「人と自然と響きあう」企業が生物多様性とどう向き合うか

地球のサステナビリティにおいて、気候変動問題と並び、生物多様性における取り組みの重要性が増しています。サントリーグループでは、「天然水の森」での水源涵養活動や愛鳥活動などを通じてこれまでも生物多様性の問題に取り組んできました。しかしながら、これまで以上に取り組みを強化していく必要があります。そこで、有識者の方々に今後の方針や取り組みの進め方、コミュニケーションについて、幅広い見地からご意見をいただきました。

  • 開催日:
    2022年3月14日(月)
  • 場所:
    サントリーワールドヘッドクウォーターズ(お台場オフィス)

有識者

  • 足立 直樹氏
    (株)レスポンスアビリティ 代表取締役

  • 粟野 美佳子氏
    一般社団法人SusCon 代表理事

  • 竹ケ原 啓介氏
    (株)日本政策投資銀行 設備投資研究所 エグゼクティブフェロー

サントリー

  • 小野 真紀子
    サントリーホールディングス(株)
    常務執行役員 サステナビリティ経営推進本部長

  • 藤原 正明
    サントリーホールディングス(株)
    執行役員 サステナビリティ経営推進副本部長

  • 風間 茂明
    サントリーホールディングス(株)
    執行役員 サステナビリティ経営推進副本部長

  • 北村 暢康
    サントリーホールディングス(株)
    サステナビリティ推進本部 サステナビリティ推進部長

  • 井床 眞夫
    サントリーホールディングス(株)
    常務執行役員 サプライチェーン本部長

  • 石川 一志
    サントリー食品インターナショナル(株)
    常務執行役員 経営企画本部長

司会

今津 秀紀
学会「企業と社会フォーラム」理事/プログラム委員長

言葉を連ねるよりも、複層する戦略を構造化して内外にアピールすべき

司会
本日は、生物多様性に関する活動やコミュニケーションをより推進していくために、有識者の方々からさまざまなご意見をいただきたいと思います。まずは、サントリーグループの生物多様性への取り組みについて、感想をお願いいたします。
足立
これから世界は、“ネイチャーポジティブ”な世界に向かっていきます。サントリーの企業理念の「人と自然と響きあう」とは、まさしくネイチャーポジティブな世界に通ずる考え方です。人は自然がないと生きていけません。その自然と人が共存する社会を目指しましょうと、ようやく世界が動き始めました。サントリーは、ネイチャーボジティブを意識した環境基本方針を2015年に策定され、さらに時代に合わせて改定案も出されており素晴らしいと思います。
また、サントリーの「水と生きる」を徹底している点も素晴らしい。水はサントリーにとって一番重要なリソースです。グローバルな視点を持ち、「水育」や水源涵養活動を海外でも行っているのは日本企業でも稀な事例だと思います。ピートランドの再生(スコットランドでの泥炭地および水源保全活動でウイスキーづくりを守る取り組み)に着手されるということも高く評価できますし、広く伝えていっていただきたい活動です。ただ、水だけで終わらせるのではなく、そのほかの原材料にもこの思いを広げていただきたいと思います。
粟野
生物多様性を非常に多角的側面から分析していて、ここまで取り組みを進めている日本企業は非常に少ないなかで、創業から環境課題に長く取り組んできた歴史があり、さすがサントリーだと思いました。ただし、環境課題は複雑につながっています。気候変動戦略を打ち出し、生物多様性戦略も打ち出すと、同じ要素が両方に入ってきます。戦略に基づいてアクティビティに落とし込む際に、そういった複雑な連携性をどのように担保するのかが見えなくなる恐れがあります。
そのときに言葉を連ねるより、戦略ごとの位置関係やお互いにどう絡み合い繋がっているのかを構造化してみせることで、外部にも広がりますし、社員も「こういう総合的な戦略構造なのか」と非常にわかりやすくなると思います。ぜひ、サントリーが総合的なアプローチをしていることが伝わりやすくなるよう、検討していただきたいと思います。
竹ケ原
上場・非上場にかかわらず、ファイナンスの世界で今議論されているのが、企業の長期的な成長をきちんと見極めてセレクトしたいということです。そうなると、足元の財務パフォーマンスだけを見てもわからないので、いろいろな非財務情報も見なければいけません。では、どの非財務情報を見るかということで、盛んにマテリアリティが議論されています。当該企業の長期の成長、あるいは長期のビジネスモデルの持続可能性に影響するファクターをマテリアルな情報として測定しましょうということです。その軸を説明できている企業は、言うなれば社会課題を解決しながら成長していけるという絵が描けますから、長期的にも投資するに値するというロジックになります。
サントリーは、コンプライアンスやコーポレートガバナンスと同じ意味において、事業の基盤として自然資本、気候変動、水といったものについてマテリアリティのなかでしっかりと位置付けられています。これがサントリーの最大の特徴であり、評価できる点だと思います。
また、生物多様性と少し離れますが、政府の「新しい資本主義」を巡る議論のなかで人的資本をどう見せるかがテーマとなっています。人的資本は数字で見せることが難しく、最終的にはパーパス経営を実践することで、パーパスが従業員に浸透しエンゲージメントを上げていけているかどうかにかかってくるのだと思います。「水と生きる」というメッセージは、若い従業員の方も含めて、みなさん自分事として語られます。従業員がパーパスに共鳴して、その実現に向けて働こうという意識が醸成されている──このことは、サントリーを人的資本の側面から見たときの企業価値、見えない企業価値としての十分な材料になると思います。
足立
生物多様性について考えるにあたり、一番重要なのは10年、20年、さらにその先にビジネスを継続できるのかということです。現在の地球の人口は77~78億人です。10年、20年先に90億、100億人となったときには、新興国でさらに食糧が必要になってきます。
市場としては25%から30%は成長するわけですが、その成長を支える原材料の安定的な確保には、バリューチェーンの上流で原材料を作っている方々をしっかりと支援することが重要です。そうした地域の方々が健康で安定した生活を送りながら、熱意を持って原材料づくりに取り組んでくれなければ成立しません。そのためにも、適切な農業環境にシフトしなければ、原材料を作ることはできません。
サントリーとして、バリューチェーン全体でそこにかかわる人たちと、どのようにして一緒にビジネスをしていくのかという視点を持つことが、今後のビジネスを発展させると同時にビジネスを安泰なものにするかに影響すると思います。

覚悟を持ってバリューチェーンのなかへ入っていき、信頼関係を構築する

司会
サントリーグループでは、環境基本方針のなかでバリューチェーン全体を視野に入れて、生命の輝きに満ちた持続可能な社会を次の世代に引き渡すことを約束しています。実際のビジネスのなかで、バリューチェーンとどのような取り組みを行っておられるのでしょうか。
藤原
サントリーの歴史を考えてみると、ものづくりにおいて大事にしてきたことは品質です。それともう1つ大事なことが、トレーサビリティです。例えば、ウーロン茶は数十年でビジネスとして大きく発展してきましたが、市場に製品を出すにあたり、バリューチェーンの源流まで遡っています。当時は農薬のリスクがあり、そこをクリアにするために生産現場の農園まで遡る必要があると考え、それに対する投資も行ってきました。このときは品質という軸でしたが、今後はバリューチェーンにかかわるみなさんがきちんと生活を営めるような流れを作り出すという視点を持つことがいかに重要か、あらためて理解しました。
井床
コーヒーについては5~6年前からブラジルの農園としっかりと組んで、契約栽培を進めています。グアテマラでも学校を建てて、教育の機会を創出するとともに、持続可能な栽培の方法についても伝えるということを行っています。ただ、我々が必要だと考え取り組んでいることですが、栽培方法にしてもなかなか広がっていきませんし、継続して行うことがいかに難しいかと実感しています。それでも、この事業は儲からないからと売却したり、切り上げるということはしません。長く続けていかないと、生産者との信頼関係を作ることはできません。
足立
信頼関係を作ることは、とても大切なことだと思います。生産現場の方と信頼関係を結び、それこそ響きあって、サントリーのために作っている、あるいは井床さんのために作っていると思ってもらえる農家さんを、どう増やすかが大事だと思います。
藤原
バリューチェーンのすべてに入っていくのは、相当な覚悟が必要です。一方で、製品の味わいについては、お客さまの嗜好も変わってきます。例えばコーヒーであれば、嗜好に合わせて農園が変わるということもあります。そのときに、バリューチェーンとの関係性をどう構築していくのかは大きな課題です。これはどの原料にも当てはまることですが、将来を見据えビジネスを続けていく上で、この農園、産地は欠かすことができないと覚悟を持って、どう信頼関係を作っていくかという議論をしなければいけないと感じています。今、グローバルでのクロスファンクションチームを立ち上げて活動を始めていますので、さらに議論を深めたいと思います。
井床
この先、世界の人口増に対応するにあたり、例えば遺伝子組み換え作物(GMO)をどんどん作っていくという議論も出てくるかと思います。その点について、グローバルではどのような状況なのでしょうか?
粟野
日本の消費者はGMOへのアレルギー反応が高いですが、グローバルでは現実にかなり導入が進んでいます。サステナビリティ戦略を考えると、今後はGMOもタブーにはできなくなるのではないかと思います。今のままの農地面積で収量をどう増やすのか、気候変動の影響を受けるなかでどのように収量を維持するのかということにプライオリティを置かざるを得ないのではないでしょうか。
足立
地域によって意見は分かれていて、議論もされています。私はなるべく安全に考えた方がいいと思うので、あまり安易にGMOだけに飛びつかないほうがいいのではないかと思いますが、そうは言ってもヨーロッパや北米の乾燥地帯における集約的農業は限界です。大量の農薬や化成肥料によって土が疲弊して、農業そのものができなくなっているということも起きています。そうした土を再生することで生産性を維持しよう、回復させようというのが有機農法やリジェネラティブ(再生)農業です。そうしたやり方ですべてを賄えるのかどうかはわかりませんが、現場のニーズとして出てきていると思います。
小野
ヨーロッパでは、有機やオーガニックが消費者の身近にあります。消費者の立場からすると、健康にいいだろうと多少値段が高くても購入しているのだと思います。生物多様性の側面からするとそうした消費行動も持続可能な農業と繋がっていくわけですが、そのことが消費者には伝わっていません。消費者が健康にいいと思うことが、生物多様性にも繋がるということをどう消費者に伝えていけばいいのかは、ひとつの課題だと思います。
足立
今後世界の人口が1.2倍になることに対して、サントリーとして売上を1.2倍にするのか、あるいはもっと大きくするのか。それとも確実に維持できるレベルでビジネスの規模を成長させずに持続できるやり方をとるのか、いろいろな戦略があると思います。そこはしっかりと考える必要があると思います。
竹ケ原
原材料の調達がボトルネックになることをいわゆるBCP、事業継続計画の文脈で考えていただくと、ボトルネックについて普通は代替戦略なり分散戦略を取りますね。ところが今回、人口増などによる地球全体の制約として原料供給がボトルネックとなり、代替が効かないという課題への対応策が求められます。こうなると、プロダクトポートフォリオの話に移らざるを得ません。新しい制約条件に対応したビジネスモデルに関する情報発信が問われていると思います。

リスクだけでなく、オポチュニティを示すことで企業価値を向上させる

司会
生物多様性への取り組みについて、国内外ではどのような議論が進められているのでしょうか。
竹ケ原
ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が、いわば国際会計基準のサステナブル情報版ともいえる開示基準案を発表しましたが、マテリアリティについてはファイナンス・マテリアリティーつまり企業価値に直結する情報に限定しています。ただ、さまざまな課題が相互に影響しあうことを考えると、マテリアルな課題として気候変動や生物多様性などを単純に並列してしまうと、それぞれが連携していることが伝わりにくくなることが懸念されます。
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の普及により、既に多くの企業が気候変動を自社の成長に影響する「マテリアル課題」として打ち出していますが、金融の関心は、これに続くマテリアリティに向かっています。自然資本は、サーキュラーエコノミーと並ぶ、その有力候補ですが、自然資本を成長戦略に結び付けるのが難しく困っているのが現状です。
石川
私自身は、グループのなかで唯一上場しているサントリー食品インターナショナルに所属していますが、上場会社の使命はエンタープライズバリューをどう上げるかに帰結すると思います。そのなかで財務から非財務への流れが進み、目先ではTCFDのフレームワークが先鞭をつけTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)へと流れができているわけですが、シングルマテリアリティではすべてのステークホルダーに対して、アカウンタビリティを担保することは無理だということでダブルマテリアリティ、さらにはダイナミックマテリアリティを組み合わせてやっていかなければなりません。それをどのように実務化して対応していくかは、難しい課題だと感じています。
粟野
エンタープライズバリューの視点で、生物多様性戦略がどのように価値の向上に役立つかを打ち出すことは、今後の大きな柱になってくると思います。ところが、多くの企業の生物多様性戦略を見てみると、リスクマネジメントに寄ってしまいオポチュニティ(機会・好機)の面が弱くなります。これからはオポチュニティを語ることで、エンタープライズバリューの向上へと繋げていくことが必要だと思います。
石川
エンタープライズバリューの向上という視点では、リスクだけでなくオポチュニティを見せなければいけないということですね。オポチュニティをどう表現するか、しっかりと考えていきたいと思います。
粟野
一方で水に関して、マルチステークホルダーのアプローチで、海外も含めて見てみると、そこには地域コミュニティとの関係性ということが当然出てきます。そういった関係性まで含めて、生物多様性戦略がグローバルのなかでエンタープライズバリューの向上にどのように繋がるのかを見ていくことが、今後の大きな特徴になっていくと思います。そのときに注意すべきことが、ローカルの課題をそう簡単にグローバル化できないという、気候変動とは違う自然資本の特質です。その際には、地域コミュニティの意向を無視せずに取り込んだ形でのマルチステークホルダーのエンゲージメントが必要になると思います。そうでないと、単なる企業の独善的な社会貢献活動に終わってしまいます。
風間
日本での成功事例もある水源涵養をグローバルでどう広めるかについて、私も海外勤務経験があり、実務レベルでの難しさは理解しています。それでも進めなければいけません。一昨年から海外の水リスクの高い地域での活動をパイロット版として始めています。その取り組みを通して、少しずつ見えてきたことがあります。
具体的には、インドネシアでは水に関して知見を持っている大学の先生が見つかり、現地のノウハウを取り入れながら、取り組み方法を教えていただいて進めています。スペインでの活動では、日本やインドネシアとは違い乾燥地域で、工場の井戸があるわけでもなく、シティウォーターを使っています。そうした環境下でどのように水源涵養をしていくかについて現地の知恵を借りながら、単なる水源を守るということよりも、地域とどうコミュニケーションを取るのか、地域の自治体のシティウォーターをどう保全するかという文脈で事業を進めています。
北村
サントリーグループでは、サプライチェーンの課題について、国際的なプラットフォームであるSedex(サプライヤーエシカル情報共有プラットフォーム)を活用して、一次サプライヤーについては網羅的に課題の整理は進んでいます。しかし、最終的には農家さんのところへ行かなければならないという認識です。ただ、例えばコーヒーひとつとっても、テーマが複層的に絡んでいてどう問題解決に結びつければいいのか難しさを感じています。実際に取り組みを進めるにあたり、どのような工夫留意をすればよいでしょうか。
粟野
取り組みが進んでいる会社であっても、大変だと思います。生物多様性に関しては、金融機関側も企業側も、そもそも入口に入れないというような状態でした。共通認識として、複雑すぎて何から手をつけていいかわからないと。そのため、TNFDでは、どうすれば手を付けられるかを見せることからスタートしました。そこはプラクティカルガイドがあるので、手の付け方やコンセプトの整理はしやすくなると思います。試していただけるといいと思います。
足立
生物多様性を理解しづらい理由として、複雑さもありますが、もうひとつ現場が見えてこないことも原因ではないかと思います。生物多様性、あるいは原材料の問題では、地域がとても重要です。ワインほどではないですが、数キロ離れただけで状況が違うということはよくあります。ですから、まずは現場をつないでいく作業が必要になります。日本ではこれまで商社が行ってきましたが、今後はメーカー自ら自分たちが使う原材料はどこから来ているのかを見にいかなければいけないと思います。ただ、ある程度見る目がないと問題は見えてきませんから、現地の農業指導員の方やNGOの方と一緒に見に行く、あるいは社内でも見る目を育てていくとか、そういう専門性のある人材を雇う企業もあります。
現場へ行くということに加えて、今後は現場で働いている方々にサントリーに来てもらうということも考えなければいけないと思います。サントリーの取り組みを知り、より理解が深まることで、現場からボトムアップで創意工夫が出てくるような仕組みを作ることが大事ではないでしょうか。バリューチェーン全体で、どれだけサントリーと一体感を持って、お互いがうまく行くように支え合える体制を目指していく。簡単なことではありませんが、グローバル企業の取り組みを見ていると、10年といった時間をかけることでかなり進むと思います。
北村
生物多様性の複層的な課題に対しては、社内外でチームを組んで解決しなければいけないということですね。社内では、事業部も巻き込んでさまざまな角度から知恵を出して、どんな目線でいつまでに実行するのかということも含めて、議論を深めたいと思います。

50年後のサントリーのあるべき姿を考える

司会
先生方からいろいろなアドバイスをいただきました。最後にサントリーに対して応援の意味を込めて、メッセージをいただけますでしょうか。
竹ケ原
生物多様性は複雑で理解しづらいという話がありましたが、外からサントリーを見てみると、課題の統合的な捉え方や取り組みの結び付け方について、実は難しくはないんだということを身を以て示していることが分かります。
それから、将来のプロダクトポートフォリオをぜひ見てみたいと思いました。取り組みが困難だからといって、事業を簡単には売却しないという経営姿勢のなかで選び抜かれたポートフォリオは、おそらく他社にはないものになりそうですし、それがオポチュニティになるのではないかと思います。
粟野
エンタープライズバリューの向上について、一般的にはまだオポチュニティよりはリスク視点に寄りがちだと話しました。しかし、世界的にはリスクへの認識、危機感が極めて強いというのが現実です。今はまだ多くの企業がスタートラインに立ち、生物多様性は大変だとようやく認識したところです。そのなかでサントリーは、スタートラインについていて今やスタートの合図を待つばかりという状態です。そこは強みであり、これまでの蓄積も生かして、良いスタートを切っていただきたいと思います。
足立
生物多様性の回復に向けたアプローチには、取り組みの順番があります。まず、リスク回避をして、次にリスクを軽減する。ここまでは日本企業でもできています。ただ、その先にある復元・再生についてはほとんど動きがありません。今後、重要になるのは復元・再生です。サントリーはすでに水やピートランドにおいて、復元・再生を進めています。そこでさらに考えていただきたいのが、復元・再生の先にある変革、トランスフォーメーションです。
いろんなトランスフォーメーションがありますが、ひとつはビジネスのやり方をトランスフォームする。つまり、今までは原材料を商社から買っていたものを自ら畑まで行って、畑を細かく見て、あるいは一緒にやっていくというトランスフォーメーションもあると思います。もうひとつが、ビジネスモデルそのものをトランスフォーメーションで考えるということです。今あらゆる業種で大量生産、大量販売の時代から転換してきているのではないかと思います。サントリーでも別のやり方があるのではないかと、私は思っています。
それから、サントリーが大切にしている文化についてですが、食文化は地域によって違いがあり、そこに価値があります。そう考えると、食や飲料において、地域の文化をもっと重視してもいいのではないかと思います。そういったプロダクトが、これからの大きな柱になるのではないかと想像していますし、期待もしています。
小野
生物多様性について、たくさんのご意見、ご示唆をいただきましたので、総括として3つお話しさせていただきます。
まずひとつ目のポイントが、原材料についてバリューチェーン全体で捉えるということです。すでに手は付けていますが、まだ途に就いたばかりです。これからどのように具体的なアクションを起こすかにあたり、現場に行き、もっと身近に地域の人たちとパートナーシップを持って、ウィンウィンの関係を築いていけるか考えなければいけません。そうすることで我々も理解を深め、現地のサプライヤーさんもレベルアップしていく。そうした活動を今度は社内の人的資本のスキルアップに繋げ、社内へのポジティブインパクトを図っていく必要があると思いました。
ふたつ目は、エンタープライズバリューについて。リスクをいかに回避するかからスタートしていますが、そこから今度はサントリーの企業価値をどうポジティブに持っていくのかということです。リスク視点で考えがちですが、オポチュニティ視点にどう転換できるかと考えていく必要があります。
みっつ目として、これから30年、40年、50年先にサントリーがどのようなビジネスをしているかということです。現在の延長線上で進めないことは自明ですので、目の前のことに取り組みながら想像力を働かせて、どうありたいのかを考え、そのためには何が必要かを考えていかなければいけないと感じました。手を付けるのが難しい観点ではありますが、我々のミッションとして取り組んでいきたいと思います。本日は本当にありがとうございました。

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