モルトウイスキーの中で
単一蒸溜所の原酒でつくられた
ウイスキーが「シングルモルト」。
それぞれの土地の水や風土、
気候などが溶け込んだ蒸溜所ごとの独自の
味わいがシングルモルトの
魅力の1つだ。
『モルト』とは英語で大麦麦芽の意味。
大麦麦芽のみを使用したウイスキーを『モルトウイスキー』と呼ぶ。そして『シングル』が意味するものは単一の蒸溜所でつくられたウイスキーをボトリングしたものだ。つまり、一つの蒸溜所でつくられた『モルトウイスキー』だけを瓶詰めしたものが『シングルモルトウイスキー』。
対して、複数の蒸溜所の『モルトウイスキー』と、トウモロコシなどを原料とした『グレーンウイスキー』を混和したものを『ブレンデッドウイスキー』と呼ぶ。『ブレンデッドウイスキー』が様々な特長を持つウイスキーを絶妙な技術でブレンドし、バランスのとれた味や香りを追及しているのに対し、『シングルモルトウイスキー』はその蒸溜所の個性やこだわりがそのまま反映されているのが特長だ。
蒸溜所の歴史や製法のこだわり、仕込水や使用する原料、そして蒸溜所が立地する自然風土など、その特長は一つとして同じものはないくらい個性的。スコットランドに現存する蒸溜所は約100か所程度と言われており、それぞれの蒸溜所が誇りを持って、その個性を世に問うのが『シングルモルトウイスキー』だ。その蒸溜所に思いを馳せ、それぞれの個性の違いを愉しめることが『シングルモルトウイスキー』の最大の魅力。
あなた好みの『シングルモルトウイスキー』が必ずや見つかるはずだ。
『シングルモルトウイスキー』とはその蒸溜所の個性を主張するウイスキー。同じような製法でウイスキーをつくったとしても、一つとして同じものは出来上がらない。各蒸溜所でつくられるシングルモルトウイスキーはその土地の気候や水などによって特長がはっきりとわかれ、ワインに引けを取らないほど多種多様な風味を持つ。まさに、氏素性のはっきりとした『地酒』と言っても過言ではない。では、強烈な個性を生み出す要素とは?以下にその要素の一例を紹介する。
シングルモルトウイスキーの蒸溜所は規模が小さく長い歴史をもつ蒸溜所がほとんど。その蒸溜所でウイスキーつくりがはじまったころ使用していた仕込水は、必然的に蒸溜所の近くで調達できるものであったと考えられる。泉の湧水や川や湖からなど、取水地の違いや、地上に湧き出るまでにとおってきた地層の影響などなど・・・。
ベースとなる仕込水が異なることで、出来上がるウイスキーの味わいにも違いが生まれる。
大麦から麦芽をつくり、その麦芽を糖化・発酵させ麦汁を作り、蒸溜することでウイスキーのもととなるニューメイクスピリッツを作り出す。大まかな製造過程は同じでも、各蒸溜所の伝統やこだわりによって異なる味わいのウイスキーが生まれる。
例えば、麦芽つくり。麦芽を乾燥させる際に、ピート(泥炭)を燃料として使用すれば、そのピートの香りが麦芽につきピーティーな味わいのウイスキーが出来上がる。
すべての蒸溜所がピートを燃料に使っているわけではなく、ピートの炊き具合も各蒸溜所によって様々。また、蒸溜釜や発酵や仕込の為の設備の違いでも様々な個性が生み出される。同じ蒸溜の過程でも、使用する釜の形状や製法により出来上がるニューメイクスピリッツの味わいも全く違うものになるのだ。小さく首の短い蒸溜釜で蒸溜すると、濃く濃厚で力強い味わいになり、反対に大きく首の長い釜で蒸溜するとライトでスムーズな味わいとなる。
出来上がったニューメイクスピリッツは、樽に詰められ長い期間貯蔵されることで、ウイスキーとなる。このときに使用される樽によっても出来上がるウイスキーの個性に大きな影響を与える。
樽の材質や以前にどのようなお酒を詰めていた樽を使っているかなどの違いが、ニューメイクスピリッツに影響する。仕込水や製造方法の違いから生まれるその蒸溜所ならではのニューメイクスピリッツをどのような樽に詰めるか・・・その判断には各蒸溜所のこだわりや歴史・伝統が反映されるのだ。
そして、樽に詰められたニューメイクスピリッツは長い期間その蒸溜所の貯蔵庫で眠りにつく。10年・15年・20年と熟成される過程で、その蒸溜所が立地する気候風土の影響を受けながら。
例えば、海沿いに立地する貯蔵庫で熟成すれば、ほんのりとした潮の香りが、森の中の貯蔵庫で熟成されれば爽やかな森林をおもわせる香りがついたり・・・シングルモルトウイスキーとは、その蒸溜所が立地する自然風土そのままを反映したものなのだ。
気候や農産物、豊かな水など、様々な点から
ウイスキーづくりに相応しいスコットランドの風土。
シングルモルトを知る上で鍵となる、
それぞれの生産地の特色を紹介する。
ハイランドの一部でありながら、スペイ川流域は特別な地域として分類される。芳醇でエレガントな風味と切れの良い味わいが特長で飲みやすいものが多い。スコットランドには現存する蒸溜所が100ヵ所と言われているが、その半分がスペイサイドに集中。渓谷が多く、緑深く湿潤なこのエリアはかつてのウイスキー密造者が隠れやすいという地形的な特長から、密造の歴史が世界的な名門蒸溜所を生み出した。この地には『グレン』と名のつく蒸溜所が多いが、『グレン』とはゲール語で『谷』の意味。このエリアの自然風土を物語っている。
スコットランド北部の地域で、東のダンディーと西のグリーノックを結ぶ仮想線の北側をハイランドと呼ぶ。山岳地帯も多く、広大な地域だが大きな都市は少ない。
一般によく知られたタータンやバグパイプ等のスコットランド芸能風俗は、もともとこの地域の伝統文化である。現在稼働中の蒸溜所は約30ほど。
広大な地であるがゆえに、スパイシーなものからフルーティなものまで多様な味わいのシングルモルトが産出されるが、全体的にはピート香が穏やかで、バランスのとれた味わいが特長。
イギリス西側に位置し、淡路島程度の小さな島であるアイラ島。この小さな島には現在8つの蒸溜所が存在し、モルトウイスキーの聖地とも呼ばれる。
蒸溜所はすべて海辺に建ち、それが潮の香りや海藻といった言葉で語られる独特の個性を生み出している。また、麦芽の乾燥のためにアイラ島で育くまれたピートを使うこともあり、スモーキーでピーティーな味わいが特長。
スコットランド南部の地域で、グラスゴー・エディンバラといった都市を控え、スコットランドの政治経済の中心エリア。また、エディンバラから南は起伏にとんだ丘陵地帯で農業も盛んだ。歴史的にグレーンウイスキーの産地というイメージが強いが、かつてはたくさんのモルトウイスキーをつくっており、モルト蒸溜所も多数存在した。現在稼働しているのは2つの蒸溜所。この地域では、アイリッシュウイスキーの3回蒸溜の製法を取り入れ、軽いボディで穀物の甘さのある香味が特長のライトで飲み口のよいウイスキーを産出する。
アーガイル地方キンタイア半島の先端にある人口約5,000人の小さな町。ここでは古くからウイスキーづくりが盛んで19世紀末にはこの小さな町に20を超えるモルト蒸溜所が存在していた。ヘビー・オイリー・パワフルといった特長をもち、ブレンデッドウイスキーの原料として大いに貢献していたが、その強い香味ゆえに次第にブレンダーたちの関心が、より上品な味わいのモルトを産出するスペイサイドへと向くようになり、現在稼働している蒸溜所は3つのみ。