2013年2月12日
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『トップリーグ決勝中継の舞台裏』
こんにちは、瀧川恵です。
テレビ朝日ではトップリーグプレーオフの決勝を中継しました。今回のスマイルカフェでは、その舞台裏をお伝えします。
中継には様々なスタッフが携わります。実況、リポートをするアナウンサー、チームや選手の情報を集めるディレクター、カメラ、音声などの技術スタッフ。今回は総勢60名あまりでラグビー中継にのぞみました。
天気が良すぎると実は困ったことに・・・
試合当日は快晴。ラグビー観戦日和なのですが、カメラで捉えた映像の明るさを調整するVE(ビデオエンジニア)にとっては腕の見せ所です。写真を撮るときにも逆光を気にしたりしますよね?それと同じで、秩父宮はメインスタンドが影となり、バックスタンド側には直射日光が当たるため、手前側のプレーは影の中で暗くなってしまい、向こう側にプレーが移れば、日光が当たり明るくなってしまいます。快晴は、光の当たり具合を調整する“VE泣かせ”な天気なのです。
それでも、やはり青空の下での試合はプレーする選手も、見守る観客も、放送するテレビスタッフも気分は上がります。
放送席ではこんな攻防も・・・
【放送席】左から岩渕健輔さん、大畑大介さん、大西洋平アナウンサー
この日の放送席は解説に元日本代表の大畑大介さん、日本代表GMを務める岩渕健輔さん、大西洋平アナウンサーの3名。
昨年のトップリーグプレーオフ決勝の中継に続き、2度目のラグビー実況となる大西アナウンサーに話を聞きました。
Q:ラグビー実況ならではの難しさとは?
ラグビーの実況は本当に難しいです。なぜなら、プレーが常に動いているからです。野球であれば投手が1球投げれば、次の投球まで少し間が空きます。しかし、ラグビーにはそんなヒマはありません。ましてや、サントリーのプレーは途切れることなく、早いテンポで進んでいきます。
試合の数日前に取材をして、選手たちにも直接お話しを伺うことが出来たので、話したい事はいろいろあるけれど、話そうとするとビッグプレーが生まれる・・・。タイミングを探るのが本当に難しいんです。
とにかく、見ている方にラグビーの魅力が少しでも伝わるように、“ラグビーのリズム”を邪魔しないようことを心がけていました。
Q:解説は神戸製鋼同期入社の大畑大介さんと岩渕健輔さん。お二人の印象は?
選手のプレーとともに熱を帯びてくる大畑さんの解説と、冷静な目で選手のプレーを分析する岩渕さんの解説が絶妙なバランスでした!
勝ったサントリーについて、大畑さんは「80分間、自分たちの戦術を信じきれることが素晴らしい」と精神を称え、岩渕さんは「最後まで立っている人数の多かったのが勝ったチーム」と肉体を称えていらっしゃいました。
お2人のそれぞれの視点から、様々なポイントを挙げていただき、中継の中で私も勉強させていただきました!
より迫力ある映像をお届けするために!
【メインスタンドの上段にあるメインカメラ】
今回の中継では9台のカメラでプレー、選手の表情、観客の興奮を追いかけました。
その中で、特にこだわったのはバックスタンド側のタッチライン際でプレーを追いかけたステディカム。
サッカー中継などでもライン際でのドリブルの切り替えしなどを、選手に近いアングルで撮影しているのをご覧になったことがあるかもしれません。
ピッチ上の選手たちを、すぐ近くで見ているかのような臨場感が味わえるのですが、このカメラ30kg近くもあるんです!
【ステディカム】カメラマンのベストにカメラを固定することにより、移動しながらの撮影でもブレや振動を抑えることができます。
私たちはこのステディカムが、力と力がぶつかりあうスクラムやモールの押し合い、ラインアウトの競り合いなど“ラグビーらしい攻防”を力強く描くには有効だと考え、去年から導入しています。
前半24分、その場面はやってきました。東芝ボールのラインアウトからモールで押し込まれ、インゴールでトライを阻止したシーン。そのプレーはテレビマッチオフィシャル(ビデオ判定)になるほどのクロスプレーとなりましたが、サントリーの粘り強い守備力が相手の攻撃の芽を摘んだ重要な場面となりました。このプレーを、バッチリ迫力満点の映像でお届けすることができました。
ラグビー愛が支えるラグビー中継
そして、中継の技術チームを束ねるのがラグビー愛の強い、元ラガーマン、学生時代はロックだったという熱田スイッチャー(写真奥)。最近の国際大会のラグビー中継の動向を一緒に研究したり、カメラ位置を相談しながらこんな映像を撮りたいな・・・と打ち合わせしたり、年に一度の舞台に向け準備してきました。普段はドラマを担当している熱田さんですが・・・
Q:ドラマを担当することが多いと思いますが、ラグビー中継のスイッチャーならではの大変なところは?
元々ドラマの仕事が多いので、なかなかスポーツ中継が出来ないのですが、この中継をやるチャンスがある以上、ラガーマンとしてはやらないわけにはいきません!
僕はFW出身なので、球際のプレーは寄りの映像が見たいって思ってしまうのですが、BKの人は同じ瞬間にラインが分かる広い映像が見たいんですよね。学生の頃、試合のビデオ撮ったらBKの先輩から「寄りすぎだっ」って怒られてましたし(笑)。この切り替えのタイミングが結構難しいのですが、FWにもBKにも見やすく、そして初心者には分かりやすく、かつ迫力満載な映像に仕上げるよう、頑張ってます。
Q:ラグビー中継で気を付けているところは?
ラグビーはポジションが豊富で、それぞれプレーに特徴がありますよね。派手なBKのプレーに目が行きがちですが、黙々とボールを出すFWの凄さも伝えたい。トライした人だけではなく、ボールを出した人、つないだ人、チームみんなのトライなんだと伝えたい。見せたいものが多すぎて大変ですが、やり終えたときの充実感はたまりません!
プレーする選手、声援を送る観客の皆さん、大会を運営する人、中継に関わるスタッフ・・・とたくさんの人で作られるラグビー中継。普段、ゴルフ中継を担当している私にとっても、ラグビーにしかないテンポや間(ま)、スピード感を楽しみながらも、プレーのダイナミックさや体をぶつけ合う音をよりリアルに伝えるためにどうすればよいのか・・・と考えることは、また新たなことを学ぶチャンスとなります。こうして、スマイルカフェに投稿しているときに、サントリーのトップリーグ連覇を中継できたこともまた運命を感じました。