消費者課題

サントリーグループは酒類・食品メーカーとして、おいしさを追求することで商品価値を高めています。同時に、社会とお客様の「安全・安心・信頼」を第一義に、サントリーグループ品質方針「All for the Quality」のもと、グループをあげて品質保証の継続的なレベル向上に努めています。さらに当社に寄せられるお客様の声に耳を傾け、迅速に対応するとともに、事業活動に反映しています。これらの取り組みをさらに進展させる一環として、消費者課題に詳しい古谷由紀子氏と意見を交換しました。

消費者課題の実践課題

公正なマーケティング、事実に即した偏りのない情報、および公正な契約慣行/消費者の安全衛生の保護/持続可能な消費/消費者に対するサービス、支援、並びに苦情および紛争の解決/消費者データ保護およびプライバシー/必要不可欠なサービスヘのアクセス/教育および意識向上

  • 開催日:2012年4月3日 場所:サントリーワールドヘッドクォーターズ(東京都港区台場)

有識者

公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会常任顧問 元ISO/SR 国内委員
古谷 由紀子氏

中央大学法学部卒業。1988年に経済産業大臣認定消費生活アドバイザー、1998年に日本リスクマネジャー&コンサルタント協会認定シニアリスクコンサルタント資格取得。2001年に(社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会 東日本支部・事業委員長、2004年から2012年まで理事。2012年から現職。このほかISO/SR 国内対応委員会委員、企業の品質やコンプライアンスに関わる社外委員を務める。

サントリー

小嶋 幸次
サントリーホールディングス(株) 常務執行役員 品質戦略部長
折井 雅子
サントリーホールディングス(株) 執行役員 CSR推進部担当
榎本 義己
サントリービジネスエキスパート(株) 執行役員 品質保証本部副本部長
原田 雅己
サントリーホールディングス(株) 品質戦略部部長
岡 哲義
サントリービジネスエキスパート(株) お客様リレーション本部部長
松尾 正二郎
サントリービジネスエキスパート(株) お客様リレーション本部 お客様センター長
木村 健一郎
サントリービジネスエキスパート(株) お客様リレーション本部部長
北桝 武次
サントリーホールディングス(株) CSR推進部長

サントリーグループの品質保証活動について

サントリー
私どもでは「おいしさの追求」によって商品価値を高めると同時に、社会とお客様の「安全・安心・信頼」を第一義に優れた品質の商品・サービスを提供し続けることが、メーカーとしての生命線と考えています。そして、サントリーグループ品質方針「All for the Quality」のもと、グループ全社が品質マネジメントシステムを展開し、原料・包装資材の調達から商品開発・製造・輸送・販売・サービスなどの全工程で品質保証を徹底しています。
また、品質保証の科学的な裏づけ機関として安全性科学センターを自社にもち、万一、問題が発生した場合は、源流までさかのぼって追跡・調査・原因分析する体制を整えています。
古谷
品質保証活動については、消費者の要求が世界一厳しいとされる日本の中でも、高いレベルの体制を整備され、酒類、飲料・食品、健康食品・スキンケア、外食事業と幅広い事業分野で、しっかりしたしくみをつくってきちんと取り組んでいることがうかがえます。
ところで、海外での品質保証活動はどのような方針で進めているのですか。
サントリー
合弁会社の設立やM&Aなどで海外のグループが増えておりますが、各地の気候・風土・文化に合わせて、それぞれの国・地域のお客様が最もおいしいと感じていただける商品の提供を基本方針としています。そのため、各国の製品品質について、サントリー独自の安全性や飲用時品質などの基本を保証しつつ、容器などの製品仕様が現地最適となる「ローカル・ジャスト・スペック」を追求しています。
古谷
その考え方に大いに賛同します。現地最適化を図りながらサントリー流の品質保証を展開することで、たとえば消費者が安全性や栄養などに対する懸念を解消できるなら、それこそISO26000が期待する消費者課題への取り組みにつながります。そこで、現地の消費者や小売店などと積極的に対話し「いま何が心配で、飲料・食品メーカーや小売店に何を望むか」を探り、消費者が抱える社会的な課題解決に向き合っていただきたいと思います。また、「ローカル・ジャスト・スペック」を日本に当てはめると、別の課題が浮上します。日本の消費者が要求する商品品質は、世界で最も厳しいレベルだと思いますが、それゆえ中味の品質に影響のない容器・ラベルの小さな傷や汚れを理由に、廃棄処分や回収される場合もあります。私たち日本の消費者は無意識のうちにメーカーや小売店にオーバー・スペックを要求しているようにも思います。この問題は重要な消費者課題として、消費者・メーカー・小売店の三者がともに話し合い解決していく必要があると感じています。
サントリー
おっしゃる通り、この課題には多くのメーカーが問題意識をもっており、今後、さまざまな立場のステークホルダーの皆様と広く議論すべきではないかと考えています。ただ、昨年の大震災後は、緊急事態という事情はありましたが、ミネラルウォーターの入手ルートが限られていたため、お客様の生産国や容器などへのこだわりが緩やかになった期間がありました。大震災を機にお客様の商品に対する意識が少し変化したのではないかとも感じています。

お客様とのコミュニケーションについて

古谷
2011年の東日本大震災以降、放射性物質が食の安全を脅かすという社会問題が生じています。サントリーは商品に関する放射性物質の分析結果の公表は迅速でしたが、ホームページでの表現は抑制的であるように思います。情報提供に関するサントリーの姿勢を感じます。
サントリー
はい、あの時は直ちに工場用水を採取して公的専門機関に分析を依頼するのと同時に、自社でも分析機器を導入して水・茶葉・梅・ぶどう・大麦・殺菌乳などの分析結果を順次公表しました。お客様に商品の安全性を少しでも早くお知らせすることが安心の提供につながりますが、自社の安全性ばかりを強調し過ぎると、必要以上に消費者の不安をあおったり食品業界の信頼をなくしてしまう危険もあります。そのため、お客様へのリスク情報の提供は「タイムリーに・正しく・分かりやすく・言い過ぎず(過剰なアピールの抑制)」という方針で、事実を淡々とご報告する姿勢に徹しました。
古谷
社会的な配慮がうかがえますね。放射性物質への対応で、消費者に冷静な対応を促し、風評被害を拡大させないという意味で、「言い過ぎない情報提供」は賢明な方法だと思います。さまざまな情報が乱れ飛ぶ中で、「正しく分かりやすく」伝えるという点では、どのような工夫をされたのですか。
サントリー
震災直後からお客様センターへのお問い合わせが急増する中で、高齢者、妊婦の方・赤ちゃんを心配するお母さんなど、お客様ごとに求める安心が違うことを再認識しました。そこで、放射性物質に関する難解な内容を正確にわかりやすくお伝えするため、専門部署とコミュニケーション部門が連携して、お客様にわかりやすい説明を考え、ウェブサイトのQ&Aをタイムリーに更新しました。科学的で客観的な根拠が求められるお問い合わせについては、専門の学会のホームページにリンクさせるなど工夫しました。それらQ&Aは製品のWebサイトなど複数箇所にリンクを貼り、お客様の目に触れやすいようにしました。
古谷
なるほど。客観的できめ細かな対応をされていることを聞いて安心しました。
サントリー
震災対応では、専門家の難しい解説やマスコミが膨大な情報を発信する中で、お客様がメーカーの信頼できる情報を切望されていることを実感するとともに、情報を発信する責任の重さやコミュニケーションの難しさをあらためて痛感しました。そのため、各部署や学会との連携を一層密にしてQ&Aの充実などに努めています。
古谷
消費者は時にメーカーに対して過剰な要求を行ってしまう場合もありますが、その背景に、消費者は情報や知識も交渉力も不足しているという現状を再認識されたのではないでしょうか。大震災は非常時だったとはいえ、あの時の消費者の声は、普段の企業側の視点では見えなかった気づきや教訓を与え、消費者が本当に必要としている情報を知るきっかけになったと思います。
サントリー
まさにその通りです。私どもには、安全性やおいしさの品質を追求するとともに、社会的な要求品質に応える「ソーシャルQ(Quality)」という考え方があります。たとえば、循環型社会に向けた水・食糧資源のサステナビリティ(持続可能性)追求などが代表的なテーマですが、お客様センターにいただく声は、そうした取り組み推進の大きなヒントとなっています。最近では、ソーシャルネットワーク上で語られるサントリーへの評価・評判なども注視して、分析の過程で課題を発見する活動も始めています。
古谷
消費者課題の中に「持続可能な消費」がありますが、これは「教育および意識向上」と密接に関連しています。持続可能な消費を実現するには、正しい商品選択を行うための知識が不可欠であり、それには消費者教育や啓発が重要です。また、消費者・メーカー・小売店が密接に意見交換する場を設けることによって、中味の賞味期限と資源の有効利用の問題、ペットボトルと中味の詰め替え利用の問題など「持続可能な消費」に関わる問題を解決するチャンスも広がるはずです。そうした場は、私たち消費者にとっては、必要とする知識を得る機会になり、企業にとっては消費者課題や隠れたリスクに対応することにつながると思います。「ソーシャルQ」というサントリーの考え方は素晴らしいと思います。ISO26000で求められる持続可能な社会への取り組みについて、モデルとなる課題解決方法だと思います。
サントリー
確かに「ソーシャルQ」は、品質保証の領域にとどまらず、お客様とのコミュニケーションを深めながら解決していく社会的課題にも、拡大すべき考え方だと思います。まだ見えていない課題も数々ありますが、これからもこうした対話を通じて、ISO26000への対応を深化させていきたいと考えています。本日は貴重なご提言をいただき、ありがとうございました。今後もご指導をよろしくお願いします。

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