2012年11月19日
「少年サンゴリアス」 Vol.30 宮本啓希 『ホールのプリン』
08~09年に連載し好評を博した「少年サンゴリアス」。思わず微笑んでしまう様なエピソードや、ビックリしてしまう話もたくさんあり、そんな子供たちも今は1人前のラガーマンになりました。3年振りに復活の「少年サンゴリアス」と併せて、サンゴリアスのOBたちの現状を伝える「中年サンゴリアス」もスタートします。どうぞご期待ください。
「少年サンゴリアス◆宮本 啓希◆ホールのプリン」
奈良で生まれ奈良で育ちました。小学校の時は真面目な方でした。両親が共働きだったので、うちのお母さんはご飯を用意してくれて出掛けるんですけれど、たぶんそれでは途中から面白くなくなったのか、冷蔵庫をパッと開けると材料だけ入っていました。そこに「つくり方」が書いてあって、「1.~~、2.~~…」という感じで書いてあったんです。それしかないので、それを見て自分で作って食べたりもしました。
カレーだと、ルーがあって野菜も切ってあって、「炒めます。ある程度色が変わったら水を入れます。水はこれぐらい入れてください。グツグツいってきたらルーを入れて、固まらないように混ぜてください」みたいな感じで書いてあるんです。小学校5年ぐらいだったと思います。兄弟は1歳違いの弟が1人いて、学校から帰ってくる時間も同じなので、一緒にやっていました。ほとんど毎日でした。
2人でいるので弟とはいつも喧嘩です。ゲームをやるとかやらないとか、あれを食った食わへんとか、もうしょうもないことなんですけれど、殴り合いまでいくこともありました。殴り合いっていっても子供ですから可愛いもんです。兄なので余裕で勝つんですけれど、弟は毎日かかって来ましたね。弟の方が根性があるんです。来てもバンッ!って一発やったら終わりなんですけれど、何回も来るんです。
あるとき家にプリンが置いてあったんです。お父さんが大好きなホールのプリンでお店から買ってきたもので、それを何日間かに切り分けて食べていくんです。それでひとかけらだけお父さんが残して行ったんです。「お父さん、今回まだ食べてないから、これは絶対に今日食べるなよ。お前らここまで食べたので、これはお父さんに残しといてな」と。
僕はその日の夜おなかが空いてて、パッと冷蔵庫を開けたら入っていて、そのプリンを食べたんです。それでお父さんが帰ってきたら「どうして!?」って。プリンを楽しみにして帰って来ているんですよ。それで僕は「食べてへんよ」って言ったんです。「誰や!?」ってことになって、僕の弟はコウジって言うんですけれど、「コウジちゃうんけ?」みたいな感じで僕が言って、「コウジ何しやんの!」ってお父さんに弟が怒られたんです。「一晩部屋から出てくるな!」って言われているコウジを見たらメチャ泣いていたので、僕はさすがにやばいなぁと思って…。
次の日、部屋からコウジが出て来て何も言わないんですよ。やばいなと思って「おれ食べた」って言ったんです(笑)。おやじには食べたことじゃなくて、嘘ついて弟のせいにしたことをメチャメチャ怒られて…。今でもこの時のことは家に帰ったら笑い話になりますけれど、一緒に酒飲むと弟は「あの時、兄ちゃん俺のせいにしたからなぁ」って言います。
家と学校のちょうど真ん中に、おばあちゃんの家がありました。だから毎日そこへ行ってました。お菓子をくれたし、お母さんよりおばあちゃんのご飯が美味しかったんです。正月の元旦にはおばあちゃん家に親戚が集まるんです。毎年お年玉をもらうんですが、おじいちゃんが絶対に普通にはくれないんです。
「今年何歳になります。今年何年生になります。今年の目標はこれです」って、おじいちゃんの前で言わなきゃいけないんです。例えば僕だったらラグビーしていたから、「今年は大阪の大会で優勝します」とか言うんです。「しっかり勉強します」って言うと「しっかり勉強ってお前、何を勉強するんだ」と言われて、それをちゃんと言っておじいちゃんが納得したら、ようやく「お年玉」って言ってくれるんですよ、毎年。
うちのお母さんは3人姉妹で2人ずつ子どもがいるので、おじいちゃんにとって孫が6人います。いつもその6人で、本来楽しいものの元旦なのに、大晦日からちょっと憂鬱になってるんですね(笑)。「明日おじいちゃんに言わなあかん」みたいな。それで集合したら「お前何言うの?お前何言うの?」って聞き合ってました。それが懐かしいですね。
(構成:針谷和昌)