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国産ボタニカルをサステナブルな原料に──そのカギはグローカルブランド化

食品酒類総合企業であるサントリーにとって、原料は事業継続に欠かせない要素です。一方で、日本においては高齢化や過疎化をはじめとしたさまざまな問題で離農が進む産地も少なくなく、良質な国産原料の調達が難しくなってきています。持続可能な原料調達には、どのような考えや行動が必要なのか。スピリッツなどの原料のひとつである「ぶどう山椒」の主要産地、和歌山県有田川町から、サントリーホールディングス(株)サプライチェーン本部 渡部徳富が取り組みをご紹介します。

国産ボタニカルをサステナブルな原料に──そのカギはグローカルブランド化

原料が辿ってきた歴史や物語を伝えたい

約40年のサントリー人生の内、食品・飲料事業、スピリッツRTD事業、原料調達の3つの部門で、商品開発に関する技術開発・製造品質保証・輸出品質保証を30年間担当して、現在関係している原料の調達・開発・品質保証業務に通算10年間携わってきました。そうした経験から、サステナブル視点で中長期の原料調達戦略課題を考える全社横断プロジェクトに参画させていただいたことが、日本発の“グローカル”な飲料メーカーとして原料価値訴求の重要性にめざめたきっかけです。今では、全国各地のボタニカル原料の産地を飛び回っています。
これまで多くの良い原料と良い人、良い畑に出会いました。和歌山県有田川町の「ぶどう山椒」もそのひとつです。初めて山椒畑を訪問した時に感じた、摘みたての爽快な香りは今も忘れられません。ぶどうの房のように実がなるぶどう山椒は江戸時代に有田川町で発祥し、長年にわたって守り受け継がれてきた伝統品種です。また、ぶどう山椒は普通に苗から育てるだけでは、1回は収穫できたとしても2回目以降、その品質が保たれるとは限らないのだそうです。そのため、剪定や接ぎ木などで優良な株を次へつないでいくといった、栽培技術が磨かれてきたといいます。あらためて、現地に足を運んでみなければ分からないことが多いことを実感しました。
このぶどう山椒に限らず、すべてのボタニカル原料には原料そのものはもちろん、その地域やつくり手の歴史の物語があります。地域や人もまた同じ。それらのボタニカル価値を正しく知って、国産ボタニカルのテロワール価値を訴求していくことが大切だと思うのです。

  • テロワール:ワインにおける品質の決め手となるぶどう原料が栽培された土地の自然環境を示すフランス語に由来する言葉

和歌山県の山椒収穫量は全国シェアの65%を占め、有田川町が日本一の収穫量を誇っています。「緑のダイヤ」と呼ばれる特産のぶどう山椒は、ぶどうの房のように実がなり、爽やかな香りと強い辛味が特徴です。

生産者とともに原料の価値を高める

そんな素晴らしい原料と出会えた一方で、地域や生産者さんが抱えるさまざまな問題にも直面しました。平均年齢80歳という農家の高齢化、後継者不在が原因の人手不足、気候変動による収量や収穫時期の変動、鹿など野生動物がもたらす獣害──。これらを放っておけば、この貴重な国産ボタニカルであるぶどう山椒が今後10年以内には原料として使えなくなります。
今のサントリーのものづくりに必要なのは、ありたい未来の姿をもとに今すべきことを導き出す“バックキャスト”のアプローチだと思います。つまり、いま直面している課題を解決する原料調達戦略だけではなく、やがて来る未来の課題に対するサステナブルな原料価値の創造が必要になります。そこで、定年を間近にしていましたが、社内ベンチャー制度「FRONTIER DOJO(フロンティア道場)」に応募し、2023年から国産ボタニカル原料の新価値創造への取り組みを始めました。

2011年にUターン就農された山椒農家「きとら農園」代表 新田清信さんなど若い生産者さんとの出会いも。有田川町内最大級、のべ約30,000㎡の農園で上質なぶどう山椒づくりに丹精されています。

価値訴求できる原料開発と安定調達の実現を本気で考え、幾度となく現地を訪れて地域の方や生産者さんに想いを伝え続けました。そんななかで、移住者と地域事業者、地域住民がつながる拠点(ハブ)として地域での新しい暮らしを提供している「一般社団法人しろにし」をはじめ地元の方や有識者の方、生産者さんなどとのご縁や出会いに恵まれ、志をともにしてくださる仲間が増えていきました。「しろにし」が行われている「ぶどう山椒収穫レスキュー」にも、サントリー社員はボランティアとして参加しています。原料がいかにしてつくられ、どのようなプロセスを経て私たちの元へ届くのか、肌身で実感させていただける貴重な機会だと感じています。
こうした取り組みにおいて、私は「連携」と「共創」の考え方を大切にしています。活動の目的は、ボランティア的な立場で産地や生産者を「支援」することではありません。あくまで事業の主体として対等の立場に立って、「連携」と「共創」で地域や生産者、そして原料の価値を創り高め合っていくことです。

一般社団法人しろにし

有田川町への移住、就業、就農を志す人、それらに関わりたい人のマッチングやコーディネートを担う「地域の人事部」「地域のかき回し役」として2022年9月に設立。2023年6月には、旧城山西小学校の校舎を活用し、交流、宿泊、食事の機能を備えた移住就業支援拠点施設「しろにし」をオープンしました。ぶどう山椒収穫レスキューやワークショップなど、各種体験プログラムの企画運営も手がけられています。

(左から)施設一番のリピーターを自負する渡部と、代表理事の楠部睦美さん、理事の白川晶也さん、コーディネーターの下村祐輝さん。

一般社団法人しろにし

サステナブルでグローカルなブランド創出を、サントリー人生の集大成に

今の時代、メールやSNS、Web会議ツールなどで手軽にやり取りできますが、それだけではここまでのご縁や出会いはなかったでしょう。定年退職間近の歳で全国の産地を飛び回るのは心身ともに「しんどい」と感じる時もありますが、それ以上に楽しさの方が勝っているので毎日の仕事にやりがいを感じ楽しんでいます。
地域の方と私たちの「連携」と「共創」が、有田川町のぶどう山椒に限らず国産ボタニカル原料に価値の創造と向上をもたらすものと確信しています。各地の特産品を原料に使ったクラフトジンやクラフトビールの製造が急伸している市場動向は、その証左です。そして新たな価値の創造は、商品の購入や収穫ボランティアなどを通じて、住民でなくてもその地域と深いつながりを持つ「関係人口」の増加や、ひいては地域活性化にもつながっていくのだと思います。
「日本産」や「和歌山県産」ではなく、「有田川町産ぶどう山椒」を使った商品がサステナブルでグローカルなブランドとして確立する夢に向け、今後も農家や地域のみなさんとともに汗をかき、知恵を絞っていきます。

「きとら農園」の山椒畑で新田さんと談笑。「渡部さんとの出会いで、生産者としての意欲や誇りが高まりました。歴史ある日本一の山椒を守っていきます」という新田さんのお話は心強い限りです。

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