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サントリー地域文化賞

活動詳細

九州・沖縄

福岡県 飯塚市 2005年受賞

嘉穂劇場
地域で愛される木造芝居小屋を戦前戦後、民間の手で守り続ける

代表:伊藤 英子 氏

2005年8月更新

活動紹介動画(01:50)
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地域住民とファンの力で水害から復旧

 江戸時代の歌舞伎様式を伝える木造芝居小屋は全国に数箇所、今日でも現役で活動していることが知られているが、この「嘉穂劇場」は設立以来、一貫して民間の手で運営されている数少ない劇場で、北九州をはじめとする周辺地域に戦前戦後を通じ、幅広く大衆娯楽を提供し、かつ地域住民から愛され続けてきた貴重な文化遺産である。

 大正10年(1921年)、同劇場の前身である「中座」が建設されるものの、火災や台風により、二度も倒壊の憂き目にあっている。その後、昭和6年(1931年)になり、地元の資産家伊藤家により建物が再建され、地元の地域名を冠した「嘉穂劇場」として木造2階建て、1200席の芝居小屋が活動を再開する。飯塚市はかつて炭鉱の町として隆盛を極め、劇場も昭和20〜30年代の全盛期には、興行日数が年間300日を数え、歌舞伎、演劇、浪曲、落語、漫才、歌謡ショー、バレエ、オーケストラ演奏会のほか、力道山のプロレス、ボクシング対柔道の異種格闘技戦等々、ありとあらゆる大衆芸能やスポーツ興行を周辺地域に提供してきた。館主伊藤英子氏は、先代から引き継いだ後、ほぼ独力で劇場を切り盛りし、公演の企画から、出演交渉、入場券販売を含む実施運営の全責任を負ってこの大衆娯楽の拠点を今日まで守り続けてきた。

 九州・筑豊地区にはかつて30を超える芝居小屋があったといわれるが、石炭産業の衰退や大衆娯楽の変遷にともない、次々と消えていくなか、同劇場は唯一現存する芝居小屋であり、また全国的にも数箇所と言われる現役の芝居小屋の中でも民間運営のものとして極めて珍しい貴重な歴史的遺産である。近年は、公演回数が少なくなったものの、時には高校の演劇部による公演や幼稚園児の発表会などにも利用されるなど、かえって地元との結びつきが増しており、地域に愛される芝居小屋としての意味合いは、現在でも大きなものがある。

 平成15年(2003年)7月、北九州を襲った洪水により劇場の1階部分が水没、回り舞台等の設備も含めて壊滅的な損傷を受け、一時は廃業も覚悟したという。しかし、周辺住民の熱い支持をきっかけに、即座に復旧委員会を設置。行政、企業・団体、一般市民、劇場関係者、有名芸能人など幅広い支援の輪が広がって、わずか1年で建物を復旧させ、演劇ファン垂涎の全国座長公演や市民参加によるベートーベン「第九交響曲」の演奏会で劇場の復興を喜び合った。

 現在、劇場はこれまでの個人運営から運営主体をNPO法人化しているが、劇場を戦前・戦後、数十年にわたって守り続けて来た2代目伊藤英子氏とその後継者である伊藤英昭・真奈美夫妻の情熱と労苦を抜きに、今後ともその歴史を語ることはできない。

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