どんなことをきっかけにして、どんな思いでPSBの開発が始まったのですか?
開発が始まったのは2015年でした。ビール市場の縮小が指摘されていた頃です。「ビールの価値が伝わりきっていないんだろうか?」とか「ビールの良さをもっと感じていただくためには何ができるだろうか?」というようなことを、私たちビールづくりに携わる人たちは日々考えていました。
ビールはごくごく飲んで元気になれる、そんな飲み物だと思うんです。一日の終りに自分を解放してくれる、明日への活力。そんな力がビールには確かにあると思うんです。
でも、冷静になって周囲を見渡すと「いろいろなことを気にしながらビールを飲んでいる人が増えたのではないか?」と感じるようになりました。それが例えば糖質だったんです。「ビールを飲んでいるから、締めの麺やおむすびはやめておこうかな」とか「唐揚げをおつまみにするからビールじゃなくて他のお酒にしようかな」とか。そういった一種の罪悪感から解放されて、心置きなく飲めるビールが今の世の中には必要だ…と、そんな思いがエンジンになってPSBの開発がスタートしました。
どんな苦労がありましたか?
ビールの主原料である麦芽の主成分は炭水化物(でんぷん質)で、これを麦芽が持っている酵素で糖に変え、その糖を酵母が食べてアルコールに変えていく…と、ビールができます。糖質を含んだ麦芽を使うという条件と、糖質をゼロにしなければならないという条件はある意味で相反しているわけです。
それなら「麦芽の量を減らせばいい」という考え方で醸造して、使用比率50%未満になってしまうと「ビール」とは呼べないお酒になってしまいますし、なんといってもおいしさが物足りなくなってしまう。…やっぱり麦芽は減らせない。というわけで、アルコールを生み出す過程で糖を酵母によって食べてもらうという点が、ただひとつの突破口になります。しっかり麦芽を使いながら糖質ゼロを実現する、先の見えない技術開発が始まりました。
ところが、仮に酵母によって糖を食べ尽くしてもらい、糖質ゼロが実現できたとしても、それだけではビールのおいしさは担保できません。…それならどうしよう? 添加物などで補うことは一切せずに、麦芽という自然の恵みをしっかりと使っておいしさを引き出しながら糖質はゼロまで下げていく…そんな葛藤が続いたわけです。
そもそも「糖質」と「ビールの味わい」は、切っても切れない関係にあって、本来ならビールのおいしさにとって重要な要素のひとつが糖質なのです。ビールが誕生したのは紀元前4000年以上前だったという説が有力ですが、当時、ビールはなんとビタミンや糖質などの栄養を摂取するための飲み物だったんです。中世のヨーロッパではビールは「液体のパン」と呼ばれていたぐらいですから。
当然のことですが、ビールの味わいに糖質は大きく影響しており、糖質に頼らずにおいしいビールをつくりこむことは非常に大変なことなんですね。
どれくらいの時間がかかりましたか?
PSBの開発が始まったのが2015年、そこから5年かけて開発し、2021年4月に発売となりました。発売して終わりではなく、さらにおいしいビールを目指して、試行錯誤を継続してきました。そして今回の中味にたどり着いたので、約6年かかったという計算ですね。
「ビール」でなおかつ「糖質ゼロ」という前代未聞の商品なので、そしておいしくならないと話にならないため、当然ながら開発には時間はかかるだろう…というのは社内の認識としてあったと思います。ただ、いつまでも待たすわけ訳にはいかない。お客様に少しでも早くお届けしたいというプレッシャーとの戦いでした。大変な日々でしたが、納得できるものが出来て本当に良かったです(笑)。
試験醸造は100リットルほどの少量で行うのですが、350回以上の試験醸造を繰り返してきました。一般的な商品の開発と比べると桁がひとつ違うぐらいの回数です。
試験醸造で目標にしたのは、お客様の気持ちになって考えたときに「ビールとして飲んでおいしい」と思っていただける味わいにすること。そこに到達するまで粘りました。糖質ゼロである前にビールとしておいしいという中味ができるまでは、自分でも納得できませんでした。
いちばんこだわり抜いたポイントはどこですか?
そもそも「糖質ゼロ」にするまでが結構長い道のりだったのですが、ようやく初めて「糖質ゼロ」を達成したときの官能検査では、味わいとしてやっぱりちょっと物足りなかったのを覚えています。なんというか、奥行きがない。すっと通り過ぎてしまう感じというか。…まぁやっぱりそうなるよなぁとは思いましたが、一方で、ポジティブに爽快感は出せるなぁとも思ったんです。これは逆に得たものですね。
その後の試験醸造でも、飲みごたえに直結する味のボディ感やコクの部分が足りないケースが多かった…。山に例えると、高さが足りない。理想は、ボディ感やコクで高さを出し、切れ味の早い爽快さを感じられるような味わい。それを目指して、麦芽・ホップ・酵母といった自然の恵みを活かして、それぞれの味わい・香りの良さをしっかりと引き出すことで、PSBの味わいを完成させることができました。
最後に、どんな風に飲んで欲しいですか?
我ながら、おいしいビールに仕上がったと思います。そして糖質ゼロなので「2杯目はビールはやめておこうかな」とか「締めの炭水化物は食べないでおこうかな」とか、いろいろなことを考えずに心置きなく楽しんでいただけると嬉しいです。
2021年4月にPSBが発売されて以降、大変嬉しいことに「おいしい」というお声はたくさんいただいていましたが、もっともっとおいしく、自分のイメージに近いビールにしたかった。諦めずに頑張り続ければ、よりおいしいビールができる、と信じていたんです。その結果、コクも飲みごたえもある、正真正銘のビールに仕上がったと思いますので、このパーフェクトサントリービールで、心の底から解放されるような、幸せなビールの時間を楽しんでいただけたら幸いです。