2013年9月24日
サンゴリアス ラグビー大辞典 #095 『ヘッドトレーナー』
サンゴリアスやラグビーを語る上で、必ず出てくるラグビー用語やサンゴリアス用語。そんなワードをサンゴリアスのあの選手、あのスタッフならではの解説で分かり易く解説するコーナーです。
「ヘッドトレーナー」(解説:吉田 一郎)
もともとトレーナーという業務自体は多岐にわたっていて、例えばプロ野球のトレーナーのようにマッサージだけという場合もありますが、ラグビーの場合は細分化されたことをたくさんやっているので、何がトレーナーの業務か?と言われると困りますが、それら全てを全体的に見ているつもりです。それでコントロールが出来ているかどうかはまた別の問題ですが、基本的に僕は「トレーナーは何もしない人」だと思っています。
どうしても弱気な選手を励まし、鼻っ柱の強い選手の鼻を折ってとか、心の部分もケアしたりすることはあります。僕はこの年齢(1960年生まれ)までここでやらせてもらっていて、多少なりとも今の選手よりも10年、20年長く生きていて経験的な知識はあるので、そういう話をする時もあります。従って業務は多岐に渡りますが、いちばんのポイントは「どうしたらチームが勝てるか」にあります。僕の中ではそれが大前提です。始めに選手ありきで、選手はもちろん大事であり、選手が良い状態でプレーしてくれることが大事なんですが、いちばんはチームがどう勝つか、ということです。誤解を恐れずに言えば、日頃選手に餌をまいておいて、試合の時に強く言って、選手に試合をさせる、試合に向けての練習をさせるということが結構あります。
基本的にラグビーは“痛い”競技なので、その痛みにどう耐えられるかということが大事です。例えば指が脱臼していようが、ラグビーは出来ます。「そういう感覚にならないと、グラウンドではプレー出来ないですよ」という話は選手にします。野球では指を脱臼して試合に出る選手なんか絶対にいませんが、ラグビーでは普通です。あまり乱暴な言い方をすると問題がありますが、指を脱臼していてもいろいろな形で固定して試合に出すという意味です。指がブラブラしている状態でも出す訳ではありません。
僕はチームを預からせていただいている時は、「勝ちたい」という気持ちを持って「どうしたら勝てるか」という答えをグラウンドで探しています。うちにはトレーナーは僕と田代(智史/トレーナー)と2人しかいないので、2人のやることを分業化しています。その中で田代がやっているリハビリの内容とか選手に対するいろいろな働きかけを僕は見ているようにして、そういう中で全体的にバランスを取るということに気をつけています。
分業について言えば、基本的に田代はリハビリ担当で故障者優先です。故障者は気持ちが弱くなるケースが多いので、その部分は彼の手に余るようであれば僕がフォローして、選手に話しかけたりというようなことをしています。そうやって全体的なバランスを取るようにしています。丈夫な選手で試合に出ている選手は、放っておいても働くんですよ。
S&C(ストレングス&コンディショニング)コーチもいるので、まずはグラウンドに出る準備段階をちゃんとさせましょう、ということでやっています。例えばストレッチだったり、ハイドレーション(積極的な水分補給)で水分を摂ったりというところは、S&Cコーチと僕らとでリンクしながらやっています。
僕は“さぼる”トレーナーです。仕事をいっぱいするトレーナーが良いトレーナーだと僕は思っていません。たくさんいろいろな仕事をするトレーナーは、結局いろいろなことが出来ていないということです。その前段階で、ある程度選手を教育したりちゃんと働きかけていれば、僕らがやるよりも選手自身がやってくれるんです。
トレーナーの喜びは「勝つ」ことです。スポーツであるかぎり勝たなければいけない。ボランティアではないので、勝つことが僕らのいちばんの喜びであって、そこに向けてモチベーションを上げることになります。トレーナーだから故障した選手が治って出て行って活躍してくれたら嬉しいという気持ちはありますが、それは一個一個のことであって、僕はやはり勝つことということを常に自分の心に投げかけています。
今トレーナー志望者が多く、専門学校から実習に来たいという話も多いです。僕は学生トレーナーを4-5人、年間で受け入れてはいますが、彼ら彼女らからは本当にトレーナーになりたいという気持ちが伝わってきます。でも僕はいつも言っているんです。朝早くて夜遅くて凄く不安定な職業で、確かにやりがいはあるかもしれないけれど家族をかかえてこれで飯を食べて行くには本当に不安定な職業なんですよ、だから将来の仕事を選ぶのであれば、よくよく考えて選んだほうが良いです、と。
ラグビーは競技として非常に魅力があります。原始的です。人間と人間がぶつかり合ってボールを取り合うという肉弾戦は、非常に“血湧き肉躍る”感じがあります。僕はいつも心躍らせながら試合を見ていますし、トレーナーは“熱く”ある方が良いと思っています。いつもそういう気持ちで試合に入っています。「選手に負けない」という気持ちがあります。