2015年5月26日
サンゴリアスラグビー大辞典 #232“特別編”『ハドルその2』竹本隼太郎
サンゴリアスラグビー大辞典“特別編”として、試合の日に起こるシーンやシチュエーションを選手が紹介します。試合前後を含めた場面場面を、選手たちならではの経験と感覚をもとに解説していきます。
「ハドル」その2(解説:竹本隼太郎)
自分のチームがトライを取った時にも、ハドルは組みます。今のトライや得点が「良かった」「悪かった」という話もありますし、「次のキックオフをしっかりやろう」と次のプレーのことについて話すこともあります。それまで悪かったことについても、修正するための良いタイミングなので話します。
試合が終わって、負けた時の方が、勝った時よりハドルを組む時間が長いと思います。負けた時はみんな考えがバラバラだと思うので、ひとつになるために、考え方の方向性をひとつにするための話をしたりします。そのあと「礼に行こう」とバックスタンド側へ行って応援してくださったみなさんに礼をして、次にメインスタンドに行って礼をします。
ロッカーへ戻ったら、肩は組みませんが、ノンメンバーやスタッフを含めてみんなが集まって、チームで円陣を組みます。これはハドルとは少し違いますが、監督が喋ったり、マン・オブ・ザ・マッチの選手、トップリーグデビューや復帰戦だった選手、キャプテンが喋ったりします。
ハドルでは、何を言うというよりは、その場の雰囲気で、本音で話さないと伝わりません。多過ぎず、速すぎず、枝葉から言ってもしょうがないですし、その時にいちばん大事なことを言うのが良いと思います。みんなの顔を見て、出来るだけその場の空気を感じながら、大きな声で言うのが良いと思います。
あとは感情の入れ具合をどうするかですね。試合中、どうしても疲れている時には乗らない時もあるので、そういう時にハドルを組んで、リードすべき人がしっかりと気合を入れて、チームの温度を上げないといけないと思います。良い時はトーンを下げて、やることに集中するために、やるべきことを2〜3個ぐらい言う。そこはバランス感覚が大事だと思います。
以前はハドルを組んでも、組んだ時に円の形が整っていなかったんです。バラバラで出っ張っていたり、どこかが引っ込んでいたり。強くて、まとまっている時というのは、綺麗な円形になるんです。お互いの協調性が上手くいっているからじゃないかと思いますが、なかなか勝てない時は円の形も良くなく、組む回数も少なかったと思います。形だけ櫓を組んでいる感じでは意味がないので「魂を込めてやる」、その積み重ねが大事だと思います。
負けた後のハドルの記憶としては、2年連続2冠を獲ったシーズンの1年目のリーグ戦で東芝に負けた時のハドルが印象に残っています。そのシーズンは、これが唯一の負けだったんですが、みんな一生懸命「これでもか」という勢いで試合をして、最後に逆転されて負けたんです。その時の選手たちの、呆然とした顔が忘れられません。何も考えられない状態で、そういう時には、あぁだこぅだ無理して考えるのではなく、「ロッカーへ戻ってチームでひとつになった方がいい」と思ったんです。
試合終了直後にグラウンド上でハドルを組んで、キャプテンとして「やることはやったと思うし、プレーは良かったので前向きになろう。今ここでは話さないで、バックスタンドとメインスタンドへ行ってお礼の挨拶をして、ロッカールームに戻ろう」と言って、サァーッとロッカーに帰ったことを覚えています。チームとして悔しい想いを人に見せたくない気持ちも少しありました。そしてロッカーで、監督、コーチ、ノンメンバーとみんなで、またひとつになれました。ネガティブな考えが浮かぶ前にチームがひとつになって、次に繋がって、プレーオフトーナメントで対戦した時には勝つことができました。これは良かった思い出です。
<了>