SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2006年7月 5日

#27 沢木 敬介 『思ったことは言う 言えなくなったらやめる』

◆選手の経験が重要

—— せっかくのタイミングなので、昨日のワールドカップサッカー日本対オーストラリア戦について

残念ですね。ちょっとショックでした。ふだんはあまり興味ないんですが...。

—— ラグビーでもあると思うけど、勝っていて逆転されるああいう時の選手の状況はどんなでしょう?

先ず、要因が何個もあると思います。選手交替だったり、各選手のモチベーションだったりとか。精神的な問題とかいろいろあると思うんで、どれが正しかったかは結果論なんですけど、昨日の試合に関して言えば、前半はディフェンダーががんばって体力を消耗していたと思うんです。後半に入っての交替選手は、元気があってチームにインパクトがある選手に替えた方が、チーム全体にモチベーションが上がったかな、と見ていて思いました。

1点先制していて、小野(伸二)が入ってきたあの辺は、僕が監督だったら...僕が監督していたらですよ(笑)、得点力があって1発があるフォワードに替えて、例えば大黒(将志)とか巻(誠一郎)とかのワントップにして、ディフェンスの人数を増やして、経験のある稲本(潤一)あたりを入れていると思うんです。ああいう場面では、選手の経験が重要だと思います。

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疲れてくると、どうしても集中力がなくなってきますが、その中に1人だけ集中力があるやつが入ってきて何かを言われると、それまでプレーしていた選手たちはとても意識するんです。例えば後半残り20分でワントライ取られたら逆転されるという状況で、気を抜けないけど集中力が下がっているというしんどいときに、元気なやつやベテランが入ってきて、チームに対して言う一言一言は、すごく重要です。そういう一言には全員が耳を傾けると思うし、ベテラン選手には経験があるので、影響力があるんです。

サントリーでも、昔は永友(洋司)さんが、後半20分ぐらいで出てきて、たぶん選手としての力ではキヨノリ(田中)とかの方が上だったと思うんですが、発言によってチームの士気とかが一気にガラッと変わることが多かったんです。

清宮さんもそうでした。僕らがサントリーに入ってきたときにまだ現役だったんですが、清宮さんが途中から入ってくると、みんなが引き締まるというか、的確なアドバイスを言うんです。周りが意識しなくちゃいけないところをつくというか。清宮さんの現役時代は僕らぐらいがギリギリでしたから。

◆冷静にしっかりと試合を見る

—— そういう役割に自分もなってきていますね

そうですね、僕も今はそういうことをしてますよ。その辺りは去年、後半から出る機会が多かったので、どこを変えなきゃいけないとか、出るまで冷静に自分なりにしっかりと試合を見ていました。入ったら流れを変えるようにと思っていました。そうやってある程度は流れを変える自信もあります。今年はぜんぶスタメンで出ているから、いっぱいいっぱいで、逆にそんな余裕はないですけれど。

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—— その経験はスタメンから出た時にも役立つのでは?

そうですね。試合のはじめや中盤など、入る時に大事にしています。

—— もともとリーダーシップを発揮する方ですか

試合中は、思ったことは言うタイプです。言うタイプの人って、ある程度のプレーをしていたり、体を張れる人間でないと、言うことを聞かないでしょ、みんな。周りのチームメートも何だあいつは?言ってばかりでと(笑)、聞かないと思うんですよ。だから、言えなくなったら、辞めようかなぁ(笑)。だんだん言えなくなってきてますから。言えてる間はプレーにも責任持てていますけど。

—— ラグビーを始めたのは

小学校2年生からです。周りがやっていて、秋田はラグビーが盛んなんですよ。小学校(船川第一小)ではずっとキャプテンでした。中学(船川中)では普通の人、高校(秋田経法大付属高校)ではバイスキャプテン(副将)でした。小学校の時にキャプテンをやってみて、キャプテンっていう名前が嫌だったんです。何かわかんないけど、ひねくれていたんですね、当時。キャプテンって何だよ、いいよやりたくねーよ、みたいに。大学でもバイスキャプテンでした。

◆高校では真剣な練習は20分

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—— ラグビー一筋ですか?

野球やサッカーもやりましたよ。自慢じゃないですけど、野球部のやつより上手かったですよ、野球(笑)。でもラグビーだったんです、ラグビーが盛んだったから。性格的にはラグビーが良かったんじゃないですか、やんちゃだったし。暴れん坊じゃないと自分では思ってますけど。

サッカーも遊びでやっていて、高校まではラグビーを真剣にやったことなんてありませんでした。監督がラグビーの素人で、コーチが週に2回来て教えてくれていました。週末のコーチの練習は厳しいんですが、平日の練習はサッカー部のグラウンドでサッカーやったり、ソフトボール部と一緒にソフトボールをやったりしていました。サッカー部とサッカーやってたら、サッカー部の監督に怒られたりもしましたね。

それで最後20分ぐらいがラグビーの練習で、それもタッチフットをやってました。それが面白かったんです。

—— 真面目にやったのは?

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土日にコーチが来た時の練習はきつかったですよ。そのために木曜からちゃんとやり始めてました(笑)。高校の時はきつい練習は嫌でしたけど、同じ中学のやつが高校で秋田工業とかへ行って、試合に出て強くなったりしているのを見ると、負けず嫌いなもんで、ちょっとやってやろうかーってなりました。それで3年生の時は、真剣に土日にしっかり練習して、いろいろコーチに教えてもらったりしました。

—— 高校時代に選手としてのびたんでしょうか

高校の時は高校日本代表候補合宿に呼ばれました。行ってみると、大して上手いやつはいないっていうか、ズバ抜けて力の差があるっていう感じではないと思いました。高校自体は強豪ではなかったので、県大会でベスト4まで行ったのが何年ぶりかという高校でした。高校時代のチームメートはみんな仲が良かったんで、そういう合宿にも行けたんだと思ってます。

◆ラグビーの面白さは勝った時

—— 大学は日本大学ですね

コーチが日大の監督の後輩で、春先から誘ってもらっていたので、セレクションなしでいいよとも言われていました。コーチのことを信頼していましたから、行けと言われていたので何も考えないで入りました。日大のジャージの色すら知らなかったんです。入ったらジャージの色がピンクなので、びっくりしました。でもピンクだからといって、後悔したわけではありません。

—— ポジションはどこでしたか?

ポジションはいっぱい経験しました。小学校から中学2年まではスクラムハーフ。中3、高1でフルバック。高2からセンターで、社会人3年目にスタンドオフ。その後はセンターやったりまたスタンドオフをやったりです。

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—— ラグビーの面白さはどこにありますか

勝った時ですね。勝った時って、たいがい自分も納得してるプレーができているんです、いや納得してるプレーっていうか、そこそこのプレーですね。負けず嫌いなんで、練習試合でも負けるのは嫌なんです。勝たないと、嫌。負けた時は、自分自身にも責任があると、いつも思うようにしています。

◆試合に勝つために練習したことがそのままできた

—— いちばん嬉しかった試合は

ウェールズに勝ったときです。それこそムチャクチャしんどい試合でしたが、そこそこできたとも思っています。最初から勝つ気でいっていたんですが、でも相手はウェールズ代表ですから、心のどこかに「正直勝てねぇ」っていうのがあったと思うんです。でもやっていくうちに、「これ、勝てるな」と思い始めた。サントリーの運動量と、あとは単純にその試合に勝つために練習してトレーニングしてきたことが、そのままパフォーマンスとしてできたんです。

結局そこじゃないですか。練習でできても試合でそのパフォーマンスができなければダメで、いい練習をやったとしても、パフォーマンスが悪ければ意味がないですよね。

—— 今のサントリーはどうですか

いいっすよ。みんなのモチベーションが高いですね。結構きつい練習をしてますし、僕も31歳なんできついですが、周りも含めてモチベーションが高いし、僕より上の人とかも頑張っているので、年寄りが頑張っていたら、年下もそう簡単には弱音をはけないですからね。

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—— モチベーションが高い原因は

清宮さんですね。清宮さん独特の、あの人独特のものがあります。

◆清宮さんは細かいところを重要視する

—— それは具体的に言うと

やっぱり先ず厳しいです、いい意味で。いろんな意味で、厳しい。普通の人だったら見逃してしまう小さなプレーでも、サボってたら見破られます。そんな感じです。清宮さんはすごくラグビーを知っています、って僕が言うのも何ですけど(笑)。スクラムにしろ、ラインアウトにしろ、モールにしろ、バックスにしろ、どのプレーもポジションにも詳しいんです。細かいところを重要視します。確かにそうだなぁと納得することがよくあります。

—— 社員選手たちは休む間がないと思いますが大変ですね

大変です。だから怪我しないように、自分でも練習前にモチベーションを上げています。なぁなぁでやっていては怪我をしてしまうので、トレーニングでも最初に試合と同じぐらいにモチベーションを上げています。結構しんどいですけど、これはゲームにつながるので、大切なことだと思っています。

—— 休みの日は?

練習が休みの日は仕事です。試合が終わったあと飲みに行ったり、家族と家でゆっくりしたりして、気分転換しています。

—— ご家族は?

奥さんと子供1人です。娘で2歳です。将来はクラシック・バレエをやらせようかな、なんて考えてます。

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◆負けず嫌い

—— あなたがラグビーをやったのはご両親の影響ですか

親の影響はまったくありません。親は、お前の好きなようにやれ、と任せてくれていました。ただ、中途半端にやるならやめろと。親父はグランドホッケーをやっていたそうです。自分ではいい選手だった、国体にも出た、いろんな大学からスカウトにきた、と言っています。

—— 日本代表だった時のことを聞かせてください

当時最年少でした。大畑(大介/神戸製鋼所)とかと同期で、年齢はいちばん下でした。キャップは5個しか持っていませんが、センターには当時、元木由記雄(神戸製鋼所)、アンドリュー・マコーミック(ラグビー日本代表初・外国人キャプテン/ニュージーランド出身)というすごいのがいたんで、フルバックとかもやっていました。

平尾ジャパンの時で、パシフィックリム選手権なんかにも優勝して、日本が強かった時です。アルゼンチンにも勝ちましたし。若かったからプレーに関してもあまり考えていませんでしたが、いま思えばあの時こうしたり、あぁしたりしていれば良かったと思うことはいっぱいあります。もちろん初キャップを取った時は嬉しかったですよ。

—— そういう経験をいまに活かしている?

経験はつねに何でも活かそうと思っています。

—— 今年の目標は?

負けず嫌いなので、とにかく負けない。試合もそうですし、勝負事にも負けない、でもギャンブルはやりませんよ。練習中のゲームとかでも、負けるのが嫌です。今年は僕の出た試合は、今のところぜんぶ勝ってます(笑)。

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—— 将来は?

何かやってやろうと思っていますけど、それが何かはまだわかりません。仕事かもわからないし、サントリーにいたらサントリーの中で、何かアクションを起こすでしょうし。今の仕事は東京第2支店というところで、業務用酒販店の担当をやっています。

—— 仕事での楽しみは

いろいろありますが、オープンする店をうちの生ビールで決めた時とか.....卸とお店と両方にOKと言ってもらわないと、使ってもらえませんから、両方に対する人間関係や付き合いが重要なんです。負けず嫌いなんで、こういう仕事が合っています。

(インタビュー&構成:針谷和昌)

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