水のサステナビリティの追求を「サントリーグループ環境基本方針」の重点課題に掲げているサントリーグループは、水科学研究所を2003年に設立し、水に関するさまざまな評価を継続的に行っています。持続可能な事業活動を見据え、水に関するリスク評価を実施しており、環境経営の推進にも役立てています。また、新規事業の展開に際しても、水リスク評価を勘案しています。
サントリーグループ自社工場への水の供給リスク評価
水はサントリーグループにとって最も重要な原料であり、かつ貴重な共有資源であるため、水に関するリスク評価に基づきグループの事業活動や地域社会、生態系へのインパクトを把握することは持続的な事業成長のために不可欠です。そうした考えに基づきサントリーグループでは、サントリーグループの自社工場※を対象に水の供給のサステナビリティに関するリスク評価を行いました。
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※製品を製造するサントリーグループの工場:国内23工場、海外54工場
1.自社工場の立地する国の水ストレス状況
特定の国における水リスクを全球レベルで共通に評価するツールとして、世界資源研究所(World Resources Institute)が開発したAqueduct Country Rankingの評価指標であるBaseline Water Stressを活用し、自社工場が立地する国の水ストレス状況を確認しています。
Baseline Water Stress | |
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極めて高い (Extremely high) |
インド |
高 (High) |
メキシコ、スペイン、タイ |
中~高 (Medium-high) |
アメリカ、ドイツ、ベトナム |
低~中 (Low-medium) |
日本、カナダ、イギリス、フランス、マレーシア、台湾 |
低 (Low) |
アイルランド、ニュージーランド |
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※World Resources Instituteが公開したAqueduct 4.0のAqueduct Country RankingにおけるBaseline Water Stressの国別スコアをもとに作成
2.自社工場が立地する流域における水の供給リスク評価
立地国での評価に加え、自社工場が立地する流域において全拠点を対象に、水の供給リスクの評価を実施し、優先工場を選定して水リスク管理を進めています。以下にその評価プロセスとリスク管理の進捗を示します。
1次評価―水ストレスの評価に基づく優先工場の絞り込み(スクリーニング)
1次評価は、2021年に参画したScience Based Targets(SBT)for Waterのパイロット検証プログラム※での知見をもとに当社が開発した方法で行いました。
はじめに、飲料業界の特性に基づいて水に関するマテリアリティ(重要課題)を把握しました。その結果、持続的な工場の操業に向けて最も重要な課題は、立地する流域における利用可能な水資源量であり、最も依存する生態系サービスは地下水と表層水であることがわかりました。
次に、水リスク管理に優先的に取り組む工場を絞り込むため、自社工場が立地する全流域を対象に、利用可能な水資源量に関するリスクを評価しました。評価には、前述したAqueductに加え、世界自然保護基金(WWF)が開発したWater Risk Filterを参照し、そのなかから水の量的なリスクを評価できる4種類の指標を使用しました。これらの指標は、降水等による流域への水の供給量と、人口統計などから推定された流域内の水需要量の比率をもとに、利用可能な水資源量を評価する指標となります。4つのうち3指標はWater Risk FilterのWater Depletionなど、現在の水ストレスを評価する指標を採用し、拠点ごとにスコアを平均化して「現在の水リスクスコア」としました。残りの1指標は、「将来の水リスクスコア」として、気候変動などのシナリオに基づいて2040年の利用可能な水資源量を予測するAqueductの2040 Water Stressを採用しました。いずれの指標も5段階でリスクスコアが示され、現在の水リスクスコア平均が「極めて高い」または「高い」の流域に立地する拠点を「水ストレスが極めて高い拠点」、将来の水リスクスコアが4以上の流域に立地する拠点を「水ストレスが高い拠点」と位置づけました。なお、AqueductとWater Risk Filterのバージョンはそれぞれ3.0、6.0によるものです。
自社工場における2023年取水量の合計を100%とした場合、水ストレスが極めて高い拠点の取水量は2%、水ストレスが高い拠点の取水量は15%にあたり、2次評価では、これら17%の拠点を主な優先工場としてリスク低減の取り組みを進めています。
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※Science Based Targets Network が水のSBT設定に関する方法を検証するパイロットスタディ
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Water Risk FilterのWater
Depletion指標のリスク評価(5段階) -
Aqueductの2040 Water Stress
BAUシナリオのリスク評価(5段階)
2次評価―各拠点でのリスク低減の取り組みレベル評価
1次評価で絞り込まれた優先拠点を対象に、2次評価では、水マネジメント(取水と節水)および地域との共生の観点で、各拠点のリスク低減の取り組みレベルを評価しました。なお、水資源の状況は各工場の立地する流域ごとに異なるため、リスク低減の取り組みは現地の実情にあわせた対応を行っています。
a. 水マネジメント(取水管理と節水管理)
水は地域や生態系と共有する貴重な資源であるため、工場の操業では責任ある適切な水マネジメントが求められます。
当社の工場の水源は大きく市水と自然水(表層水、地下水)の2つに分類されます。一般的に市水は地域のさまざまな利用者と共有されるため、その水源エリアは広範囲に及び、水源からの取水管理を行う主体は地域の水道局となります。気候変動への適応計画を含め、当社は水道局による給水管理の方針や計画に則り、適切な節水管理を進める必要があります。一方、工場が自然水(表層水、地下水)を利用している場合、取水の管理主体は工場内に取水口を持つ当社であり、気候変動などの環境変化への適応として、取水や節水管理の取り組みを主体的に進める必要があります。
以上の観点から、当社は取水管理と節水管理の取り組みレベルを拠点ごとに評価しました。評価項目は以下の2点です。
①取水管理
適切に取水管理されていることが証明できること(水を汲みすぎない)
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※市水を利用している工場は、水道局が取水管理を行うため対象としない
《評価基準》
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●取水が地域の河川や地下水の水位に著しい影響を与えていないことを証明できること。
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●そのために必要な取水データをすべて収集できている。
必要な取水データを収集していない → 必要な取水データのうち、一部収集できていない → 必要なデータをすべて収集し、適切に取水管理を行っている → -
《評価結果》
②節水管理
適切に節水管理されていることが証明できること(水を無駄に使わない)
《評価基準》
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●水を効率的に使うための目標が設定されている。
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●目標達成のための活動が進められている。
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●目標が達成されている。
水原単位の中期目標が無い → 水原単位の単年目標が無い、達成されていない → 水原単位の単年目標が達成されている → -
《評価結果》
拠点ごとに節水管理のレベルを可視化した結果を下記の円グラフに示します。中期的な目標管理に加え、単年目標の達成に向けた節水管理を各拠点で進めた結果、節水管理においては、Green評価となる工場の割合は2022年12月時点の57%から2023年12月時点で68%まで増加しました。
今後も引き続き、同様のプロセスでリスク低減に向けた取り組みを実施していきます。
b.地域との共生
水資源の使用者であるサントリーが、流域社会の一員であるという自覚を持ち、多様なステークホルダーと手を携えてその流域の水資源の保全に取り組み、流域社会の発展に寄与していくことを目指しています。
具体的には、環境目標2030に掲げる水源涵養活動のロードマップに沿って、地域のステークホルダーと連携して工場の立地する流域の水課題を特定し、主要なステークホルダーとの合意のもと、その課題解決に資する水源保全の取り組みを順次始めています。
以上の観点から、地域との共生の取り組みの進捗レベルを拠点ごとに評価しました。
《評価基準》
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●水の持続性確保に向けた流域の課題を特定している。
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●地域のステークホルダーとともに課題解決に資する取り組みを行っている。
「流域の水課題」を特定できていない → 「流域の水課題」を特定できている → 「流域の水課題」の解決に資する「地域との取り組み」ができている → -
《評価結果》
拠点ごとに地域との共生の取り組みの進捗を可視化した円グラフに示します。各拠点での地道な取り組みを進めた結果、Green評価となる工場が2022年12月時点の39%から2023年12月時点で50%に増えました。
それぞれの地域で、大学などの専門家と協力しながら、水課題の特定や水資源の保全活動を進めています。インドのベーラー工場では、現地での水文調査に基づいて工場が属する流域全体の水収支を評価し、雨水が浸透する貯水池などを活用して、水源である帯水層への涵養活動を行っています。また、スペインのトレド工場では、2021年よりタホ川流域にあるグアハラス貯水池の水量・水質と生物多様性の向上のために「ガーディアンズ・デル・タホ(Guardians del Tajo)」というプロジェクトを進めています。現地のNGOや大学と協力して生態系および水文調査を進め、2023年11月にはトレド県のラヨス市議会と約2 ヘクタールの市有林の森林再生に関する協定を締結しました。この協定を通じた活動では、ラヨス川の右岸に隣接する土地の植林と緑化を2023年から2025年にかけて実施し、同地域の生物多様性の向上、土壌の固定と肥沃化による浸食プロセスの防止、拡散性汚染の低減、水の浸透能の改善、大気中のCO2の回収を目指しています。今後も引き続き、2030年に向けた水源涵養活動のロードマップに沿って、水源保全の取り組みを着実に進めていきます。
また、これらの活動を推進する地域では、水の大切さを啓発する次世代環境教育「水育」も併せて展開し、次世代を担う地域の子どもたちを中心に水源を守る大切さを伝えていきます。