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公益財団法人音楽の力による復興センター・東北仙台フィルとうたう「花は咲く」合唱団

<練習>

  • 実施日時
    2013年10月~2014年4月 各会場毎月一回
  • 実施場所

    福田町一丁目南公園仮設住宅集会所

    仙台市宮城野区中央市民センター音楽室

    仙台市高砂市民センター第一会議室

  • プログラム

    「花は咲く」の合唱練習

<コンサート>

  • 実施日時
    2014年4月23日(水) 15:00~16:00
  • 実施場所
    仙台市宮城野区文化センターパトナホール
  • プログラム

    ドヴォルザーク:弦楽セレナーデ 第一楽章

    バッハ:主よ、人の望みの喜びよ

    ヘンデル:私を泣かせてください

    モーツァルト:アヴェ・ヴェルム・コルプス

    シュトラウス:ピチカート・ポルカ

    マスカーニ:カヴァレリア・ルスティカーナ

    岩井俊二作詞・菅野よう子作曲:花は咲く

    (アンコール)

    高野辰之作詞・岡野貞一作曲:朧月夜

  • 出演

    仙台フィルハーモニー管弦楽団弦楽アンサンブル
    齋藤翠(ソプラノ・仙台オペラ協会演奏部員)
    「花は咲く」合唱団

主催者からのレポートをお届けします。

音楽の力による復興センター・東北は、地元で活動するプロフェッショナルの音楽家有志と協力して、被災した方々の心に寄り添うために小さな演奏会をお届けする活動を2011年3月以来、現在も続けています。その演奏会は「復興コンサート」と呼ばれ、これまで避難所、仮設住宅、学校、被災者サロンほかさまざまな場所で開催され、その数は370回を超えています。

復興コンサートを継続するうち、いつごろからか、参加する方から「一緒に歌いたい」という要望が寄せられるようになりました。「故郷」「北国の春」など、懐かしい唱歌や歌謡曲が好まれました。歌うとどの方も表情が生き生きとしてくるのがわかりました。
2013年5月、ある仮設住宅の復興コンサートで「花は咲く」を歌った時のことです。自治会長さんが冗談で「じゃあ次はオーケストラと一緒に歌おうか」と言いました。その日出演していた仙台フィルメンバーが「それ、いいですね!」と応えました。それが、このプロジェクトのきっかけです。
仙台市の東部にある宮城野区は甚大な宅地被害と津波被害があった地域で、現在もプレハブ仮設住宅や借上げ民間賃貸住宅(みなし仮設)が数多くあります。新しい環境になじめず家に籠りがちになる人、自宅を直して戻ったけれど近所に人がいなくて淋しい思いをしている人がいるとの話をよく耳にします。
そこで、プレハブ仮設住宅またはみなし仮設、および津波浸水地域にお住まいの概ね60歳以上の方を対象にして、「花は咲く」一曲だけを歌うための合唱団を作ることにしました。参加者募集をしたところ、およそ50名の方が集まりました。
会場はプレハブ仮設住宅から通いやすい高砂市民センターと宮城野区中央市民センターにしました。福田町一丁目南仮設住宅はとりわけご高齢で脚の悪い方が多かったこともあり、こちらから直接伺うことにしました。

講師は仙台オペラ協会演奏部員ソプラノ歌手の齋藤翠さん、伴奏者は同じく仙台オペラ協会の可沼美沙さんがおもに努めました。最初は「声が出なくて…」「合唱は50年ぶりで…」「楽譜は読めません」「音痴なんです…」と心配なさる方も何人かいましたが、齋藤さんのわかりやすい指導で、みなさん練習が徐々に楽しくなってきた様子でした。

練習会では最初に軽い体操をし、発声と発音の訓練を行なってから「花は咲く」の練習をしました。この歌は音域が広く、音の変化も急なので、実は難しい曲なのです。練習後はお茶を飲みながらおしゃべりする時間も設け、ときには齋藤さんが一曲披露するなど、合唱初心者でも煮詰まらずに、楽しんで練習できるよう工夫をしました。
参加者から「月にたった1回だから忘れないようにカレンダーに丸つけてるの」「前に仮設住宅で一緒だった人とここで会えてうれしい」「いろいろあっても、ここに来るとストレス発散できるからいいね」などの声がありました。練習が生活に張りをもたらしていることが感じられました。
年が明けた頃から徐々に本番を想定した練習を始めました。歌に付随して、楽譜の持ち方や姿勢、視線の置き方など、人に見られることを意識した「舞台での在り方」にトライしました。参加者は本番の衣装についてあれこれ考えるのも楽しそうな様子でした。あえて衣装を買い揃えることはせず、「自分が素敵に見える服装で」ということにしました。胸に付けるコサージュだけはお揃いにしましょうということで、復興支援ボランティアグループ「編み物サークルいっぽ」の指導協力を得て、参加者自らが作りました。ささいなことですが、「このコンサートは自分たちがつくる」という意識を持つきっかけになればと思いました。

2014年4月23日、いよいよ<みやぎの「花は咲く」コンサート>の本番です。お客様は開場時刻のだいぶ前から列をなして、待ちきれない様子でした。

コンサートの前半は仙台フィル弦楽アンサンブルによる演奏です。合唱講師の齋藤翠さんの独唱もありました。客席最前列に待機していた合唱団メンバーは「翠先生、すごい!」と目を丸くしていました。

コンサートもいよいよ大詰め、ついに「花は咲く」合唱団の出番がやってきました。胸には手づくりしたコサージュの花が咲いています。みなさんそれぞれの胸中には言葉に言い尽くせない思いが去来していることでしょう。一所懸命に歌う姿は観客の心を打ちました。涙を拭きながら一緒に口ずさむ人が多くいました。歌いきった時、合唱団のみなさんはとても堂々として見えました。とても立派でした。

万雷の拍手喝采の中コンサートは終わりました。控室には互いの健闘を祝して握手を交わす人や抱き合う人、満面の笑顔の人、涙また涙で言葉にならない人の姿がありました。
「たのしくて、いそがしくて、あっという間に終わっちゃったね」「まるで夢みたいだね」
「合唱団に誘われたときは歌えるような精神状態ではなく一度断ったのですが、参加して本当に良かった」
「合唱で知り合って、今では家を行き来するほどのお友だちができました」
「最初は歌うたびに泣いてしまったけど、途中から気持ちを切り替えてがんばりました」
「人生最高の日だ」「もうこんな日はないんだろうなあ」「練習がなくなるとさみしくなるね」
「またやりましょう」「また会いましょうね」
そんな声が聞こえました。
一つの目標を多くの仲間と心あわせて成し遂げたこの経験は参加者の人生の一ページに確実に残るものとなりました。この思い出はきっとこれからの人生の中で支えになってくれると信じます。楽しいとき、辛いとき、この歌がみなさんのそばに寄り添ってくれますように、と思いました。