2013年5月16日
サンゴリアス ラグビー大辞典 #058 『クリーン』
サンゴリアスやラグビーを語る上で、必ず出てくるラグビー用語やサンゴリアス用語。そんなワードをサンゴリアスのあの選手、あのスタッフならではの解説で分かり易く解説するコーナーです。
「クリーン」(解説:新田 博昭 ストレングスコーチ)
クリーンとは、バーベルを床から肩の高さまで持ち上げる種目です。クリーンをやるにはスピードと筋力の両方が要求されますが、それらを取り込むことで、グラウンド上でのパワーの向上に繋がります。具体的な数値としては、例えばクリーンを一般の人がいきなりやってみたら、ちょっと力の強いオヤジで60kgぐらい挙げられると思います。大学ラグビーからサントリーに入ってきた新人ですと個人差がありますが、挙げても100kgそこそこです。そしてこれまでのサントリーレコードは、ブレント・トンプソン選手の145kg、2番目は小野澤選手と尾崎選手の140kgです。重量挙げの選手だとレベルが全然違って、例えば小野澤選手ぐらいの体重(85kg)としたら、215kgぐらいは挙げます。
動きとしては「バーベルを持ってジャンプする動作」になります。100kgを持ってジャンプするのと60kgを持ってジャンプするのとでは、出力がまったく違います。100kgを持ってジャンプする出力で地面を蹴ることが出来れば、一歩目、二歩目の加速や、相手にぶつかる時のコンタクトの強さを伸ばすことが出来ます。持ち挙げてバーが上がる時間はわずかですから、イメージとしてはその間にバーの下にもぐり込んで取らなければいけないんです。バーはもちろん握ったままですが、バーを飛ばすというイメージです。ですからスピードがないとバーを飛ばせません。ゆっくり挙げてもバーは上がってきません。要は手は握ったままでバーをコントロールしますが、スピードを出してバーを飛ばしてその下にもぐり込んでキャッチするというイメージです。スピードがないと挙がりません。
クリーンをやる時に、コーチとして僕が何を見ているかというと、選手のテクニックです。正しいテクニックでやるためには、正しい姿勢を取らなければいけないし、連動して体が動いていないといけません。足首、膝関節、股関節などが連動して動いているから、強い姿勢のまま持ち挙げることが出来るんです。テクニック=動きの連動性ですね。見ていると、その人の能力というのは、何回かクリーンをやってもらったら分かります。まず“強い姿勢”を取らなければいけないのですが、スクラムの姿勢とクリーンの姿勢はまったく同じです。走る姿勢も同じで、角度が変わっただけです。その姿勢を取ることが出来ない選手は、強い姿勢を体が知らない選手だということ、つまり強い姿勢でプレー出来ていないということです。
リフティングにはリズム、テンポがあります。段々とギアチェンジをしていくように加速するんですが、最初から猛スピードという訳にはいきません。コントロールして段々と加速して、最後にジャンプするという作業です。例えば野球選手がボールを投げる時、バットスイングする時など、静止している状態から段々と加速していって、最後の最後でマックスのスピードになります。それと同じことです。強い姿勢が取れるか?加速できるか?それを指摘してコーチングしてすぐに直せるかどうか?コーチングしていく過程で、その人のいろいろなことが分かってきます。
僕も経験を重ねてやり方はいろいろとあって、他のアプローチもありますが、基本的には全員クリーンで能力を向上させようとしています。僕はたまたまウェイトリフティングを競技としてやっていた人の下で勉強したので、細かいところのマニアックなテクニックを勉強する機会がありました。ですからそこにこだわることが出来るんです。なかなかそこまで教えることの出来るスペシャリストは少ないので、そこが僕の強みとして、それを全面に押し出しています。結局ひとつの競技をちゃんとつきつめて行ったら、他の競技でもいろいろな共通点が出てきますから、1つのことをマニアックにやったことによって、いろいろなことを理解することも応用することも出来るということだと思います。ひとつのことをちゃんとやっておいて良かったなと思います。
どこからパワーが出るか?それはお尻(ヒップ)なんです。走る時も何か持ち上げる時も、ボールを投げる時も打つ時も、すべてはお尻なんです。クリーンもお尻です。足の筋肉はお尻についていますし、背中の筋肉もお尻に繋がっています。お尻が全ての中心になって運動しているので、お尻の筋肉が発達しなければいけないし、ここが中心となって連動して動いていなければいけない。クリーンを行うことで、お尻を中心に連動した動きで、パワーを生み出す能力を向上させることが出来ます。