4本ぐらい飲みます。
「苦手なモノ」は「女性」ですが、「女性と喋ること」が苦手です。メールはOK。それから「コンパ一緒に行ったときのせっさん(瀬川貴久)」は合ってます。チョー苦手です。ポジティブシンキングで、僕にはない部分を見せられるので。
「座右の銘」の「別にいいし.....」は口癖です。ちゃんとした座右の銘はとくにありません。
「趣味」の「新宿伊勢丹の7階で買い物」というのも間違っていません。
「特技」は「ネガティブ」でもありますが、課題としては「ポジティブになる」です。
「ラグビー選手になっていなかったら?」の答えの「K-1選手」というのはあり得ません。農家もしながら電気技師もやりながら、お父さんと同じ道を進みたかったというのはあります。
—— 将来目標は何かありますか?
先のことはあまり考えていません。教えるのはいちばん苦手ですし、今は考えられないですね。
—— 日本代表は?
まずチームでレギュラーになることが最大の目標です。チームでレギュラーになれない選手が、代表という言葉を口には出せないと思っています。今の目標は、レギュラーを取ることです。
(インタビュー&構成:針谷和昌)