2012年12月24日
「少年サンゴリアス」 Vol.35 佐々木隆道 『超善寺』
「少年サンゴリアス◆佐々木隆道-2◆超善寺」
親父はお坊さんです。僕も頑張ればお坊さんになれます(笑)。なるためには修行に行かなければなりませんが、今は弟が継いでいるので、実際には僕にそういう選択肢はないんです。うちはあまりお寺の教育などをされていた訳ではなくて、僕はお経を読んだりも出来ません。子どもの頃は日常の中に寺があるという感じでした。
お寺はお爺ちゃんが始めたんですが、戦争が終わって寺に入って、そこから暖簾分けみたいな形で名前をもらって始めたそうです。超善寺(ちょうぜんじ)という名前のお寺です。日本には、暖簾分けしてくれた堺の本家と大阪市生野区にあるうちの寺の、2つしかありません。
うちは賽銭箱もないですし、みなさんが一般的に想像されるような、ゆく年くる年に出てくるようなお寺ではないです(笑)。そこにはお爺ちゃんとお婆ちゃんが住んでいて、僕らはちょっと離れたところに住んでいました。歩いて5分ぐらいの距離です。亡くなった方が安置されることもあったので、お葬式をする時などは、夜、怖かったのを覚えています。お盆には説教師さんが来ますが、偉い人だと知らずに遊んでもらったりしていました。
お寺ならではの仏教的な考えというものは、家の中にあったかもしれません。例えば、ご先祖様が守ってくれるとか、善いことも悪いことも見られているとか。お爺ちゃんが亡くなった時に、自分が寺の孫として何も出来なくて、大学2年生ぐらいでしたが「これじゃまずい、ちょっと勉強しようかな」と思って、いつも夕方5時にお経をあげるんですが、弟と一緒にそれをやり始めました。親父やお婆ちゃんがリードして、僕らはそれに続いてやるという形で勉強しました。
親父には1回だけ凄く怒られたことがありました。高校時代でしたが、ラグビーの練習が終わった後に地元に帰って夜ずっと友達と遊んでいたんです。それが大阪府の大会の予選の前で、「中途半端にやるんだったらやめろ!」と言われました。母にはいつも怒られていたので、特にこれと言って印象的な怒られた思い出はありません。いつも何かしら怒られていました。上に姉がいての3人兄弟なんですが、やんちゃだったのは俺だけです。姉は大人しくはないですが、勉強も出来ますし、人間的な生きて行く力がある人です。
中学の時はほぼ何もせず、部活もやっていませんでした。学校の決まりで一応部活に入らなければいけなかったので、友達がみんな入ったので周りに流されてサッカーをやっていたんですが、全然面白くなかったです。基本プレーしかやらせてもらえなくて。基本プレーの練習もするけど、サッカー的なこともしたいと思っていて、3ヶ月間ぐらい「一生リフティング」みたいな感じの練習だったんです。「何がオモロいねん、これ、もういい」と思って行かなくなりました。
「辞める」というのも嫌で、怒られるんじゃないかと思っていましたし、逃げるように家に帰ったんですけれど、そんな時に友達が「ラグビーせぇや」と言ってくれたんです。同期のラグビー部の奴でした。「おう!」ぐらいに答えたら、その時の顧問の先生から「入るらしいな、来い」と言われて職員室に連れて行かれて、サッカー部の退部届けとラグビー部の入部届けをいっぺんに渡されて、怖くてその場で書きました(笑)。
やってみたら、ラグビーが面白かったんです。みんなヘタクソでしたから(笑)。みんなドングリの背比べみたいだったんですが、その仲間と遊ぶのも楽しかったし、基本プレーも新鮮でした。当たり方とか、パスとか、難しいんですよ。相手を抜いたりタックルしたり、コンタクトすることが面白かったですね。自分のあり余ったパワーが発散されましたし、友達がいたのが楽しかったです。僕は人数の多いチームスポーツの方が良いんです。
子供の頃から友達と一緒にいて、寺でも遊びましたし公園でも友達の家でも遊びました。面白いのは、“郵便ポストの上”っていう遊びもありました(笑)。ボックス型の郵便ポストの上に上ってジャンプして、どれだけ遠くへ飛べるか?距離を競って遊んでいました。運動神経はふつうぐらいだったんで、チャンピオンではなかったです。僕のだんじり仲間で幼稚園から友達だった奴が、結構親分気質でスポーツをやらせたら何でも出来たんです。そいつがいちばんでした。何でも出来過ぎたせいなのか、今はスポーツ選手ではなく、普通に仕事してます。
4つ違いの弟をいつも連れて歩いていました。いつも姉や僕がいじわるをしていましたが、家でキン肉マンごっこをしたりして、僕が絶対強い役でした。家では静かで外ではやたらしゃべる“外弁慶”の弟でした。今はお寺を継いでいて、家へ帰るとお坊さんの服を着ていて、法事とか盆に供養する時にお経をあげてリードしています。感心して「お前、立派になったなぁ」って言ったら「いゃ、普通や」って言われました。あいつは凄いですよ。
自分に子供が出来たら、いろんな人と会わせたいですね。どこにでも連れて行って、みんなと過ごす時間を楽しむことを覚えさせたいです。「ラグビーっていいよ」って感じはなくて(笑)、苦しいですし、辛いことも多くて、自分でやりたいと思わないとたぶん出来ないと思うので、強制はしないつもりです。
(構成:針谷和昌)