サントリーグループは、「サントリー東北サンさんプロジェクト」を立ち上げ、「漁業」「子ども」「チャレンジド・スポーツ(障がい者スポーツ)」「文化・スポーツ」の分野を中心に、総額108億円の規模で、東日本大震災の復興支援活動に取り組んでいます。
今回のエンゲージメントでは、2014年度から新たに開始したチャレンジド・スポーツの普及・強化や育成への支援について、今後のさらなる展開に向けたご評価・ご提言をいただくために、山脇康氏(公益財団法人 日本障がい者スポーツ協会理事・日本パラリンピック委員会委員長)、髙橋陽子氏(公益社団法人日本フィランソロピー協会理事長)をお招きし、意見交換を行いました。
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●開催日:2015年4月7日
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●場所:サントリーワールドヘッドクォーターズ(東京都港区台場)
有識者
公益財団法人日本障がい者スポーツ協会理事
日本パラリンピック委員会委員長
山脇 康 氏
日本郵船(株)の副社長や副会長を歴任され、現在は同社顧問。2011年12月に公益財団法人日本障がい者スポーツ協会の理事に就任し、2012年6月から日本パラリンピック委員会の副委員長、2014年から同委員会の委員長、2013年12月からは国際パラリンピック委員会の理事を務めている。
公益社団法人日本フィランソロピー協会理事長
髙橋 陽子 氏
1991年公益社団法人日本フィランソロピー協会に入職後、事務局長、常務理事を経て2001年6月から理事長に就任。企業の社会貢献を核にしたCSRの推進に従事。主に、企業の社会貢献活動のコンサルや企業とNPOのマッチングなどに携わり、民間の果たす社会貢献活動の推進を目指している。
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※「チャレンジド・スポーツ支援」においては日本フィランソロピー協会とサントリーグループが協議しながら活動を展開している。
サントリー
- 北桝 武次
- サントリーホールディングス(株) コーポレートコミュニケーション本部CSR推進部長
- 坪松 博之
- サントリーホールディングス(株) コーポレートコミュニケーション本部CSR推進部部長
Part 1:サントリーグループのCSR活動全般ならびに東日本大震災復興支援活動における「チャレンジド・スポーツ支援」に対する評価
- サントリー
- 私どもは、2011年3月の震災直後から「サントリー東北サンさんプロジェクト」を立ち上げ、「漁業の復興支援」や「未来を担う子どもたちの支援」、「文化・スポーツを通じた支援」、そして2014年度からスタートした「チャレンジド・スポーツ支援」など、さまざまな視点から被災地の復興支援に取り組んできました。これら活動全体について、まずは率直なご意見やご感想をお聞かせいただけますか。
- 山脇
- 復興支援活動のみならず、サントリーが実施しているCSR活動全般への感想としては、実に素晴らしいことをやっていらっしゃると思います。特に私が感心したのは、活動の根底に創業者の高い志があり、その理念をしっかりと受け継ぎ、理念と一体化した活動を展開しているところです。それは、パートナーとしてともに活動されている日本フィランソロピー協会の髙橋さんも感じていらっしゃるところではないでしょうか。
- 髙橋
- CSR活動を継続していくためには、その活動の軸となる理念というものが非常に重要になります。義務的な活動や、外部から評価を得るための活動では、やはり長続きはしません。サントリーの場合、理念がしっかりしているからこそ、ぶれのないCSR活動になっているのだと思います。
- サントリー
- ありがとうございます。私どもは、理念の根底にある3つのバリュー(価値観)の1つに、創業者の「利益三分主義」の精神を受け継いだ「社会との共生」を掲げています。私どもが継続的に社会貢献活動に取り組んでこられたのは、この理念を従業員一人ひとりが理解・共有し、支えてもらえているからこそだと思っています。今後も持続可能な活動としていくために、従業員はもちろん、さまざまなステークホルダーにサントリーの理念や取り組みを発信していく必要があると考えています。
- 山脇
- 東日本大震災復興支援活動の1つとして新たにスタートされた「チャレンジド・スポーツ支援」は、被災地の復興にとっても意味のある活動だと思います。障がいを乗り越えてさらなる高みを目指すチャレンジド・アスリートの姿は、震災を乗り越えて復興を目指す被災地の方々にも大きなエネルギーを与えるはずです。
- サントリー
- 先ほど述べた私どものバリューには、創業者の「やってみなはれ」という言葉に象徴される「チャレンジ精神」もあります。障がいに負けることなく、前向きな姿勢で挑戦するアスリートの姿は、そうしたチャレンジ精神と重なるものであり、この取り組みを被災地において展開することで、少しでも震災から立ち上がるための力になればと思っています。
- 髙橋
- チャレンジド・スポーツには、被災地に限らず、社会全体を元気にする力があると思います。今の日本には、失敗からの再挑戦が許されにくい面があるように感じていますが、失敗を恐れては何もできません。障がいに負けずにスポーツに取り組むアスリートを応援することで、困難にくじけることなく挑戦することの素晴らしさが、多くの人に伝わるのではないでしょうか。
- 山脇
- 同感です。チャレンジド・スポーツとは、障がいを負った方々が、「何ができないか」ではなく、「その中で何ができるか」を見せるものです。その前向きな姿勢は、関わったすべての方々に、挑戦する勇気を与えるはずです。
- サントリー
- 私たちもチャレンジド・スポーツに関わるようになって、アスリートの皆さんの姿から勇気を与えられました。また、チャレンジド・スポーツを応援することで、すべての人がスポーツを楽しめる、そんな多様性を認める社会づくりにつながるのではないかと思っています。
- 山脇
- それは非常に重要な視点だと思います。日本障がい者スポーツ協会では、2030年を見据えたビジョンとして「活力ある共生社会へ」を掲げています。その実現には、障がい者に対する社会全体の意識改革が必要ですが、チャレンジド・スポーツは、そのための大きなきっかけになり得ると考えています。
- 髙橋
- チャレンジド・スポーツを特殊なものとして捉えるのでなく、一般のスポーツ同様に応援する。そうした文化が広まれば、多様性を認め、互いに助け合う「共生社会」の実現につながるということですね。
- 山脇
- その通りです。欧米では、チャレンジド・スポーツ支援をCSO(Corporate Social Opportunity:企業が社会とつながる機会)の一環として捉え、積極的に取り組む企業が増えていますが、日本ではまだ認知度が低いのが現状です。その点、サントリーの先見性は高く評価できますし、今後もチャレンジド・スポーツ支援などを通じて、社会とのつながりをさらに深めていってもらえればと思います。
- サントリー
- CSRというのは、どうしても責任や義務として捉えられがちですが、社会と関わる上でのチャンスとして捉えるのがCSOだと理解しています。そうした考えを取り入れることで、サントリーのCSR活動を、より充実した、質の高いものにしていきたいと思っています。
Part 2:「チャレンジド・スポーツ支援」の各取り組みに対する評価と提言
- サントリー
- 私たちは「サントリー東北サンさんプロジェクト」における「チャレンジド・スポーツ支援」では、大きく3つの取り組みを進めています。ここからは、それぞれの取り組みについて、ご評価やご提言をいただきたいと思います。
まずは「チャレンジド・アスリート奨励金」ですが、日本フィランソロピー協会様との協働事業として、個人・団体の活動を資金面で応援しています。2014年度は、個人部門48名・団体部門15団体に対し、総額約3,900万円を支給しました。
- 髙橋
- 奨励金の審査に関わる中で、大きな気づきがありました。これまでは「障がい者」という大きな括りで捉えていましたが、実際の人々の名前・競技種目・バックグラウンドなどを意識することで、頑張っている姿や、喜んでいる笑顔が具体的にイメージでき、より気持ちのこもった支援になるということです。これは、支援される側にとっても同様だと思いますので、まさに人間同士の交流につながる支援だと思っています。
- 山脇
- 確かに素晴らしいことだと思います。こうした支援活動の基本は「アスリートファースト」、つまりアスリートの将来を第一に考えるという姿勢ですが、いつのまにか、支援する側の「組織ファースト」になってしまいがちです。この基本を見失わないためにも、支援する個人・団体との対話を重視して、どんな支援が必要かを常に考える姿勢を大切にしてほしいですね。
- サントリー
- 私たちも選手個人と接することで、より親近感が湧き、活動への興味が高まってくるのを実感しています。そうした接点を、私たち自身もさらに多くもつべきですし、社会との接点もつくっていくべきだと思っています。このような観点から、Webサイトには、奨励金を受けられている方々をご紹介するコーナーを設けています。このような情報発信を今後さらに強化して、サントリーが社会と選手をつなぐ役割を担っていきたいと考えています。
- 山脇
- サントリーにお願いしたいこととしては、奨励金の対象をトップアスリートだけでなく、これからチャレンジド・スポーツに取り組もうという方々も含め、幅広い層に広げていってもらいたいと思います。国や協会の支援というものは、どうしてもパラリンピックに出場するようなトップアスリートに偏りがちです。もちろん、そうした選手を育てることも大切ですが、裾野を広げることも同じくらい大切なことですので、トップアスリートとグラスルーツの両面を支援いただければと思います。
- サントリー
- その点は私どもも重視しています。当初はやはりパラリンピックの種目を中心に考えていましたが、よく調べてみると、チャレンジド・スポーツにはパラリンピックの種目になってない競技もたくさんあるんですね。そこで、パラリンピックにない競技も含め、幅広い競技のアスリート・団体が応募できるようにしました。
- 髙橋
- これは、年齢層についても同様です。障がいというものは、いつ生じるか分からないものであり、生まれつきの方もいらっしゃれば、不幸にも交通事故などで身体の一部を突然失う方もいらっしゃいます。幅広い世代の方が取り組めることも、チャレンジド・スポーツの魅力の1つですので、そこにもスポットを当てていきたいですね。
- サントリー
- 続いて「チャレンジド・スポーツアカデミー」ですが、アスリートの方々が被災地の学校を訪問して出張授業を行う「アスリートビジット」や、小中学生と保護者を対象に公募により参加できる「体験教室」を展開しています。2014年度は被災地3県で計15回実施し、約2,500名に参加いただきました。
- 山脇
- これはチャレンジド・スポーツの存在を知っていただく上で、非常に有意義な取り組みだと思います。2020年に控えた東京パラリンピックを成功させるためには、いかに多くの人たちに観戦いただくかが大変重要になります。満員の観衆の声援を受けて日本人選手が活躍する姿は、非常にわかりやすい成果になるでしょう。そのためにも、まずは、より多くの方々にチャレンジド・スポーツへの関心をもっていただきたいと思います。
- サントリー
- 特に重視しているのが、子どもたちへの普及活動です。実際、当社の佐藤真海選手が子どもたちに自分の体験を話したことがありますが、子どもたちも初めは「かわいそうだ」という視点で見ているのですが、彼女が「最初は苦しんだが、義足を得たことで新しい可能性を切り開いていくチャンスを得た」と思うように気持ちを切り替えたと率直に語り、そして実際に走っている姿を見せることで、子どもたちにも挑戦する勇気を伝えることができました。
- 髙橋
- 子どもたちは本当にストレートに感じて、感じたものをストレートに表現してくれます。そうした感性を伸ばしていくことが私たち大人の責任であると同時に、子どもたちの姿に周囲の大人が教えられるという側面もあると思います。
- 山脇
- 普通は親から子ども、先生から子どもに教えるものですが、チャレンジド・スポーツにおいては「リバースエデュケーション」といって、まず頭の柔らかい子どもたちに見てもらい、無心になって応援する子どもたちの姿を見ることで、大人がもっている偏見を取り払ってもらうということが期待できます。
- サントリー
- 3つ目の「チャレンジド・スポーツ育成サポート」は、チャレンジド・スポーツの育成・普及に向けて、施設の改修や競技用具の寄贈などの支援を行っています。何が必要かは地域ごとに異なりますので、被災地3県を訪問し、現地でのヒアリングを通じてニーズを把握しながら取り組んでいます。
- 山脇
- 地域ごとのニーズをきめ細かく把握しようとする姿勢は、素晴らしいと思います。競技の現場とコミュニケーションを深めるためにも、そうした取り組みを続けていってほしいと思います。
- サントリー
- 2014年度は、競技用の車椅子や備品などを寄贈したほか、体育館のバスケットボールゴールの改修などを実施しました。今後も各地のニーズを把握して、不足しているもの、必要とされているものをお手伝いしていきたいと思っていますが、同時にこれからの支援の方向性についてのご提言をいただければと思っています。
- 山脇
- 当初はどうしてもハード面の支援が中心になると思いますが、今後、そうした環境が整備されてくると、指導者や審判員の養成などといったソフト面の支援も必要になってくると思います。また、チャレンジド・スポーツは競技団体の基盤が弱いので、組織マネジメント面での支援も必要になるでしょう。
- サントリー
- 確かに、今後チャレンジド・スポーツの裾野を拡大していこうとすると、指導者や審判員などの養成が急務となりますし、組織や大会などの運営を手伝うスタッフも必要になってきますね。自治体や各団体とも連携しながら、そういう点でも貢献できればと思います。
- 山脇
- 従業員に、大会運営などへのボランティア参加とともに、観客という立場でチャレンジド・スポーツを観戦に行くこともぜひ呼びかけていただければと思います。観客として参加することで、競技に対しての理解や、応援したいという気持ちが高まると思いますし、そこから家族や友人へと活動の輪が広がっていくことが期待できます。
- サントリー
- チャレンジド・スポーツに取り組むアスリートの姿には、従業員にとっても、いい刺激を受けることが多いと思います。観戦したり接したりすることで大きなエネルギーを得られるでしょうし、チャレンジド・スポーツを組織として応援しているという誇りと一体感の醸成にもつながればと期待しています。そうした意味でも、できるだけ多くの従業員が自主的に関わっていけるような仕組みを作っていけたらと考えています。
- 髙橋
- 私たちNPOの取り組みは、どうしても「専門領域」や「地縁」に頼りがちですが、活動を社会全体に広げていくためには、ジャンルの異なる幅広い方々の参画が不可欠です。そうした多くの人々を巻き込む上で、サントリーのような社会的認知度の高い企業の参加は、大きな意味があると思います。
- 山脇
- サントリーには、チャレンジド・スポーツの普及拡大に向けて、社内外の多くの関係者を巻き込んでいっていただきたいです。御社の佐藤真海さんが選手のロールモデルだとすれば、サントリーはチャレンジド・スポーツを支援する企業のロールモデルとして、他企業の模範となっていただきたいと思います。
- サントリー
- 本日は貴重なご意見をいただき、ありがとうございました。サントリーグループは復興支援活動の一環として、被災地を中心にチャレンジド・スポーツを応援しています。被災地から一人でも多くの選手が東京パラリンピックに参加し、地域をあげて応援できればと願っています。今後とも、ご指導いただきますよう、よろしくお願いいたします。