2006年8月17日
#41 澤木 智之 『フィットネスよりコンディショニングに重点をおく』
◆試合に慣れてきたしゲーム感覚もある
—— 腰を痛めていますか?
はい、5年前からヘルニアが持病です。高校のときから慢性的にあったんですが、急にひどくなったのは社会人1年目の7月でした。悪くなってもそのまま1年間やって、 治療してもよくならずに終わり、2年目に入ろうという3月に手術をしました。
まだ体が成長段階だった高校のときに、重いものを持ってスクワットをやって、体勢を崩してから症状が出るようになったんです。ずっとケアしながらやってきましたが、 去年の7月に再発して、8月の合宿中に痺(しび)れがひどくなり、足に痛みが走ったので即、入院。ペインクリニックの麻酔科で注射を打って、2週間治療してそれで良 くなって退院しました。
11月ぐらいまでリハビリして、11月末の練習試合に復帰できましたが、去年は公式戦には出ていません。再発したときには、5秒も座っていられないひどい症状で、 ラグビーがまったくできない状態でした。手術している分、治療薬も効きづらかったんですが、ヘルニアとしては弱かったので、徐々に効果が出てきました。
いまはしっかりケアしながらやっていますので、とくに問題ありません。トレーナーの方に低周波の電気マッサージをしていただき、それとは別に週に1回、PNFというイン ナ-マッスルトレーニングをやり、整体で体のトリートメントをしています。いまだに足が痺れることもありますが、筋力の低下もなく順調にきています。
—— では今シーズンが楽しみですね
この春は過去にないくらい練習試合に出場させてもらっていて、試合に慣れてきたしゲーム感覚も戻ってきています。今まで以上にパスを放る機会も多いし、今までスクラムハーフ としての走るコースやポジショニング、細かいスキルなどを教えてもらってなかったんですが、今は直人さん(中村コーチ)からプロップの意見を聞いたり、パスの仕方の細 かいところまで教えてもらっているので、新鮮でためになっています。
常に練習で自分の動きをするとともに、それを意識しながら動くようにしています。プレーをする前に、自分がスクラムやラインアウトでこう動いたら、敵の動きはこう だという2~3パターンをイメージして、行動をおこしています。
◆ボールに誰よりも速く行く
—— 自分の長所はどこだと思いますか?
サントリーはアタッキングラグビーをやっているので、体を活かしてボールを繋げられればいいと思ってます。もちろんスクラムハーフとしてパスに必要なス キルができた上でのプレーですけど。
あとは人より声が出せること、タックルが得意なこと、後ろからオーガナイズするってことですね。スクラムハーフにしては身長があって体もある方なので、それで走れ るというところもそうですが、体力、フィットネスはだいぶ昔よりも落ちました。
でもそれには理由があって、今までフィットネストレーニングに偏り過ぎていたと思うんです。ここ2~3年、フィットネスをストイックにやっていて、体重も70kgしかありませんでした。 フィットネスをやり過ぎて去年ヘルニアが再発したところもあるので、方向性をもっとラグビーに向けた形で、今やっています。
スクラムハーフはボールにいちばん速く、誰よりも速くいかなければいけません。ラグビーは80分、ロスタイムを入れたら90分間、フルで走れる体力を作ろうと自分の中 では思っていて、やり過ぎてしまっている状態でした。今は去年までやってたことをやめています。
練習が終わったら、1時間エアロバイクを漕いだり、パワークリーンと言うんですがウエイトを挙げるのを腰に負担がかからないようにしたり、PNFで体の使い方をやっ たり、細かいことをグラウンドで監督が教えてくれたり、フィットネスよりもコンディショニングやスキルに重点をおいてやっています。
—— 今年は社会人になって何シーズン目ですか?
7年目です。2年目に初めて試合に出ました。1試合目の東芝府中戦は1~2分しか出てなくて、2試合目で三洋電機戦に出たとき、先発は永友さん(洋司)や田中さん(澄 憲)が出ていましたが、怪我をしてスクラムハーフが僕しかいなくなったんです。後半残り20分に交替で入って、10分弱ぐらい経ったときにタックルされて、左手がはさ まってしまって骨折。11月ぐらいでしたが、そこでそのシーズンは終わってしまいました。
3年目は右手を骨折したり、ヒビが入ったりして、怪我が多くて自分でも何か憑いてるんじゃないかと思って、お祓いもしてもらいました。ヘルニアから始まって、怪我 が多くてラグビーができてませんでした。
4年目は定着しなかったけど、ちょくちょく出られるようになって、5年目のときに初めて開幕戦に先発しました。ヤマハ戦でしたが、先発で出たことは嬉しかったですね。 ただ負けたんで自分のプレーもできなかったです。
◆巡り合わせ
—— 沢木敬介選手と昔から繋がっていますね
高校だけ違うんですが、小・中・大そして社会人と常に一緒です。小学校(船川第一小学校)2年のときにラグビーを始めたんですが、そこに敬介さんが4年生でいました。
—— 今と同じ感じでしたか?
はい、あんな感じで怖かったですよ(笑)。
—— まさに腐れ縁ですね
巡り合わせみたいな感じです。高校(秋田工業高校)を卒業してからは明治大学へ行きたかったんですが、明治には試験で落ちちゃって、2次試験を受けたら夜間でなら 採ってあげるよと言われたんですが、高校日本代表の遠征があって、それに行っちゃって帰ってきたら何もない状態でした。それで敬介さんが誘ってくれて、日本大学に 入ったんです。
—— 小2で始めたラグビーはスクールですよね
はい、一緒に遊んでいた友達が入っていたので、そこに入らないと遊べないと思って始めました。でも結構本格的なスクールだったんで、かなりハードな練習もやりまし た。強いチームでしたよ。
中学(船川中学)でラグビー部に入ったんですが、周りの友達はみんな中学へ行ったらラグビーをやる、と言ってたんです。男鹿はもともとラグビーが盛んなんで す。ママさんバレーでなくてママさんラグビーがあったくらいです。今はありませんが。3年生のとき、男鹿南中と合併して、名前が変わりました。
◆タックル賞が欲しくて頑張った
—— 自然と続けたラグビーの面白さは?
ラグビーやっていて面白いな、と思うのは、9番やってても10番やってても、自分の思うようなプレーでトライを取ったときですね。小学校時代は「タックル賞」という のがあって、試合が終わっていちばんいいタックルをした選手は金メダルをもらえたんです。それが欲しくて頑張った。
狙ってもらえるもんじゃなかったので、たくさんもらっている奴もいましたが、僕は1個か2個でした。そのタックルで腕を折っちゃったんです、小4のときに。大変な思 いをしました。
—— ご両親はラグビーを応援してくれましたか?
ラグビーを始めたときから、母親は毎回応援に来てくれました。熱心に応援してくれるんです。親父は高校の代表候補に選ばれるようになって、興味を持ち始めました。
僕が出る試合は秋田から必ず来てくれます。大学のとき、3年までは試合に出れなかったんですが、3、4年から出るようになって、ほぼ毎試合、東京に見に来てくれます。
—— ご兄妹は?
妹が1人います。
—— 今までで印象に残る試合は?
社会人になってから、あまりいい思いをしていません。高校のときに花園で決勝までいって、大阪工大付属とやって、ボコボコ......確か10対50ぐらいでやられちゃいまし た。でも今までの人生の中で楽しかった思い出で、タイトルのかかった試合でしたから、お客さんもたくさん入っていました。
そういう試合に出場したのは、社会人、大学でもありませんから、いちばん面白かったですね。最初にメインのグラウンドでやったときには、気持ちがフワフワして、心 ここにあらずという感じでした。地元の啓光学園との試合だったんですが、満員のお客さんに飲まれちゃって、勝ったのに全員で泣いていました。
そのあと準々決勝、準決勝とあったけど、チームは戦うごとに強くなっていってるのを肌で感じて、その途中の段階で感じるチームが強くなる感じが面白かったですね。
◆たくさんいる恩人
—— 今年の目標は?
試合に出ることです。9番で先発出場すること。今は怪我は大丈夫ですが、突発的にいつ出るかわからない怖さがヘルニアにはあります。しっかりメンテナンスをしなが ら、やっていければと思っています。恩を仇(あだ)で返すことはしたくないですし、僕にたくさんいるのは、恩人だと思います。
—— 将来はどうでしょうか?
ラグビーの関係に関わっていきたいですね。しっかりとした考えはまだないですけど、高校、大学などの指導者や、指導だけに関わらずとにかくラグビーに関わっていけ たらいいなと思っています。
—— サントリーでは何の仕事をしてますか?
営業です。家庭用のスーパーを担当しています。神奈川県のスーパーの本部を担当していて、1つのことが本部で決まると、大きな話になってくるので、本部での商談や 提案が上手くいったときには、手応えがあって面白さを感じます。
—— 提案のためにどんなことをやってますか?
近くのスーパーを見て回って、ウチの商品が冷蔵庫にどれだけ入っているか、配荷されているか、競合商品の価格など、そういう部分をいろいろと見て歩いています。
それと僕は会社に長い時間いないので、周りのメンバーとコミュニケーションを取るように心がけて、情報交換しています。
◆練習するとできるようになる
—— サントリーに入ったのは?
他のチーム、東芝やリコーから誘いがありましたが、仕事をしっかりとしながらラグビーができるので、サントリーに決めました。仕事ができて、ラグビーができる、 というのが魅力でした。
—— 性格は冷静な方ですね
カッとしないし、辛抱強い方だと思います。生まれが東北なんで、辛抱強さがあるんです。ふだんは温厚ですが、ラグビーでは言うべきところでは、しっかり言ってやっ ています。
—— 趣味は?
体を動かすのが好きです。週末はジムへ行って、軽くエアロバイクをやったり、水泳したりしてます。スポーツはラグビーしかできない感じで、他のスポーツをしたこと がないし、やると上手くないですね。ラグビーもそうでしたが、すぐにはできず、練習をするとできるようになるタイプですね。
(インタビュー&構成 針谷和昌)