2012年11月13日
「中年サンゴリアス」その1 伊勢田彬人 『ヘッズアップと敵愾心』
こんな少年がラグビーを通じて立派な大人になったというのが「少年サンゴリアス」ならば、サンゴリアスでのラグビー人生を通じて得たものを仕事人生にどう活かしているかというお話を聞くのが新コーナーの「中年サンゴリアス」。中年と呼ぶにはまだ早いメンバーも含め、OBたちの変わらぬラグビー愛や職場での様子を語ってもらいます。
中年サンゴリアス◆伊勢田彬人◆ヘッズアップと敵愾心
サントリービア&スピリッツ株式会社 甲信支店 南信営業担当
サントリーサンゴリアス 応援団長
2005~2010年度現役
■日本の心で応援
元吉(和中/サンゴリアスOB)さんがもう8年ぐらいサンゴリアス応援団長をやられていたんですけれど、チーム内の演芸でもそうで、「元吉なきあと伊勢田だ」と、そのような形で応援団もやらせていただくことになりました。本来、東野(憲照/サンゴリアスOB)団長候補がいるんですけれど、遠くにいるので、今回僕がやることになったんです。本当にファンあってのサンゴリアスだと思っているので、受け継いだからにはビシビシ応援をしていきたいなと思っています。今、仕事は長野を拠点としていて、全ての試合に行ける訳ではないんですが、地方も含めてほとんど行っています。どこへ行くにも大変ですけれど、"サンゴリアス・ラブ"です。サンゴリアスファミリーの一員だと思っているので、ほぼ全試合に行きますよ。
応援のコツはこれから勉強していく感じです。去年は元吉さんの掛け声の後、タイミングで僕らが発声する形だったんですが、元吉さんの立場に僕が代わるので、僕が試合の雰囲気とか例えばラインアウトのサインの時には、絶対に応援をしちゃいけないとか、サントリーの中でそういう応援のタイミングを引き継いでいかなければいけません。応援でサインが聞こえなくなることもありますから、ラグビーの精神にのっとって、応援もしていかなきゃいけないと思っています。ラグビーの場合、楽器などを使う応援でもないですし、日本のラグビーには凄く静かに見るという文化があって、海外へ行くとブーイングとかも普通にあるんですけれど、静かに"日本の心"で応援する場面は、応援団としては大切にして行きたいですね。
元吉さんがやっていた、例えば「Go! Go! サンゴリアス」など定着している掛け声を超えるようなものがなかなか出て来ていません。いろいろ考えてはいるんですが、元吉さんのチェックしかり、自分でもしっくりこないとかで、ぜんぶ却下です。長年やっているものが、ファンの方々もしっくり来ているんじゃないかと思います。そうすると伊勢田色が元吉色に勝てるか?というところですが、元吉さんが原色だとしたら、僕は混合されているミックスの色だと思ってください。声の大きさも必要ですが、僕のこういうハスキーボイスだとちょっと...(笑)。そこは、サントリーの社員応援団の大石さんとか菊池さんとか、毎回来て頂いている方もいらっしゃるので頼りにしてます。本当に心強いですね。僕は新米の応援団長なので、むしろファンの方からも盛り上げてもらいたい、僕を支えてもらいたい、僕をもっと見て欲しい、僕を見て...(笑)。
今は長野県の南信エリアを1人で担当していて、昼間の営業でお酒の量販店さんとかスーパーさんを担当しながら、夜は夜の営業活動をしているので、全チャネルを対象に本当に朝から深夜まで駆けずりまわっている感じです。そういう中で痩せたんですけれど、それは仕事のせいというより、自分で気をつけてコントロールしました。引退して夜の仕事ですと夜中の1時、2時に飲食することも結構あるので、朝は健康のためのお茶とヨーグルト、黒酢、豆乳を飲んで、昼ご飯も基本コンビニとかで済ませられるような野菜中心で、徐々に減らしていきました。現役時代の体重はマックス115kg。引退して2年、いちばん痩せた時が85kgで、いま少しリバウンドして91kgぐらいです。80kgまで落としてのイケメンを目指しているんで(笑)。ヘアスタイルも目指すは香取慎吾ですよね。
■また頑張ろう
引退して2年の間、応援団の中にいさせてもらえたということで、自分の中ではずっとサンゴリアスと繋がっていました。ちょっと仕事で悩んだ時も、応援しに行きたいという気持ちがあって、やっぱりそこで心を回復出来るんですね。ラグビーのことを考えると「あ、また頑張ろう」と思えるんです。この1年間、練習は見ていないですけれど、辛いことをしているっていうのは分かっているので、「毎日あんな練習をやっているのと比べたら、今のことなんかヘッチャラだよ、ぜんぜん何でもない」って思えるんですよ。
よく「ヘッズアップ」って言うんですけれど、たまに落ち込んだ時に車の中で「ヘッズアップ」って言ってます。実際そうやってラグビー用語を言うことで、気持ちを立て直しています。ラグビーを仕事に活かしていると最近思ったことがもうひとつあって、敵愾心です。試合でもそうですけれど、仕事も本当に戦いなので、競合他社に敵愾心を持ってやっています。担当しているところには温泉街もあったり、焼肉の町があったりします。人口比率で焼肉屋の数が日本一、飲食店の数も日本で2位か3位という町があって、比較的クローズドな風土はあるようなんですが、そこを頑張ってやっています。
選手時代の仕事での経験とは別に、夜の営業は今回初めてチャレンジしていることなので、戸惑いはありますけれど、ラグビーをやっていた時の激しい練習に比べたら弱音をはいている場合じゃありません。仕事をどんどん吸収して、もう30歳になりますから、支店を引っ張っていけるように、信頼関係も出来るようになりたいです。ラグビーも信頼関係ですし、「仕事とラグビーは一緒」と皆さんよくおっしゃるんですけれど、その通りで信頼感がないと仕事もラグビーもダメです。メンバーは信頼が厚い人に相談とかしますけれど、僕はまだ相談されるようにはなっていないので、いずれはそうなっていければと思っています。ライバルは元吉さんです。
引退して気づくことっていろいろあるんですが、僕は1日1日の練習だけのことしか考えられなかったんですが、いまの自分の課題を克服しつつ、1日1日だけじゃなくて自分の着地点をちゃんと見据えて、体づくりや心のコントロール、コミュニケーションとかをやっていくことだと思うんですよね。今もリザーブとか試合に出られない選手もいますが、僕みたいなプレーヤーにはなってほしくないんです。僕も思い返せばまだまだ出来たと思うんですが、そういうふうに辞めてから気づくんじゃなくて、やっている時に自分で追求していってもらいたいですね。
そのために先輩がいるんですよね。ライバルであっても、話し合ってほしいです。僕は実際、同じポジションのヤマさん(山岡俊)やアオさん(青木佑輔)とは、あまりしゃべらなかったんです。ほとんどしゃべっていなくて、たぶん相手もそう思っていると思います。自分もその時は「俺のプレースタイルがある」と思っていたので「とくにそんな」という自己主張をしていたんですが、そこを噛み殺しても話してみるべきだったと思います。経験している人たちからどんどん聞いたり、盗んだりとかしてほしいです。
サンゴリアスは絶対に日本一の練習をしていると思っています。僕が引退した年も本当に辛い練習をしていましたが、それを土台にさらにこの2年間激しい練習をして優勝するという経験値があって、それを分かった上で今年も辛い練習を乗り越えて来ていると思うんです。最低でも優勝、そういう常勝軍団にサントリーサンゴリアスがなってほしいです。「日本のラグビー界を変えたのはサントリーだ」と言われるような大きなところを見ながら、優勝を目指して頑張ってほしいと思います。
(構成:針谷和昌)