SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2006年10月17日

#51 ライアン ニコラス 『蹴る方向を決めたらそこに蹴る自信がある』

◆フォワードの強さが違う

—— 1試合36得点のトップリーグ新記録、おめでとう

ありがとう、ベリーハッピー。

—— どこが良かったんでしょう?

調子が良かったのはもちろんですが、IBMのディフェンスがあまり良くなかったこともあります。今年はオプションがたくさんあるので、自分1人だけで何とかしなくちゃいけないというのでなく、そしてアタックの戦術も良かったと思います。

自分自身のキックの精度が上がったということもあります。フォワードも去年よりも、よりアグレッシブにプレーしていて、モールやラックでの強さが違います。

—— キックの精度が上がった理由は?

今年は去年から継続してやってきたことが実を結んできた、という感じです。あとは集中力。

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—— いつもボールを蹴る前に何を考えてるんですか?

飛んでいくボールのラインをイメージします。あとはリラックスして、なるべく同じフォームでキックをするようにしています。

—— 具体的なリラックス法は?

深呼吸をすることと、じっくり時間をかけて、キックを急がないということです。

—— ニュージーランドでもキックを蹴る役目だったんですか?

オタゴ・ハイランダーズでは、オールブラックス(ニュージーランド代表)の10番のトニー・ブラウンを始め、ラリー・ウォーカー、ニック・エバンスなど、キッカーとして名高い人たちが、常に自分の前にいたので、3番目ぐらいのキッカーでした。

去年日本に来て、全試合のおよそ80%のキックを蹴って、今年は毎週蹴ることによって自分のスキルが上がったし、自信もついてきました。距離ももちろん伸びたし、コントロールも自分が思った通りのところへ蹴られるようになりました。

今は蹴る方向を決めたら、そこに蹴る自信があります。あとは風だったり、芝の状態によって、調整しています。

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◆一貫性あるキック

—— 高い弾道のキック、低い弾道のキックがあります

風がアゲインスト、向かい風の時は低く蹴って、それ以外は方向さえしっかりしていれば、あとは気にしないで蹴っているので、それが高い弾道のキックになっているんだと思います。

—— キックに関する今後の課題は何でしょう

技術的なものをどうこうするより、どんな状況でも同じキックができるか?一貫性のあるキックができるか?これからレベルを上げていくとすれば、そういうところになると思います。

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—— IBM戦の自分の背中を通すパスにファンが驚いていました

あのバックパスはそんなによく使うパスではないけれど、ウイングの動きに合わせて、使う時もあります。

—— 試合後の新聞コメントでは清宮監督の良さもコメントしていました

選手が清宮監督をリスペクトしています。清宮さんのスタイルは、自らコーチングをするというスタイル。コーチが教えるのを後ろから見るという形でなくて、自分で引っ張っていくという感じです。自らがんがんコーチするところが良くて、コーチングの内容もよく構築されていると思います。

(※以上 通訳は新田博昭フィットネス&ストレングスコーチ、以下 通訳はジェフリー・カトラー通訳)

—— ライアンは練習後、食堂にいちばんに顔を出します

日本人選手はこのクラブハウスにいるのが好きなのかもしれません。自分は早く家に帰りたいと思います。練習が終わったらシャワーを浴びて、ご飯を食べて帰る、というのがニュージーランドスタイルです。他の外国人もそうでしょう?

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—— 家では家族が待ってるんですね

結婚してますし、6か月の息子がいます。家に帰って家事の手伝いをしたいし、ここ(クラブハウス)に長くいるよりも早く家に帰ってリラックスもしたいと思います。日本人選手はあまり家に帰りたくないんじゃないかなぁ(笑)。

家は練習場から近くて、自転車で5分くらいのところです。結婚したのは去年の5月です。妻はニュージーランド人ですが、オタゴ大学時代に知り合って、7年間つき合ってからの結婚です。

◆コンタクトが好き

—— ラグビーを始めたのは?

13、14歳の頃からです。その前は、サッカーやクリケットをやっていました。ラグビーをやっている友達が多かったし、たまたま人数が足りない時に、チャレンジしてみたら楽しかったんです。

ニュージーランドではインターミディエット・スクール(intermediate school)と言いますが、高校に入る前の学校で、TAURANGA ボーイズカレッジという名前の学校にいた時でした。当時は4~5種類のスポーツをやっていましたが、ハイスクールに入ってからは、ラグビーとバレーボールの2つを夏と冬に分けてやっていました。

ラグビーはコンタクトが好きで、試合も楽しいと思いました。多くの友達もラグビーをプレーしていましたし、ニュージーランドではラグビーはメジャースポーツです。オタゴ大学に進んでからは、ラグビーと勉強で忙しくて大変でした。それでも暇な時間がある時には、スキーやテニスをやっていました。だから趣味はスポーツですし、ゴルフも少しやります。

勉強はフィジカル・エデュケーション(physical education=体育)とフィジオロジー(physiology=生理学)が専攻でした。今、ほとんど役に立っていませんが、体のことに興味があって、いろいろと学びました。

—— 奥さんも女子ラグビーをやってたんですか?

タッチラグビーをやってました。彼女はオタゴのチームでプレーしていましたが、いい選手でした。

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—— 13、14歳からラグビーをやってきて、ラグビーの良さは何でしょう?

友達、友情、ラグビーをプレーしてできた繋がりや、生活、フィットネス、いいコンディションでいること、大好きなスポーツをプレーしてお金をもらっていることなど、プロスポーツなのですごくいいことが多いと思います。遠征も多いのでいろいろなところへ行けますし。

同じゴールを目指すこと、勝ちたいという気持ちは、ラグビーをやっている仲間はぜんぶ一緒です。辛い練習も、一緒にいる時間が長いことも。家に仲間を呼ぶことも多いです。

◆プロになるのは、選ばれること

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—— プロになったのはいつですか?

2000年からです。オタゴNPCに入って、ハイランダーズへ行って、その後ニュージーランドマオリ(※)へ行きました。その3チームです。

※ニュージーランドマオリ=中村直人コーチの解説
ニュージーランド先住民マオリ族の血をひいている選手たちの代表チーム。オールブラックスが試合前にやるハカという踊りの音頭を取れるのは、ずっとマオリの血をひいている選手に限られていました。つい1、2年前に、マオリ以外で初めてタナ・ウマンガという選手が音頭を取りました。

—— プロになろうと決めたのは?

プロになろうというのは、決めることではなくて、選ばれることなんです。プロでやる前は大学でやっていて、トレーニングはしていましたが、プロになればプレーすることに集中することになるし、強くなってコンディションもよくなります。生活が変わって、他の部分を気にせずにできます。

それと共に、毎週結果を出さなければいけないという、プレッシャーがついてきます。ニュージーランドでラグビーをプレーする人たちは、皆プロ選手になりたいと思っているので、プロになればすべて楽しんでいると思います。

—— ニュージーランドのいるご両親や兄妹は?

父と母が同じ、兄と弟が1人ずついて、母が再婚して女の子が1人、父も何度か再婚して男4人と女1人の兄妹がいます。両親は僕が2~3歳の時に離婚したんです。ぜんぶで兄妹は7人の兄弟と2人の妹がいます。

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ずっと母と一緒に暮らして来ましたが、父ともいい関係は続いています。父はララトンガというクックアイランドの1つの島にいます。子供の頃、よく遊びに行っていました。ニュージーランドでの離婚率は、50%近いんではないでしょうか。シーズンオフになれば、母が義理の父とやっている9エーカーの牧場か、父のいるララトンガへ帰ります。

兄はモデルをやっています。ファッションの広告だったり雑誌のためのモデルだったりです。僕も昔は少し、アルバイトでモデルをやりました。いいお小遣いになりましたが、今はいりませんからやってません(笑)。

◆優勝が最高の目標

—— 日本に来たのは?

毎年同じ競争で長い1年を過ごすことに、ちょっと気持ちが慣れてしまうところがでてきました。それで新しいチャレンジをしようと考えて、フランスにもイングランドにも行くチャンスはあったんですが、日本に行くいい機会だと思ったので、ヨーロッパよりもゲーム数が少ないということもあったし、自分にとって違うチャレンジをしてみたいと思って来日しました。

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日本に来てみるとゲーム数が少ないけれどトレーニング期間、春のシーズンが長かったので、そういう面では日本の方が大変だなと思いました。そしてトップリーグというリーグ戦があることは、いいことだと思いました。

とにかくシーズンが思ってたよりも長くて、リーグ戦が始まる前のプレシーズンがすごく長いんです。最初の半年間に費やす時間がすごいんですが、ラグビーの環境もレベルも、思っていたよりも良かったと思います。

—— 今年の目標は?

チームがベスト4に入るのはもちろん、チャンピオンシップで勝つことです。もちろんそれをできるだけのチームだと思っていますし、コーチングスタッフを含めて、試合に勝つこと、東芝に勝つことが、大きなチャレンジだと思います。

—— これから先は?

できるだけ長い間、日本にいたいと思っています。ラグビーのキャリアをここで終わりたいと思いますし、日本代表としてもプレーしたいと思いますし、とにかく優勝したいと思います。オタゴでは優勝経験がないので、それが最高の目標です。

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(インタビュー&構成:針谷和昌)

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