2006年4月14日
#4 長谷川 慎 『負けを認めない』- 2
◆強くなるためのこだわり
—— スクラムで最も大切なことって何ですか?
僕がずーっと言っているスクラムで重要なことは、負けを認めないということ。押せるという自信がないと、紙一重の勝負には勝てない。この点を適当にしないで、こだわり抜かないといけない。スクラムの一本一本をビデオを見ながら、ここなんでやろ?こうやったら、いいんちゃう?とやっていく。そうやってこだわってちゃんとやっていかないと、自信がつかない。そして簡単に負けを認める様では、強くならないと思います。
僕がフッカーで試合に出ていた時に、坂田(正彰)が入ってきました。僕はレギュラーから落ちたくない。そのためにはプロップにいくしかない。そこには先輩がたくさんいる。さぁ、どうする?そこから強くなるために、ビデオを見て、こだわって、最短距離をいった。足の1つ1つの動かし方、手の持ち方、スクラムを強くするためのウエイト.....レギュラーになるために最短距離をいって、結果オーライでした。
—— どこをどう練習するという決まった方法はあるのですか?
プロップとして鍛えるべき要素は、人それぞれだと思います。体の大きさも違えば、感覚も違う。それには自分で大まかな部分は見つけないといけない。当時のサントリーのプロップでレギュラーだった中里(豊)さんと一緒に練習して、横でずっと見ていました。足の位置から始まって、どんなウェイトトレーニングをしているかまで。中里さんは体型も似ているし、強かったですから。その時は、見とるな、同じウエイトしているな、と思って中里さんもいい気がしなかったでしょうが、今はムチャクチャ仲がいいですよ。
—— その経験から後輩にも教えているんですか?
いや、最初は面倒見ていなかった。だけれども思い余って、そんなんじゃ強くなってこないぞ、と教える様になった。東野(憲照)、林(仰)たちが、ウェイトを一生懸命やっているのを見ると、早く強くなってほしいなと思います。
—— 今まででいちばん印象に残る試合は?
サントリー対ウェールズの試合(※8)。その試合の前に僕が初めて出たワールドカップ(99年第4回大会)があって、日本代表はウェールズ戦をウェールズのホームで戦うことになって、あの雰囲気の中での試合は感動的でした。それまで味わったことのないくらいにウェールズのスクラムが強かった。スクラムがいちばん大事だと、いつも日本代表で言われていて、その結果がこれでは腹立つなぁというのが感想でした。その相手とサントリーが試合をして、ワールドカップでトイ面だった選手が、その試合の後半から出てきた。
※8:サントリー対ウェールズ=2001年6月3日/秩父宮ラグビー場/
サントリー 45-41 ウェールズ
ウェールズ戦に向けてサントリーで練習している時、初めてスクラムが押されることを前提にした練習をしました。そういう練習をすること自体に腹が立って、直人(中村)さんとかとも腹立つなぁと言いながら、試合に臨みました。試合では押されることなく、しかも相手ボールを2つか3つ取った。監督の土田(雅人)さんが試合後に「なめてた、ごめんな」と謝りに来ました。それに「いいですよ、今回は」なんて応えて(笑)。後にも先にもスクラムが押される想定で練習したのは、あの時1回だけでした。
—— ラグビーの魅力って何ですか?
僕はフットボール系ではないんです。パスが上手い訳でもなく、バックスの要素ができる訳でもない。でもこんな奴でもラグビーができる。逆に、走れてもパスが上手くても、プロップはできない。お互いが認め合わないと、チームとして成り立たないでしょう。ほんとにいろいろな専門的なところがある、それがいちばんの魅力だと思います。
趣味と一緒なんですが、ラグビーになると専門的にかなり細かく調べます。例えば、ラインアウト(※9)の相手選手の手のはらい方とか。そういうとこにはこだわりますが、どうでもいいことはとことんどうでもいいので、そのあたりが大成しない理由かも(笑)。
※9:ラインアウト=ボールがタッチになった後、2列に並んだ両チームの
選手の間にボールを投げ入れる競技の再開方法
—— 今年優勝したら本当に引退ですか?その後はどうするんですか?
ずーーーっと考えているんですが、どうしよう?正直ここ5年ぐらい、ずっと普通の男の子に戻りたいと思っているんです(笑)。でも本当にラグビーから離れられるのか?仕事もやらせてもらっているし、ラグビーも続けさせてもらっているので、サントリーを辞める選択肢はないですが、引退後のことは引退した時に考えることにします。なる様になるから、とくに今決めようとは思っていません。
—— プレーをしていて恐いと思うことは?
怪我をして外から練習を見ている時に、何て危ないスポーツなんだと思ったことはありますが、そこに入ってしまうとスイッチが入るんで、プレー中に恐いと感じたことはありません。
—— ご家族は?
結婚していて子供が2人います。5歳の男の子は水泳をやっていて、下の女の子はまだ9か月です。上の子はオーストラリアまでワールドカップを見に来たし、オヤジがラグビーをやっているというの、ある程度わかっていると思います。将来はラグビーをやらせてみたいのですが、ガリガリで僕とは正反対です。それに比べて女の子の方は大きすぎて、ハイハイが出来ないんです。こっちに僕の要素がすべて遺伝してしまって「しん子!」ですよ(笑)。
◆誰にも負けないメチャ強いプロップがレギュラーになるチーム
—— バイスキャプテンとしての意気込みを
バイスキャプテンになるのは僕自身2回目です。1回目は近鉄に負けて早くにシーズンが終わった年なんですが、坂田キャプテンのもと、バイスキャプテンをしました。キャプテンが途中で怪我をしてしまい、僕がゲームキャプテンとして戦ったという、大変なシーズンでした。翌年はキャプテンもバイスキャプテンも総入替えでしたから、短期でしたね。
それ以外には、これまでフォワードリーダー的なことはやってきましたが、キャプテンとかバイスキャプテンということをやったことはありません。今回も名前はバイスキャプテンとついていますが、うちの選手はみんな大人だし、リーダー的なことをやってきてそれなりに自覚があるメンバーなので、大悟(山下/キャプテン)が引っ張ってくれて、みんなが同じ気持ちでやって行ける様にサポートをするのが、僕の役目だと思っています。
みんながリーダーという気持ちでないと強いチームにはならない。社会人にもなって引っ張って下さい、なんていう何を言うてんねんという奴はいないはず。サントリーのメンバーは自分からできる奴らばかりだと思っています。
だいたい昔から、僕はその年その年の監督やチームの方針に、出来るだけ従おうという気持ちでやってきました。サントリーでもジャパンの時もそうです。去年までも洋司さん(永友洋司/前監督)の言うことを守ろう、みんな監督と同じだという気持ちでやってきました。だから清宮さんに対しても同じ。少なくとも僕らより一生懸命に考えてやっている人たちを信じて、一生懸命練習します。楽しみですよね。
—— 本格的な練習ができないという焦りはないですか?
去年はずっと膝が悪くて練習に参加できず、リハビリテーションの毎日でした。ゴールデンウィーク明けまで走ってばかり。その後ウエイトトレーニングをして、夏合宿からチームに合流しました。そうしたら、自分がとても速くてしかもパワーがあって、スクラムもポンと組めた。自転車やスキーと同じで体が覚えているんですね。だから早めに合流したい気持ちはあるけれど、体さえしっかりしていれば、大丈夫だというのがわかった。焦りよりも、体が作れるな、という気持ちです。
—— ファンの皆さんに今年の抱負を
僕がチームに貢献できるところでアピールできるものは、ほんとにスクラムしかないと思います。清宮さんがスクラムを重要視したプランを考えているみたいなので、僕の役目は重要になってくる。そこだけは何としても譲れないので頑張ります。僕だけでなく、みんなも目の色を変えてチームのポイントになっていくんだという風になって、誰にも負けないメチャクチャ強いプロップがレギュラーになるチームが、僕はいいと思います。頑張ります。
(インタビュー&構成 針谷和昌)