活動詳細
静岡県 伊豆の国市 2016年受賞
パン祖のパン祭
パン祖・江川坦庵にちなんだパンのお祭りを開催
代表:杉山大一 氏
2016年10月更新
毎年1月に伊豆半島の北部、伊豆の国市で「パン祖のパン祭」という名のお祭りが行われている。“パン祖”とは伊豆の国市の一部である韮山をかつて統治していた代官、江川太郎左衛門英龍(江川坦庵)。鎖国時代の日本において軍の洋式化に力を注いだ彼は、世界文化遺産にも登録された韮山反射炉を建設し、西洋砲術を普及させたことで全国的に知られているが、実は1842年(天保13年)に兵糧食として日本で初めてパンを焼いた人物でもある。
「パン祖のパン祭」のはじまりは町の合併がきっかけであった。伊豆長岡町、大仁町、韮山町が2005年に伊豆の国市となり、翌年三町の観光協会も統合。皆で新たなイベントを立ち上げようという機運が高まり、検討を重ねる中で辿り着いたのが“パン祖”にちなんだお祭りだった。コンテスト受賞歴も多い地元のパン職人、杉山大一氏を実行委員長に、観光協会・市・JAの職員などで実行委員会を結成。2007年に日本のパン発祥の地・韮山で、全国でも非常に珍しいパンづくしのお祭りをスタートさせた。
パン祭のメインイベントは高校生を対象とした「全国高校生パンコンテスト」。オリジナルレシピの書類選考を通過した20名が、パン祭当日に実技とプレゼンテーションを行う。真剣勝負の個人戦。各人が練習を重ねてきた地元とは気温も湿度も異なる地でいつも通りは通用しない。それぞれがその場で判断をし、調整を加えながら渾身の作品をつくる。第1回は95名だった応募者も2016年の第10回には413名へと増加し、コンテストの水準も年々上昇。このハイレベルな戦いを勝ち抜いた優勝作品は伊豆の国市内で商品化され、パン店やスーパーに並ぶ。本格的に製パン・製菓技術を学ぶ全国の高校生にとっては憧れの舞台だ。
また、会場では隣町の田方農業高校の生徒が1ヶ月かけて制作する全長2メートルほどの巨大パンオブジェの展示や、パン生地のばしコンテスト・パン食いゲーム・パンフィッシングなどの子ども向けイベント、さらには全国の有名店が参加するパン販売会も行われ、2日間で1万人の地域住民が訪れるという。江川家の存在が色濃い伊豆の国市において、坦庵が“パン祖”としても親しまれているのはひとえに「パン祖のパン祭」の功績といえるだろう。
パン祭期間外にも、杉山氏や田方農業高校食品科学部が技術指導を行う市民向けのパン教室などが開催され、地元では新たなパン文化が定着しはじめている。実行委員会の夢は全国高校生パンコンテストを「パンの甲子園」へと育てること。ここから業界を盛り上げるような人材を輩出し、これからもパン発祥の地・韮山から活気あるパン文化を発信していくことを期待したい。